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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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7

 休日が終わり、闘技大会前日の午後。最終調整の訓練を午前中に終わらせてリビングで明日の打ち合わせを行っている。


「今更の確認だけど、闘技大会ってどこでやるの?」

「王都の闘技場です。」


 セシルが教えてくれる。闘技大会の為に色々準備はしたが、会場などの詳細については調べていない。訓練より重要な事ではなかったので後回しにした。何より今のアキにはセシルがいるのだから別に自分が理解してなくてもいい。彼女がいなければ闘技大会の概要等も含めた情報収集をする必要があっただろう。だがセシルが全て情報収集を行ってくれたおかげでアキは最重要である戦闘訓練だけに集中する事が出来た。


「セシルがいてくれて本当に助かるよ。情報収集に時間を割かずに済んだ。」

「それが私のお仕事ですから!でもそう言って貰えると嬉しいです!」


 アキの役に立てたのが嬉しいのか、兎耳がぴくぴく動いている。つい握りたくなる衝動に駆られるが、必死に我慢する。


「やっ……!し、してませんから!我慢してませんからああああ!」


 おかしい。我慢したはずだったのに気づいたらセシルの兎耳を掴んでいた。無意識とは恐ろしい。


「これが兎耳の幻惑魔法か。」

「私の耳にそんな能力はないですから……!」


 セシルは文句を言いつつもアキの好きに撫でさせてくれる。なんだかんだ彼女もアキに耳を愛でられるのは嫌いじゃないようだ。


「あの……話を急に明後日の方向に飛ばすのはやめて頂けません?今大事な話をしているんですから……。」


 ミルナが呆れた表情で苦言を呈してくる。


「兎耳すら無いミルナに正論を諭されるとはなんか癪だ。」

「なんでですの!そこは褒めてくださいませ!それに兎獣人じゃないのに兎耳なんてあってたまりますか!」


 まあ確かにミルナの言う通り、話を進めるべきだろう。セシルの耳はまた後で愛でるとして、闘技大会の確認が先決だ。闘技大会に向けての最終調整は終わったのだから、次にすべき事は闘技大会の概要を把握することだ。これを理解して戦術を組み立てる必要がある。


「観客は結構いる?誰が見に来る?」

「そうですね、各国の王族は来ます。他国のSランクを把握しておくいい機会なので。各国の闘技大会が別時期に開催される理由がそれです。その他は王都の一般市民や貴族くらいですね。でも人は多いです。1万人くらい集まるのではないでしょうか。」

「なるほど……王族か。魔法を隠すのはここまでかな。Sランクになったら関係ないし別にいいんだけど。ただ個人的にはあまり目立ちたくないんだよね。でも上手くやれば王家とも繋がれるからそっちを優先だな。」


 アキが軽く溜息をつく。


「それなら私達が頑張りますよー!」


 ソフィーがアキは何もしなくていいですと言ってくれる。


「いや、王族が観戦するならちょっと考えがあるから待って。ソフィー達だけ目立たせるのは嫌だ。理由はあとで話す。それよりエリス。」


 今日は起きているエリスに声を掛ける。


「うん、なんなのだ?」

「このエリス凄く可愛いと思わないか?」


 そう言ってエリスの寝顔の写真を見せる。


「な、な、なんで!消してと言ったのに!」

「可愛いから消したくない。」

「消すのだ!今すぐ!ね?ね?お願い!」


 エリスが涙目で必死に懇願してくる。仕方ないので再度消した振りをしておく。金髪碧眼美少女の穏やかな寝顔があまりにも美しいので消したくない。芸術作品として残しておきたい。そんな感覚だ。まあ、さすがにだらしない寝顔だったら可哀そうなのでとっくに消している。というかそもそも撮ったりしてない。


