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どうせ僕はモブなんだ

現れたのはホーリィロウだった。

 しかも周りには何やら武装した兵達がいる。

 ホーリィロウは真剣な表情で話し出す。

「……この宿の周囲全てを包囲しました。そしてレオン様には、これ以上ままごとの……」

「あ、イオ、イオ達はお酒好きだったから酒瓶何本か見繕っておいてね」

「分った、カノンちゃん。それでトランはどれにする?」

「そうだな……」

 と、イオとトランが、がさごそと酒を物色する。

 そんなカノンにレオンが

「なあ、カノン、俺にはする事がないのか?」

「あの果物僕が好きだから確保してくれると嬉しいな!」

「……俺も好きだからいいけどさ……あの大きな骨付き肉を一つだけ持って行くか」

 レンヤとルカは、カノンの好きな果物を持つのを手伝っていた。

 そのいかにも今から逃亡するので色々持って行くか、というような準備を目の前でしているというその様子。

 それを見ていたホーリィロウが体を震わせて、

「この宿を包囲したと言っているんです。聞いていますか!」

「僕がレオンを連れて行かせるつもりがないから無理だよ? レオンはもう、僕のものなんだから」

「カノン君、君は……」

「ホーリィロウ」

 そうカノンに名前を呼ばれて、ホーリィロウは二の句が継げなくなる。

 カノンの雰囲気が笑ってはいるものの、異質な気配が湧き出ている。

 目の前のカノンが得体の知れない恐ろしい怪物のような気がして、ホーリィロウは言葉を話すことも動くことも出来なくなる。

 カノンは笑っている。

「ホーリィロウ……以前世話になった事もあるから、今回は見逃してやる」

 ホーリィロウは動かなければ、言わなければと思うのに、何もすることが出来ない。

 それは、周りの兵も同じだった。

 まるで彫像のように全員が動けずにいる。

 そこでホーリィロウが魔法を使われた事に気づいた。

「さあ、行こう、皆……イオ、そんなにもって大丈夫? 口にまで咥えてるけど」

「むぐむぐ」

「大丈夫だと言っている」

 トランがイオの言葉を通訳した。

 とりあえずカノンは深く考えないことにして、歩き出す。

 そんな横を通り過ぎていくカノンにホーリィロウは言わなくてはいけないと思った。レオンが王子である事を。

 見逃していたのも、一部は昔から知っているレオンが本当に楽しそうだというのもあった。

 だからホーリィロウも判断を誤った。

 カノンがそこまでレオンに傾倒して、追い詰められていると思わなかったのだ。

 本当は穏便に二人を別れさせる方法を探っていたのに、読み間違えてしまった。

 ホーリィロウの横をレオンが通過する時、レオンが小さな声で、謝るのを聞いた。

 それを聞いたホーリィロウは、謝るくらいならもっと自分の立場を自覚してくださいと言いたかった。

 上手くいくはずがないのだから、もっと深みにはまる前にレオンと別れさせなければならなかったのに。

「レオン、早く」

 そうレオンを呼ぶカノンの声は甘くて、恋人同士のようだった。

 その声にホーリィロウはレオンに微かな嫉妬を覚える。

 けれどカノンが嬉しそうなのもまたホーリィロウは、少し嬉しく思ってしまう。

 その矛盾する感覚に苛まれながら、ホーリィロウは暫く動く事が出来なかったのだった。


 さて、とことことカノン達は逃げ出して、村近くの魔族の転送の魔方陣の前にくるも。

「次どこに行く? ……と聞く前に、ここから転送して、それ全部食べてからにしようか」

 そう言って転送された先は、すぐ傍に花畑のある場所だった。

 山の中の開けた一角のようで、生い茂る木々の影響もあって人や魔族の気配はない。

 というわけで適当な大きい葉を持ってきてその上に果物などを置き、食事という運びになったわけでだが。

「レオン、あーんして」

「あーん」

 とか何とかやっているレオンとカノンがいた。

 それを真似して、イオとトランが、ルカとレンヤがそれをやっていたりする。

 そして一通り食べ終え、お腹がいっぱいになったらしく、カノンはレオンに寄りかかって眠ってしまう。

 それを見ると、あまりの可愛さにレオンはなんだか変な気持ちになってくるが、それ以上に愛おしくてカノンの頭をなぜた。

 すでにイオとトランは酔いつぶれて寝ている。

 日差しが暖かく、花のいい香りがして傍にはカノンがいてレオンはとても幸せだと思った。

 そんな幸せを噛み締めながら、レオンはホーリィロウに後ろめたさを感じる。

「……ホーリィロウには悪い事をしたな」

「これで良かったと思いますよ」

 独り言に返されてレオンははっとする。そこにはレンヤがいた。

「そうでないと困るのか?」

 レンヤやがそれに頷いて、

「けれど最終的には全員が幸せになれます。だから、大丈夫です」

「そうか……ホーリィロウに、俺、結構劣等感を抱いていたから、我侭を言い過ぎたかなという気もする」

「その分別の機会に返せばいいのでは?」

「そうだな……なんか幸せ過ぎて逆に不安で仕方がない」

 それにレンヤは答えなかった。

 答えないので不安に思って見ると、レンヤはレンヤであさっての方向……というか先ほどまでルカがいた場所を見つめて、その先で草むらががさごそしているのが見えた。

 よく見ると何か大きなものが引きずられた跡がある。 

「……助けに行ってきます」

 そう言って走っていくレンヤを見て、レオンも深く考えずに今の幸せを味わおうと思ったのだった。


 魔法が解けた後、ホーリィロウは部屋の隅で足を抱えていじけていた。

「いいんだ、どうせ僕はモブなんだ。その他大勢なんだ」

「ええっと、ホーリィロウ様、きっといい人が見つかりますって」

「大丈夫だから、俺だって片思いの最中だし」

「両思いに近い片思いの癖に……うう」

 そう僧侶と戦士が慰めるも、一向に回復しない。そこで魔法使いが現れて、

「では、すでに結婚している私から一言。大丈夫です、私も二桁以上失恋していますから!」

「「「結婚してたの!」」」

「いってませんでしたっけ。魔族とのハーフで、ほら、果物とか食べているような綺麗な魔族、“妖精族”の。可愛い子宝にも恵まれて……」

「……聞いてない。そしてもういい」

 さらにホーリィロウはさらにダメージを与えられたようで、床に“の”の字を書きながらいじけていた。

 そんなホーリィロウがいじけている場合じゃないと慌てるのは、それから三日後の事だった。


次話は一時間後です。よろしくお願いします。

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