↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

見えるものと分かることは違った

目を開けた時。


日はかなり高く昇っていた。


カイルはしばらく天井を見つめた。


体が重かった。


手首はズキズキし。


顔もまだ痛かった。


胃の下は体を起こすたびに強張った。


それでも。


生きていた。


カイルはゆっくりと体を起こした。


「……」


そして止まった。


腹が減っていた。


この世界に来てから。


目を開けたら真っ先に腹が減っているようだった。


前世では朝食を抜く日のほうが多かった。


コーヒー一杯で済んだ。


秘書が用意したサンドイッチを車の中で食べたり。


それすら会議のせいで捨てる日もあった。


その時は食べることが重要ではなかった。


今は。


「食べて生きることが一番重要だな」


総理候補まで行った人間が。


死んで気づいたことがそれだけだった。


カイルはふっと笑って外に出た。


ヘルンが薪を運んでいた。


カイルを見つけると言った。


「生き返ったか」


「もともと生きていました」


「朝起こしても起きなかったぞ」


「それは眠っていたんです」


「死んだと思った」


「人を二度殺さないでください」


ヘルンがふっと笑った。


そして薪を下ろした。


「体は?」


「動けます」


「じゃあ飯食って村に行こう」


カイルはうなずいた。


昨日約束したことがあった。


盗賊。


合計9人。


ラベルンからさほど遠くない森の中に盗賊の群れがいる。


それを警備隊に知らせなければならなかった。


カイルも同意した。


善意だけではなかった。


盗賊たちが再び動けば。


自分も危険だ。


ヘルンも危険だ。


ラベルンに入ってくる商人たちも危険だ。


何より。


ドルマン一党はすでにカイルの顔を知っている。


バルクが生きているなら。


自分をそのままにはしたくないだろう。


(通報できる時に通報しないと)


