判断しないで保留だお
カノンは、すっと目を細めてその男を本気で殺そうとする。が、
「レンヤ!」
すぐ傍のルカが嬉しそうに走りよってその男に抱きつく。
「……まったく、あれほど俺の傍を離れるなって言っただろう?」
「うう、その……つい」
「ルカ、あまり俺を心配させないでくれ。もしも貴方に何かあったら俺は……」
「その……ごめん。でも、助けに来てくれてありがとう」
「俺は、ルカさえいれば良いから」
「レンヤ……」
幸せそうに抱き合う二人。
一緒に捕まっていた子供達は、おおーと楽しそうに二人を見守っている。
そんな二人のすぐ傍までカノンは歩いていって、ルカとレンヤの間に割って入り、ルカを背後に隠すようにしてレンヤをカノンは睨みつけた。
「あの、お、じゃなかった、カノンさん、レンヤは……」
「ルカは黙っていろ。……お前は一体“何”だ?」
「……普通の勇者です」
「勇者の割りに、魔力が尋常ではない。この僕を葬り去れるほどの力を感じる。そして、それを隠そうとしていない」
不気味な存在だった。
そして光の神そのものがとうとう来たのかともカノンは思った。
正々堂々と勝負すれば、あれには勝てないとカノンは知識で知っている。
そして昔から、かの性悪な光の神が魔族、特に魔王に対してしてきた事は……。
いや、だがルカが未来から来たのであれば彼もそうなのだろうか?。
それならば……否、敵には変わりない。
そんなカノンの敵意に対して、レンヤと名乗った彼は困ったように苦笑して、
「……その話は後々ゆっくりと。ただ、俺は貴方に対して危害を加えるつもりはありません。特に貴方は、俺の大切なルカの……」
「聞きたくない。……まあいい、取りあえずこの子供達を帰す事と、その人買い共をどうにかする方が先だ」
そうカノンはレンヤを一瞥すると、傍にあったロープを拾い上げたのだった。
村に戻ると、その人買いには賞金がかけられていたらしく、幾らかお金が入る。
しかも子供達を助けた事でレンヤは特に人気だった。
それを面白くなさそうにカノンが見ていると、
「お二方に少しお話があるのですが」
聞き覚えのある声がして、カノンが振り返るとホーリィロウがいた。
相変わらずにこやかだが、僅かに警戒感が滲み出ている。
ホーリィロウは軽くカノンに会釈すると、レンヤとルカに近づいて、
「はじめまして、僕はホーリィロウと申します」
「はじめまして。俺はレンヤと言います。そして彼は、俺の恋人のルカです」
そうレンヤルカを恋人と紹介すると、カノンはむっとしてしまう。
ホーリィロウはそんなカノンの様子にあれっと思うも、今はその二人から話を聞くほうが先だった。
「宿をとっておりますので少しお話をよろしいでしょうか?」
「……かまいません。ルカもいいな」
そんなレンヤにルカも頷く。それではとその場を去る際に、ルカがカノンに振り返って、
「カノンさん、また後でお伺いします」
「ああ、待っている」
そう、優しげに微笑んで見送るカノンをホーリィロウも見ていて違和感を感じたが、その場では何も言わなかった。
そんな場所でぽつんと取り残されたカノンは、ふとある事に気づいた。
「宿ってこの村に一つしかなかったんじゃなかったっけ」
だったら戻る場所は同じだよな、とカノンは自分のミスにため息を付いた。
そうすればもう少しルカと一緒にいられたのに。
そんな事を考えつつ、とぼとぼとカノンは一人宿へと向ったのだった。
ホーリィロウは宿の一室に、ルカとレンヤを案内する。
中には仲間達もいる。
なのに、ホーリィロウはカノンに似たルカよりも、レオンに似たレンヤに不安を覚える。
本当にレオンに似すぎている。雰囲気から何から。
そう思いながらも、聞かなければならないことは決まっている。まず、
「貴方方は何者ですか?」
「俺達は、未来からきました」
その答えにホーリィロウはしばし黙って、
「……それを信じろと?」
「信じてもらうしかない。俺達は未来から来たことを証明する手段が無い」
そう答えるレンヤに、ホーリィロウそう言われれば確かにとも思う。
判断できない事だからその件は保留かと考えて、次に、ホーリィロウはルカへと視線を移して、
「貴方が未来の魔王で、予知能力を持っているとの事ですが」
それに、ルカは少し考え込んでから、
