4日前
エリと葵の回想です。
元々いた施設の前まで戻ってくる。
さっき感じたような怖さは感じず、今は少し落ち着いた気分になっていた。
道ゆく人たちは浩一におぶられる玲花を見て、少し微笑ましそうに笑っていた。
浩一の部屋の前には一人の少女が立っていた。
「そうそう、あいつが葵…って寝ちゃってるな」
バールを持った少女が言った。
葵という少女はこちらを見ると少し気まずそうにした。
「んじゃ、ワタシは仕事終えたし帰るな、葵もじゃあね〜」
バールの少女はマントを翻し、廊下を反対側に歩いて行った。
「葵さんだね?まず入って」
「はい…」
玲花は目を覚ます…周りを見渡すと、浩一と見知らぬ人間が一人。
「玲花ちゃん、彼女が葵ちゃん、あの森で君を保護した娘だよ」
浩一が紹介する。葵が少し気まずそうにモジモジとしている。
「どうも…まずは…ごめん」
玲花が首を傾げた。
葵という少女は縮こまってしまう。
「わたしが遅かったから…あと少し早かったら…」
玲花は何も言わない。
「葵ちゃんを呼んだのは、きみにきみの状況をゆっくりと理解してもらうためなんだけど…」
しばらく静寂が流れた。
「4日前…ワタシはある地域の都市伝説を調査することになったんだ…」
葵が口を開く。
4日前と聞いて玲花は少し動揺した。
「連盟が都市伝説を調査するのは、ゴーストが悪さしてる可能性があったからだよ、表沙汰になる前に処理しなきゃいけない」
浩一が口を挟む。
玲花には全く理解ができなかった。
「神隠しやあの…『てんてん』の都市伝説…その…ワタシの任務はその都市伝説の真偽の確認に、原因の特定と処理だった」
なんて…話してもわからないよね…
4日前…
8月25日の6時ごろ
4人の少女が森に向かって歩き出した日。
この日は都市伝説となった神隠しと同じ日であった。
2004年のこの日、10名の観光客がこの森に入り一人が行方不明になった。
これが神隠し伝説の始まりであった。
しかし、それほど有名な都市伝説にはならなかった。
人一人消えることなんてよくあることだからだ。
4日前のその日もこの大きく見れば些細なことだったのかもしれない。
最初は何事もなかった。
葵は森に入るなり、調査を始めていた。
瘴気の濃度に空間の歪み。
葵は魔法に関係ある自称は一通り調べたつもりだった。
「わたしは都市伝説が発生した範囲を絞って、森を監視していた、そして…」
「瘴気…魔法の力の源なんだけど、その動きや質でその空間で何が起こってるか大体わかるんだ」
葵の語りを遮って、浩一が言った。
突然ある一点に強い瘴気の反応が起こった。
それを観測した葵は慌ててテントを飛び出した。
そこは場所は古い神社だった。
周りにはまだ強い瘴気の反応が残っている。
そこで葵は見つけた。
足跡を
その足跡は神社の境内まで続いて境内に入るタイミングで途切れた。
しかし問題があった。
どうやって帰ったのだろうか?
まさか空を飛んだ?
そんなまさか
葵は慌てて境内に駆け込んだ。
「間違いない…神隠しだ…」
葵はそう呟いた。
境内を調べると
ホコリだらけの場所に1箇所だけ全くホコリをかぶっていない場所があった。
すぐ前に誰かがここを弄ったのだ。
葵は迷わず、そこにあった御神体に触れた。
周りに強い瘴気が立ち込める。
葵は外へ駆ける。
「やっぱり…」
数人の足跡が外へ伸びていた。
そこは元いた場所によく似たハリボテのような世界だった。
しかし生きた人がそこにいる、葵は魔法少女として彼女たちを救う義務があった。
葵は慌てて足跡を追った。
森からまっすぐ街があるあるはずの場所に向かって伸びる足跡をひたすらに追いかけた。
途中で足跡が一つ消えていることにこの時は気づかなかった。
突然、向こうから暗闇を引き裂くような叫び声が聞こえた。
「まさか!?」
そのまさかだった。
そこには一人の少女と2つの少女だったモノがあった。
彼女の前には巨大な化物がいる。
クマのような巨体に粘り気のある体表、巨大な尻尾。
巨大サンショウウオのようなシルエットをしている。
二人を手にかけ、今まさに3人目を喰らおうとしていた。
葵は慌ててピストルを取り出し、サンショウウオに狙いをつけた。
するとサンショウウオが彼女に気がつきどろどろの液体のようになりその場から消えてしまった。
「大丈夫?」
葵は少女に近づいて問うた。
「ああ…大丈夫…きみは?」
「わたしは葵…魔法少女です…」
少女は少し驚いたようだったがなんとなく腑に落ちた様子だった。
「エリだ、一人逸れた子がいるんだ」
エリという少女が言った。
こんな状況でも冷静さを保てている彼女を見て、葵は少し驚いた。
普通、ここまでマイナスの瘴気が強いと少なからず影響されてしまうはずだが彼女にはそれがなかったからだ。
おそらく何もなければあのゴーストは葵か逸れた少女を優先するだろう。
ゴーストは自分にとって美味しいものから襲うからだ。
「ーそうそう、魔法の源になってる瘴気は意思の力に反応してゴーストを産むことがあるんだけど、これがまた厄介でね、古いモノが残留したり、時には些細なことに起因して暴走したりするんだよ、怖いねぇ。」
また浩一が口を挟んだ。
「きみが経験したことも全部それの所為さ」
葵はエリに3枚の札を渡した
「何かあったらこれを破いて、周りに強い衝撃波を出すと同時にワタシに信号を送るから。」
「わかった…玲花をおねがいします」
玲花、迷子のことか。
葵はそれが言い終わる前に走り出した。
エリは軽い恐怖を感じながらもそれ以上に強い希望を持って歩き始めた。
街に着いた。
あかりが灯り、光の奥に人影がある。
エリは少し安心した。
帰ってきたんだ。
そんな勘違いをしながら、エリは自宅を目指し、そこに入った。
違う…
音がしない、時計は8時を示している。
まだ寝る時間じゃない。
みんな起きてるはずだ。
エリの恐怖が少し強まる。
エリは慌てて扉を開こうとしたが開かない。
「あらお帰り、遅かったわね」
誰?
