表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/134

第百九話「こういう情報は"役立つかどうか"じゃなく"如何に役立てるか"だからね」

構成とか台詞選びとかで過去トップクラスに難産だった。

いやマジで書くの大変だったんだって、冗談抜きにさ。

本当、今週中に更新できないんじゃね? って不安になったからね……

 読者のみんな、御機嫌よう。

 いつもいつも本作を応援してくれてありがとね~。

 さて、前回から引き続き今回も例によってこのあたし、

 便利屋魔女パルティータ・ピローペインがお送りするよ~。


「――端的に結論申し上げますとね、

 ジョウセツ様は過去にもお隠れになられとりますんや。

 それも複数回、キッチリ五千年に一度の一定周期でっ。

 もっと言うたら前回お隠れになられたんは

 今年から丁度五千年前やっちゅうのも間違いありまへん」

「なんと……! それはつまり……」

「彼女が表舞台から姿を消したのはご自身の意思での行動、ってコトですね?」


 場面は螢都某所に建つ豪邸"呉空邸"の一室。

 大学教員で腕の立つ考古学者でもある大神正臣先生の口から告げられたのは

 『第八天瑞獣"陽光のジョウセツ"は定期的に――恐らくは、能動的に――表舞台から姿を消していた』

 っていう、聊か驚かずにはいられない若干衝撃の事実だった。


「はい。確かに今迄お隠れになられとったんはご自身の意思で間違いないでしょう。

 けども、今回はどうも例外臭いトコがあるようなんですわ」

「例外、ですか?」

「ええ。例外ちゅうか

 『今回に限っては不測の事態により隠れざるを得んのちゃうか』と思わずにはおれんような、

 そんな気がしてならんのです。

 と言うのもですね、

 調査過程で必然当時について記した考古資料の内容を纏めてみたんですけれども、

 過去にジョウセツ様がお隠れになられた時と今回では幾つか相違点がありまんのや」


 大神先生に曰く、その"相違点"とは……


「まず第一に挙げるべき相違点は、時期の大幅なズレですわ」

「時期の……」「……ズレ?」

「はい。確かに今年は五千年に一度の

 "ジョウセツ様がお隠れになられる年"なんは間違いないんですけど、問題はその時期……

 記録によると過去ジョウセツ様がお隠れになられたんは、

 決まって十月から十一月にかけての一定期間と決まっとったようなんです」

「なるほど。今は七月だから、それだけでもう相当早い計算になりますね」


 何ならジョウセツが姿を消したのはあたし達の陽元来訪ずっと前らしいから、

 少なく見積もっても春頃……普通より凡そ半年近くも早いとなったら、

 よっぽどの事態に陥ってると考えるべきだろう。


「第二の相違点は、お隠れになられとる期間の長さですねん。

 今回のは明らかに長すぎますのや」

「……確かに嘗ては自ら積極的に外部へ顔を出しておられたハズの所、

 約半年もの間表舞台に出ないとは聊か不自然ですなァ」

「長すぎるっていうと、具体的にはどのくらいなんです?」


 半年が長すぎるってくらいだし、精々一、二ヵ月くらいだろう……

 あたし達は無意識的にそう推測していたけれど、大神先生の口から出たのは驚くべき返答だった。


「丸々八日間……きっかり192時間丁度ですわ」

「よ、八日ぁ!?」

「"長い短い"どころの騒ぎではないっ……!」


 こうなるともう"よっぽどの事態"って言葉さえヌルいかもしれない。

 一体ジョウセツに何があったんだか……


「そして最後の相違点……

 これが一番の肝ちゅうか、一連の騒動を異常事態たらしめとる最大の要因なんですけども……

 五千年に一度の八日間……つまりジョウセツ様が何処かへお隠れになられとる期間は

 連続して日食が発生しとったようなんですわ」

「日食、ですか?」

「はい。過去の天文現象について詳細に記録された複数の文献に記録がありましたし、

 当時から生きとられる方にも何人か取材さして頂いたんですが

 皆様口を揃えて

 『当該期間は日食が延々続いて

  昼夜の区別もまるでつかないほど暗かった』と証言しとられまんねや」


 最後に告げられた相違点……一見蛇足のようにも思えるけど、

 その実『ジョウセツが不本意な隠遁を強いられてる』って説に対する何よりの根拠でもあった。

 何せ天瑞獣はそれぞれ色々な形で自然界の様々な要素と密接に関わっていて、

 中にはその膨大なエネルギーで自然現象そのものを制御する役割を担ってるようなのもいる。


 そしてジョウセツはそういう『自然現象を制御するタイプの天瑞獣』の典型とされていて、

 『陽光』っていう通り名のままに太陽と関わりが深く、太陽の光や熱を調整する能力を持つ。

 何なら関わりの深さのせいで太陽の化身なんじゃないかって説が出るくらいだし、

 ともすれば身を隠すのと同時に日食が起こったって何ら不思議じゃない。


「つまりこれらの調査結果を考慮しますと、

 この度のジョウセツ様の隠遁は何かしらの外的要因に基づく

 "ご自身にとって不本意なモン"なんは間違いないやろうと認識しとります。

 ほんで彼女は元来、五千年に一度の八日間に渡って身を隠しておられた……

 個人的憶測になりますけども、身を隠した先で何か、

 螢都ひいては陽元の為に身を削ってらしたんではないでしょうか」


 大神先生の述べた憶測は、概ねあたしが脳内で思い描いていた内容とほぼ一致していた。

 多分、隣に座るダイちゃんも似たような考えに至ってたんじゃないかな。

 実際、その証拠に……


「……飛躍の過ぎる言説に御座いましょうが、