「あ、あの……話を戻していただけませんか……?さっきも言いましたが急に明後日の方向に話を飛ばさないでください……。」


 デジャブを感じた様子のミルナが頭を抱えている。


「ミルナは真面目だな。」

「あんたが自由すぎるのよ!」


 ミルナに代わりエレンが突っ込む。ソフィーとレオも「あはは」と渇いた笑いを浮かべている。しょうがないのでアキは話を本題へと戻す。


「ごめんね、エリス。本当に聞きたいのは、明日の予定はどうなってるのかってこと。」

「わ、私は朝から闘技大会のSランク席で一日観戦だ。だからアキ達とは一緒に行動できないのだ。」


 質問に答えてくれたエリスだが、どこか寂しそうな表情だ。


「なるほど。終わったらケーキでも食べに行こうね。」

「ほんとか!いく!」


 多分1人で行動しないといけないのが寂しかったのだろう。アキの提案を聞いてすっかり笑顔になるエリス。


「それで闘技大会の日程は?1日で終わると聞いてるけど……なんで?」


 アキはてっきり複数日に渡って行われると思っていたが、どうやら朝からぶっ通しで行い1日で終わらせるらしい。最後のほうは連戦も珍しくないとか。


 アキの質問にはセシルが答えてくれる。


「はい、1日でやる理由は王族関連です。」


 セシルが言うには、各国の王族は多忙な上遠方から来ているので1日空けるだけでも大変らしい。だから、冒険者に負担はかかるが、仕方なくこの方式が採用されているのだという。


「なるほどね。ちなみにメルシアの出番は?」

「参加者は16組、アキさんは最後に申し込んだので16番の番号を割り当てられます。1番と16番、2番と15番という組み合わせで第一回戦を行います。その後は勝ち抜いた者同士がトーナメント形式で戦って最後に残ったチームが優勝です。」

「4回勝てば優勝か。Sランクとの戦闘を考えると5戦ってことだな。」


 16組ともなると1回戦だけで8戦ある。普通ならそれだけで1日かかりそうなものだが、本当に全部終わるのだろうか。


「1戦は大抵10分かかりません。すぐにどちらかが戦闘不能になる場合が多いです。」


 アキの考えている事を見抜いたのか、聞いてもいないのに教えてくれる。セシルは「ふふっ、考えている事くらいわかりますよ」という感じで微笑んでいる。


「1と16ってことは、メルシアは朝からってことか。」

「そうですね。といっても開始時間は10時くらいです。過去の大会の話を聞く限り、全部やっても午後7時までには終わるはずです。」


 セシルが詳細を把握してくれているのは助かる。彼女がいるだけでアキ自身の仕事が半減する。本当に優秀な秘書だ。


「そうだな、セシルの言う通りだ。」


 エリスが楽しそうに笑う。Sランク戦を楽しみにしているのだろう。


「そうだな、楽しみだよ。エリスとやるの。」


 アキとしても本気のエリスと戦ってみたい。模擬戦ではない実戦で、本気のエリスと。彼女との実戦には確実に学べる事があるはずだ。


「あの……アキさん?もう優勝は決まっているように話していますが……。」


 ミルナがおずおずとアキに声を掛ける。


「「当然決まっている、メルシアだよ(だ)。」」


 ミルナの発言に対しエリスとアキが声を揃えて返す。


「俺とエリスがつきっきりで訓練したんだ、対人相手なら優勝は余裕。」

「うむ、アキの言う通りだ。」


 ミルナ達が呆れたように2人を見る。この2人は本気で言っている。既に明日の闘技大会の事を考え緊張しているミルナ、ソフィー、エレン、レオとは対照的になんの心配もしていない。


「緊張している私達が馬鹿みたいですわ……。」


 ミルナがちょっと拗ねたようにアキに文句を言ってくる。


「油断して欲しくなかったから言ってなかった。今は逆に緊張しすぎてもよくないから敢えて言った。」

「ほんとアキさんに弄ばれている気がしますわ。」

「ミルナ、安心して俺についてこい。わかったな?」

「は、はい……!」


 どうやらミルナやうちの子達はこういう強引な言葉が好きらしいと最近気づいた。時折言ってやるともの凄い効果を発揮してくれる。何故だかはわからない、女心は難しいというやつかもしれない。ただ現に今もアキの発言を聞いたミルナが嬉しそうにしている。


