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百二十七話「え?『お前らそいつに何したんだよ』って?いや~、まあ、その……色々とね? うん。態度ムカつくし、騒がしかったからさ~……」

【ツマランッ! ツマランツマラン!

 ツマランナァァァァ!

 オドレラ全員ツマランノヤァ!

 ツマラン奴ァ、予選敗タ――

「だったらあんたはッ!」『出場資格剥奪であろうがァッ!』

【ジャックポォォォォッド!?】


 場面は陽元北西部にある歓楽街"充富釘みつふぎ町"。

 日夜博徒たちが壮絶な日々を過ごすその土地に現れた

 "べらぼうに情報量の多すぎる見た目の媚累禍ビルカ"は、

 あたしとダイちゃんによる"夫婦(予定)の共同作業"でもって爆発四散。


「……ぐっ、くそ……なんで、や……

 オレは……この異世界を、勝ち抜いてっっ……」


 悪禍実アカミの死滅に伴い露わになった原贄げんし……

 例によって衰弱状態で倒れ伏すそいつは、

 細身でガラの悪い人間サピエンスの中年男……

 顔の良さは中の上くらい?

 役者としても通用するタイプのお笑いタレントっていうか、

 喋りが上手くて稼ぎがいいならかなりモテそうなタイプって印象。

 ……勿論ダイちゃんはじめ、

 あたしが付き合って来た歴代の彼氏たちには遠く及ばないけどね。


 まあともあれ悪禍実は死滅したし、

 後は陽拝党ようはいとうに任せて終わりかな~

 なんて思ってたんだけど……


『……ん?』

[GOOD JOB.THAT'S A FEAT.]

「この男、やはり……然し何故だ……」


 変身解除もそこそこに、

 原贄の姿を目にしたダイちゃんがなんだか意味深な顔をしていた。

 さては単独で受けた案件クエストで会ったとか、

 江夏んとこに居た時になんかあったとかかな?

 そう思って話を聞いてみると……


「自分めの記憶が確かであるならばこの男、

 本来この場に居る筈のない者に御座いまして」


 返ってきたのは若干予想外の答えだったけど、

 とは言えこの子もしっかり冒険者。

 殺しの案件ぐらいフツーに受けるだろうしまあ、

 そういう因縁の相手がいるのは何ら不自然じゃないだろう。

 ぐらいにまあ、軽く考えてたんだけど……


「つまり、死んだハズのヤツが生きてたって話?」

「いえ、そうではなく……

 この曽々木志那斗ソソギシナト、自分と同じ地球人に御座いまして」

「えっ」

「加えて言えば、日本を代表する世界的芸能プロダクション

 "豊霜とよしも興業株式会社"所属の芸人(お笑いタレント)に御座います。

 確か何やらというコンビの片割れであるものの、

 自分が記憶する限りではソロ活動で目立っていたかと」

「……なるほど、売れっ子だとよくあるパターンだネ」


 それで合点が行った。

 確かに向こうの公人ならダイちゃんが知ってても別に不思議じゃない。

 ……とは言えあの子の口ぶりはやけに意味深で、

 どうも単に『倒した敵の正体が知ってる芸能人だった』以上の何か、

 そう例えば確かな因縁みたいなのを感じずにはいられないワケだけど……。


 まあ、そもそも地球の芸能人がエニカヴァーに転移した上、

 しかも媚累禍になってあたし達と交戦したってのが結構な異常事態だし、

 この男については色々調べといて損はないだろうってことで、

 あたし達は曽々木の身柄引き渡しも兼ねて主懇山すこんざんに向かった。



 そして場面は変わって主懇山、宝玉燭曙陽狐宮ほうぎょくしょくしょようこぐうにある取調室。


「――ぅぅ――ぁ――」

「起きろ、曽々木ィ!」

「うぶ!?」


 意識のないまま椅子に括り付けられた曽々木。

 中々目覚めないヤツの顔面目掛けて、

 ダイちゃんは腹立たし気に冷水をぶっかける。

 流石にやり過ぎじゃないかな~とか思ったけど、

 とは言えこの子がそこまでするってことはよっぽどヤバい奴なんだろうし、

 あたしがとやかく言う事じゃない

 (っていうか、やっぱりなんか因縁ありそうだよね~)。


「ぁぶはっ!? な、何やあ!?

 どこやっ、ここぉ!? オドレ何サラシてくれとんねん!?

 オレを誰や思とんのやゴラァ!?」


 叩き起こされた曽々木は思いつく限りの暴言を絶え間なく吐き散らす。

 どうやらガラと口の悪さは悪禍実どうこう関係なく生来のもんらしい。

 まあ媚累禍だった時の姿からして末期の賭博依存症ぽかったし、

 荒んだ性根なのは想像に難くないんだけど。


「……最早芸の道にて培いたる口の上手さも衰えたか、曽々木」

「なんやコラぁ!? オォン!?

 オドレ誰やねん!? 何でオレの本名知ってんねや!?

 何してくれとんじゃゴラァ! コレ外せやボケがぁ!」

「質問の多い奴だ。

 確かに見てくれは変わったにせよ、この声で思い出さんか?」

「なん、やとぉ……?」

「……"《カラーレス・エビル・アサシン》の効果があるのをお忘れか"」

「――ッッッ!

 その、声っっ……まさか、あの絵畜生かッ!

