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第百七話「大体は雑魚ばっかりだけど、たま〜にシャレになんないくらい"面倒"なのがいる。"強い"っていうか"戦ってて苦痛"な奴が」

次々現れる特定変異体……!

 読者のみんな、御機嫌よう。

 前回から引き続き今回もこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが東方陽元の大都市螢都からお送りするよ~。


「ッザケンナァアアッ! ボゲガァァァッッ! ドイツモコイツモ動物達ノ悲鳴ヤ涙カラ目ェ背ケヤガッテェ! ソレガ知覚種族(人間)ノスルコトカァァァァ! コノ俺直々ニ断罪シタラァァァァ!」

「戯けがァ~。貴様のその発言こそ草本人アルラウネ樹木人トレント植物精ドライアドといった植物系知覚種族に対する明確な差別……知覚種族にあるまじき大罪であろうがァ~」

「ウルセエウルセエウルセエウルセエエエエエエエッ! 俺ノ正義ニケチ付ケンナッコノ動物虐待野郎ガァァァァァ!

 オドレハ所詮ッ、私利私欲ノ儘ニ動物達ノ命ヲ奪イ尊厳ヲ踏ミ躙ッテ出来タ屍ト糞ノ山ン天辺デ踏ン反リ返ッチャジブンガ世界ノ支配者ヤナドト勘違イシテイキリ散ラカシテルダケノ小汚ェゴキブリヤロガァァァッ!

 知覚種族ガ動物ヨリ格上デ、ダカラ何シテモ構ワネエト思イ込ンドルオドレラ強欲傲慢ドブネズミドモナンゾ殺虫剤火炎放射デ焼キ払ッタルゾゴラァァァァ!」

「はいッ、アウトぉ~。環境保全や動物愛護の為に反肉食語ってる奴が動物の名前を蔑称に使った挙句自ら動物虐待と環境破壊を宣言するとか馬鹿じゃないの?」

「全くですなァ。『私利私欲のまま動物を殺し尊厳を蹂躙し、踏ん反り返って支配者ぶっている小汚いゴキブリ』とは間違いなく奴のことらしい……」

「なんならあいつの見た目もわりとゴキブリっぽいしね~」

「グギギギギイアッガアアアアアアッ! オドレラアアアアアアアッ!」


 さて、例によってあたし達は特定変異体を追い回しながら螢都のあちこちを駆け巡っていた。

 行く先々で遭遇する特定変異体は、姿形から能力まで千差万別の曲者揃い……しかも大抵、しぶとくて厄介なのが多いもんだから地味に苦戦を強いられていた。

 とは言え実際、殆どの特定変異体はそこまで強いワケでもなく、周辺住民を避難させつつ周囲への被害を抑えるようにして戦えば、決して勝てない相手じゃない。


 因みに変異原に寄生されて特定変異体に成り果てた所謂"素体"の奴らにも色々いるんだけど、変異原が元々『不当な我欲や悪意に囚われ心に隙のできた知性体』に寄生したがる関係上ロクなのが居ないんだ。



(州=Д=)<例えばこんなのとか……



 ●CASE 1


「ウギギギギイイイグギギギガアアアアアッ! ミィィィコピィィィ! ミコォォォォッピィィィィィイイイイ!

 ウラギリオッタナコノアバズレガアアアアアアッ! オレイガイノオトコトツキアウナンテエエエエエエエッ! ウラギリヤアアアアアッ!」


 全身皮膚が無く、眉間から生えた海綿体の角から白く粘ついた毒液を噴射する盲目の一角獣……その正体は、所謂"ガチ恋勢"だったドルオタの独身男。

 推してたローカルアイドルへの独占欲を拗らせた挙句、その結婚報道に激昂した勢いで変異……アイドルの所属事務所を襲撃しようとした。

 曲がりなりにも一角獣型だからか機動力は高く、蹄の足踏みは乗用車を踏み潰しアスファルトや石畳を粉砕するほど強烈……早い段階で仕留められたから良かったものの、長丁場になった時の被害は計り知れない。