権力はないが。


権力を持つ側に危険を押しつけることはできる。


それも一つの方法だった。


*


ラベルンへ入る道。


カイルは遠くに入口を見つめた。


そして足を少し緩めた。


赤い布。


傭兵たちだった。


幸い。


ブランは見えなかった。


カイルが言った。


「今日は別の奴らですね」


ヘルンが彼をじろりと見た。


「残念か?」


「全く」


「じゃあまっすぐ見て歩くなよ」


「なぜです」


「なぜもなぜも。また揉め事起こすんじゃないかと思ってな」


「私が揉め事を起こしたわけではありません」


「お前の口が起こしたんだよ」


カイルは反論しようとしてやめた。


完全に間違った言葉ではなかった。


入口にいた傭兵の一人がヘルンに気づいた。


「ヘルンさん」


「今日は君たちか」


「はい」


傭兵の視線がカイルに向いた。


少し顔を見てから。


「ああ」


何か思い出したという表情だった。


カイルが聞いた。


「どうしました」


傭兵がふっと笑った。


「ブランから聞いたことがあってな」


カイルの目が細くなった。


「何と言っていましたか」


「口の多いよそ者が一人入ってきたって」


「……」


傭兵がカイルの顔を見た。


「ブランの気に障って一発殴られたって?」


隣にいたヘルンがつぶやいた。


「一発じゃなかったけどな」


カイルがヘルンを見た。


「わざわざ訂正する必要はありません」


傭兵が笑い出した。


ヘルンもふっと笑った。


カイルだけが笑わなかった。


「面白い話ではありません」


傭兵が肩をすくめた。


「それでもブランにそこまで挑む余所者は珍しくてな」


「挑んだわけではありません」


「ブランはそう思ってないみたいだけどな」


カイルはそれ以上言い返さなかった。


それでも。


傭兵は道を塞がなかった。


金も要求しなかった。


カイルは通り過ぎながらその様子を一度振り返った。


同じ傭兵団。


同じ入口。


なのに。


今日は通行料を取らない。


だとすればやはり。


あの銀2枚は正式に定められた金ではなかった。


ブラン個人の判断なのか。


あの日勤務していた3人の判断なのか。


それとも傭兵団内部で暗黙に許容されていることなのか。


まだ分からない。


カイルは頭の中に記憶しておいた。


確認されていないことは。


確認されるまで保留する。


盗賊たちから学んだことの一つだった。


*


警備隊の建物は村の中央から少し外れた場所にあった。


大きくはなかった。


古びた木造の建物一つ。


隣には小さな訓練場が付いていた。


警備兵4人が見えた。


そのうち一人は槍を持って立っていて。


二人は箱を運んでいた。


残りの一人は椅子に座って居眠りしていた。


ヘルンが言った。


「ロエン隊長はいるか」


槍を持っていた警備兵が顔を上げた。


「中にいらっしゃいます」


「用があるんだが」


「何の用ですか」


「盗賊だ」


居眠りしていた警備兵が目を開けた。


箱を運んでいた二人もこちらを見た。


ヘルンがカイルを指した。


「こいつが捕まって逃げてきたんだ」


警備兵の表情が変わった。


「どこで」


「それは隊長に直接話した方がいいだろう」


警備兵はしばらくカイルを見た。


手首の包帯。


顔のあざ。


それでようやくうなずいた。


「少しお待ちください」


中に入った。


しばらくして。


戸が開いた。


「入れ」


低く疲れた声。


ロエンだった。


カイルは彼をすでに見たことがあった。


【観察】


情報が浮かんだ。


【ロエン】


種族: 人間


年齢: 39


職業: 警備隊長


Lv.13


筋力: 25


体力: 24


敏捷: 20


感覚: 22


魔力: 4


状態: 【疲労】【苛立ち】


変わったところはなさそうだった。


むしろ。


疲れた顔はさらにひどくなったようだった。


「座れ」


ロエンが言った。


小さな机の前。


カイルとヘルンが座った。


ロエンは向かいに座りながらカイルを見た。


「お前が捕まって逃げてきたのか」


「はい」


「いつだ」


「昨日、村を出た後です」


「何人だ」


「最初に私を捕まえたのは3人」


「全体は?」


「私が確認したのだけで合計9人です」


ロエンの手が止まった。


「9人?」


「はい」


「確かか」


「私が直接見た数はそうです。もっといるかは分かりません」


ロエンがカイルをしばらく見た。


カイルは意図的に断定しなかった。


9人だけだと言う根拠はない。


分かっていることだけを話す。


その方が信頼を得やすい。


「武装は?」


「全部は確認できていません。少なくとも剣と短剣はありました」


「頭目は?」


「ドルマンという男でした」


ロエンの表情が変わった。


ほんの少し。


だがカイルは見た。


「知っている名前ですか」


ロエンが聞き返した。


「なぜそう思う」


「表情が変わりましたから」


ロエンがカイルをしばらく見た。


ヘルンが横でため息をついた。


「こいつ元々こうなんだ」


「何がです」


「人の顔を見て何かと見抜こうとする」


ロエンが鼻で笑った。


「ドルマンは知っている」


カイルが少し身を前に傾けた。


「どういう奴ですか」


「盗賊だ」


「それは私も知っています」


ロエンの眉が動いた。


ヘルンがカイルの横腹を軽く叩いた。


カイルは口をつぐんだ。


ロエンが言った。


「数ヶ月前からカルセン方面の道で商団を襲う奴らがいるという話があった」


カイルの目つきが変わった。


「ラベルンへ来る道ですか」


「必ずそうとは限らない。この辺りの道は一つ二つじゃないからな」


やはり。


繋げてはいけなかった。


ドルマン一党のせいでラベルンの物資が減ったと断定するにはまだ情報が足りない。


ロエンが聞いた。


「正確な位置は?」


「分かりません」


「分からない?」


「引き回されている時は位置を覚えている状況ではなかったし。脱出する時は夜でした」


「それでどうやって戻ってきたんだ」


カイルが少し止まった。


「盗賊の一人が方向を教えてくれました」


ロエンの目が細くなった。


「盗賊が?」


「はい」


「なぜだ」


「分かりません」


「親しかったのか」


「私を捕らえた人間です」


ロエンが呆れた表情をした。


「そんな奴がなぜ道を教えるんだ」


カイルが言った。


「私もそれが気になっています」


ロエンはしばらくカイルを見つめた。


疑っている。


当然だ。


盗賊に捕まった余所者が無事に戻ってきた。


なのに盗賊の一人が脱出方向まで教えてくれたという。


聞く側としては不思議に思わないわけがない。


カイルはふと思った。


(こういう時も見えるのか)


盗賊たちに対しては。


相手と相手の関係を意識した時に情報が現れた。


だとすれば。


今は?