 ジョウセツ様に不本意な隠遁を強いた"外的要因"……

 その実態とは即ち、彼女と敵対する勢力からの攻撃であるとは考えられませんかね」


 直後――まるで示し合わせたみたいなタイミングで――彼の語った憶測も、

 あたしの脳内にあるそれと大差なかった。


「あたしもそう思わずにいられませんよ、先生。

 なんかジョウセツ様に悪意を向けてるような……

 過激派左派組織とか変なカルト教団、あとは愚連隊なんかの工作員が

 彼女を排除しようと仕向けたとしか……」


 さて、先生の返答や如何に……


「お二人のお気持ちはようわかります。

 確かに僕自身、一連の騒動の裏には何やどえらい悪意が潜んどるんちゃうかとか、

 そんなイメージに囚われたんも一度や二度では済みませんのや。

 ただ如何せん本件はまだ信用に足るデータが足りませんし、

 調査もそこまで進んどるようには思えまへんで、結論出すんはまだまだ先ちゃうかなぁと。

 そもそもそれ以前に、本件は僕みたいなカタギが首突っ込んでええ領域なんか? とか、色々迷うたりもしたんです……」

「先生……」

「言うてまあ、僕自ら乗り掛かった船です。

 落ちるまで下りるワケにはいかんやろなって、ハラ決めましたんで。

 今後もできる限りの協力はさせて頂くつもりですけどもねっ」


 決意と覚悟を示す大神先生の姿はやけに頼もしく、心強いように感じられた。


「さて、そんなわけで今後の調査方針についてなんですけれど、

 ジョウセツ様関係以外にも例の特定変異体や変異原っちゅうバケモンについても

 学術的観点から探り入れてこ思うとるんですわ」

「名案に御座いますなァ。思えば確かにあの連中も

 この時期に出現したとなれば本件と全くの無関係とは言い切れますまい」

「何でしたら奴らについて詳しく調べ上げて下さってる

 『不可思議怪異追跡社』さんを頼ってみたらどうですか?

 確かあちらの方々も変異原や特定変異体については

 『遥か大昔から存在していた可能性が高いんじゃないか』って考えてるみたいで、

 歴史学・考古学的な観点からの調査にも多分積極的だと思いますし。

 よろしければあたし達の方から紹介させて頂きますけど~」

「おおー、そらぁ有り難い話ですわ。

 大切な教え子の仇ですし、なんかしらブチかましたらんと気ぃ納まらんかったんですわ」


 てな具合で、話し合いは順調に進んでいくものと思われたんだけど……

 直後、事態は予想外の急展開を迎えてしまうんだ。




「大変やーっ! 大変やぁぁぁぁぁっ!」


 話し合いが始まってから暫く後……

 邸内にやたら騒がしい叫び声と床材を踏み抜かんばかりの足音が響く。


「大変や! 大変や! ドエライこっちゃ一大事やでぇぇぇ!」


 物凄いスピードであたし達のいる部屋の前までやってきた声の主

  ――概ね二十代前後の若い男――

 は、部屋の引き戸を力一杯開き乍ら尚も叫び続ける。


「大変やーっ! 大変やっ! 大変やー! 変態やーっ!? あっ、違うわ大変やーっ!

 とんでもないコトなってもうたでどないすんねんこれぇぇぇぇ!」

「なんや兎田野とだのくん、どないしてん騒々しいなぁ。

 お客様の前でアホみたいに騒いだらアカンやろ~」

「あっ! おっ、おっ! 大神センセぇぇー!

 大変なんです! ドエライことなってもうたんですよぉー!」


 ひどく慌てた様子の彼は兎田野とだのくん。

 呉空家に仕える使用人の一人で、若くして本家の重鎮からも一目置かれる逸材だそう。


「ドエライことって何やねんな。

 またぞろ大旦那様が坊ちゃんの件で教委と揉めたとか、

 若奥様が同担拒否のバカ詰めたとかそんなんちゃうんかい?」

「ちゃいますよぉ! 幾らオレかてそない程度でここまで取り乱しませんわ!

 ホンマにドエライ一大事なんですって!」

「わかったわかった。とりあえず落ち着かんかいや。ほれ、深呼吸や深呼吸」


 促されるまま深呼吸をした兎田野くんが冷静さを取り戻すのに

 そう時間はかからなかった。


「……落ち着いたようやな。ほな、何があったんか説明してくれんか?

 君ほどの男があそこまでパニクるっちゅうたらよっぽどなんやろ?」

「はい。……実はその、スバルお嬢様がですね……」

「おお、スバちゃんか。確か今日は入院しとるウイちゃんの見舞いに行っとったやんな。

 君も同行しとったやろ。どや、初ちゃん元気そうやったか?」

「はいっ。すっかり元気になられとりましたし、

 病院の方や他の患者さんらからもしっかり者やって相変わらず評判ええですね。

 担当のお医者様曰くええ感じに回復しとるんで、早けりゃ今月中には退院できるそうで

 ――って、そうやなくてですね大神先生! 昴お嬢様が大変なんですよ!」

「おっと、そやったな……スマンの。

 初ちゃん心配過ぎてつい脱線してもうたわ。

 で、昴ちゃんがどないしたんや? 帰り道に交通事故んでもうてもうたか?」

「交通事故……確かに一大事ですけど、それやったらまだマシやったでしょうね……」

「なんや違うんか。一体スバちゃんに何があってん」

「その……大きい声では言えへんのですけど、ここだけの話……」


 躊躇いがちにな様子の兎田野くん。果たして彼の口から出た"ここだけの話"ってのは……


「スバルお嬢様、バケモンに攫われてしもたんです……」

「……なんやてぇ?」

(ウッソでしょ……)

(何故彼女が……)


 まさに"衝撃的"の一言に尽きたんだ。

次回、攫われた呉空スバルを助け出せ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