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「ミルナ、ソフィー、エレン、レオ。今からイリアに関わる重要な話をする。聞いたらおそらく引き返せない。各国、王家を敵に回すかもしれない。それでも聞く?」
「「「「はい。」」」」
全員が即答で答える。迷いのない良い返事だ。
「エリス、セシル、アリア。3人はどうする?聞いたら面倒な事になるかもしれないし、退出するなら今だよ。」
「私はアキの物だから問題ないのだ。どこまでも共に。」
「アキさんの秘書ですから。お望みのままに。」
「アキさんが行くところならどこまででもお供させて頂きます。」
こちらも迷いは無いようだ。
「わかった。まず何故ベルがここにいるかだけど、今回のミレー王国での依頼、彼女に裏から手を回してもらった。ここ数日ベルとこの大陸の事について話していて、協力する事になった。これはその一環だ。だから都合のいい依頼が来たというわけだね。」
ミルナ達が目を見開いて驚く。依頼に手を回していた事が予想外だったのだろう。同時に納得したような顔をする。あの依頼は全てアキの指示だったのかと。
「で、何故この依頼になったかはベルに説明してもらうが……それは後だ。まずはこの国の話。イリアに繋がる事だからちゃんと理解しろ。少し前にミルナが言った『街の外に山賊等の犯罪者はいない』。この言葉みんな覚えてる?まずこれがありえない。そもそもこの世界の犯罪率が低すぎる、平和すぎるんだよ。」
ミルナ達に噛み砕いて説明する。まず街外で犯罪者がいない事について、ミルナが説明してくれた理論では成立しない。街中の犯罪は衛兵や罰則などによりいくらでも抑制出来る、それはわかる。ただ魔獣がいるからというだけでは街の外での犯罪抑制には繋がらない。つまり、街の外の犯罪に関する情報は何らかの形で隠蔽されている。犯罪者がいない理由があるのか、いるけど犯罪が行えない様に何かしらの要因が働いているかだ。
「次にSランクの存在理由。」
Sランク(仮)の初依頼が対人戦闘なのはミルナ達に以前説明した。そもそもそれもおかしい。何故そんなことをさせるのか。
エリスにSランクの活動内容を聞いたところ、彼女のSランクとしての初依頼は殺人鬼の討伐だったらしい。つまりこれで街の外に犯罪者がいることが証明された。よってそこから考えられる結論は、Sランクの依頼は基本的に犯罪者討伐依頼だという事だ。
「つまり、Sランクは強力な魔獣や凶悪な犯罪者討伐の人員だと考えられる。だが世に蔓延る大量の犯罪者をSランクだけで対処はできない。そもそも相手が弱ければSランクも依頼を受けないだろうからね。それについては又後で捕捉する。とりあえずここから推測出来るイリアの事についてだ。」
アキはミルナ達にイリアが受けた本当の依頼内容を伝える。母親の件も含めて。
「今まで言わなかったのは闘技大会に集中して欲しかったから。どのみちSランクにならないとだったし余計な情報を与えて混乱させたくなった。黙っててごめんね。」
「そうなんですわね……そんな理由だったんですね。」
ミルナはアキに文句を言う事なく、寂しそうにそっと呟く。イリアが本当の事を言ってくれなかったのが悲しいのだろう。
「まあ、心配させたくなかたったんだろう。言ったところでミルナ達がついて行けるわけじゃないしね。それよりミルナ、重要な点わかる?」
「イリアの件についてですよね……?えっと……指名依頼だったこと?」
不安そうに答えるミルナ。
「そうだね、イリアに指名した事がおかしいんだ。強力な魔獣討伐であればエリスに依頼すれば喜んで受けるだろう?他のSランクでもきっとそうだ。」
「ああ、確かにそうだな。受けると思うのだ。」
エリスもアキの言葉を肯定する。
「つまりSランクに依頼できない理由があるという事だ。ここで一度纏める。今ある論点は3つ。」
1.街外での犯罪者について
2.Sランクの存在理由について
3.イリアへの依頼について
「皆ここまでは大丈夫?」
アキはミルナ達を見る。全員大丈夫だと頷く。
「じゃあ続き。俺はこれに気付いて図書館に通った。そしてそこでわかった。この世界の歴史はおかしいと。」
まず300年以上前の歴史が記されていない事を不審に思った。そしてその後の魔獣出現のタイミング、冒険者制度設立、犯罪者の減少のタイミングが明らかに都合よく行き過ぎている。