カイルはロエンを見つめた。


そして。


自分とロエンの間を意識した。


(あの人は私をどう見ているんだ)


何も現れなかった。


「……」


カイルの眉がほんのわずかに動いた。


再び集中した。


依然として何もない。


(なぜだ)


関係がないからかもしれない。


ロエンは自分のことをほとんど知らない。


あるいは。


関係があっても現在のレベルでは見えないだけかもしれない。


分からない。


カイルは無理に見ようとしなかった。


システムは親切ではなかった。


見せてくれないものを掴んでいても無駄だ。


ロエンが聞いた。


「その奴らの間で何かあったんだ?」


カイルは再び現実に集中した。


「争いました」


「なぜだ」


しばし沈黙。


カイルが言った。


「私が争わせました」


ロエンの顔が妙になった。


ヘルンは頭を下げた。


「お前が?」


「はい」


「9人を?」


「9人が一度に争ったわけではありません」


カイルが落ち着いて説明した。


「その中の何人かの間にもともと不満がありました」


「それをどうして分かったんだ」


「行動を見ました」


「それで?」


「少し揺さぶりました」


ロエンが目を細めた。


「何を」


「誰かが物を抜いているかもしれないと」


「事実だったのか」


「分かりません」


「……何?」


「私も分かりません」


ロエンが黙ってカイルを見た。


カイルが付け加えた。


「重要なのは、彼らがすでに疑っていたということです」


「それで嘘をついたということか」


「死にたくなかったので」


ロエンの視線がカイルの包帯を巻いた手首に向いた。


しばし。


言葉がなかった。


「それで争いが起きて」


「はい」


「その隙に逃げたと」


「そうです」


「盗賊の一人はお前が逃げるのを見ても放っておいたと」


「はい」


ロエンが椅子に背をもたせた。


「気の狂った奴だな」


カイルが聞いた。


「誰のことですか」


「お前だ」


「……」


ヘルンが横で笑いをこらえた。


カイルは聞こえないふりをした。


ロエンが再び聞いた。


「奴らの中で目立って強い奴は?」


「ドルマンが最も強かったです」


「どの程度」


カイルは少し考えた。


レベルをそのまま言う必要はない。


「私を捕らえた奴らとは明らかに違いました」


ロエンがカイルの体を一度眺めた。


「お前がそれを見分けられるのか」


カイルが淡々と言った。


「私より強いということは全て見分けられます」


ロエンがふっと笑った。


「それは簡単だろうな」


「そうなんですよ」


ヘルンが結局笑い出した。


カイルはため息をついた。


ロエンが席から立ち上がった。


「人を送っておく」


「何人ですか」


「それはお前が知る必要はない」


「私が見ただけで9人です」


「聞いた」


「少なく送らないでください」


ロエンの眉がぴくりと動いた。


「命令か」


「頼みです」


「全然そう聞こえないが」


「言い方は直します」


「それは直せ」


カイルはうなずいた。


直す気はあまりなかった。


ロエンが戸の方を指した。


「行け」


カイルが立ち上がった。


ヘルンもついて立った。


戸を開ける前。


カイルが聞いた。


「もう一つ聞いてもいいですか」


ロエンの表情に苛立ちが少し加わった。


「何だ」


「ガルト傭兵団も一緒に動きますか」


ロエンの表情が固まった。


とても短い瞬間だった。


カイルは見逃さなかった。


「なぜだ」


「盗賊が9人以上なら、人は多いほうがいいので」


「俺たちの仕事だ」


短い返答。


カイルはロエンを見た。


そして。


今度は別の対象を意識した。


ロエン。


ガルトの傭兵団。


(あの人は傭兵団をどう見ているんだ)


