第百十六話「示し合わせたみたいに繋がる点と点。予定調和っていうか、必然っていうか」
次々と明らかになる真実……!
読者のみんな、ご機嫌よう。
例によって今回もこのあたし、
便利屋魔女のパルティータ・ピローペインがお送りするよ~。
『とりあえずこんなトコで立ち話も何だ。
主懇山の方へ私らの拠点があるし、そっちで話そうじゃねえか』
黒縄岳での一件を終えたあたし達は、
掌サイズの狐火に化けたゲンジョウ女史に案内されるまま聖地"主懇山"へ向かっていた。
で、その道すがらに彼女から色々聞かされたワケだけど……
明らかになったのはとんでもない事実の数々だったんだ。
『然し今回はうちのバカどもが迷惑をかけちまって申し訳なかったな。
正直な話、この程度の詫びで足りんのかって思っちまうんだが』
「どうぞお構いなく。察するにそちらも色々大変なんですよね?」
「然しあの二人組は一体何者です?
戦いぶりや言動からして、単なる『腕の立つ名家出身の女学生』とは思い難い印象でしたが……」
『まあそりゃ、実際フツーの女学生じゃねえからな』
ゲンジョウ女史曰くあのバカ二人は一応、
老舗の民営治安維持組織『国仕九臣衆』の構成員だそうで、
高い戦闘能力を見込まれ、護衛や揉め事処理なんかする部署『第七武闘臣課』こと通称『懐刀』に幼少期から所属していて、学生乍ら結構稼いでいたらしい。
『八剱は由緒正しい希少種族の名家出身で、
ケイソンズも名の通った地主一族と勇者の玄孫だからな。
氏も育ちも良けりゃ、当人たちの実力も高ぇし性格面も申し分なしだったんだが……
知っての通りあいつら、近頃は目に見えて学校の成績が落ち込みがちでなぁ』
ゲンジョウ女史によれば『九臣衆』は元々八剱とケイソンズを雇い入れるにあたって
二人の実家や学校等と「学業に影響を及ぼさないよう配慮する」「目に見えて学業成績が落ちるなどの問題があった場合、二人を懲戒処分若しくは退職させる」って契約を交わしていた。
当然それは当人たちも承知の上で、『懐刀』の仕事を誇りに思い愛していた奴らは、
だからこそ学業にも精を出し、高い成績を維持していた。
『だが……高校二年目の春頃からだったな。
奴らの成績は目に見えて落ち始め、
稀にだが仕事で問題起こすようにもなっててな。
八剱は勿論、ケイソンズも地味にヤベェんで度々警告はしてたんだが……』
「結局反省も改善もしなかった、と……」
『概ねそんなトコだなぁ。
大方、特例措置で期末試験や補修を免除させる算段だったんだろうが……
あんなもん例外中の例外で原則有り得ねえってのは、
他ならぬ奴ら自身が一番理解してると踏んでたんだがなぁ。
……つって、それもこれも奴らを早く雇い、無理に働かせ過ぎた私の責任だろうがね。
全く、運営者の資質を問われても仕方ねえ大ポカだったぜありゃあよぉ』
そうこうしている内に辿り着いたのが、
冒頭にも出て来た『宝玉燭曙陽狐宮』を擁する『萃晢魄壌街』……
第八天瑞獣"陽光のジョウセツ"の統治下にあり、彼女と関わり合う様々な人々の集まる、
言わば『主懇山の心臓部』とも言うべき森の中の小都市だ。
『さあ、着いたぜ。
私はまだ色々とやることがあるんでな、
暫くこの辺りで自由に過ごしといてくれや。
準備が整い次第、追って連絡すっからよ』
言うが早いかゲンジョウ女史は忽然と姿を消していて……
仕方なくあたし達は街を散策しながら時間を潰すことに。
「いや~、しっかしまさか主懇山の、
しかもわりと標高高めな場所だってのにこんな場所があるなんてね……」
