第百三十四話「多分、戦うのにはそれほど向いてないと思う。元々戦うために変身したわけでもないし」
新形態『地獄錬金罪人連合』登場!
「……ッフゥゥゥー……
……これぞ"邪悪魔神器シンズドライバー"が新境地……
名付けるならば『地獄錬金罪人連合』……!」
場面は前回から引き続き陽狐宮の屋内試験場。
シンズドライバーの新たな機能を引き出すに至ったダイちゃんは、
これまでにない"八つ目の新形態"への変身を果たした。
(あれが……シンズドライバーの変身形態……?)
その姿の余りの異質さに、あたしは内心驚愕せずにいられない。
(ちょっと信じらんないね……)
まず何より驚くべきは、その姿とサイズだった。
ってのも、今までの形態はどれも別種レベルで姿が変わるのが常だった。
変身形態は軒並み巨大な非人型の怪物風で、
一番小ぶりな"色欲"でも身長2メートル以上、
かつサソリの脚や尻尾が生えてて骨格構造も純粋なヒト型とは言い難い。
なのに『地獄錬金罪人連合』はほぼ等身大かつヒト型のままだったんだ。
続いて特筆すべき点があるなら、
全体的な雰囲気っていうか……デザインの傾向かな。
さっきも述べたけど
これまでダイちゃんが変身してきた形態といえば、
どれも怪物っていうかクリーチャーっていうか……
とにかく"売れ筋の善玉"ではないようなビジュアルばっかりで……
何なら悪玉にしたって番組内での扱いが良くなるような感じとは言い難かった。
なのにこの『地獄錬金罪人連合』ときたら、
どうにもヒロイックで中々売れ筋の、
あわよくば正統派の主役格として通用しそうな見た目をしている。
大まかには……
暗い鼠色の防護服か作業着の上から袖と裾の長い白衣を羽織ってて、
首から上、両肩から背中、両肘から先、両膝から下、腰回りと下腹部がそれぞれ、
鈍色のメカっぽい装甲で覆われている。
そのフォルムはやけに有機的で、
特に頭部分なんかはSFチックな竜人の頭そのもの……。
序でに腰かケツの辺りからは細長い尻尾が生えていて、
背中を覆う装甲の一部が翼みたいに張り出してるせいで、
いよいよ誇張抜きに有翼型の竜人っぽいフォルムをしていた。
当然腰にはシンズドライバーが巻かれてて、
形態に応じて色の変わる中央の眼球っぽいパーツは鈍い銀色……
あたしが知る限りじゃ、既存の七形態のどれにも該当しない色のハズだ。
そしてドライバー本体のがそんな色だから……なのかどうかは知らないけど、
ダイちゃんの身体の各所――両手首、両膝、両肩、鳩尾――には
ドライバー中央にあるのと同じパーツがどういう原理でかガッツリ埋め込まれてる。
勿論(?)各パーツの色は違ってて、しっかり各形態に対応する七色になってる。
総じて、分かりやすくカッコイイ見た目だなあとは思う。
ただ、どことなく我慢や妥協をしてるようにも見えてしまって……
ぶっちゃけ『不完全形態なんじゃないかな~』なんて、
根拠もなく勝手に憶測しちゃってるのも事実なわけで。
『――さあ、罪人どもよ。
"刑務作業"を楽しもうか……!』
やたら芝居がかった感じで呟いたダイちゃんは、
顔のいい舞台男優演じるトリックスター系の悪役が
第四の壁を越えて観客へなれなれしく挨拶するような(?)仕草をしてみせる。
すると立て続けに、身体に埋め込まれた七つの眼球っぽいパーツが怪しく発光……
だだっ広い屋内試験場に満ちた空気が不気味に振動したり、
生温い何かの粘液みたいに粘ついて身体に纏わりつくような感覚に見舞われる。
『とは言え、突然"本番"は拙かろう。
ゆえに先ずは、予行演習……肩慣らしと洒落込もうではないか』
ダイちゃんの発言から察するに、やっぱり『罪人連合』は不完全な形態ぽかった。
……読者のみんなとしては『いいからさっさとビデオデッキ作れよ』って思うかもだけど、
さりとてこういう時下手に焦るとロクなことになんないから多少テンポ悪いのは許して欲しい。
『――虚ろに歪む闇の帷が世を蝕み、滅びを招く。
帷の内は不可視の瘴気に満ち、意思なき悪鬼ら犇めく地獄』
ダイちゃんが如何にも意味深に唱えると、
身体の各部位に埋め込まれた七つの眼球が怪しく光り始める。
不規則な点滅と共に各色のオーラが迸り、ダイちゃんの全身に染み込んでいく。
『なれどヒトなる者らは退かず、反って此れに抗わんとす。
帷が内へと立ち入りては悪鬼らを刈り、
瘴気の根幹たる毒を煎じて薬と換え富を成す術を編み出せり』
次の瞬間、ダイちゃんの全身に色々な文字列が浮かび上がる。
色とりどりの光で描かれたそれは、どことなく何かの数式や化学式っぽかった。
『帷の内に広がる混沌の闇。その在り様は底なき海原の如く。
あらゆる命を拒むその地に立ち入るは、富を求めし船乗りども』
次の瞬間、文字列はフッと音も無く消える。
そこから続け様に、ダイちゃんの全身が目に見えてぶるり、と震える。
『船乗りどもは闇の海原を進むに際し、行く先を照らす恒星を求めり。
その総数たるや数多なれど、天空の頂に座すは太陽神の子ら也』
次の瞬間、七つの眼球は一斉に発光……
直視すれば網膜に悪影響が出そうなほどに強烈な光だった。
発光は数秒ほど続いたけど、またすぐに消えて……
『誉れ高き子らは、然しある時より頂の座を追われ零落れり。
なれど子らは滅ばず、かえって己らを真に邪神たらしめる力を得ん』
そこからはもう、怒涛の展開だった。
七つの眼球が光る度各色に対応した固有能力が発動……
『齎されし力とは、子らを主と崇め慕う忠臣、
慇懃無礼にして傲岸不遜、強欲にして狡猾なる邪精也』
"強欲"の能力で生み出した金属の塊を、
"憤怒"の炎で熱したり、
"貪婪"の重力操作を応用した打撃を加えたり、
"怠惰"の冷気で冷やしたり、
"色欲"と"嫉妬"を組み合わせて作った液体に浸してから
"傲慢"由来の電気を通したり……
『斯くしてここに幕開けたるは、抗う者らの凄絶なる大舞台に他ならぬ。
抗う者らとは、太陽神の子らと邪精、そして数多の魔物どもである』
約二分半の"予行演習"を経て完成したのは、
刃渡り四十センチ程度で、曲がりくねった幅広い刃が特徴的な短刀だった。
しかも全体が金属製ってワケじゃなく、掴部分は見た感じ合成樹脂……
(……どうやって作ったの?)
後でダイちゃんに聞いた話だと
"色欲"の応用でなんとかなるらしい……どゆこと……?
『……及第点、一先ず単位認定には至る程度か』
出来上がった短刀で氷塊をケーキみたいに"切り分け"ながら呟くダイちゃん。
……氷を"溶かして切ってる"辺り、
刃の中に発熱装置でも仕込んでたりするのかもしれない。
正直二分半でそこまでのものを作れたってんなら
大概好成績だと感じたのはあたしだけじゃないハズだ。
ともあれ……
『……さあ、罪人どもよ。
いざ、"刑務作業"の本番であるぞ……!』
こっからいよいよ本題の"ビデオデッキ作り"が始まる。
次回、漸くVHSの内容が明らかに!