しばらくして。


視界の片隅に文字が浮かんだ。


ロエン → ガルト傭兵団


【警戒】


カイルの目つきが変わった。


(見えるな)


だが。


それだけだった。


【警戒】


なぜ警戒しているかは出てこない。


傭兵たちが問題を起こしたからか。


警備隊の権限を侵しているからか。


ガルト個人が嫌いだからか。


実力を認めているからこそ警戒しているのか。


分からない。


カイルがロエンに聞いた。


「仲が悪いのですか」


ロエンの眉がぴくりと動いた。


「誰と」


「傭兵団とです」


「なぜそう思う」


「一緒に動くかと聞いたら表情から固まりましたので」


ロエンはしばらくカイルを見つめた。


そして言った。


「余所者が気にすることじゃない」


カイルはうなずいた。


「分かりました」


それ以上聞かなかった。


外に出た。


*


警備隊の建物を出てしばらく歩いた時。


ヘルンが言った。


「お前」


「はい」


「人にそうやってしつこく聞くな」


「なぜです」


「嫌がってるだろ」


「嫌がっても気になることが消えるわけではないので」


「そのうちまた殴られるぞ」


カイルは顔に触れた。


ブランに殴られたところだった。


「それは説得力がありますね」


ヘルンがため息をついた。


カイルは歩きながら考えた。


【警戒】


その一つの単語。


盗賊たちから初めて見た時は。


すごい能力だと思った。


人と人の間の関係が見える。


前世の韓再国にあったなら。


金で価値をつけがたい能力だっただろう。


誰が誰に不満を持っているのか。


誰が誰を恐れているのか。


誰が誰に忠誠を誓っているのか。


政界でそれほど高価な情報は珍しい。


だが。


実際に使ってみると違った。


【警戒】


それだけでは何も確定できない。


ロエンが傭兵団を警戒している。


それで?


嫌っているという意味か。


恐れているという意味か。


競争相手と見ているという意味か。


危険だと判断しているという意味か。


分からない。


盗賊たちに対しても同じだった。


【不満】


その一つの単語だけを見て。


バルクが物を抜いていると確信していたら?


間違っていたかもしれない。


カイルは直接質問した。


わざと間違った言葉を投げた。


反応を見た。


沈黙を見た。


視線を見た。


そして少しずつ理由を絞り込んだ。


結局。


見えるものと。


分かることは違った。


カイルはふっと笑った。


(まあ)


この能力一つだけで人の内側を全部知れるなら。


政治力が99である必要もない。


ただステータス画面を読めばいいのだから。


それは政治ではない。


答案を見ているだけだ。


カイルは周りを見回した。


市場。


警備兵。


商人。


住民。


傭兵。


今はこれまでとは少し違って見えた。


それぞれの人間としてではなく。


その間にあるものが気になった。


誰が誰に物を売るのか。


誰が誰に先に挨拶するのか。


誰の前では声を低くするのか。


誰が通り過ぎると会話をやめるのか。


そして。


誰には笑いながら。


誰には笑わないのか。


その時だった。


「あ?」


ヘルンが足を止めた。


カイルも前を見た。


市場の一角。


見覚えのある顔があった。


数日前。


村長の家から出てきた商人。


【観察】


【オルマン】


種族: 人間


年齢: 51


職業: 商人


Lv.7


筋力: 8


体力: 10


敏捷: 9


感覚: 17


魔力: 3


状態: 【満足】


オルマンだった。


彼は別の商人と話していた。


カイルは何気ないふりをして足を緩めた。


「また何を見てるんだ」


ヘルンが聞いた。


「商人です」


「商人が一人二人か」


「あの人は村長の家から出てくるのを見ました」


ヘルンがオルマンを見た。


「オルマンか?」


「知っている人ですか」


「村で商売してるのに知らないのはおかしいだろ」


「何を売っているんですか」


「穀物もやるし。塩もやるし。いろいろだ」


穀物。


カイルの視線が少し変わった。


数日前、市場で聞いた言葉が思い出された。


物が減った。


値段が上がった。


カルセン方面から入ってくる量が以前と違う。


だが。


カイルはすぐに思考を止めた。


また繋げようとしていた。


情報が足りない。


オルマンが穀物を売っているという理由だけで。


村長と何かを企んでいると考えることはできない。


カイルはオルマンの隣の男を見た。


普通の商人に見えた。


二人は話を終えた後、別れた。


オルマンは笑って手を振った。


相手も笑った。


何もおかしくなかった。


カイルは二人の関係を意識してみた。


何も現れなかった。


(見えないな)


