そうだな、そうしよう
レオンは僕の見た目にしか興味がないんだ。
そう怒ったようにカノンは早歩きで歩いていた。
確かにカノンはどんな手でも使ってレオンが欲しいと思った。
そしてレオンがカノンを望んでくれた事もとても嬉しくて、その因果はカノンが覚えていない昔らしい。
そこでカノンは立ち止まった。
でも、それはレオンが昔会った“カノン”は、本当にカノン自身なのだろうか。
カノンは背筋が凍るような想いに捕らわれる。
そこで目の前が開ける。噴水のある、町の中央の大きな広場に着いたのだ。
周りには親子連れやカップルなどが、そこら中で楽しそうに談笑している。
一人なのはカノンだけだった。
カノンはなんとなく、噴水の縁に座って中を覗き込む。
さざ波に揺れる表面にゆらゆらと、雲一つない青空とそしてカノンの姿が映る。
銀色の髪。
魔族の証である金色の瞳。
本当はその二つが同じだけで別の誰かがレオンは好きで……レオンが間違えているだけで、あの、半殺しにした時が本当に初めてで、だから……。
本当はレオンが好きなのは、カノンではないのだ。
レオンさえ手に入れば良かった。カノンはそれで良かったのだ。
そう思っていた。否、自分を騙していたのだ。
「あ、あれ……」
水面に映るカノンの顔が、雨粒のような水滴で奇妙に歪む。
カノンは自分が泣いている事に気づいた。
それを手でぬぐうけれどそれは止む事無くぽろぽろと零れる。
「い、嫌だ……なんで……」
こんな事で泣くなんてカノンは嫌だった。なのに涙は止まらない。
何がいけないのだろう。何がいけなかったのだろう。
カノンはこんなにレオンの事が好きなのに。
嫁になって欲しいと言われて、そして記憶操作の魔法なんかなくたって好きだと言われて、天にも昇るような気持ちだった。
甘えていたのだろうか。カノンが欲張りなのだろうか。
カノンには自分の気持ちが良く分らない。
前よりも一歩進んだはずなのに、レオンが前よりも遠のいて見える。
やっぱり、レオンを捕らえてペットにしてしまった方が良いのだろうか。
そうすればいつだってカノンはレオンと一緒にいられて、抱きついたり、キスしたり、膝枕してもらったり、頭をなぜてもらったり出来るのに。
レオンが、本当に好きなのはカノンではない別の誰かだと気づく前に。
「そうだよね……そうしよう」
「何がそうしようなのですか?」
カノンは振り向いた。
そこにいたのは、フードをかぶった二人の魔族だった。
二人は、地の四天王の使いだと名乗った。男の方が兄でユウト、女の方が妹のミユだというが……。
「四天王の直系だな」
「……さすがに貴方様の目は誤魔化せませんか」
「それで何のようだ」
「城へのご招待をと思ったのですが、泣いていらしたようでしたので……」
「泣いていない」
「ですが……」
「泣いていない!」
「兄さんどいて。本当にデリカシーがないわね。だから彼女に振られるのよ!」
「な、ミユ! 私は振られたのではない! 自分から身を引いたのだ!」
「だったら連日私の部屋で愚痴を零さないで頂戴……それで、魔お……ええっとどのようにお呼びすれば……」
兄のユウトがむすっとして黙るのを見届けながら、ミユはそっとカノンの隣に座る。
「……カノン」
「カノン様、私でよければお話を聞きますが?」
「……信用できない。お前達は……」
「魔族はいつでもカノン様の味方です。そういう存在なのです。ですから、カノン様がそのように悲しげに涙を零しているのを放っておけるはずがありません」
そう言ってミユがカノンの手をそっと握る。それにカノンは一瞬どきりとして、そしてミユの優しげな美しい微笑にほんの少しだけ惹かれてしまう。だから、
「ミユ、お前は恋愛経験豊富なのか?」
「ええ、もちろんですとも」
そう、ミユは自信満々に答えたのだった。
レオンがカノンを見つけると、そこには楽しげに女の人と談笑しているカノンの姿があった。
それがあまりにも楽しそうで、声をかけづらくて、そしてカノンがほんの少し顔を赤らめている。
レオンはいてもたってもいられず、その場から離れた。
カノンのあんな、恋するような表情が自分以外の誰かに向けられていた事に、許せない思いを抱く。
ちなみにこの時、やっぱりレオンの事が大好きと、カノンがミユに話した瞬間だったのだがそんな事を与り知らぬレオンは、カノンへ苛立ちを覚える。
好きなのに、こんなに好きで大事にしているのに。
レオンのカノンへの想いが少しだけ憎しみへと揺れる。
そんなきびすを返して去っていくレオンに、次代の地の四天王、ユウトは気づいていたが見てみぬ振りをした。
たとえどれほど望んだとしても……カノンは、大切な魔族の王なのだから。
人間などに、あの憎らしい“光の神”の眷族に渡すつもりなど無い。
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