「……我が未来の魔王かどうかは、容姿で似ているからという程度しか示せない。あとは、耳の形が魔族のものだという位か?」
「……確かに、魔族であるようですね」
フードからほんの少し顔を出して見せられた耳は、確かに魔族特有ではあるように思える。
けれどその時零れ落ちる銀の髪と赤い瞳。
カノンのように整っているが、ルカの方が少し大人びた色香がありホーリィロウは一瞬目を奪われる。
そしてルカの柔らかそうな唇から、言葉が紡がれる。
「予知能力に関しては……たまたま我がそれを持っていたということに過ぎない」
「人の王と魔族の王が交わったというのはどういうことですか?」
「……レオンから聞いたのか?」
「ええ」
「あれは嘘だ」
さらっと、ルカはそう答える。
ルカの表情からホーリィロウはそれが本当の事か嘘なのかが読み取れない。
そしてそれらから短い会話からホーリィロウは判断した。
「……残念ですが貴方方は怪しすぎる。だからレオン様には近づけさせるわけにはいかない」
そう、ホーリィロウが答えると共に剣にそっと手をやって、まずはカノンに似ているから躊躇してしまいそうになるが、魔族の方をどうにかしようと決めて、ルカに狙いを定めて……体が動かない事に気づいた。
「え?」
驚いて声を上げるホーリィロウは目の前の二人を凝視した。
レンヤと名乗っている彼から恐ろしいほど膨大な魔力と敵意を感じる。
ホーリィロウの額から冷や汗が零れる。
魔力の質は人の、光に属する。
けれど、その矛先が向けられているのはホーリィロウ達なのだ。
この感じは、以前、カノンが出した殺気に似た、自分達では敵わない恐ろしいものだった。
何だ、これは。
そこでルカがレンヤの手を握った。
「レンヤ……」
ルカが名前を呼ぶと、殺気がすうっと治まっていく。
それにほっとした途端、ホーリィロウは床にへたりこんでしまいそうになる。
仲間達は全員床に座り込んでしまっているのが音で分かったが、ホーリィロウはリーダーとしてもそうするわけにはいかなかった。
そんなホーリィロウに、レンヤは一度瞳を閉じて、憂鬱げに告げた。
「……ルカは俺の大切な人です。もしも彼に手を出すのであれば、殺します」
真っ直ぐに淀みなく言われて、ホーリィロウは気圧される。
強い意志と強い力と。その二つをホーリィロウはレンヤに感じた。
そして、ルカが彼の弱点であると推察をして、だからといって彼らをどうにか出来るかを考えて、現状では自分達の力ではどうにもならないとホーリィロウは結論づける。
かといって放って置くわけにもいかない。
最悪の場合、レオンだけでもホーリィロウは守らないといけない。
それがホーリィロウの役割でもあるのだから。
「……レオン様達に、手を出さないで頂きたい」
「それは出来ない。彼らの力を借りなければ俺達は元の時代に戻れない」
「……では、危害を加えることは絶対に無いと?」
頷くレンヤに、ホーリィロウはどうしようかと迷う。
ただ現状では圧倒的な力量の差がある。ここでいざこざを起こしても仕方が無い。
「……わかりました。ですが貴方方も我々の監視対象に入るという事でよろしいですか?」
「はい、かまいません」
それに関してはレンヤはあっさり頷く。
食い下がろうにも、本当かどうか分からない今の状態では、彼の意図や力も含めて全てがなぞだらけで、下手に刺激するにはリスクが高すぎる。
しばらくは様子見だな、報告書も面倒だなとホーリィロウは心の中でため息を付いた。
「これで話しは終わりですか?」
「ええ、そうですね」
「それでは、失礼します」
そうルカの手を引いていき、部屋を出て行こうとするレンヤ。
部屋を出て行きかけた時、ルカが微笑んで振り返る。
「……殺すつもりはなかったのだろう? 我達を」
そういうと、ルカは部屋の外へと消えていった。
確かに、ホーリィロウは彼らを殺すつもりはなかった。少し手荒な方法で話を聞くために連れ去ろうとしただけで。
けれど獲物に手を触れるのを見せ付けられながら、そこまで見抜くとは。
豪胆というかなんというか。
「……本当に、未来の魔王なのかもしれませんね」
そう、ポツリとホーリィロウは呟いたのだった。
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