「全く以て驚愕に御座いますなァ。
事前調査の段階で山中に何かしら拠点となる施設が存在するとは聞き及んでおりましたが……
よもやこれ程迄に大規模な歓楽街が存在しようとは」
街の中には隅々まで色んな施設があって、どこも観光客で賑わっていた。
勿論、ジョウセツが面会謝絶の状態にある影響からか少なからず休業中の建物もあったけど、
むしろそんなある種の非常事態にあってもこれだけ明るい雰囲気を保っている辺りに、
街そのものの秘めたポテンシャルやジョウセツの人望が伺える。
『ようお二方、待たせちまったな。
色々ひと段落したトコだし、約束通り"例の場所"へ案内するぜ』
軽めの散策を続けること暫し……
用事を終えたゲンジョウ女史と合流したあたし達は、
案内されるまま『陽狐宮』に向かった。
『着いたぜ。中のモンには話をつけてある、遠慮なく上がってくんな』
宝玉燭曙陽狐宮。
萃晢魄壌街の中心部に建てられたその建物こそは、
街を統治する第八天瑞獣の住まう邸宅にして、
彼女の率いる自治組織『主懇陽拝党』の活動拠点……
つまりは街の運営に無くてはならない政治と産業の要でもある。
邸宅に着いた以上、いよいよジョウセツとの謁見か……と思っていたけど、
ゲンジョウ女史曰く『謁見に先駆けて説明しておきたい重要事項がある』とのことで、あたし達は応接室に通される。
『悪いな。この件についてはどうしてもお二方に知っといて貰いてえ話なんでな。
あと今部下に連絡したら、ジョウセツの奴を落ち着かすのにもう暫くかかりそうって話だったんで、
ただ待たすのも忍びねぇって』
「そりゃ別に構いませんけど……」
「して、我々が知るべき重要事項とは……?」
『そうだなぁ、なんて説明したもんか……』
ううむ、と思わせぶりに瞑目して考え込むゲンジョウ女史。
果たして彼女の言う"重要事項"とは……
(;州=_=)<正直な話、あんまり長引かせてもアレだから手短にお願いしたいんだけど無理そうだなあ……
『まずアレだ。うちのトップのジョウセツ。
奴が今なんで隠れてるかっつー話だが……
言っちまうと、敵の攻撃で深手を負っちまったのが原因でな』
いかにも長引きそうな口ぶりで、いきなり核心に迫る情報を口にするゲンジョウ女史。
ある意味予想通りの答えなもんで感想としちゃ『やっぱりか』ぐらいのもんだったけど……
『"敵"は名を悪禍実つってな。
悪しき禍を実らせるとかそういう意味合いだよ。
陽元の地に遥か古代から存在してた、ウイルスだか悪霊だかみてーな連中なんだが』
「ウイルスとか悪霊みたいっていうと……」
「つまり、他の生物に感染・憑依するような存在であると?」
『おうよ。人間やらの知覚種族に取り憑きやがって、奴らを気持ち悪ィ化けモンに変えちまうんだ。
その化けモンには媚累禍……媚び諂って累なる禍って意味合いの名がついてて、
悪禍実よりこっちのが実質ヤバいような扱いなんだが』
「」「」
続け様に語られた情報は、あたし達を凍り付かせるに十分過ぎた。
だってさあ、彼女の言う敵の情報って、まんま特定変異体と変異原のそれなんだもん……。
『実を言っちまうと、お二方が悪禍実や媚累禍を狩り回ってる件についちゃ
こっちでも把握させて貰っててな?
近々戦力としてスカウトさせて貰おうかと思ってたんだ』
「それはまた……すごい偶然があったもんですね」
「然しより驚くべきは、あの怪物群に正式な名称があり、
遥か古の時代より居付いておった事実に御座いますがね」
『なんでぇ、お二方は奴らが何かも知らずにあそこまで上手く戦ってたってのか?