 ●CASE 2


「ギャアアアアアッ! 雄ガッ! 牡メガッッ! オスドモガアアッ! ソオヤッテ女性ヲ見下シテ利用シテエエエッ! 許サン許サン許サアアアアアアンッ!」


 特定変異体に成り果てる奴らは当然生物だけど、変異後の姿も生物型とは限らない。

 その端的な例として、極端なまでに男嫌いを拗らせた挙句ネット上で度々方々に喧嘩を売っては騒ぎを起こしていた"自称エセフェミニスト"の独身女が素体になった特定変異体は、全体が錆び付いて刃こぼれを起こした、空中浮遊する巨大裁ちバサミっていう、何ともシンプルかつ衝撃的な姿になってしまった。

 当然刃こぼれを起こしているので物体を切断することはできないんだけど、"持ち手"不在の癖に挟み込む力はやたらと強かったし、何より動きは結構素早く先端だって鋭くて上頑丈……突進で分厚い鉄筋コンクリートの壁もぶち抜く破壊力は素直に脅威としか言い様がなかったんだ。


 ●CASE 3


「ヴェンヴォヴォヴァヴォヴァアアアン! バルロロラロラァァァン! 俺ハ風ッ! 俺ハ嵐! 誰モ俺ノスピードニハ追イ付ケネーシ邪魔モサセネェェェェ!」


 さっき紹介した似非フェミニスト独身女のケースと同じく、無生物型の特定変異体に成り果てたのがこの如何にも頭の悪そうな喋りの男……その実態は公道で違法改造車を乗り回し、度々悪質な煽り運転を繰り返していた"走り屋"を自称する暴走族。

 その歪んだ趣味が変異原の共感を招きでもしたのか、成り果てたのは歪で醜悪な違法改造車の化け物……しかも、垂直の壁を登ったり、ジェットエンジンで空を飛んだり、刃物や機関銃を生やして攻撃したりとその挙動は車輛の域を逸脱してるなんてモンじゃない。

 つまるところ、単純な能力に限れば特定変異体の中でも例外的にアホほど強いんだけど、素体の暴走族がどうしようもなくバカだったお陰でそんなに苦戦はしなかった。


 ●CASE 4


【今度こそ! 今度こそオレは成し遂げるんだ!『唯一絶対の(オンリーワン・)真なる世界史(トゥルー・ヒストリー)』を解き放ち! 世界に公表して! 嘘で塗り固められたこの世界を救わなきゃいけないんだっっ! なあそうだろう、アカリ!】


 その日、探知システム入りの端末は火傷しそうな程に熱を帯びていた。もしかしたら、その上に湯を張った鍋でも置けば素麺くらいは茹でられたかもしれないってぐらいに……勿論、それより前に端末が故障してるだろうけど。

 そんな事態を引き起こしたのは、探知システムが探り当てた嘗てない程強大な特定変異体の反応……これはとんでもない奴が出たに違いないと現場へ急行したあたし達を待ち受けていたのは、ブレザータイプの学生服を着たやたら芝居臭い台詞回しの少年だった。

 予想外過ぎる展開に、探知システムの誤作動や見間違いを疑ったあたし達だったけど……実はこの一見平凡そうな見た目のティーンエイジャーこそ、一連の騒動で遭遇した中でもトップクラスにヤバい特定変異体だったんだ。


【――ああ、君ならそう言ってくれるだろうと思ったぜ! オレと君と、そしてクロノーカンたちがいれば不可能なんてありゃしないんだぁ!】


 虚空に向かって喋りかけ、あたかも"誰か"からの返答があったかのような一人芝居に興じる少年……結論から言うとこいつは末期の薬物乱用者で、特定変異体と化すずっと前から常に薬物の見せる幻覚の世界に囚われていたんだ。

 幻覚の世界での奴は、相方で先輩格の少女"アカリ"と共に変形合体する虫型タイムマシン"クロノーカン"を駆り色んな時代を飛び回る組織『時空管理機関ドラリアン』の新米構成員っていう"設定"――但し当然、奴自身はそれが紛れもない事実だと思い込んでいる――で、