「それでさっき俺がソフィーに言った、ソフィー達だけを目立たせたくない理由について。そして闘技大会を実際にどう戦うか。」


 闘技大会の日程を考えるに、連戦の可能性は十分にある。よって、ミルナ達だけに戦わせるのは得策ではない。出来ればアキの実力も最初から出していった方がいいと考えている。その上で、相手の人数次第だが、初戦は3人くらいまでならアキ1人で、相手が4~5人ならミルナ達で対応する。2回戦は初戦で戦わなかった方が戦う。それを交互で行い、こちらの戦略や戦術を相手に読ませない。場合によっては3,4回戦ではさらにメルシア内でメンバーをシャッフルしていきたい。そうすることにより、連戦になったとしても、各自ある程度の休憩時間はとれる。


「出来るだけ消耗を抑えてSランク戦に臨みたい。エリスが俺達を認めてくれているのはわかっている。だからこそ彼女を楽しませてあげたい。それに万が一エリスじゃない場合もあるわけだしね。」

「アキ、感謝するぞ!なにがなんでも明日のSランク戦は私が出る!」


 エリスが「私が出れるように上手くやるから任せておけ!」と胸を張っているが逆に不安だ。余計な事を口走って他のSランクあたりが出てきそうな気もする。まあ、エリスは本気で出たいだろうから彼女を信じるとしよう。


「ちなみに俺が実力を見せておきたい理由は、Sランク(仮)になった際の初依頼を見越してだ。あとは王族も見ているからだね。俺が1人でやると言った一番の理由はこれ。」


 セシルに聞いたところ、Sランク(仮)の初依頼は、チームとして依頼される場合もあれば各個人の場合もある。年によって違うらしい。あまりにもチーム内での実力がかけ離れ過ぎていると、依頼は各個人宛になる傾向があるようだ。そのあたりは協会が判断して決めるらしい。


「セシル、個人に依頼されてもチームが協力してはいけないとかはないんだろ?」

「そうですね。下位ランクの協力は情報統制上禁止されてますが、同じSランク(仮)同士であれば問題ありません。」

「だから最悪個人に依頼されてもなんとかなる。ただ5回も依頼をこなすのは正直面倒だ。チームとして依頼をしてもらったほうが時間の短縮にもなる。さっさと正式なSランクになってミレー王国は月夜の森へ行くんだろ?」

「はい。あ、でも王族の方はどういう意味ですの?」

「ミルナ、それはまた今度話す。今は気にするな。」


 説明してもよかったが、「そうなればいいな」程度の考えなので今は話す必要もない。もし闘技大会でアキ達が王族の目に留まり、何かしらの接触があったらその時に改めて彼女達に話せばいいだろう。それに余計な情報を与えて混乱させるのもよくない。彼女達には闘技大会を勝ち抜く事だけに集中して貰いたい。


「でも……!アキ1人で大丈夫なの!」


 エレンが心配そうにアキを見つめてくる。ミルナ、ソフィー、レオも同じような表情だ。


「エリスと単騎で渡り合えるくらいに俺は対人特化しているから問題ない。魔獣相手だったら、『エレンちゃんたすけてー』って泣き喚くだろうけどね。」

「そ、その呼び方やめなさい……。今ちょっと寒気がしたわ……。」


 エレンがぶるっと身震いする。


「わかりました。でも私達が無理だと判断したら加勢するのは許してくださいますよね?」

「ですです!すぐに割ってはいります!」


 ミルナとソフィーが心強い言葉を送ってくれる。


「僕も!いつでも盾になるからね?」

「ありがとう、リオナ。」


 これで闘技大会の戦略は大方決まったので、アキは改めてミルナ達に宣言する。


「よし、明日は黙って俺についてこい。我が最強の刃に、癒しの光に、弓に、盾よ。」

「「「「だからそれはもう忘れて!」」」」


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