「290~300年前くらいに何かあったと予想できる。ミルナも言ってたよね、魔獣討伐で忙しいから人間同士が争ってないって。つまりそれと何か関係があると推測できる。じゃあ何があったか。そこで俺は壁にぶち当たった。けどセシルのおかげで俺の世界にこの武器が転送されてきたことを思い出す。」
タブレットに入っている人工遺物の写真をみんなに見せる。
「これはエリスに確認したがオリハルコンらしい。ベルもそう言っている。で、セシルが指摘した点だけど、ここの紋章。」
アキは紋章を指差し、これが王家所有の武器だという事を説明する。王家所有の武器がこぞって地球に転送されるのは明らかにおかしい。偶然ではありえない。
「じゃあオリハルコンというのは何か。これは爺ちゃんに確認した。」
オリハルコンは加工ができない未知の物質。発見場所は立ち入り禁止エリア。
「これは偶然か?そうは思えないんだよね。後イリアやイリアのお母さんが依頼で立ち入り禁止エリアに行ったよね?イリアのお母さんの実力は知らないけど、イリアは相当な実力者だってミルナ達が言っていた。そんなイリアが魔獣に後れを取ると思う?」
「思わないわ。確かにおかしいわ。」
エレンが同意してくれる。
「そう、だから俺は怪しいって思った。ちなみにエリス、この世界の歴史や犯罪者の事知ってたか?調べようと思ったか?Sランクになって図書館の閲覧禁止エリアに行こうと思ったか?」
「いや、まったく知らなかったな。図書館にも興味なかったのだ。」
エリスが端的に答える。
「そう、既存のSランクはエリスのような戦闘大好きっ子だ。そんな連中がこんな事を調べるとは到底思えない。おそらくだけどSランクを立ち入り禁止エリアに入れたくないんだろう。エリスにもそんな依頼はなかっただろう?」
「ああ、なかった。」
「イリアのお母さんは調べたんだろうね。だから依頼に行かされた。で、イリアの時はSランクを行かせたくないからイリアに指名依頼した。母親という理由があれば、イリアは依頼を受けると国は踏んだんだ。Sランクはおいそれと替えが利く冒険者じゃない。できるだけ使い捨てたくないんだろう。つまり立ち入り禁止エリアにはそのくらい重大な秘密がある。知られたら最悪始末する必要があるレベルの。俺はそう推測した。」
アキは一度言葉を区切り、喉を水で潤す。
「そんな!じゃあイリアはもう既に!」
ミルナが叫ぶ。
「落ち着け。それならこんなだらだらと話してない、俺の性格知っているだろ?」
アキは引き続きミルナ達に説明する。立ち入り禁止エリアは調べれば調べる程怪しい事がわかった。警備の厳重さもそうだし、爺ちゃんが調べようとしたら国からストップがかかった事もそうだ。
「明らかに何かある。一度纏めるね。現段階での俺の予想はこうだ。」
アキはタブレットにメモしておいた予想を読み上げる。
大昔、人間同士の争いに各国の王は頭を悩ませた。減らない戦争や犯罪。そこに立ち入り禁止区域でオリハルコン武器と何かが発見される。魔獣の出現ともかかわる何かが。そして冒険者制度が確立される。何故かその時から街中や街外の犯罪者は駆逐され、人間同士の争いもなくなり、平穏が訪れた。その平穏の均衡をいい塩梅に保つのが冒険者、特にSランク冒険者ではないか。
「この俺の予想から浮かび上がる追加の質問を含めると論点はこうなる。」
アキはタブレットに記した8つの項目を皆に見せる。
1.街外での犯罪者について
2.Sランクの存在理由について
3.イリアへの依頼について
4.この世界の300年以上前の歴史について
5.魔獣について
6.オリハルコン武器と地球への転移、その因果関係について
7.立ち入り禁止区域について
8.1~6の事項と立ち入り禁止区域の因果関係
「ここまでがSランクになる前、ベルと話す前、にわかっていた事だ。質問は?」
特に疑問はないらしく、誰からも質問はあがらない。アキは再度忠告を挟む。
「ここまではちょっと調べればわかる事だ。処罰される対象にはならない。だがここからは閲覧禁止文献の内容やベルの情報を話す。皆、どうする?」
「はい、聞きますわ。」
「覚悟はできてますー!」
「もちろんよ!」
「僕も!」
ミルナ、ソフィー、エレン、レオが順番に答える。
「問題ないのだ。」
「大丈夫です。」
「私は何があってもお仕えするだけです。」
エリス、セシル、アリアも問題ないと頷く。
「わかった話そう。ベル、もし何か補足があったら頼む。」
「はい、わかりました。」
ベルが軽く会釈してくれる。