それはそれでとんでもねぇ話だな……』
「まあ、その辺は『不可思議怪異追跡社』様のお陰ですね~。
あの方々に協力して貰えなかったら、今までそんな上手く戦えてないですよ」
隠す理由もないし、この際なのでゲンジョウ女史にも特定変異体絡みのアレコレを明かしておく。
『なるほど、変異原に特定変異体か。堅苦しい雰囲気はあるが、悪くねえ単語のチョイスだ。
悪禍実の分類なんかはこっちより本格的まである……この名づけは逆輸入してもいいかもしれねェ。
色ごとの傾向や対処法も、短期間でよくここまで調べ抜いたもんだ』
聞けば太古の昔から悪禍実(媚留禍)と戦い続けて来た『陽拝党』サイドだけど、
諸事情から奴らに対しては後手に回らざるを得ない時期が長かったんだそう。
『お陰で悪禍実の調査にも時間かかっちまってなぁ。
確かな対処法が確立されるまで戦闘面はほぼジョウセツに丸投げで、
他の陽拝党員はサポートとか事後処理なんかに専念せざるを得なくてよ~』
なんて自嘲気味に語るゲンジョウ女史だったけど、
昔の陽元と言えば近隣諸国とは不仲だわ災害は多いわで
現代からは想像もつかないぐらい過酷な土地だった。
よって、例え補助的な役回りに徹せざるを得ないとしても
悪禍実や媚累禍みたいな未知の脅威に立ち向かっていたのは素直にスゴい。
ましてそんな戦いを気が遠くなるほど長い間続けてるんだから猶更だろう。
『奴らは元々不規則に、何の前触れもなく自然発生しちゃ方々を荒らし回っててな。
発生要因を解明しつつ発生源を特定して、どうにか一か所に封印はできたんだが、
すると奴ら今度は内側から封印を綻ばせやがってよ。
五千年周期で外ん出て来ちまうようになっちまったのよ』
なるほど、大神先生の調べ上げた情報にはそういう事情があったのか。
何となくイメージはしてたけど、実際事情を知る方からの証言は説得力が違う。
『ま、それでも奴らは結界に阻まれて螢都の外には出らんねーし、
力も弱まってっから概ね八日程もありゃ再封印は容易い。
ただ、悪禍実とやり合ってる間のジョウセツは太陽光の制御ができなくなっちまう。
つまり……』
「エニカヴァーの全土に於いて、丸八日間の日食が起こる……と」
『そういうことだ。
これがフツーの化け物や害虫の群れを根絶やしにするってんならそうもならねぇんだが、
悪禍実は諸事情あって「封印しとかねーとヤバい相手」なもんでなぁ』
ゲンジョウ女史に曰く、
嘗て陽拝党が悪禍実の根絶を試みた時には『世界規模のとんでもない大惨事に発展しかけた』らしく、
以後は駆除・察処分こそすれ決して根絶せず、勢力を弱体化させた上で封印するのが大原則になったんだそうな。
『……と、ババアの長話に付き合わせちまって悪かったなァお二方』
「いえ、お気に為さらず」
「むしろこんな有意義な情報聞かせて頂いて有り難うございます~」
さて、そんなこんなでゲンジョウ女史からの情報提供がひと段落した頃……
『――ん、すまねえお二方。部下からだ、ちぃと外すぜ』
彼女の業務用端末に連絡を入れてきたのは、
今の今迄"ある仕事"を担当していた部下の方々。
『もしもし、私だ。どうした赤佐。
……おう。そうか。
ふむ。おお。……要するに大丈夫、と。
わかった。ならそう伝えるぞ……。
――ん。
苦労かけてすまねぇな、ありがとうよ。
うん。じゃあそうしてくれっか。
――ああ、じゃあな。
"天の導き、地の護り、人の賛けがあらんことを"』
通話を終えたゲンジョウ女史は、
徐ろにあたし達の方へ向き直ると、意味深に口を開く。
『ようお二方、待たせたなァ。
ようやっと"謁見"のお時間だぜぇ〜』
次回、遂にジョウセツと謁見……したはいいものの
 




