余計な一言
「カノン……」
「どうしますかレオン様。この壁を破って……」
「……いや、カノンが本気を出せばこんな壁簡単に壊せる。少し待って来なければ、カノンは、多分、さっきの魔族に連れて行かれたんだろう」
「それでは……特に心配はなさそうですね。カノン君は強いですし」
ホーリィロウは最後に一言加えて、違和感が無いようにする。
カノンが魔王だという事はまだレオンの他に話していないからだ。
けれどその言葉に、レオンは少し黙ってから、
「……カノンが目的なら、不安はある。少なくとも風の四天王候補はカノンの事が好きだった」
「襲われたとしても返り討ちにするでしょう、彼ならば」
「キスされていたが」
「…………………………………………」
「……俺は、もし次にカノンが他の奴にキスされていたなら、許せないかもしれない」
そう暗く笑うレオンに、ホーリィロウは肩をすくめて、
「……残念、どさくさに紛れてしようと思ったのに」
「例えお前でも許さないからな?」
「それを選ぶのはカノン君自身でしょう? レオン様」
「……良い度胸だ」
会話している二人はにこやかに笑っているが、周りの温度がすうっと下がる。
そんな寒い会話をしている二人と、それぞれの仲間達の前に、魔族が現れる。
先ほどのものとは違うがこちらを攻撃する気が満々のようだった。
その魔族の一人がにやりと嫌な笑いを浮かべた。
「お前達と遊ぶように、そう城の主から言付かっております」
丁寧な言葉と共に、彼らとレオン達は戦闘を開始したのだった。
広い客間に通されて、そこに赤い髪に金の瞳の魔族がいる。案内した先ほどの双子のような魔族とは明らかに格の違う彼に、カノンは彼が炎の四天王に連なる者だと理解する。
隠す必要も無いので目深に被ったフード脱ぐと、先ほどの案内した魔族と、目の前にいる炎の四天王であろう彼が息を呑んだ。
炎の四天王に関係する者である彼はそのままつかつかとカノンの前に近づくと、そのままカノンにキスをした。
「んんっ……放せ!」
触れた瞬間ちりっと痛みが走ったが、それよりもキスされた嫌悪感にカノンは怒りを露にする。
「こんな事をして、許されると思っているのか?」
ごしごしと唇を手の甲で拭いて、カノンは睨みつける。それに、キスをした彼は、
「いえ、実際に見ると想像以上に美しく可愛らしいのでつい」
「本当に最低だな、お前は」
「……まだ炎の四天王の名を襲名しておりませんので、クラウとおよび下さい。カノンカース様」
「……クラウ、こんな事を魔王である僕にして許されると思っているのか?」
ぞっとするほどに巨大な魔力を揺らめかせながら、表情を消した冷たい眼差しで、カノンはクラウを見詰める。
けれどそれにクラウは臆することなく、逆にカノンに問いかけた。
「そう、貴方は魔王なのですよ? 魔族を第一に考えなければならない立場なはずです。それを人間などと……」
「……人間と一緒に旅をしているのは、お前達が僕に対して謀反を起こす可能性があると、そう、父様から聞いたからだ」
「なるほど。そういえば、貴方のお父様は、魔王の中で最弱でしたね」
そう笑うクラウに、カノンは何処か嘲笑を含んだ笑いに感じた。
カノンも昔、父親が彼らの父親に酷い目に合わされた、という程度の事は聞いている。
内容までは知らないが、父に酷い事をした息子にカノンの父を笑う資格など無いと怒りを覚える。
「……父様の悪口は許さない」
「いえ、扱いやすい魔王だと……そんなに睨まないでください。そのような怒った顔もとても魅力的ですよ? カノンカース様」
「御託は良い。それで、お前は僕に逆らうと?」
「……我々は貴方に危害を加えるつもりはありません。そもそも、魔族であり魔物である我々は、闇の神の化身である魔王に悪意を持つなどありえません」
「……信用しろと?」
「そういう風に本能的に、我々は作られているのです。そもそも、それを言えば貴方方の方こそ我々魔族を裏切っているのでは?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りです。あのような人間達と、"光の眷属"と仲良くして……。確かに相反する光と闇には惹かれるとはいえ、貴方は我々の様子を見るという理由以上に、彼らにくみし過ぎる様に思います」