母親に似た何かがいる。
違う…
エリは傘置きに置いてあるバットを抜き。
力強く、迷いなく殴りかかった。
それ の顔が大きく歪み潰れる。
「痛いわぁー、エリちゃーん」
声色を変えずに続ける。
無機質な声、録音よりも録音らしい、感情のない声。
感情のない笑顔。
気味が悪い。
「エリちゃーん」
そんなことを言いながら、それは近づいてくる。
「お腹空いたでしょ?こっちへおいで」
母親のようなモノが、腕を伸ばす。
エリはバットを振り抜こうとした。けれど、その背後の暗闇から、もう一つの声がした。
「ただいま、姉貴。お土産、ある?」
それは、弟らしい声だった。
これも違う。
振り返れば、そこには首が不自然な角度に折れ曲がった弟が、満面の笑みで立っている。
後ろにはドアしかなかったはずだった。
エリは札を握る。
「一枚目、あとニ枚」
札は強い光を放った。
強い衝撃波はのような物が発生した。
まるで対象を自動選択してるかのようにドアと母と息子のようなモノを吹き飛ばした。
「札は3枚とも使われたらしい、でも…」
葵は言い訳のように続けた。
「瘴気にかき消されて信号が伝わらなかったみたいなんだ」
エリはその建物を飛び出す。
「違う、違う、ここは違う。」
エリはそう叫んだ。
恐怖心がエリを心を蝕む。それでも彼女はなんとか冷静さを保とうとした。
「すごいよな、多分そのエリって娘は、かなりの才能があったろうに」
浩一が言った。
「瘴気に影響されないっていうのは、意思の力が強いってことなんだ。魔法にはある程度身体的な才能もいるけど、それ以上に大事な物がそれだよ」
エリは無我夢中で街に似た空間を走り回った、その中に「違わない」モノが一つあった。
玲花!
エリは固まった。
玲花の目の前にはあの化け物がいた。
エリは2枚目を破いた。
そして、体を無理やり動かして。
バットを手に化け物に殴りかかった。
化け物は大きくのけぞった。
「生きてる?」
「よかった」
「大丈夫だから」
記憶がフラッシュバックする。
「きっとなんとかしてくれる」という言葉の意味も朧げながら理解してしまった。
最後まで自分を守ってくれたエリの最後。
エリは拘束されて首を刈られる直前に最後の札を片手で破いた。
衝撃波は確かに出ていたが。
その化け物に対しては豆鉄砲だった。
葵は最後の札の反応に気がついて、街まで走った。
森を抜けてアスファルトに足を置いたとき。
「突然、強い閃光のようなモノが文字通りその空間を消したんだ。気がつくと元いた神社戻っていた。そこには体に穴の空いた化け物と」
「体から煙を出してグッタリとしていたキミがいたんだ」
葵に続いて、浩一が言った。
「私はその化け物を封印して、周りを確認したけど何も見つからなかった。」
エリちゃんも、あの二人も。
「なんでワタシはここにいるの?」
玲花は素朴な疑問を持った。
「とんでもない」
浩一が言った。
「葵ちゃんは丁寧に穴が空いたって言っただろ?」
玲花は思い出す。
体に走った強い衝撃。
ピリピリと体を伝わる電撃のような感覚。
周りを包む強い光。
記憶はそこで途切れている。
「そうしたのは君だ」
光一が言った。
なんと、あの化け物に致命傷を負わせたのは玲花本人でした。
玲花はここで初めて自分が持つ魔法の力を認識します。
これからもよろしくお願いします




