葛藤はもりもり増える
その夜、ベッドの中でカノンは恥ずかしさのあまりしくしく泣いていた。
そんなカノンに、同じベッドで寝ているレオンが、
「いい加減、機嫌直せ。カノン」
「うう、何で僕ばっかりこんなくじ運が悪いんだ……」
「でもカノンが俺の事が好きで嬉しかったぞ。“幼馴染”として」
その言葉を聞いて、カノンは自分がレオンの本当の幼馴染であれば良かったのにと思う。
そこでカノンの手にレオンの手が触れた。
暗闇の中、その暖かさに、カノンはどきりとしてしまう。
そんなこわばったカノンの手をぎゅっと握って、カノンがレオンを意識しすぎている様子がとても可愛くて、小さくレオンは笑う。
本当に、どっちが捕らえて、囚われているのか分からなくなってくる。
レオンは確かにカノンを捕らえようとした筈なのに。
そこでカノンが、レオンの手をぎゅっと握り返した。
「カノン?」
名前を呼ぶがカノンは答えない。
けれど、レオンの思いに答えてくれているようで嬉しかったから、そして、レオンが思っている以上にカノンは追い詰められていると聞いていたから、だからそれ以上レオンはカノンを追及しなかった。
そのまま幸せな気持ちになってレオンは目を瞑ると、すぐに睡魔が襲う。
一方カノンは全然眠れなかった。
レオンのことが好きじゃないんだから!。
自分の口から出た言葉。
それはレオンの事が好きだという、カノンの本心に他ならない。
友達として、親友としてではなく。
当たり前だ。
魔族と人間は生きる時間が違いすぎる。
カノンはレオン達よりもずっと長く生きている。
ただその長い間一度も、カノンは“恋”というものをした事が無かっただけで。
ずっと城の中にいたから。
外へ出たとしても、それほど長い間彼らといたわけではなくて。何故か、カノンは心配されたりするのだが、カノンだって十分大人なのだ。
そしてもしもこんな状況でなければ、魔族の知らない誰かと恋をしていたかもしれない。
魔族の誰かと友達として遊んでいたかもしれない。
否、カノンは魔王なのだ。
そんなに簡単に関係は築けただろうか。
少なくとも今が、今まで人間に紛れた中では一番楽しい。
レオンにイオにトラン。その三人と一緒にいるのが楽しい。
特に、レオンの一挙一動が気になって仕方がない。
何故?。
自分の見込んだ勇者だから?。
利用できそうだから?。
レオンでなくてもいい理由ばかりカノンに浮かんで、すぐに泡のように消えていく。
そう、カノンはレオンで無いと嫌なのだ。
本当は四天王の事なんてどうでもいいくらいに、カノンはレオンが気になって仕方がない。
溺れている。
カノンはレオンに溺れている。
こんな酷い話があるものか。
相手は人間で、光で、勇者で……そして、昔から大好きな強くて重い想いを、カノンの知らない誰かに抱えていて。
それをカノンはすぐ傍で見続けなければならないのだ。
どうすればいいのだろう。カノンは心の中で思う。
レオンを思う気持ちは、絶対に負けないから。
簡単に諦めるほど、その想いはカノンの中で小さくないのだから。
苦しくて切なくて痛くて、けれど、今繋がれた手から伝わる熱が、カノンのその心の痛みを和らげる。
大丈夫、まだ時間はある。焦るな。
そうカノンは自分に言い聞かせる。でないとどうにかなってしまいそうだった。
大きく深呼吸して息を吐く。
と、そこで窓が小さく開き、人形が一体入ってくる。
「……いらっしゃる理由が必要ですか?」
そう、魔族の声がする。
本当にちょうどいいとカノンは低く笑った。
これでレオンの事ばかり考えなくて済むのだから。
「……その方が助かる」
そう告げると、ばたんと村の家から人が外に歩き始める。
「この宿にいる者達には眠りの魔法をかけております。……それでは、明日の朝に、村の入り口付近に片道のみの転送陣を用意しておきます」
「わかった」
そう頷くと人形はころんと転がり、そのまま水になってしまう。
明日の朝には乾いてしまう水溜りを見て、以前かの四天王が言っていた言葉をカノンは思い出した。
「母親、か」
次回、一時間後。よろしくお願いします。




