知りたくない事は勝手にやってくる
カノンが寝たふりをするずっと前。レオンがカノン達と別れてすぐの事。
こっそりと宿を出たレオンはホーリィロウの宿へ。
「相変わらず贅沢な所に泊まっているな」
この前来たばかりだが、もう一度来て見ると造り自体がレオン達の宿と違う。
お金が無いので仕方が無い。
「路銀が尽きれば帰ってくるだろうと、あいつ等わざと少なくしたからな」
とはいえ、自分達で魔物を倒すなどして稼いだお金での生活。
悪くない。むしろ良い。
それに、イオやトランといった善良な信頼できる仲間がいて。
そして、大好きなカノンがいる。
もうこれだけで十分なほどに幸せで、充実している。
煌びやかだけれど寒々としたあの大きな部屋では、レオン自身を誰も見てはくれなかった。
腐れ縁のホーリィロウはあの中では自分を見てくれていた方だとは思うけれど、それでも、全然違うのだ。
終わりはいずれ来るだろう。
そして色々な人にレオンが迷惑をかけていることは分かっている。
けれど、それでも“今”を手放せないのはレオンの我侭で、そして、分かっていても手放せないのだ。
レオンはカノンを手放せない。確実に欲しい。誰が何と言おうとも。
忍び足で階段を上がって、コンコンと軽く戸を叩くと、どうぞというホーリィロウの声が聞こえた。
「お邪魔しまーす、と。あれ、仲間の奴らは?」
「一人一部屋なんです。戦士と僧侶は別ですが」
「……あの僧侶、何がしたかったんだ?」
「んー、そうですね。本命の前で猫を被っていた事が災いして、喧嘩はしていましたね。そこで見目麗しいレオン様に会ってしまい悪癖が出てしまったのでしょう」
「……いや、まあ、カノンが少しやきもきしてくれたからそれはそれで良いかなと」
「……レオン様、一応自覚してください。貴方は……」
レオンは聞きたくないといったように耳を塞いだ。
どうせ何を言われるのか分かっている。だから、耳を塞ぐ。
けれど今度はホーリィロウは容赦しなった。
べりっとレオンの手を耳からはがして怒ったように続けた。
「貴方は、次の人の王なのです。そもそも見合いが嫌で勇者の真似事など……自由に歩けるのは今ぐらいだろうという事で許しが出て、それでこんな事に……」
ホーリィロウは頭が痛くなったかのように手を頭に当てている。
「そうだな、俺は、光の神の神殿で信託を受けた“勇者”じゃない。お前のような、な」
「そうです。ですから下手なぼろが出ない内に……」
「カノンは俺に夢中だぞ?」
ちょっと虚勢を張って見るレオンだが、ホーリィロウは見るからに険しい顔になった。
「そうですね、それが問題なんですよね……。どの道王家の人間は、魔王とは結ばれる事は出来ません。それが決まりです」
「え?」
レオンには寝耳に水の話だった。そして、ホーリィロウも目を瞬かせて、顔を青ざめさせた。
「まさかご存じないと?」
「どういう事だ?」
険しい口調になってしまうレオンに、ホーリィロウは納得がいったというように頷いた。そして、嫌々といったように、
「……魔族側の意向で、程ほどに人間を存続させようとしている事はご存知でしたよね?」
「ああ」
「その過程において、制御しやすいよう代々人間の王族を存在させ、集団を維持させようとしていた事はご存知でしたか?」
「……知らない」
「その点から、魔王が人の王を求めたならば、場合によっては人の王が途絶えてしまう」
「でも、従兄弟がいるじゃないか。あいつに継がせれば……」
「あの方は王の子では無いでしょう。基本的に王の子は予知能力を持って生まれてくる」
「アレだ、光の神が自分に似せて作って、かつ、その寵愛を最も受けるから、強い光の力と予知能力を与えられると。もっとも俺には予知能力は無くて、従兄弟には何故か発現したがね」
皮肉げに笑うレオンに、ホーリィロウは続ける。
「けれど、貴方が王の血を引く次の王であることは変わりない。その点だけは貴方の母上が現王にそれほどまでに信頼されているという証でしょう」
