第百二十五話「作者曰く『わかりやすさが大事』だからこういう敵になったらしいけど……」
読者のみんな、御機嫌よう。
いつも本作『つい☆ブイ!』に寄り添ってくれてありがとね〜。
今回も前回から引き続きこのあたし、
不死身の変態魔女ことパルティータ・ピローペインがお送りするよ〜。
(州〇△〇)<え?『ラブホでコスプレしてた回の続きはどうなったんだ』って?
(州=_=)<……作者の相方がXで投票やったら
『125話からはバトル回やれ』って結果になったからカットだよ?
(州=ω=)<元々みんなも意味不明な回でつまんないとか思ってたんじゃない?
ごめんねぇ、作者も流石にあれは反省してるからさ……。
(州´∀`)<さあ、それはともかく今回からやっとこさ
本格的にストーリーの縦軸が動き出すよ! 期待しててね!
さて、ラブホテル『ピンクコヨーテ』で情熱的な一夜を過ごしたその翌日。
あたし達は再び螢都を脅かす悪禍実や媚累禍をシバいてぶっ潰すべく行動を開始していた。
【ウオオオアアアア!
正義ヲ! 秩序ヲ! 安寧ヲォォォォ!
害悪ナルモノヨ、須ラク滅ビ去レエエエエエ!】
「戯けが。それは誤用だ……」
「言い換えるなら『無論滅び去れ』とか?
うーん、確かに違和感しかないね~」
【グウウウアアアアアア!
揚ゲ足取リヲスルナアアアアアア! 】
場面は螢都の観光地、幌玖珠市の繁華街『同田貫商店街』内にあるゲームセンター『POKOBE』の前。
今日は休日、家族連れやゲーマーでごった返してなきゃおかしい筈のそこは、
空気読まずに現れた媚累禍のせいで混沌とした惨劇の舞台と化した。
【フッザケルナァァッ!
アニメダ! 漫画ダ! ゲームナンダッ!
其レ等コソ元凶! 其レ等コソ害悪!
其ノ様ナモノハ徹底的ニ規制シ根絶セネバナラヌ!
世ノ力アル者ラガ皆其ノ方向ヘ舵ヲ切レバコソ、
若年層ハ非行ヤ犯罪ト縁ヲ断チ切リ、
世界ガ平和ニナル筈ナンダァァァッ!】
相対するのは身長2メートル半ほどの屈強なヒト型媚累禍。
かなり骨太気味な体格で、
宛ら豚獣人か河馬獣人の重量級力士みたいなゴリマッチョ……
頭にフルフェイスの兜を被り首から下はビキニパンツ一丁と、
いっそギャグみたいな身なりだけどそれでも威圧感は抜群だ。
発言内容から察するに、
素体はよくいるサブカル嫌い拗らせた表現規制推進派のバカで間違いない。
皮膚は黒板みたいな深緑色で、
チョークで殴り書いたような文字が所狭しと並んでる。
よく見るとそれは法律とか校則なんかの所謂"規則"に関する文章の形になっていて……
とすると素体になったバカはあれで一応教職とか政治家、
それも要職についてる高給取りの古株辺りかもしれない。
だとすればサブカルに責任転嫁しまくる表現奇声推進派なのも納得だし。
……まあ奴が何者であれ、
媚累禍な時点で再起不能にするのは確定だけどね。
「いや〜、酷い言い分だねぇ。
絵に描いたような八つ当たり、不当なヒステリーも甚だしいっていうか……
自分が果たすべき責任から逃れようとしてんじゃないよ」
「全く以て浅ましい考えと言う他ありませんなァ。
『自分の作品が不人気なのは文部科学省のせいだ』
と主張する蠱毒成長中の方がまだ辛うじてマシに見えましょう」
【グウウウエエエエアアアアアッ!
ナンダッ貴様ァァ〜ッ!?
他ノ、書籍化作家ヤ星百以上ヲ稼グ優秀ナ作家ナラ兎モ角トシテッ、
ヨリニモヨッテアノ蠱毒成長中ヲ引キ合イニ出ストハッ!
ィィィィ~~~許セン赦センユルセン!
ユルセンユルセンユルセンユルセエエエエエンッ!
コノ崇高ナ吾輩ヲ侮辱シオッテ!
