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そして休日最終日の3日目、アキはリビングに呼び出されていた。既にそこにはミルナ達に加えてアリア、セシル、エリスが揃っている。
当然の如く早朝だ。
「だから早朝に叩き起こすな。3日とも同じ事すんな……。」
「何言ってるんですか!お休みは今日しかないんですよ!」
ソフィーが力説してくる。ミルナ、レオ、エレンもうんうんと頷く。アリアとセシルはアキを哀れみの表情で見ている。エリスは座ったまま……まだ寝てる。寝顔見ると本当に可愛い女の子だなと思う。Sランクとは思えない。せっかくだし写真に残しておこうと思い、タブレットでエリスの寝顔を撮影する。
さて、早朝に叩き起こされた事は不満だが、起きてしまったのだからそれはもういい。アキはまずすべき事を片づける。つまり朝の癒しの時間だ。
「セシル、ちょっと。」
「はい?……ひゃ……耳だめ……。」
セシルが毎度のごとく不用心に近づいてきたので捕まえて耳を撫でる。
「早朝の癒しって大事だと思うんだ。」
「し、しりませんからー!」
ある程度兎耳を堪能したところでセシルを離す。
「もー……いいけどね……。」
なんだかんだで許してくれるセシル。
「それで今日はどうするの?」
ミルナ達に尋ねるとソフィーがニコニコしながら近づいてくる。
「まず、お話ですー!」
「え、なんで?」
「アキさんがエスタートさんのお屋敷のメイドさん全員に手を出して引き抜こうとしているって聞きました!」
「誇張にも程がある。」
ミルナとエレンを睨むとサッと視線を逸らされる。それよりも気づいたらアリアが背後に立っており、肩を押さえつけられる。メイドは私がいるでしょうという凄い威圧感だ。メイドを引き抜くの「メイド」部分に過剰に反応している。
「アキさん?お話する必要がありそうですね。」
「ミルナとエレンが間違った情報を伝えている、真実は違うんだ。と言ったら信じる?」
「特別に弁解の時間を差し上げます。」
アリアが鋭い目でアキを睨みつけている。といっても本気の敵意は感じない、ただ拗ねているだけだ。アリアも本気でアキが彼女以外のメイドを雇わないのはわかってくれている。
「爺ちゃんが冗談でメイド持ってく?って言った。だから俺は『うちには可愛くて、美人で、優秀で、頼りになるアリアがいるからいらない』と言った。オッケー?」
「は、はい……許します……。ありがとうございます。」
うちのアリアもチョロいなと思うアキ。しかしここまでストレートに褒められるとは思っていなかったのか、仏頂面のアリアが信じられないくらいに顔を赤くして照れている。まあ言った事は九分九厘本当の事だからいいんだけど。
「私とはお話ですよー?」
「聞けソフィー。さらに俺はその後爺さんに『俺にはソフィーのような可愛くて素敵な子達がすでにいる。だからいらない』と言った。オッケー?」
「えへへ、ならいいんですー!」
とりあえず2人とも上手く丸め込めたのでよしとしよう。
「お話もいいけどそんなんで1日過ごすの?結局何かするの?」
これ以上面倒になる前に早々に話題を変える。
「はい。みんなで話し合ったのですが、アリアさん、セシルさん、エリスさんも一応……仲間です。なので皆で過ごしたいと思いまして。」
「なるほど、いいと思うよ?」
「それで……私達とお料理をしましょう!」
ミルナが力強く宣言する。それを聞いたセシルとアリアは不思議そうな顔をしている。エリスは……まだ寝ている。この金髪騎士、一向に起きる気配がない。
「私達気付いたんですわ。昨日エスタートさんのお屋敷でアキさんが料理するのを見て、このままではダメだと。なのでお料理を教えてください。」
なるほど。多分ミルナ達の女子会で料理の話が出て、4人は絶望した後、一念発起したというわけなのだろう。
「俺でよければ教えるよ?アリアとセシルも別にいいでしょ?」
「はい、構いませんが。」
「いいですよー。」
アキの決めた事やお願い事に2人はNOと絶対言わない。
「いい心掛けだと思うしね、ちょっと嬉しい。」
アキがそう言うと、ミルナ達4人はやったと喜んでいる。
「ただ……。」