なぜだろう。


情報が足りないからか。


関係が薄いからか。


距離のせいか。


能力レベルが低いからか。


分からない。


これも。


直接調べなければならない。


カイルはオルマンを通り過ぎようとした。


その時。


オルマンが先にカイルを見た。


視線がしばし止まった。


カイルも彼を見つめた。


オルマンが先に笑った。


「見慣れない顔だな」


カイルが答えた。


「少し前に来ました」


「そうか」


オルマンの視線がカイルの服と手首を眺めた。


「ヘルンさんの客人か?」


ヘルンが答えた。


「数日泊まってる」


「そうか」


オルマンはうなずいた。


そしてカイルをもう一度見た。


「カイルと言ったか?」


カイルの目つきがほんの少し変わった。


自分は名前を言っていない。


「私の名前をご存知ですか」


オルマンの笑みはそのままだった。


「小さな村だ」


「……」


「新しい顔が一人入ってくればすぐに噂になる」


そうかもしれない。


実際にブランも自分について他の傭兵たちに話していた。


不思議なことではない。


だが。


カイルは一つ気になることがあった。


「私の名前は誰から聞きましたか」


オルマンの笑みがほんの少し固まった。


本当にほんの少し。


「さあ」


彼は肩をすくめた。


「誰だったかな」


カイルはそれ以上聞かなかった。


「そうですか」


オルマンが笑った。


「では今度また」


「はい」


オルマンは市場の奥へ歩いていった。


ヘルンが聞いた。


「なんだ」


「何がです」


「また変な顔してるぞ」


「私がですか」


「そうだ」


カイルはオルマンの背中を見つめた。


「何でもありません」


本当に。


まだ何でもない。


ただ。


自分の知らない人間が自分の名前を知っていた。


小さな村だから十分あり得ることだ。


それ以上は。


証拠がない。


カイルは再び歩いた。


*


市場の外に出た時だった。


後ろから誰かが呼んだ。


「カイル・ベルトラン!」


カイルが止まった。


ヘルンも振り返った。


警備兵の一人が速い足取りで近づいてきていた。


さっき警備隊で見た人物ではなかった。


カイルが聞いた。


「何でしょうか」


警備兵が一度息を整えて言った。


「村長がお呼びだ」


カイルとヘルンが同時に互いを見た。


ヘルンが先に聞いた。


「ベルン村長が?」


「はい」


「なぜ」


警備兵が首を振った。


「私も分かりません」


そしてカイルを見た。


「カイル・ベルトランを連れてくるようにと言われました」


カイルは答えなかった。


村長。


ベルン。


自分はまだ彼とまともに話したこともない。


なのに。


相手は自分の名前を知っている。


少し前に会ったオルマンもそうだった。


カイルが聞いた。


「今すぐ行かなければなりませんか」


「できれば」


警備兵が少し言葉を止めた。


「すぐに来られた方がいいと思います」


カイルの目が細くなった。


ヘルンが横でつぶやいた。


「お前、本当にまた何かしたのか」


カイルは少し考えた。


村に入って数日。


傭兵と揉めた。


ブランに殴られた。


市場を歩き回った。


警備隊の周りを調べた。


村長の家から出てくる商人を見張った。


そして。


盗賊9人の存在まで通報した。


思い当たることがないのではなく。


多すぎた。


カイルはため息をついた。


「私もそれが気になっています」


そして。


警備兵について歩き出した。


数日前には。


遠くから見るだけだった家。


ラベルンで最も大きな家が。


少しずつ近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。