貴様ラ断ジテ許サンゾォォォッッ!】
怒り狂った媚累禍は、
その勢いで両腕の先端部を貝殻みたいな盾に変化させ叫ぶ。
どうやらうちの作者より下だと評されたのがよっぽど気に食わないらしい。
「ダイちゃん、例によってあたしは解析に回るから
その間あいつの足止め頼んでいいかな?」
「お任せ下さい」
斯くしていつも通り、
戦闘をダイちゃんに任せつつあたしは媚累禍の解析作業に入る。
「見るからに頑強な上、防御にも自信ありと見える。
ともすれば動けぬよう縛り付けるのが先決か……」
【ヌゥゥゥカセェェェェ!
縛リ付ケラレルノハ貴様ノ方ダァァァァッ!
吾輩ノ定メシ絶対正義健全法案ニ縛ラレロッ、コノ犯罪者メガァァァァ!
ドゥェァアアアアアッ!】
言うが早いか、
媚累禍は身体に並ぶ文字列を触手状に実体化させる。
なるほど規制推進派なだけに"敵の動きを規制する"ワケだ。
【己ガ罪ノ重サニ拠リ苦シムガイイ!
キッセェェェエエエエエエッ!】
「なんだその、間抜けな掛け声はッッ」
迫る触手の束、かなり太く頑丈そうなそれを、
ダイちゃんは暗器の一振りで弾いて受け流す。
【ナァァッ!?
吾輩ノ絶対正義健全法案ガァッ!?
貴様、何ヲシタッ!?】
「ふん、刃合気如きで驚くか。
戦闘者の風上にも置けん無知ぶりだな」
刃合気。
フェンサーとかパラディンとかの、
武器で接近戦をやるような戦闘者にはお馴染みの技能だ。
(うん、わかるんだよ。そこはわかるんだけどさ……)
媚累禍の解析作業を進めながら、
あたしはダイちゃんの地味なヤバさを実感していた。
そりゃ実際あの子の戦闘形式はソルジャー型のアサシン、
刃合気ぐらいフツーにするだろう。
それはいい。
寧ろ防御特化のジェネラルとかでもないのに
『刃合気一つ満足にできません』なんて有り様じゃ困るまである、
けど……
(タクティカルペンで刃合気は流石に別次元が過ぎるって……)
そう、事も在ろうにあの子が刃合気に使ったのは、
剣とか盾どころかナイフですらなく、ちっぽけなタクティカルペンだったんだ。
(州;=Д=)<いつぞや森翠土産であげたヤツで、
確かに『普段遣いさせて貰う』とは言ってたけど……
まさかそういう使い方するとは思わないじゃん……
(州;=_=)<しかもだよ、
タクティカルペンでそんなことしたらフツー間違いなくぶっ壊れるだろうに、
後で見せて貰ったけど傷一つついてなかったし……
真面目な話あのペンどうなってんの……?
そもそもの話として、
刃合気の難易度は概ね武器のサイズに反比例して高くなる。
何せ重くてデカい分、攻撃を弾くのに物理的な力をかけ易くなるし、
防御範囲の広さとタイミングの取りやすさもあって
受け流しの操作そのものがわりと簡単になるからね。
だから刃合気を多用する戦闘者は概ね大ぶりな武器を使う傾向にあるんだ。
(逆に言えば小型武器は操作性が高い反面、
刃合気に必要な力や面積が明らかに足りてないもんだから
必然タイミングや力加減もかなりシビア……。
刃渡り三十センチ級のダガーとかでさえ刃合気は原則非推奨だってのに、
ましてタクティカルペンで難なく成功させるって……
うーん、我が彼氏ながら末恐ろしい……)
(州;ー_ー)<彼氏のハイスペぶりに恐怖感じたのなんて数十年ぶりだよ……
さて、それはそうとダイちゃんと媚累禍の戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
【ヌウウウンガアアアアアッ!
タカガ犯罪者ガァァァァッ!
名門『栄堂大学』教育学部首席卒業生デモ、
歴代最優秀学生ト謳ワレシ教育評論家デアル吾輩ヲ
事モアロウニ無知ト謗ルカアアアアアアアア!】
「貴様の肩書きなんぞ知るか。一先ず黙れ」
【グアアアアッ!?】
刹那、ダイちゃんの下腹部が火を吹き媚累禍の顔面が爆ぜた。
一見何が起こったか分かりづらかったけど、位置や角度を考慮すれば察知は難しくない。
(バックル銃……!)
そう、さっきのタクティカルペン共々
前にあたしがダイちゃんにあげた森翠土産のバックル銃だったんだ。
あの感じからして、撃ったのは催涙剤と発痛物質を混ぜた超小型の焼夷榴弾かな。
【アッガアアッ!? 目エエエエッッッ!?
