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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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 さて、残るはエリスだ。

 アキはエリスと闘技場の中央で向き合う。


「お待たせ、お姫様。」

「ひ、姫とかいうな!恥ずかしい!」


 不意を突かれたのか、慌てふためくエリス。今の格好が凄く姫騎士っぽいから言ってみたんだが、恥ずかしいらしい。


「疲れたし、もう終わりって駄目だよね?」

「ダメだな!私ともやってくれないとやだ!でも……アキが本当に嫌なら……。」


 きっとアキが本気でお願いすれば、エリスはわざと負けてくれるだろう。エリスは優しい子だ。戦闘狂(バトルジャンキー)だけど。だからこそ、戦ってあげないといけない。


「ううん、エリスはずっと俺の手伝いをしてくれた。だからエリスが大好きなケーキも、戦闘もなんでも付き合う。全力でやるよ。」


 アキがそう言うと、エリスは太陽のような眩しい微笑みを浮かべる。


「アキ、ありがとう。」


 アキが剣を構える。エリスも構える。


 とりあえず先程エリスに撃っていた魔法をアキは再び彼女に向け放つ。バルトとルーカスに邪魔されたので改めて仕切り直しだ。エリスも先程と同様に華麗に躱していく。安易に突っ込んできてくれれば助かるが、エリスは絶対そんなことはしない。間違いなく魔法を避けながら何か打開策を考えているはずだ。アキの予想だと、エリスの策は隙をついたヒット&アウェイ。アキの魔法が途切れた瞬間に斬撃をいれ、即座に離脱する。だからこそアキは魔法発動を少しだけ遅らせ、わざと隙を作る。


「いくぞ!」


 予想通り、エリスは接近して斬撃を繰り出して来たので、太刀で防ぐ。そして一応防御と同時に魔法を放つが、エリスは既にバックステップして回避体制に入っている。さすがに素早い。アキは火球、氷刃、氷矢の速度を少し上げる。


「まだ上があったのか!」


 今のアキは魔素計算しているので、限界ぎりぎりまで魔法の速度を上げられる。ただし、上げたのは火球等の速度だけで、魔法発動はまだ遅延させている。わざと隙を作っているとエリスに悟られないように細心の注意を払いながら「わざと隙を作る」。


「だが……なんとかなる!いくぞ!」

「くっ。さすがエリス。速い、そして重い。」


 アキは必死にエリスの斬撃を防御する。彼女の攻撃はヒット&アウェイなので流石にフェイントまでは入れてこない。だが速い、ただただ速い。もっと余裕で防御出来るかと思ったが、甘かったようだ。攻撃速度や重さがやはりミルナ達とは違う。そして何より感嘆なのは、アキの作っている隙は普通では絶対にわからないレベルなのに、エリスは的確にそこを突いてくることだ。


「さすがエリス。俺の尊敬するSランク。」

「アキに言われるのは嬉しい!」


 暫くその攻防を繰り返す。この攻防の本当の目的は、アキの隙の作り方によってエリスがどの攻撃行動を取るかを観察することにあった。特定の行動を誘発させて、そのタイミングで殺る。さすがにエリスは殺したくないから急所は外すけど、そのつもりでやる。怪我したらアキが治してやればいいだけだ。


「悪いが勝ちは譲れない。」

「なら勝ってみろ!」


 エリスが大声で叫ぶ。


 だが正直に言ってアキは負ける気がしない。対人戦闘においてアキの魔法は本当に相性がいい。あと自分の性格とも合っている。観察・予測と魔法は本当に最高の組み合わせだ。だからこそ対人では負けない。魔法を禁止されたり、封じられたらアキはただの雑魚だし、魔獣相手になれば邪魔にしかならない存在だ。ただ対人で魔法が使えるなら、Sランクにも対等に渡り合えると思っている。


「エリス、楽しかった。またやろうね?」

「どういうことだ。」


 アキは氷刃を放ったあとに火球を複数エリスに向けて発射。その後氷矢を生成し、足元へ射出する際に一瞬タメを作る。エリスがそれに反応、跳躍してアキに斬撃をいれにくる。予想通りの行動だとアキはほくそ笑む。その跳躍からの斬撃を待っていた。この攻撃パターン時、エリスが跳躍するのは観察済みだ。


