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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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8

 いよいよ闘技大会当日。アキ達は闘技大会が行われる王都の闘技場まで来ていて、現在は初戦を控室で待っている。エリスはSランクとして参加しなければならないので、眠そうな顔をしながら会場に先に向かった。彼女の事だからSランク席で寝てそうだ。アリアとセシルも応援に行くと言ってくれていたので観客席のどこかにいるはず。エスタートとガランも同様だ。


「じゃあさくっと優勝するよ。」

「はい、がんばりましょー!」


 ソフィーがいつものようにほわほわとした笑顔で返事をする。


「初戦の相手は前衛職3人だから予定通り俺1人で行く。」

「わかりましたわ、気を付けてくださいね?」

「アキさん、怪我、怪我はダメですー!」

「何かあったらすぐに助けるわ!」

「怪我しないでね!」


 相変わらずうちの子達の過保護ぷりは健在だ。対人戦闘なら多分ミルナ達よりは上なのにと苦笑する。


「うん、ありがとう。頼りにしているよ。」


 暫くして大会運営委員から声がかかったので、闘技大会の舞台へと向かう。





 いざ闘技大会のステージへ降り立つと、超満員の観客に圧倒される。確かに1万人くらいはいそうだ。一際豪華な観覧席が北側にある。あれがおそらく王族席だろう。Sランク席はその近くだとエリスが言っていたので、その付近に目を凝らすと金髪少女が手を振っているのが見える。あの美少女剣士はどこでも目立つなと苦笑する。


「さぁ今年も闘技大会1回戦目です!」


 実況らしき人の声が闘技場内に響き渡る。音量増幅魔法か何かで声を響かせているのだろう。アキはこれに指向性を持たせて魔獣討伐の際の指示や連携に使った。てっきりあまり知られてない魔法だと思ったが、冒険者協会や魔法組合が闘技大会運営に携わっていると考えれば別段不思議ではない。これくらいはちょっと研究すればすぐにわかる事だ。


「1回戦はチーム1番対チーム16番です!」


 チーム名が呼ばれるのは準決勝かららしい。有名になりたければ勝ち抜けということなのだろう。どうでもいい事だが。


「チーム16番は女性3人に男性2人。女性が多いのは珍しい!しかも全員美人だ!」


 やっぱりそこが注目されるのかと溜息を吐く。すると何を思ったのか、ミルナがアキに抱き着いてくる。


「おい、今更ヘイトを稼ぐ必要はないだろうが。」

「私はアキさんのものですわ、とはっきりアピールしておこうかと。」

「そ、そうね!」

「いい案ですー!」


 そういうとエレンとソフィーも抱き着いてくる。


「おおっと!どうやら全員俺の女だとアピールしているようだ!」


 好き勝手な事を言ってくれる実況だ。今すぐあのマイクを奪い取って否定したい。


「あはは、アキ頑張ってねー……。」


 レオが「僕知らないからねー」って顔で見ている。ちなみに対戦相手は男3人。こっちの余裕を見ていい感じに逆上してくれている。どうせ「戦闘前に女といちゃつきやがってぶっ殺してやる」とか思っているんだろうな。そう考えるとミルナ達の行動は悪くない。油断して攻撃が読みやすくなる。


 一応彼らの情報はセシルが集めた資料で知っているが、特筆すべき点はない。というより参加者全員特に問題ない。全員がAランク相当の実力を持っている前衛職というだけで、注意すべき人物は特にいなかった。つまり全員に対人経験が無い。セシルの言う通り、腕に自信を持っている自信家というくらいだ。本当に情報収集が無駄なレベルで必要なかった。まあ、それがわかっただけでも収集した甲斐があったと思う事にしよう。


「さあ、さっさと初めてしまいましょう!両チーム準備はいいですかー!」


 実況が開始を宣言したので戦闘位置に着く。ミルナ達は下がらせているので、アキだけが抜きん出て立っている状況だ。アキは太刀を抜き、構える。相手も3人が横一線に並び剣を抜く。


「戦闘前に女といちゃつきやがってぶっ殺してやる!」


 一字一句想像していたセリフと同じなので笑いそうになる。これならいいだろう。



 殺す。



 遠慮はしない、本気で殺す。王家や協会に実力を誇張して見せつけるという意味で彼らには悪いが死んでもらう。躊躇なく殺すことでSランクの素質ありと見せつける。それによって初依頼をチーム宛に貰える可能性が高いし、王家の目に留まる可能性だってある。だがミルナ達にそれをやらせるわけにはいかない。人を殺すのはもうアキだけで十分だ。ミルナ達に殺す事は伝えてある。初戦をアキがやると決まった時点で説明した。しかし、もし初戦をミルナ達が担当する事になっていたら、2回戦でアキがこれを実行するつもりだった事に気付いた彼女達は怒った。殺すことにじゃない。自分達を気遣った事についてだ。「また勝手に色々と計画して、ずるい」と怒った。