「……仲間のふりをしているのだから当然だろう」
「それでは彼らを皆殺しにしてかまいませんね?」
さらっととんでもない事をのたまうクラウに、カノンが焦ったように反論する。
「! 駄目だ、それだけは絶対駄目だ!」
「代わりは幾らでもいるでしょう?」
「……それ……わ」
先ほどの魔王らしい表情が消えて、何処か思い詰めたような、とても豊かな表情のカノン。
それを見ると、クラウは苛立ちを覚える。
「私が一言言えばすぐさま配下の者が彼らを殺します」
「そんな事は、僕が許さない!」
「許さないと貴方は言いますが、では私を殺しますか? 同族の私を」
その言葉に、カノンは更に戸惑ったように瞳を揺らす。
それを見て、クラウは少し溜飲を下げる。
「……そんなにあの人間達が気に入っているのならば、全員喰らってしまえば良い。魔物とは本来人を喰らうもの、そうでしょう?」
「……風の……リンツは、美しい少年に限ってだが、愛でるものだと言っていたが?」
「風は命を運ぶもの。どちらかといえば我々の中では温厚な方です。本来であれば、我々は彼ら人間にとって、もっと恐ろしい生き物なのですよ? それに、カノンカース様、貴方は彼らを喰らいたいと思った事は一度も無いのですか?」
その問いかけに、カノンはレオンの事を思い出す。
初めて会った時、衝動に駆られて血を舐めとった。そして時折おいしそうとも思った。
でも、そんな事……。
まだカノンは彼らと共に、レオンと共にいたいのに。
そんな恋するような雰囲気をカノンは自分が出している事に気づかなかった。
そしてそれが、クラウの目にどう映るのかも。
唐突にクラウに肩を掴まれて、傍にあった机にカノンを押し倒した。
「な! 放せ!」
「嫌です。私はリンツのように甘くは無い。手に入れたいものは力づくでも手に入れる!」
「ふざけるな、僕から離れろ!」
「ならば貴方が力ずくで退ければ良い。殺すまでもなく、腕の一本も切り取れば痛みで私は貴方から退くでしょう。それとも、それすらも貴方は出来ないのですか?」
「……そんな……こと」
そう言い返しながら、カノンは自分が出来ない事に気づいた。
確かにレオン達を半殺しにしたが、あれ以来、レオン達に惹かれ続けてから、出来ない。
怖い。考えるだけでも怖い。
そんな怯えた様子のカノンに、クラウは冷たく見下ろして告げた。
「自分を守るために誰かを傷つけられないのなら、貴方は魔王城に篭って、ただ我々に守られて、囲われていれば良い」
「……お前は、何故そこまで僕に執着するのだ?」
「見た目が好みだったから」
そうクラウが言った瞬間、カノンは躊躇なく蹴りを入れた。
「ごふっ」
あまりの痛さに、クラウはカノンから退いた。
「最低だ。本当に最低だお前は」
カノンはフルフルと体を震わせながら、クラウに告げた。
「何故ですか! 見た目って大事なのですよ! 服とか拘って、ほら、うちの魔族はカッコイイでしょう?」
「……確かに個性的だが、見た目がって言われて喜ぶ者は普通いないと思う」
「私は嬉しいです!」
「……そこの魔族、僕はもう帰るから案内してくれ」
「ああ、待ってください。個人的にはあの勇者達ともお話したいので、もう少しカノンカース様には待っていただけないでしょうか?」
「……殺すつもりは無いんじゃないか」
「……色々事情もあります。けれど、貴方様が悲しむ事を我々はしません。我々は貴方の配下であり、貴方を敬愛する者なのですから」
「……そうだな、魔族とはそういうものであったな」
魔王として魔族と交流のほぼ無いカノンだからつい忘れてしまいそうになるが、そうなのだ。
魔族は、魔王を裏切れない。
けれど、それでも予想外の理由で結果としてそうなってしまう事も完全には無いといえない。
そもそもレオン達とカノンはもう少し一緒にいたい……ではなくて。
そんなカノンの考えを表情から読み取ったのか、クラウが少し渋い顔をしたが、その時は何も言わなかったのだった。
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