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子供はつらいよ(1)

 魔王城にて。

「いいですか、父様! これから父様の食料やら何やらを買って来る、ついでに採ってきますから、絶対誰かが来ても出ちゃ駄目ですよ!」

「分かっていますよ、カノン」

「……一応魔物とかを使って、人間を攻撃しているので、勇者やら何やらがそこらへんうろついているから、父様は相手しなくていいですからね! 歴代最弱魔王なのですから」

「分かっています。でも最弱と言われるのは心に響くかな……」

「ああ、ごめんなさい、父様。そういうつもりではなかったのです。でも、父様は綺麗だから悪い奴らに何かされないか心配で……」

「カノンは心配性ですよ。一応普通の魔物よりは強いのですから。ほら、もう行きなさい」

 心配そうなカノンが、フードをかぶって顔が見えないような服装でもう一度振り返って、走り去る。

 そんなカノンが居なくなって、彼の父であるトリューカースはこそこそと遠見の水晶玉を取り出して覗き込む。そこには一組の勇者達が映し出されている。

 随分前から、ほんの気晴らしに外を見ていた時に見つけた彼ら。

 その勇者にトリューカースは目を惹かれた。

 赤茶色の髪に、緑の瞳の男。

 手に入れたいと思った。これほど欲しいと渇望したのは、トリューカースは初めてだったかもしれない。

 けれど現魔王で過保護な息子が、そんな事を許さない事は分かっていた。

 だから、こう機会を伺って今日という日が来たのだ。

 そもそもトリューカース自身だって、弱いとはいえ元魔王なのだ。弱いとはいえ、そこら辺の魔物よりはずっと強い。

 それに歴代魔王は以前から、愛玩の為に勇者を捕らえることもしばしばあった。

 だから自分だってそれをしてもかまわないはずなのに。

 以前カノンにそれを話したなら猛反対されたので、今回は黙ってする事にした。

 そんなわけで、かの勇者達の前にトリューカースは姿を現して捕らえようとしたのだが。

 思いのほか連携プレイやら何やらで強い。しかも顔を隠したフードが取れたと単に更に彼らの勢いが増した。

 力では勝っていたはずなのに、分が悪いとトリューカースは判断してその場を逃げ出した。けれど、

「逃がすと思うか?」

 そんな笑いを含んだレイルの声と共に、魔法をくらってしまう。そのままトリューカースは地面に倒れた。

起き上がる事が出来ず、もがくように体を起こそうとするが体に力が入らない。

 殺されると、この時初めてトリューカースは怯えた。カノンの忠告をきちんと聞いておけば良かったのに。

 足音が近づいてくる。

 そのまま乱暴に仰向けに転がされて、首筋に剣が突きつけられる。

 その剣の主は、トリューカースが欲しいと思ったレイルだった。

 仕方ないと、そして自分が欲しいと思った者の手で殺されるならばそれも一興ではないかと自分を慰める。

 そこで、レイルが酷薄な笑みを浮かべてトリューカースに問いかけた。

「このまま殺されるか、それとも私の物になるか、好きな方を選べ」

 その意味を考えて、トリューカースはぞっとした。

 殺されるのは、嫌だ。

 けれど彼のものになって、一体自分はどうされてしまうのだろう。

 顔を蒼白にして震えだすトリューカースに、レイルは追い詰めるように続けた。

「後三秒以内に決めろ。私は気が短い。もしも答えないのなら、殺す」

 3,2,1と数えられて、堪らずトリューカースは叫んだ。

「貴方の……ものになります。だから……」

 許してと、トリューカースは震える声で答えた。それにレイルが満足そうに頷いて、剣を引いた。そして、

「あ!」

「歩けないだろう? お前は私のものだから、連れて行ってやる」

 抱き上げられて、トリューカースはレイルに抱き上げられたのだった

 

 人間の使う転送陣を利用して、近くの人の村へ。

 とられた宿で、彼の名前をまだ聞いていないと、レイルは思い出す。

「お前、名前は?」

「……トールです」

 とっさにトリューカースは嘘を付いた。もしも現魔王の父だと知れたら、カノンに迷惑がかかってしまう。

 それにそうなったなら、自分は今度こそ殺されてしまうかもしれない。いや、殺されるよりも酷い事をされるかもしれない。

 だからトリューカースはトールと名乗る。

 けれど名乗ってすぐに、トリューカースは少し後悔した。

「そうか、トール、というのがお前の名前か」

 レイルがそう微笑んだから。その笑顔にとても惹かれて、トリューカースは自分の名前を呼んでほしいと思ってしまう。

 けれど一時の感情で、名を言うわけにはいかない。

 そして、トリューカースはそのままレイルに抱きしめられて、その日は眠ってしまったのだった。


 トリューカースは首に鈴の付いた首輪を付けられる。居場所を示す鈴と、力を封じるアイテムだった。

 それを除いては、トリューカースの扱いはまるで恋人かなにかのようだった。

 トリューカースが偏食家で果物しか食べないのを知ると、それらを手に入れてくれたり、魔物と遭遇した時もトリューカースを庇って前へ出たり、悪い奴に声をかけられると怒ったように手を引いてつれて帰られたり……優しい。

 レイルのものだというのに、壊れ物を扱うかのように大事にされている。

 するのはキスと抱きしめられて眠るだけ。こんな心地よく甘くされては、そして見初めたレイルにそんな事をされては、トリューカースは魔力を封じられる以上に逃げられない。

 最近、レイルが愛おしくなってしまい自分からキスをしてしまった。

 その時のレイルの顔があまりにも焦ったような子供のようだったのでつい笑ってしまうと、そのまま激しくキスをされてしまった。

 あれ以来特にトリューカースに優しい気がする。

 もう少しだけ、レイルの傍にいたい。

 本当は愛していると言いたい。けれど、言って拒まれたならトリューカースは立ち直れない。

 それでも諦める事ができなかった。体を好きにさせてもいいから、傍に居たかった。

 だから、未だにレイルの傍にトリューカースはいる。

 カノンには心配しないよう、場所が分からないよう、けれど安否だけ分かるように魔法で連絡を取っていた。

 そんなある時、トリューカースが以前他の者と関係を持っていた事がばれた。

 怒ってしまったレイルとしばらく口も利かないでいたある時、目を覚ますとそこにはレイルの姿は無く。

 身支度を整えフードをかぶり、魔物ということがばれないようにして宿の人に聞くと魔物の討伐に出かけたという。

 妙な胸騒ぎを覚えて宿で待っていると、瀕死になったレイルが運ばれてきた。

 死なないでと泣き叫びながら、トリューカースは自分の全ての魔力を使ってレイルを癒す。

 その時、『愛している』とレイルが言った気がして、トリューカースは胸が締め付けられそうだった。

 死なせはしない。だってトリューカースは、レイルが本当にそう言ったのかを確かめなければならないのだから。

 そのまま魔力の使い過ぎでトリューカースは意識を失ったのだった。


お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。


この回と言うか次回なのですがムーンライトノベルズの方はR18方向に加速しております。18歳以上の方はそちらも楽しんでいただければ幸いです。


次回更新は、本日13:00となっています。よろしくお願いいたします


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