「……古くからの知り合いだったらしいからな。でも俺に予知能力は無くて……従兄弟に出たのなら、もしかしたなら……」
「別に、貴方が従兄弟のミラン様と婚姻を結べば何の問題も無いでしょう」
ホーリィロウがさらりと吐いた言葉に、レオンが噴出した。
「ミラン……何で俺となんだよ!」
「いえ、昔からあの方は貴方に懸想していましたよ? 特に幼い頃はレオン様は女装をしてましたしね。その姿に一目惚れしたとか何とか」
「待て、そんな話知らない。そもそも、能力が無いから、女って事にしておけば一応男が王位を継ぐ事になっていたから諍いが起きにくいだろうことと、命を狙われる危険を減らすためにしていただけで……」
「性別が男と分かった今でも、嫁にしたいと……ああ、レオン様が逃げたあのお見合いは実はその従兄弟のミラン様……」
「知りたくない! 知りたくないから。というかなんで俺が嫁なんだよ。冗談じゃない。そもそもあいつ俺の事嫌っていたはずじゃ……」
「好きな子を苛めたくなる心理……」
「今背筋がぞわぞわってしてきた。気持ち悪い。そもそも自分にそっくりな従兄弟なんて恋愛対象にならんわ……そういえばあいつナルシスト……いや、まさかそんな……」
「はあ。そうですか」
「そうだ」
気持ちの悪い話を聞いたと、レオンは近くのコップに水差しから水を注いで、それを一気に飲み干した。
それでも頭は冷えない。
「所で、話は変わりますが、予知能力を“借りた”とおっしゃっていましたね」
ホーリィロウに振られた話題で、レオンはあれっと思った。
「……未来の魔王から予知能力を借りたといったらどうする?」
「それはレオン様の方がよくご存知でしょう。予知能力は人も王家の力。魔族には無い。それも魔王に……」
「だよな……でも、人の王家と魔王の血が交わったとしたなら?」
「まさか! そんな事は……」
「カノンにそっくりだったんだ」
長い銀髪、赤い瞳。赤い瞳は特に魔力の強いものに、人、魔族のどちらにも発現する。
だが、もしや彼は人だったのだろうか?。
けれど人が魔王となる時代が来る?。
「……赤い瞳だから、魔族でない可能性もあるか?」
「……いずれにせよ、そちらを調べておきます。予知能力を持っていることは確かなようですから」
「近いうちに会いに来るらしい事もいっていたが」
「……良いですかレオン様。出来る限りそのいかがわしい人物には会わないようにしてください。あと、その技はしばらく使わないように……その人物がどういう存在なのか分かるまで」
「わ、わかった」
そう頷くレオンに、また妙な問題が増えたなとホーリィロウは嘆く。
一方レオンは、あの、未来の魔王だと名乗った彼が嘘をついているように思えなかった。
カノンに本当にそっくり、似すぎている。
魔王と人の王族は交わらない、それはレオンにとって衝撃的だが、ならばいっそうカノンに自分の事を好きになって貰わないと、と思う。
レオン無しでいられなくなれば……きっと一緒にいられるから。
レオンはそれくらいカノンの事を愛しているのだから。
それに、どうせレオンは予知能力など継いでいない。
だから、といじけたように思う。
夢はいつだって他の誰かのものだった。
だから一つくらい、無茶な願いをしてもかまわないだろう。
そしてレオンはこっそり思う。未来の魔王と名乗った彼に、もう一度は話を聞いてみようと。
そうすればもしかしたなら、この状況を打開できるかもしれないのだから。
そう考えた途端安堵して、レオンはカノンに会いたくなる。
カノンがすぐ傍にいてくれればそれで良い。
それだけでレオンは幸せなのだから。
そんな様子のレオンを、ホーリィロウは複雑そうな表情で見つめていたのだった。
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次回更新は、2/4,10時です。