その前にどうしても確認しておかなければならない事が1つある。
「アリア、最近いつ4人の部屋の状況見た?」
「今朝、確認しておきました。」
さすがアリア、優秀すぎる。おそらくいつアキに聞かれてもいいように毎朝さり気なく確認してたんだろう。
「報告。」
「はい、レオさんとエレンさんは綺麗でした。ちゃんとお掃除されているみたいですね。エレンさんは苦手ながらも必死にやったという感じでした。」
「さすがリオナとエレン。偉いね。」
「うん!」
「当然よ!」
嬉しそうに尻尾を振るレオに、得意気な顔のエレン。この2人は素直で真面目だから問題ないと思っていた。だが名前が出てない残りの2人を見ると、顔が少し青ざめている。
「ミルナさんとソフィーさんは……私の口からはとても……。」
「ち、違うの!これには理由がありますの!」
「そうです!違うんです!」
必死に言い訳をしようとする2人だが、アリアがそれを制して言葉を続ける。
「口からはとても言えませんが、アキさんこれをどうぞ。」
そういって黒と白い布を渡してくる。右手に黒、左手に白い布を持った状態だ。
「え、うん。なに?」
アキがアリアに尋ねる。
「お二人の下着です、今日拾ってきました。脱ぎたてほやほやです。」
「だめええええええ!待って!アキさん触らないでくださいませ!」
「いやああああ!だめええええ!アキさん!早くポイしてくださいです!」
ミルナとソフィーの叫び声がリビングに響き渡る。ただアキとしても彼女達の下着なんかどうしていいのかわからない。ポイしたらしたでまた怒られそうだし、握り締めててもただの変態だ。非常に扱いに困る。
「ちなみに白がミルナさんで黒がソフィーさんです。意外でしょう?」
「しるか。俺に意見求めんな、コメントしづらいわ。」
とは言いつつも確かに意外だなとは思う。ミルナが白でソフィーが黒だったのか。逆だと思っていた。しかしそれよりもうちのメイドが強かで怖い。
「アリア、あまり苛めてやるな。それにこれ本当は違うだろう?」
「ええ、それは私の下着です。」
アキは下着を速攻で床に投げ捨て、テーブルに置いてあった銀のトレーでアリアの頭を殴る、割と本気で。
「下着は本物とかそこまでのリアリティいらんわ。反省しろ。」
「つっ……さすがに痛いです……私の下着、興奮しました?」
「もう一発いっとく?」
「ええ、是非。」
駄目だ。このメイドはクビにしたほうがいいかもしれん。アキは溜息を吐く。
アリアがコホンと咳払いをする。
「お2人の下着というのは冗談です。でもあの反応、白と黒なんですね?」
「「ち、違うの!」」
ミルナとソフィーが声を揃えて必死に否定する。まあ、反応からするにアリアの予想通りなんだろう。本当にうちのメイドの洞察力と誘導尋問技術は飛び抜けている。しかしいい情報だ。脳内の片隅にでも黒と白とメモしておこう。多分暫く2人で遊べる。
「アリア、大事なのはそこじゃないだろうが。ミルナ?ソフィー?お片付けは?なんでしてないの?」
「えっと……やろうとしたんですのよ?」
「前よりは、前よりは綺麗です!」
ミルナとソフィーが必死に弁解してくる。レオとエレンは呆れた顔で2人を見つめている。
「今から2人の部屋行こう。」
「「だ、だめー!」」
相変わらずこの件に関しては息がぴったりの2人。
「まったく……。料理を教えるのはいい。でもその後2人は部屋の片づけが終わるまで休日無し。エレンとリオナは一緒に遊ぼうね。」
「「そんなー!」」
「どうせ1人じゃ無理だろうから、セシルとアリア、手伝ってあげて。」
「はい、わかりましたー!」
「はい、今度こそ本物の下着を調達してきます。」
2人とも快く了承してくれる。ただうちのど変態メイドには頭が痛い。
「調達すんな。」
そして休日最終日は料理教室を経てお掃除大会で幕を閉じた。ちなみにエリスは結局ずっと寝ていた。起きた頃には夕方で「しまった!私としたことが!今からでもアキと遊びにいくのだ!」とふざけた事をぬかしていたので、寝顔の写真を見せてやったら泣きそうに消してと懇願してきた。ちょっと可哀そうになったので……消した振りをしておいた。こんな可愛いエリスの姿を消すなんて神への冒涜だ。