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表彰式が始まった。女王が闘技場の中央に立ち、祝辞を述べている。
女王の後ろにはエアルとミリーが待機している。そこから数歩下がったところにベル、そしてアキだ。闘技大会に参加した冒険者全員の前に立っている形だ。冒険者は全員跪いているので様子がよくわかる。人数はおそらく50人程だろう。
「イシュタル、まずは優勝おめでとう。」
アキは女王の祝辞より冒険者の観察に全神経を注いでいる。視力・聴覚強化を使い、警戒する。もし自分が女王を狙うのであれば、この中に刺客を紛れ込ませるだろう。ミレーの闘技大会で毎回これが行われているのであればここで仕掛けてくるのは間違いない。刺客の数はおそらく2人~4人。Aランク冒険者を懐柔するなんてそう簡単に出来る事ではない。よくてその人数だ。
女王は引き続き祝辞を述べている。
次の瞬間、2人、いや3人の冒険者が武器を手にして急に立ち上がり、女王に斬りかかる。
「女王死ねやあああ!」
バカだ。余計な事を叫ぶ暇あるならもう1歩踏み込めばいいのにと呆れる。ちなみにアキは3人が立ちあがった時点で既に魔法の発動を始めている。
女王が話しているのに立ち上がる理由なんてない。
どんな理由であれ罰せられてもおかしくない。
「まずいです!」
「間に合って!」
エアルとミリーは急な出来事に反応が一瞬遅れる。この場合、それが致命的になる。彼女達には自分達がもう何をしても間に合わないのはわかっているだろう。
だが先頭で斬りかかってきた男の胸に氷矢が数本突き刺さる。その男は女王に辿り着くことなく地面に転がる。そこに追撃の炎が着弾、男の全てを焼き尽くす。勿論アキの魔法だ。
「なめられたものだ。うちの王女に危険が及ぶ可能性があるのに俺が無警戒のわけがないだろうが。」
アキは襲撃者の方へとゆっくり歩みを進める。残った2人の男は仲間の惨状に驚いたのか、立ち止まり唖然としている。
「お前らも死ね。」
アキは氷刃と氷矢を放つ。さっきまでのSランク戦で手加減していた魔法とは違う。致命傷になるように全力で攻撃を打ち込む。男達は不味いと思ったのか、体を反転させ、必死に逃げ出そうとする。
「逃がすわけがないだろう、馬鹿が。」
背中を見せた2人の足元に氷刃を放つ。転倒した彼らに近付き、無言で見下ろす。生かしておく必要はないだろう。片方の男を氷魔法で氷漬けにする。今回は解除するつもりはない。このまま窒息死してもらう。
残った1人をアキは静かに睨みつける。
「ま、まて……頼む、こ、殺さないでくれ。」
まあ、生かしておく必要はないと言ったが、この1人は殺すつもりはない。狙われたのはベルではなく女王だ。事情聴取をしたいだろうからアキが勝手に殺すわけにはいかない。アキはミレーのSランクであるエアルとミリーに声を掛ける。
「ミリー、エアル。こいつの事は任せていいか。」
いきなり声を掛けられた2人は驚いていたが、すぐにアキの言葉の意味を理解してくれたようだ。
「はい、すいません。」
「わ、わかりました。」
アキは2人の答えを聞き、踵を返す。
「ベルごめん、少し離れちゃった。」
彼女の元へと戻って小声で囁く。
「いいえ、アキさん。ありがとう。」
それだけ言うと彼女はすぐさま王女の仮面を被り、アキに告げる。
「アキ、お手柄です。」
「いえ、護衛として当然です、アイリーンベル王女殿下。」
急な出来事に静まり返っていた観客だが、事が落ち着いた今、一気にざわめきが広がる。女王も驚いていたがすぐに事の結末を把握すると声を上げる。
「静粛に!」
女王の一声で観客が一瞬にして静まり返る。
「予想外の事態が起こってしまった。しかし、エスペラルド王国Sランク冒険者、アキ殿のおかげで無事解決した。まずは感謝を述べようと思う。」
女王が観客に向かって宣言する。
「アキ殿、この度はありがとうございます。正式なお礼は後日させて頂きたく。アイリーンベル王女殿下もこのような事に巻き込んでしまい申し訳ありません。アキ殿の戦闘行為は当然全て不問。私、ミレー王国女王として正式に感謝と謝罪を。」
アキに対して丁寧にカーテシーを行う。おそらく女王がカーテシーを行うと言うのは相当珍しい。他国訪問時ならともかく、自国で、それも一介の冒険者に対してなのだから。
「ミレー女王陛下。謝罪をして頂く必要はございません。アキは私の護衛として必要最低限の事をしたまで。ただこの一件を見事に解決したアキには褒美を与えて頂けるとエスペラルド王国としても嬉しい限りです。」
アキとしては別に褒美などいらないが、ミレー王国としての面子もあるし、断るのは難しいのだろう。
やっぱり国政って色々面倒だな……とアキはどうでもいい事を考えてぼーっとしていた。もう後はベルに任せればいいだろう。
ちなみにミルナ達の方を見ると、うちの金髪エルフが「怪我は、怪我はー!」といつも通りの過保護ぷりを発揮していて苦笑する。当然観客席にいるソフィーの声が聞こえるわけなどないが、間違いなくそう言っているのはわかる。ミルナ、エレン、レオも「無理しないでくださいませ!」「早く膝枕するからきなさい!」「尻尾触っていいよ!」と言っている気がする。まあ、うちの子達のことだから多分言っているだろう。
表彰式が終わり、アキとベルは足早に闘技場から関係者通路へと引っ込む。
「ベル、あいつに尋問したい。うまく女王に交渉してくれ。」
「ええ、わかってます。」
小声でベルと打ち合わせしておく。
アキ達に続いて女王、それとエアルとミリーも捕らえた襲撃者を連れて闘技場から引き上げて来た。ベルが早速女王に声を掛けてくれる。
「ミレー女王陛下。申し訳ありません。これからそちらの刺客に尋問されるかと思います。その役目、アキにやらせて頂けないでしょうか。先日の件もありますので。」
女王はしばし逡巡して言葉を返す。
「立ち会って頂くのは構いませんが……そこまでお任せするのは。」
確かに他国の人間にやらせる事ではない。自国での事件なのだから、自分達で解決したいはずだ。
「アキ、何か貴方の方から言う事はありませんか?」
ベルが敢えてアキの方に話を振ってくれる。ありがたい。
「はい。イアイリス・ミレー女王陛下。尋問はエアルとミリーがするご予定でしょうか。」
「ええ、その予定です。」
「見た目麗しい若き女性の方にそのような事は似合いません。ここは既に手を汚している私にお任せ頂ければ幸いです。」
苦虫を嚙み潰したような表情になる女王。多分アキの意見に同意してくれているのだろう。
「確かに……それは私も申し訳ないと彼女達に思うのですが……。」
「では是非に。」
「わかりました。その代わり、私も立ち会わせてください。そしてこの2人も。それが私達の最低限の責任だと思いますので。」
女性はやはり強い。地球でもそうだったし、きっとどこの世界でもそうなのだろう。正直彼女達に見せるものではないのだが、3人とも絶対に譲らないという目をしている。
「それでは音が漏れない密室をご用意頂けないでしょうか。」