 オッドラァアッ! 許さへんぞゴラァアッ!

 オドレの所為でオレはなんもかんも失ったんやぁ!」

「ぬかせ。総ては貴様の自業自得であろう。

 貴様があの企画に誠実に取り組んでおれば、

 自分めを殴らねば何も問題は起こらなんだのだ」

「なんやとゴラァ!

 そもそもオレはあないゴミ企画乗り気やなかったんや!

 あんのクソマネージャがロクに仕事取って来ぉへんのがアカンかったんや!

 何が『すんまへんけど今の曽々木さんにはこれしかありまへん』やねん!

 そこで何とか仕事持ってくるんがマネージャーの仕事やろがい、あの役立たずが!」

「望む案件が来なかったのは貴様のイメージ低下が故ではないのか。

 そして貴様のイメージが地に落ちたのは、

 貴様自身の撒いた種に他ならぬ。

 そも、意にそぐわぬ案件であれば断れば良かった話であろうに。

 或いは断れぬ程困窮していたとして、

 貴様の見栄っ張りな性格と浪費癖が原因であるならば――」


 その後、ダイちゃんと曽々木の言い争いは実に一時間近くにも及んだ。

 止めなかったのかって? まあ、止めなかったね。

 なんていうか、最初こそ強気だった曽々木がダイちゃんに正論でボコられてどんどん弱ってく様子そのものが面白かったし、

 配信者とは言えそれでもただの民間人に過ぎなかったダイちゃんと、

 落ち目とは言え曲がりなりにも名の知れた芸能人だった曽々木の間に、

 果たしてどんな因縁があるのか気になってもいたからね。


(;州=_=)<ま、結局具体的に何があったのかは後々しっかり当人たちから聞かざるをえなかったんだけど……。


 さて、ダイちゃんと曽々木から聞いた話を纏めると……


・曽々木、相方共々ソロ活動を始め軌道に乗るも、

 なんやかんや調子こいて自滅。実質コンビも解散。

 ↓

・曽々木のマネージャー、

 当時の地球で流行ってたカードゲーム大会イベントの案件を取って来る。

 そのカードゲームは曽々木自身昔ハマってたけど、

 ルールの複雑化とかインフレのせいで昔の面影が無かったのもあり、

 その頃は実質アンチだった。

 ↓

・曽々木、金の為に嫌々大会へ出場。

 初戦の相手はダイちゃんことハイド・ロジラム。

 曽々木はVtuberにも否定的で

 "絵畜生"呼ばわりして忌み嫌ってたのもありイライラMAX。

 この時点で態度悪いわ悪態つくわ暴言吐くわで散々。

 ↓

・曽々木とダイちゃん、試合開始。

 曽々木は当時最強と言われてたデッキで参戦。

 対するダイちゃんはそんなに強いわけでもないデッキで参戦。

 ↓

・誰もが曽々木の勝ちを疑わず、

 ダイちゃんも半ば『噛ませ』を演じるつもりでの参戦だった。

 なのにデッキの相性とプレイスキルの差が絶妙にかみ合った結果、

 曽々木は何もできないまま初戦敗退。

 ↓

・腹を立てた曽々木はイベント終了後、

 報復がてらダイちゃんの素顔を曝してやろうと企むも失敗。

 しょーもない転び方をして醜態を曝した挙句、

 他ならぬダイちゃんに同情されてしまう。

 ↓

・屈辱を覚えた曽々木、ダイちゃんに暴行。

 呆気なく逮捕されネットで大炎上、事務所もクビに。


 ……とまあ、こんな感じ。


(州=_=)<因みにダイちゃんの方も色々あって曽々木のことは元々地味に嫌いだったらしく、

 何なら奴に殴られた時さえ『社会的に殺すチャンスだ』って内心喜んでたそうな。



「――ほんで、裁判で、懲役食らった、オレは、

 気ぃ付いたら、変な三人組に、捕まっ、とってから、

 なんや、よう、わからんもん飲まされて、街ん中、捨てられたんや。

 ほしたらすぐ、カラダん中から、力、沸いてきて、

 なんでも、できるような、気が、してきて……」

「調子こいた結果があのザマってワケだ」

「"飲まされたもの"とやらが、

 恐らく悪禍実かそれに類するものといった所ですかな」


 さて場面は引き続き取調室。

 あれこれ試して"どうにか落ち着かせて従順にした"曽々木に吐かせた内容から考えるに、

 やっぱり一連の事件には媚累禍ビルカを裏で束ねる黒幕がいるらしい。


「……曽々木、最後に一応問うておく。

 貴様を捕まえたという三人組の名を、よもや貴様聞き及んではおるまい?」


 ダイちゃんの問いかけは、見るからにダメで元々って感じだった。

 事実、あたしもまさかこの程度のヤツから

 そんな重要な情報を聞き出せるなんて微塵も思っちゃいなかったけど……


「ぁ、うう、んんん~

 ……ボカン、ドー……やった、かなあ」

「なに?」

「あの三人、なんや、その、ボカンドー、て言うて、てん……

 たぶん、なんか、あいつらの、

 チーム名、とか、ちゃうかなあ~……」


 曽々木の零したこの一言を切っ掛けに、

 停滞しつつあった事件は大きく動き出すことになる……

 その事実を、この時のあたし達はまだ知らなかったんだ。

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