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「じゃあうちの子達に怒られそうだからそろそろ行くね?」
「あ、呼びましょう。一応挨拶しておきたいです、メルシアの皆さんにも。」
いやそれ地雷だから辞めて欲しいんだけど……と思うアキだが、ベルの目を見ると要求は曲げませんよと言っているので諦める。
ベルが執事であるベルーリにミルナ達を連れて来るよう指示し、彼女達を呼んできて貰った。部屋に入室したミルナ達は緊張しているのか動きがぎこちない。普段の彼女達とは違った一面がアキには微笑ましい。
「皆様、エスペラルド王国王女、アイリーンベル・エスペラルドと申します。以後お見知りおきを。明日から暫く午前中の間アキさんを王家の所用でお借りしますのでご了承ください。」
アキの時と同じようにカーテシーでミルナ達を出迎えるベル。4人は笑顔だが、完全に顔が引き攣っている。
「よし、ミルナ。王女様への挨拶の手本を見せてやれ。」
「まって!私にふらないで!」
涙目になってアキに縋りつくミルナ。
「しっかりしたお姉さんキャラじゃないの?」
「嘘つきました!無理です、助けて!」
速攻で放棄しやがった。相変わらず意外なところでポンコツなミルナだ。
「じゃあエレン。」
エレンはいつもの様に食って掛からず、必死に首をぶんぶんと振っている。一応ソフィーとレオも見るが、2人とも同じ様子で「やめて」と目で訴えてくる。
「あら、気にしなくても結構ですのに。アキさん、お手本を見せて差し上げては?アキさんの挨拶は完璧でしたし参考になると思いますよ?」
ベルがアキに話を振ってくる。ミルナ達が「さすがアキ!」という尊敬の眼差しで見てくるが、そんな尊敬されるような事でもないのにと苦笑する。とりあえず指名されたからにはやるしかないだろう。アキは先ほどの挨拶を簡略化して皆にお手本を見せる。
「アイリーンベル王女殿下、貴重なお時間を私の為に作って頂きお礼申し上げます。私、アキと申します。庶民故、失礼な振る舞いがあるかと思いますが何卒ご容赦頂ければ幸いです。」
最後に丁寧にお辞儀する。ベルも満足したようで小さく拍手してくれた。
「さすがアキさん、とても丁寧で素晴らしいです。」
「よし、ミルナ行け。」
アキが再度ミルナに振る。ミルナは緊張した様子で頷き、ベルの真似をしてまずはカーテシーを行う。そしてアキの挨拶を一字一句真似をする。
「アイリーンベル王女殿下、貴重なお時間を私の為に作って頂きお礼申し上げます。私、アキと申します。庶民故に失礼な振る舞いがあるかと思いますが何卒ご容赦頂ければ幸いです。」
ミルナが本当に「一字一句」同じ事を言う。ベルは笑うのを必死に堪えている。アキはとりあえずミルナの頬を引っ張る。
「お前はアキなのか?俺なのか?」
「ひゃってー!」
エレン、ソフィー、レオはやらせないでと涙目で見つめてくる。その様子を見て、今度練習させておこうと決めたアキだった。Sランクなら王族との謁見もあるだろうし、この程度の作法は身に着けておいたほうがいい。
「アキさん、もう普通でいいですよ。可哀そうになってきました。」
ベルはくすくすと笑う。
「そう?まあ、ベルが言うならいいかな。」
「ええ、構いません。プライベートですし。」
「じゃあ、紹介するね。こっちからミルナ、ソフィー、エレン、レオ。」
アキが王女様を「ベル」と呼んだことにまず驚き、敬語すら使ってない事に気づいてさらに焦るミルナ達。
「アキさん!王女様ですわよ!」
知ってるって。
「死刑にされますー!」
さっき既にされそうになったな。
「アキ!いますぐ謝るのよ、まだ間に合うわ!」
実はもう謝った。
「アキ、早く早く。」
だからもう謝ったって。
当然その事実を知らない皆は必死だ。アキが不敬罪で処罰されると心配してくれているのだろう。
「いいんだよ、ベルで。あとさっき王城くれっていったらダメって言われた。ベルはケチだよな。」
「アキさん!あれ本気だったんですか!そして本当に王女様に何言っているんですの!バカですか!ダメにきまっているでしょう!暴言!そして暴言!」
突っ込みどころが多いのに的確に全て突っ込んでくれる。さすがうちのミルナ。
「ええ、私がアキさんにそう呼ぶように言ったんです。敬語もいらないって。そして流石に王城はあげられません。ケチとかいわないで。アキさんのバカ。あの事ばらしますよ?」
ベルが頬を膨らませてちょっと拗ねる。
「じゃあ、いらなくなったら頂戴?それにばらしたら俺もばらすよ?」
「はい、じゃあその時はあげます。そうでした、2人の秘密です。」
ミルナが後ろで「誰か突っ込んで、王女様にはさすがに無理ですわ」と言っている。どこかで見たデジャブだなと思うアキ。
「よし、紹介も済んだし帰るぞ。さっきベルが言ったように、明日から数日午前中はベルに呼び出されているから留守にするからな。」
「ま、まってください!」
ソフィーが意を決して叫ぶ。
「どうしたソフィー。」
「えっとベル様は……明日からアキさんに用事が?」
「そうです。あと……ベルと呼んでいいのはアキさんだけ、貴女に許可した覚えはありません。気をつけなさい。」
ベルが王女らしい厳しい言葉をソフィーに浴びせる。
「は、はい。アイリーンベル王女殿下。」
泣きそうになっているのであまりうちの子を苛めないでやって欲しい。
「私、アキさんの事気に入りました。だからデートにお誘いしたんです。」
ベルはアキの腕に自分の腕を絡ませる。
「「えええええ!」」
ミルナとソフィーが叫ぶ。
「アキ!そのおん……ひゃにー。」
エレンの頬を思いっきり引っ張る。
「その続きを言うのは止めとけ。」
エレンはアキに指摘されて気づいたのか、冷や汗をかいている。
「あら?何を言おうとしたんです?」
ベルが不敵に笑いながらこっちを見ている。どうせベルの事だからわかってやっている。でもうちの子達を泣かせた罪は償ってもらおう。
「冗談なのはわかる。でもあんまりうちの子達苛めるな。王女様でも俺は許さないからね?覚悟してね?」
優しく微笑みながらベルを叱る。
「ご、ごめんなさい。」
アキの意味深な笑顔がよほど怖かったのか、ベルが急にしおらしくなって謝る。
「素直なのはベルの良いところだと思うよ。」
「そ、そうですか?ありがとうございます。少しミルナさん達が羨ましかったんです……。ちょっとくらいの意地悪許してくださいね。」
「ああ、わかってる。気にするな。ベル、また明日。」
「はい、よろしくお願いします。」
簡単に挨拶をして、ミルナ達を連れ部屋を出る。うちの子達が色々と限界そうだし、早々に引き上げたほうがいいと判断した。