第百十一話「元ネタから性格まで、何から何まで"わかりやすい"けど、だからこそ疑ってかからなきゃいけない。それこそ"ミスリード"も含めて」
遂に誘拐犯コンビと対面した二人は、
色々ありながらも手短に済ませようと人質の解放を要求するが……
読者のみんな、ご機嫌よう。
いつも本作『つい☆ブイ!』に寄り添ってくれてありがとね〜。
さて、前回に引き続き今回もこのあたし、便利屋魔女パルティータ・ピローペインが
東方の大国"陽元"西部の大都市"螢都"からお送りするよ〜。
「オイ余所者ども、最初に説明しといてやる!
オレの名は八剱カナタ!
国立幌主学園大付属高で徒会書記をやってる力天使だ!」
「そりゃご丁寧にどうも、Mr.八剱」
「がああああっ! "男性"じゃねええええっ!
オレは女だこのボケがぁ! その乳膨らまして破裂さすぞゴラァァァッ!」
『落ち着けヨッ、カナタァ。
そんなだからオメー、学校でも大鬼だ雪猩々だって言われンだろォ~?』
場面は螢都に聳える不毛の岩山"黒縄岳"中腹。
呼び出されるまま延々登山を続けていたあたし達の前に現れたのは、
翼の生えた小童こと女学生天使の八剱カナタと、
その相方っぽい片言の雌有翼四足竜……
つまるところ、病院を襲撃した件の"誘拐犯"コンビに他ならない。
『大体オメーはよォ、普段から些細なことでキレ過ぎなんだよなァ。
名家出身で名門公立校所属の生徒会役員なンダし、
もちっと清楚・貞淑にっつーか、
上流階級ポイ立ち振る舞いってのを心がけよーとか思わねェのかァ?』
「うっせーなクム! 今ぁそんなことどーだっていいじゃねえか!
こいつぁ今迄十七年間オレを苛んできた不倶戴天の大問題なんだよ!
今迄オレがどんな想いしてきたか知らねーお前じゃねーだろっ!?
チキショォォォォ! なんでどいつもこいつもオレを男と見間違えやがるんだぁぁぁ!
喋りや服装がいけねーのかと思って色々気ィ付けても女装男子に間違われやがるし、
挙句変なゴミヤローに電車ん中でパンツん中まさぐられた挙句
『チンチンついてなぁぁぁぁい! 男の娘じゃなぁぁぁぁい!
騙したなこの糞ビッチめぇぇぇ! ブッヒイイイイ!
許さんぞ貴様、訴えてやるぅぅぅぅぅ!』
とかキレ散らかされやがるし!
そんなオレが!
手柄ドロボーのムカつく余所者にまで
男扱いされたってんならキレるっきゃねーだろフツーよぉ!」
……どうやら男扱いは八剱にとっちゃかなりの地雷らしく、
加えて同情せずにはいられない過去の持ち主なようで。
けど他人のあたし達にしてみりゃ関係ない。
肝心なのはスバルちゃんの救出ただ一つ。
「ああ、悪かったねMs.八剱」
「その件に関しては此方に落ち度があった。謝罪させて頂きたい」
「ケッ、雑な謝り方しやがってよぉ」
(丁寧に扱って欲しいなら相応の振る舞いを心掛けりゃいいのに……)
煽ってやっても良かったけど、長引かせてもアレだからさっさと本題を切り出すとしよう。
「さて、それで本題なんだけどサ……
あんたらが攫った女の子、呉空さん家のスバルちゃんを返して貰おうか?」
「貴様らの狙いは飽く迄我々であろう。ともすれば彼女は無関係のハズ。
我々が其方の指示通り呼び出しに応じた以上、少なくとも彼女を自由にするのが筋ではないのか」
「はぁん!? バカかてめーはっ!
オレぁ『呉空のガキ返して欲しけりゃ黒縄岳に来い』とは言ったが
『黒縄岳に来たら呉空のガキを返してやる』とは言ってねぇだろうが!
呼び出しに応じただけで大した交渉もせず人質返す誘拐犯がどこに居んだよ!
こういう時はなんか人質解放の条件とか色々と相談したりするだろフツーは!
んだよてめーよ!
図体ばっかデカく育ちやがって、
脳ミソに栄養が行ってねーのかぁ!?」
「……ふむ、いかんか。如何にも頭の悪い、
名ばかり上流階級めいておったのでこの程度でも騙せると思ったのだがな」
「 だ ま せ る か ァ !
つかてめー、さらっとオレを家柄や血筋しか取り柄のねえカス扱いしやがったなこの野郎!?
言っとくけどオレはこれでも学業成績全科目学年首位、
赤点なんざ取ったこたぁねえんだよッッ!」
『マ、「東方五大国高等学校生クイズ大会」ジャ陽元代表にもなれなかったし、
成績も進級してカラは赤点を余裕持たせて回避する程度にマデは下がってっけどなァ~』
「うるせーぞクム! 余計なこと言ってんじゃねー!
てか
『あんな見せモン特化、
芸能人がいいカッコしてーだけのゴミ企画で勝とうが負けようが
そんなもんで実力は測れねぇ』
って言ったの他でもねえオメー自身じゃねえかよ!
あと成績落ちたとは言えそれでも赤点は取ってねぇんだからいいだろ別に!
つかやること多いわ内容複雑だわで勉強まで中々手ぇ回んねえんだからしょーがねえだろっ!」
……ほっとくと話が脱線したまま長引きそうだし、多少強引にでもこの辺りで軌道修正しとこうか。
「うちの婚約者が失礼なこと言ってすまないね。
それで話は戻るけど、人質解放の交換条件ってのを聞いてもいいかな?」
すぐに思いつくのは身代金……
まあ額にもよるけど、為替レートを考えるならそこまで苦でもない。
ただこいつの場合、どうやら金目当ての誘拐なんかじゃないようで……
「おお、いいだろうとも言ってやるよ交換条件をよぉ~。
おう余所者ども、耳ん穴ァカッ穿ってよーく聞け!
知っての通り呉空んトコのよくできた妹はオレらが預かった! その解放条件は、ただ一つ!
それはなぁ、余所者ども! 他ならぬてめーらがこの陽元から出て行くこと!
或いは陽元を出て行かねえまでも、一連の化け物騒ぎに今後一切関わらねえことだぁっ!」
「……はあ?」
「なんだと……!」
提示された交換条件に、あたし達は思わず耳を疑った。
次回、なんやかんやで戦闘勃発!




