月
「・・・」
夜になっていた。私は穴の中に居続けていた。何をしているのかと自分でも不思議だったが、私は穴の中に居続けていた。
「・・・」
一体、私はどうしてしまったのだろうか。そんなことを漠然と考えながら私は、しかし、穴の中に居続けていた。
「・・・」
月が出ていた。見上げる穴の入口の丁度真ん中に月がぽっかりと浮かんでいた。丁度、満月だった。私はその満月を見つめる。
「・・・」
周囲は真っ暗だった。正に真の闇だった。そして、堪らなく静かだった。その空間の中にぽっかりと月が浮かんでいた。
「なんて美しいんだろう・・」
月は美しかった。それは、堪らなく美しかった。こんな美しいものを私は今まで見たことがなかった。
私は魅入られるように月のその輝きを見つめた。月そのものは何も変わっていない。以前見ていた月だった。見慣れたあの月だった。しかし、それは堪らなく美しかった。感動するほどに美しかった。私はこの美しさにまったく気づくことなくここまで生きていたことに驚いた。
私は得も言われぬ感動に包まれていた。月はただそれだけで完璧だった。完全だった。揺らぐことのない絶対的な美しさだった。
花鳥風月。日本にはそんな言葉がある。最初聞いた時、私にはその意味がまったく分からなかった。花や月をただ眺めて何が楽しいのかと馬鹿にすらしていた。しかし、今は分かった。心の底から理解できた。
月は美しかった。ただそれだけで美しかった。何もいらない。月はそれだけで美しかった。完璧に美しかった。
「・・・」
私は堪らない感動の中にいた。私は我を忘れ、その月の美しさに見入った――。