目ガッ!? 目ガアアアアッ!?】
「黙れつっとろーが」
【フギイイイアアアアアア!?】
目立った外傷こそないものの相当痛かったんだろう、
悶絶する媚累禍目掛けてダイちゃんは尚も容赦なく弾を撃ち込んでいく。
【ギエエエエエッ!?】
「だから静かにできんのか」
【グギョワアアアッ!?】
「喧しいと言っとるんだ何故黙れん?」
【アッギャァァァァアアア!?
ギイエッ!? グゴアッ!?
ゲウエエエエエッ!?】
まぁそれ自体は見慣れた光景だし、
多分あたしがあの子の立場でも似たようなことをしただろう。
【ァ……ァァ……ァッァァ……】
「やれやれ、やっと黙ったか。
情けない奴めが。
名門国公立大首席の教育評論家が聞いて呆れる醜態ではないか。
全く貴様、そんな有り様でよく教育関係者を名乗れたものだな?」
【グ……ァガ……
コジツケデ、アロウガッ……
教育者ヲナメ腐ットルナ、コノ犯罪者風情――
「口答えするな」
【グギャァアアッ!?】
「……おい、"自称"高学歴の教育評論家よ。
貴様今"《《なんで》》"撃たれたか分かるか?」
【ァ、ガア……銃、デアロウガッ!
貴様ノソノ、腹ニ埋メ込マレタダカノ――
「違ぁ〜う」
【アバァッ!?】
「……今の"《《なんで》》"は理由を尋ねる"何故"の意味合いだ。
『何故撃たれたか』と聞かれたのに
射撃に用いられた道具の名称を答える奴があるか無能が」
【グウウウッ……貴様ァァァ〜!】
武闘派の大物っぽい見た目の癖して
最低限の武器しか使ってないダイちゃんに圧倒されっぱなしの媚累禍。
その姿ときたらはた目から見るとひたすら滑稽で……
っていうか、何ならいっそ嘲笑う気も失せそうになる有り様だった。
けどそんな奴だって一応、
その辺の破落戸や猛獣程度なら圧倒できるレベルの化け物なわけで……
【ァ……グウア……
……ナ、メルナ……!
ナァァメルナ、腐レオタクノ犯罪者風情ガッ!】
銃弾に怯みまくってた割に然程外傷もなかった媚累禍は程なく持ち直し、
両腕の盾を直径1メートル半ほどの半円形に変化させた。
察するにさっきまでのは仮の姿とかそんな感じだろうか。
「ほう、盾を変形させたか……」
【ソウダッ! ソノ通リダァ!
此レゾ我ガ必殺武器!
ソノ名モ
『頑強盾・責靭天華』並ビニ
『流動盾・唯々逃令』デアル!】
(名前かっこ悪っ!?)
【吾輩ノ双盾ハ揃ッテ最強!
責靭天華ハソノ頑強サニ拠リアラユル攻撃ヲ受ケ止メ弾キ返シ、
唯々逃令ノ形成セシ防護障壁ハ前方限定ナレド
如何ナル攻撃ヲモ受ケ流シ無力化スル!
即チ吾輩ノ防御力ハ今ヤ正シク鉄壁トナッタ!
ヨッテ犯罪者ヨ!
貴様如キガドノヨーナ武器ヲ用イヨート、
コノ吾輩ニハ傷一ツトシテ付ケラレヌト識レイ!】
なんとまあ、厄介なこと。
名前がダサいってだけでも致命的なのに、
その癖無駄に高性能となるといよいよ始末が悪い。
……勿論あの程度の防御に梃子摺るダイちゃんなワケはないけどほら、
読者のみんなとしては多分、困惑せざるを得ないじゃん?
そこが地味に心配なんだよね〜……。
「ほう、鉄壁の防御とな。それは実に興味深い……」
一方のダイちゃんはというと、
媚累禍をおちょくりも嘲りもせず淡々とお腹に手を翳す。
「では実際"どう"なのか、試させて頂かねばなるまいて」
[SIN'S DRIVER!!]
スムーズに起動するシンズドライバー。
近頃やけに迫力の増した気がするシステム音声は、
それそのものが実質敵への余命《処刑》宣告に他ならない。
(さて、何を選ぶかな……)
これで解析作業が終わってればどの形態に変身すべきかアドバイスもできたけど、
今回のヤツはやけに内側が複雑なもんで結構時間がかかってる。
……まぁ、あの程度のヤツなら然程強くもないし、
そもそもただのゴリ押しでどうにかなりそうな気もするんたけど。




