【織田信長編】第21章:魔導関所の撤廃と帝都楽市楽座
バルツァー公爵の反乱を『魔導鉄砲隊』の圧倒的な火力で鎮圧した覇王・織田信長は、休むことなく次なる標的を「帝国の血流」たる経済の解体に定めた。光の書物の力を引き継いだ彼が見据えたのは、帝国の至る所に設置され、古い領主たちが商人に法外な通行税を課している「魔導関所」の不条理であった。元の異世界では、各地の貴族が独自の経済権を握り、特権的な商人ギルド(座)と結託して市場を独占していた。これが物流の停滞を招き、国力を内側から削ぐ原因となっていたのである。「旧き領主どもが関所を設け、銭を毟り取って私腹を肥やすなど、天下の法を舐めているのか」信長は不敵に笑い、漆黒のマントを烈風に翻して帝都の広大な中央広場を見下ろした。「余がかつて尾張や美濃で敷いた『楽市楽座』の法を、この魔導帝国の全土に適用してくれよう。すべての関所を叩き壊し、ギルドの特権を剥奪せよ。あらゆる種族、あらゆる身分の商人が、この帝都で自由に商いを行えるようにするのだ。古い因習や神聖なるギルドの掟など、我が圧倒的な経済の法度の前に平伏させてやるわ」信長は自らの強力な経済支配の意志を法典へと叩き込み、新たな布告を発した。彼がこの異世界の歪んだ流通システムを根底から変革するために刻んだ近代的な最高概念が、全土へと響き渡る。――「主権」(しゅけん)――「経済」(けいざい)この絶対の権能のもと、全土の関所は一晩のうちに撤廃された。『信長の電撃的な命により、帝国内のすべての魔導関所が爆破・撤廃された。王は全土の商人に宣言した。「これより、エルフの薬師も、ドワーフの鍛冶屋も、我が帝都において自由に通商を行う権利を有する。古いギルドの特権は一切認めず、すべての商取引は市場の自由なる競争に委ねられる。国家の真の強さは、古い特権ではなく、この四海を巡る経済の活気によってのみ証明されるのだ」』信長が改訂を終えた瞬間、帝都の中央市場は未曾有の熱気に包まれた。世界中から集まった商隊が、希少な魔導鉱石や最新の蒸気機械を携えて自由に往来し、通貨が滝のように流れ出す。古い貴族たちの搾取構造は消え去り、人間の尽きぬ欲望と知恵が爆発的に交錯する、世界最大の「超巨大自由商業帝国」の土台がここに完成した。「フハハ! 富を制する者が天下を制する!」信長は刀の柄を叩き、豪快に笑った。「古い特権にすがる守旧派どもよ、これが余の、そして人間の新しい楽市楽座だ」【伊藤博文編】第23章:近代司法の独立と反乱公爵の公開裁判一方、時空の対極でその強大な経済の躍動を眺めていた内閣総理大臣・伊藤博文は、信長が力と変革で国を揺り動かす裏で、国家が「無法な暴力」や「権力の私物化」によって内側から崩壊するのを防ぐため、次なる不滅の安全装置の構築に着手していた。信長が特権の解体を進めるのに対し、伊藤が目指したのは、捕らえられたバルツァー公爵をただの「見せしめの処刑」に処すのではなく、厳格なルールの下で裁く「法の支配」の確立であった。「どれほどの大逆罪人であっても、最高権力者の私怨や独断で生命を奪うことは、近代国家の敗北です」伊藤は眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、万年筆を静かに構えた。彼の脳裏には、明治の日本において、天皇の権威や政府の圧力から「司法権の独立」を死守し、大津事件などの国難において法の厳正さを証明したあの法治主義の真髄が脈打っていた。「反乱を企てた貴族を私刑にするのではない。憲法に基づいた客観的な証拠と手続きによって、公に裁くのです。これこそが、特権階級の横暴を抑え、民に『法の下の平等』を確信させる唯一の道。ここに、三権分立の要たる近代的な最高裁判所を設立します」伊藤の筆先から、青く澄んだ理性の光が新たな帝国の法典へと迸った。明治の日本が欧米の近代法学を血肉化し、国民の基本的人権と近代的な統治体制を確固たるものにするために生み出した最高概念が、今、異世界の法廷に発布される。――「司法」(しほう)――「官僚」(かんりょう)これらの近代統治機構の最高言葉が、旧来の貴族たちによる都合の良い超法規的処断の歴史を、完全に塗り替えていった。『内閣総理大臣・伊藤博文は、自らの行政権から裁判の全権を完全に切り離し、独立した「帝国最高法院」を設置した。そして、反乱を起こしたバルツァー公爵を、全盲信を排した一般公開の法廷へと立たせた。伊藤は激昂する周囲を制し、冷徹に告げた。「これより、我が国は個人の気まぐれではなく、制度化された『司法』の論理によって動く。反乱の成否は、客観的な事実と証拠に基づき、厳格に訓練された法制官僚の手によってのみ決定される。王といえども、法を越えて人間を処罰することは許されないのだ」』伊藤の万年筆が最後の公判記録を綴ると、帝都の大法廷を包んでいた宗教的・中世的な不透明さが一掃された。そこには、六法全書を掲げた近代的な裁判官たちが厳然と並び立ち、バルツァー公爵に対し、憲法と刑法に則った「適正手続き(デュー・プロセス)」による厳正な判決を下した。これにより、特権貴族の暴走も、国家権力の過走も、すべてはこの法廷の天秤によって平和的に制御されることとなったのである。「これで、国家の真の背骨が通りました」伊藤は万年筆を胸に収め、誇らしげに微笑んだ。「信長公の富と武力がどれほど世界を拡大しようとも、この法廷が国家の倫理と輪郭を永久に守り続けるでしょう」