「ほんとうに俺には勿体ない子達だと思うよ。」


 アキは彼女達の言葉を思い出して苦笑する。


 ミルナは「アキさんが殺せというのなら何人でも。私も共犯者になりますわ。」と力強く言ってくれた。ソフィーは「アキさんだけが手を汚すなんてダメです!でも私達を想ってくださりありがとうございます。だからどこまでもついていきます。」と泣いてくれた。エレンは「アキ、大丈夫よ。私は大丈夫。だから必要なら一緒に殺すわ。」と優しく微笑んで、リオナは「アキを信じてどこまでもついていく。僕はなんでもする。」と元気よく笑ってくれた。


 こんな自分を見限らずにいてくれる彼女達には心からの感謝を。それ以外は何もいらない、だから遠慮なく殺す。


「でははじめ!」


 実況が叫ぶ。


 それと同時にアキは薄い氷刃をノーモーション、無詠唱で3人に向かって飛ばす。無事彼らに命中して体に無数の傷をつける。さすがにエリスのように察知して回避する事はできなかったようだ。


「おおっと!何もしてないのに3人から血がでている!何が起こった!」


 実況は何が起こったのかわかってないようだ。対戦相手も自分達の傷を見て驚いている。


 さらにアキは氷矢を数本放つ。氷矢は視認出来るだろう。だが彼らはアキの無詠唱魔法に反応出来ず、3人とも氷矢を足や腕に被弾してくれた。そこに追い打ちをかけるようにアキは氷刃を叩き込み、確実にダメージを負わせていく。アキはこれを何回か繰り返す。段々と増えていく出血に比例して対戦相手の動きが確実に鈍っていく。


「16番チームの剣をもった男性はまさか無詠唱で魔法を撃っているのか!そうとしか考えられません!」


 実況の叫び声が聞こえる。さすがにここまで露骨にやれば気付かれるだろう。だがそれでいい。次で終わらせる。アキは氷矢を生成し、一拍置いてから射出する。そして氷刃を続けて瞬時に放つ。最後に高温の炎球を飛ばす。


 対戦相手は当然視認出来る氷矢を必死に躱す。だがアキは敢えて生成と発射を分け氷矢を視認させる事で、彼らの避ける方向を誘導した。そこに氷刃が直撃し、動きを阻害。動けなくなった彼らにとどめとなる炎が着弾。鎧、剣などの武器防具だけではなく、彼らの肉や内臓まで全てを焼き付くす。残ったのは骨と溶けた鉄のみ。骨も軽い衝撃を与えれば砕け散る。実際5万度くらいまで温度をあげれば骨まで溶かせるらしいが、そこまでする必要もない。アキの魔法の特殊性は十分に印象付ける事が出来ただろう。それにそんな超高温だとミルナ達にまで火傷を負わせる可能性もある。


「1回戦終了!なんと対戦相手は跡形ものこっていません!炎魔法だけで鉄や人まで溶かしてしまいました!どういうことでしょう!」


 興奮気味に実況が叫ぶ。観客は静まり返っている。冒険者の観客も多いはずだから多分驚いているのだろう。だが答えを教えてやるつもりはない。


 しかし成長したもんだとアキは思う。アリステールで冒険者にボコられていた頃とは大違いだ。まあ、あの頃は魔法をここまで使いこなせてなかった。剣もまだまだだった。今のアキがあるのはエリスのおかげ、そしてミルナ達のおかげだろう。彼女達がずっとアキの稽古をしてくれたのだから剣の腕は当然あがる。おかげで風魔法を防御で使う必要がほとんどなくなった。そして彼女達との模擬戦を通して新しい応用魔法も色々と思いついた。みんなには感謝してもしきれない。


 そんな事を考えながらアキは太刀を納刀し、ミルナ達の元へと戻る。

 彼女達は心配そうな表情をしていたが、すぐに笑顔を浮かべてくれる。


「お疲れ様です、アキさん。」


 ミルナが優しく微笑んで。


「おつかれさまですー!」


 ソフィーがいつもの笑顔で。


「まあまあね!」


 エレンがいつも様に高飛車に。


「次は僕達が頑張るね?」


 レオが元気に。


 それぞれが人を殺したアキを気遣ってくれているのだろう。


「ありがとう、でも俺は平気なんだよね、こういうの。残酷な人間なんだよ。」


 アキは苦笑交じりに話す。


「その手にはもう乗りませんわ。」

「です!だってアキさんは私達以外はどーでもいいんですよね?」

「そうそう、そういうことでしょ?」

「だね、もう引っかからないからね。」


 ミルナ、ソフィー、エレン、レオが笑う。

 うちの子達も色々と強くなったものだとアキは改めて苦笑する。

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