 政府の陰謀により闇に葬られた『唯一絶対の(オンリーワン・)真なる世界史(トゥルー・ヒストリー)』――奴曰く『教科書や歴史書に記されている表の歴史よりずっと面白くて素晴らしいもの』――を解き放ち世間に公表するのが使命、らしい……勿論それも薬物の幻覚に基づくただの"設定"なワケだけど。


【フェイクヒストリー株式会社の社員ども、お前らの悪事もここまでだ! つまらなくて無価値な偽りの歴史なんてオレたちが打ち砕いてやる!】

「何を訳の分からぬことをかしおるかァ~」

「口を慎みな小僧。お前は世界的敏腕冒険者とその妻になる女の前に居るんだよ」


 ……とまあ、これだけなら単なるイカレヤク中に過ぎずぶっちゃけ敵にすらならないんだけど、こいつの厄介な所は幻覚準拠の"設定"を虚構で終わらせないって所にある――簡単に言うと"クロノーカン"とやらを自在に召喚・使役できてしまうんだ。

 多分、他の特定変異体が持つ空中浮遊や肉体変化なんかと同系統の特性・異能の類なんだろうけど、それにしたって何もない空間から何の予備動作や準備も無く、小型でも乗用車くらい、大型ともなれば軍艦サイズにもなるようなでかい虫型ロボ――それも、並みの軍事兵器より高性能で武装も豊富、その上自我を持ってて自律行動が可能で変形合体までする全二十四機――を一瞬で何機も召喚しては意の儘に乗り回したり使役してくるんだから質が悪い。

 加えて五種類全部の変異原が寄生していて、しかも軒並み潜伏期間がべらぼうに長いもんだから中期段階をも通り越して後期段階にあったのも――髪型がオールバックになるどころか、首が折れそうなくらいには――向かい風だったんだ。


【行くぞカブタイタン、ガタキング、イナゴッド! スーパー全合体だぁ!】

【了解だ。ブルーホーン隊、後に続け】

【御意! レッドブレード衆、出会えい!】

【しょーがねェなァ~。グリーンジャンプ団、集合ォ~】

【【【クロノーカン、スーパー全合体!】】】

【完成! ハイパークロノーカン・トゥエンティフォースアニバーサリーエディション!】


「とうとう全部合体しちゃったよ。しかもなんかもうゴチャゴチャし過ぎてるし全員金色だしで何がなんだかわかんないし……」

「何が|二十四周年記念版《トゥエンティフォースアニバーサリーエディション》だ、貴様らなぞ精々二十四分程度、記念する程の値打ちがあるかァ~」


 その余りの桁違い・規格外っぷりは流石にあたし達でも持て余すレベル……最終的には消防や警察、螢都に拠点のある冒険者ギルド四つの他、陽元陸軍までもが駆け付け協力してくれたお陰で被害を最小限に抑えつつ効率的に仕留められたけど、正直あんなのとは二度とやり合いたくないよね……。



 (州;=~=)<周囲に被害出さないように神経擦り減らしてるってのにあの規模はキツいって……



 さて、そんな感じに方々で特定変異体を倒して回ること早二ヵ月……あたし達を取り巻く状況は、目に見えて好転し始める。

 と言うのも……


「本当ですか!?」

《はい、ようやっと見付けましたわ! これぞお二方のお眼鏡に叶う収穫やと確信しとります!》


 調査を依頼していた大神先生から、第八天瑞獣ジョウセツと接触する上での手掛かりになり得る決定的な情報を得られたって旨の連絡を頂いたんだ。


「いやあ、長かったねぇ……漸くだよ」

「ええ。早速確認へ向かわねばなりますまい」


 先生曰く極秘裏に続けていた調査の末に得られたその情報は『機密保持も兼ねて直接伝えたい』との事で……あたし達は早速先生の待つ呉空邸へ向かった。


大神正臣が掴んだ情報とは……

次回、一連の騒動の裏に潜む黒幕が明らかに……!?

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