「エリス、死ぬなよ。」


 アキは氷矢を射出せず、そのまま魔法を解除、視覚強化も解除。魔素を満タンにしてさらに深呼吸をする。そうすると一時的に100の魔素最大数値を140までを引き上げる事が出来る。そこで使う魔法は氷の壁。だがただの氷壁ではない。まず空気中の水分をいつも通り液化するのだが、壁ではなく氷柱をイメージして生成。そして瞬時に凍らす。魔素の使用が120。跳躍したエリスは当然回避が出来ない。氷の剣山向けて自ら突き刺さりに来る。


「くっ……アキー!」


 エリスは回避が出来ないと判断し、剣を振り下ろして氷の剣山を破壊しようとする。だがアキはあらかじめ自分の周辺に金属粉を飛ばしており、そこに魔素5を使い熱源を与える。そして粉塵爆発が起こる直前に風魔法、魔素使用は15、を発動させ爆発に指向性を持たせる。結果、粉塵爆発が起こり、剣山が爆風に乗ってエリスに襲い掛かる。アキ自身はバックステップして爆発を回避。魔素の残量もちょうど0になる。全て予定通りだ。


「エリス、すぐに治してやるから耐えろ。」


 アキがエリスに声を掛ける。


「くっ……あああああ!」


 エリスに氷柱状の氷が何本も刺さり、苦痛の表情を浮かべている。なんとか両足で着地はしたが、前に倒れ込みそうになる。エリスは剣を地面に突き刺して、最後の力で必死に体を支える。


「もういいよ、力抜いて。」


 アキはエリスに近づいて体を支えてやる。アキの顔をみて安心したのか、少しだけ微笑んでアキの胸の中に倒れる。しっかりと受け止めて、エリスを優しく抱きしめてやる。


「治癒魔法かけるからもう少し我慢して。」


 エリスが腕の中で小さく頷く。治癒魔法を即座に発動させ、細胞を活性化する。すぐに出血が止まり、傷口も修復されていく。


「ありがとう、アキ。」


 静かにエリスが耳元で囁く。


「ううん、傷つけてごめんね。」

「いい、アキの物だもん。」

「ああ、そうだね。俺の物だ。」


 治癒魔法も無事完了だ、少しすれば全快するだろう。


「終わったよ、離れていいよ?」

「やだ。もう少し。」


 エリスが上目遣いで我儘を言ってくる。


「はいはい、お姫様のお望みのままに。」






 満足したのか、エリスがアキから離れる。


「楽しかったぞ!またやってくれるか?」


 すっかりいつものエリスに戻っているようだ。


「そうだね、エリスならいつでも。」

「やった!頼むぞ!では……棄権する!」


 エリスは手を挙げてギブアップを宣言する。


「試合終了!まさかアキが1人でSランク3人を撃破!今まで不遇と思われてきた魔法でなんという快挙でしょうか!今後の闘技大会に影響しそうだ!」


 面倒な事にならないといいがと思うアキ。だがそんな事は今はどうでもいい。疲れた。早くミルナ達の元へ行こう。そう思い振り返ると、胸に金髪の何かが飛び込んでくる。うちの可愛いエルフだ。


「アキさん!さすがですー!でも怪我、怪我はないですか!」

「怪我したのはエレンとレオだろ……。」


 最後まで過保護なソフィー。彼女らしいけど。

 そして気づいたらいつの間にかミルナ、エレン、レオも側にいる。


「ソフィーずるいですわ。」


 ミルナが拗ねる。


「そもそもこの子が速すぎるのよ……。」

「僕達が『やったー』っていた瞬間に横見たらもういなかったもんね……。」


 エレンとレオは呆れた表情でアキの腕の中にいるソフィーを見つめる。雑談出来る余裕があると言う事は、もう怪我は大丈夫なのだろう。


「ちなみにこの後ってどうなるの?」

「どうなるの……かな?」


 レオもわからないという感じで首を捻る。


「表彰式みたいなのがあるのかしら?」


 エレンも首を傾げる。


「まぁ何でもいいや。少し疲れた。」

「お疲れ様です、アキさん。」


 アキの腕の中にいたソフィーが優しく撫でてくれる。

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