隠したものはばれている
無事綺麗な泉の水を汲んで、町に戻ろうとした時、魔物の移動が始まった。
「カノン!」
一番初めにカノンが分断される。レオンの目がいつになく鋭くなり、蔓の魔物を切り裂いていくが次から次へと湧いてくる魔物には対処できない。と、
「レオン、心配しないで! 後で合流できそうだから! 僕は別の道で町に戻るよ!」
「……分かった」
レオンがあっさり諦めてくれたのには、カノンはほっとすると同時に、胸の中でもやもやしたものを抱える。
大丈夫だと言って信じてもらえるのは嬉しい。それだけカノンが信頼されていると言う事だから。
でも、それを押し切ってカノンを助けようとしてくれたら良かったのに。
――何を考えているんだ、僕は。
本当にレオンといると調子が狂う。かといって嫌なわけではなくて、むしろ、一緒にいたい。
何だろう、これ。
自分の気持ちと理性が一致しない。気持ち悪い。
そこで気配を感じた。懐かしくて、そしてカノンが大好きな魔物の気配。
「カノン」
そこで名前を呼ばれて、カノンは本当に嬉しそうにその声の主を見た。
「父様!」
そこに居たのはカノンにそっくりの、けれどカノンよりも気弱そうで、けれど優しそうなカノンの父だった。
そのままカノンは、抱きつくと、父は幼子をあやすように頭を撫ぜたのだった。
「今度は俺が分断されそうだな」
カノンが見えなくなった後、今度はレオンがイオとトランが分断されかかっていた。
剣を仕舞い込んでレオンは溜息を付く。
「トラン、イオ、お前達は先にギルドに依頼のものを届けて、宿に戻っていてくれ。どうもこいつらを支配している何かは、カノンだけではなく俺にも用があるらしい」
「……レオン、カノンちゃんならともかくどうしてレオンまで……」
「イオ、レオンが本当はどれ程強いか、俺達は知っているだろう?」
「トラン……」
「そういうことだ。いざとなったら強行突破するから問題ないさ。心配してくれてありがとう、イオ」
「一応僕達の勇者様だからね」
一応は余計だとレオンがイオに毒ずく。そして気配が遠のいて行くのが分かった。
それを不安そうにイオが見ているので、トランが手を引っ張って歩き出す。
「……カノンがレオンを気に入っているから、悪いようにはならないだろう?」
「それはそうだけれど」
「イオは、カノンの事をそう思う?」
「初めは怖かったけれど、今は平気。むしろ可愛いと思う」
「俺も同感だ」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「トラン、浮気は駄目だよ?」
「イオこそ」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「レオン、カノンちゃんと両想いになれるといいね」
「そうだな、それが一番良いかも知れないな。……所で依頼料でお酒を少し買おうか」
「あ、それいいね。つまみも買っていこうか」
そんなトランとイオの、超嬉しそうな話声が聞こえたわけではなく。
カノンはそこはかとない嫌な予感をその時感じたのだった。
「貴方ですか? 僕を呼んだのは」
「ああ、そうだ。いや、敬語を使った方が良かったかな?」
へらへらと笑う、赤茶色の髪の男。美形であると同時に、この雰囲気はホーリィロウに通ずるものがあり苦手だ。
そして笑っているのに、緑色の瞳はまるで値踏みするかのようにレオンを見ている。
だから、レオンはこちらから仕掛ける。
「魔物を操れるのは魔王のみと聞いています。貴方は魔王ですか?」
「私が魔王に見えるかい?」
何処か余裕めいた笑みを浮かべる彼に、レオンは首を横に振り続ける。
「ただの人間にしか見えません」
「ふむ、では魔王は?」
「一昔前に倒された魔王カノンカースが最近になって復活したと聞いています」
「魔王は復活したと本当に思うかい?」
「そもそも倒されていないのでは?」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「君は何処まで知っているんだい?」
「その前に、貴方の名前はレイルでよろしいですか? かの魔王、カノンカースを倒した勇者」
そこで彼、レイルは楽しそうに笑い出した。
「君に隠し事をしても仕方がなさそうだから、本当の事を言うよ。いかにも、私は勇者レイルだ」
「やはりそうですか。そして俺が誰なのかも、貴方は見当が付いているのでは?」
「そうだね。それに君、カノンの記憶操作が効いていないだろう」
「ええ、初めから」
言い切ったレオンに、思案するようにレイルが問う。
「……何で一緒にいるんだい?」
「カノンを自分のものにしたいからです。そして、逃がすつもりもありません」
きっぱりとレオンは言い切った。それが本心なのだから。
ずっと欲しくて、必ず迎えにいくと決めていたから。
初めに半殺しにされた時、自分の記憶の中の彼、それが成長した姿に擬態して襲ってきたのだと思った。
なのに、目を覚ませば本当に成長した彼がいて。
でも記憶操作が効いていないと分かれば、きっと何処かへ行ってしまうから。
だから気付かないふりをして一緒に居た。
一緒に居たカノンは昔と同じで、気が強くて優しくて、強くて綺麗だった。
だから少しでも、カノンがレオンを気にするように色々色々手を打っているのだ。
もう逃がすつもりなんて無い。
そんなレオンの心中を察してかレイルが、
「そうか、私と同じか」
と言った。その言葉にレオンは不安を覚えて、
「……貴方もカノンを?」
だが、それは杞憂に終わった。レイルは首を困ったように横に振り、
「いや、私はカノンの父、トリューカースの恋人だ。そしてカノンはファザコンで……意味が分かるだろう?」
「カノンを落とすのを協力して頂けると、そういう事ですか?」
「ああ、トリューカースを襲おうにも、毎回カノンの食事に睡眠薬を入れないといけなくて」
困ったものだと笑うレイル。
レオンはとても良い先輩であり、協力者を手に入れた。それにレオンに協力する事が彼にとっても利益になる。これはいい。
だからまずレオンは、
「その、カノンの父をどうやって落としたのですか? 僕もカノンを落とす参考にしたいのでぜひ教えてください!」
「多分参考にならないと思うよ?」
「それでも良いです! 俺は少しでもカノンに関することが知りたいから」
そうすれば、カノンの心を乱す新しい方法が見つかるのだから。
少しずつ少しずつカノンの心をレオンは侵食して、気が付けばレオン無しではいられなくなるまで追い詰めなければならないのだから。
そんなレオンの情熱に昔の自分を思い出すかのようにレイルは目を細めて話し始めたのだった。
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