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第百六話「こんな奴ら生かしとくのもどうかと思うけど、かと言って殺す価値もありゃしない」

Q.なんとなくカルト教団の全容を察したけど、明晰夢デート編とか見るにパルちゃんも同じ穴の貉といえばそうじゃない?

A.実は全く違う。パルティータの"アレ"はあくまで"彼氏と遊ぶ・彼氏を愛でる行為"であって攻撃的な意思とか悪意の類いは全くないし、何なら敵に対して"あのタイプの攻撃技"は絶対に使わない。

 何故なら彼女にとって"あの技"は彼氏と遊ぶ時に使うもの、最終的に彼氏を気持ちよくする為のものっていう認識だから。

Q."生やして遊ぶ"ってどういうこと?

A.そのままの意味。ペッコスーヴァで愚連隊相手にしてた時の台詞も併せて色々察してくれると助かる。

 読者のみんな、御機嫌よう。

 前回に引き続き今回もこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが陽元西部の大都市"螢都けいと"からお送りするよ~。


「――お前らのその癪に障る態度と、

 勝手に全世界全宇宙全時空の女を代表したつもりになってる身の程知らずな口の利き方ッ!

 あと男に対する慢心と逆恨みが拗れまくった結果形成されたクソ以下の異常性癖が何より気に入らねェのよォォォォッ!」

「グヒィーッ!? ガギャギャギギャゲギャギャギギャゲェーッ!?」


 場面は螢都北部の街"丘頃きゅうき市"某所の地下施設。

 "不可思議怪異追跡社"様謹製の探知システムに導かれてこの街へ来たあたし達は今現在、

 特定変異体との戦いに身を投じていた。


「グッ、ガギャアッ……! 貴、様ァ……!

 女トシテノ義務カラ逃ゲ、ソノ誇リヲモ捨テ去リ、

 空ク迄男風情ニ媚ビ諂ウ惨メナ宿命ヲ受ケ入レ嬉々トシテ惰眠ヲ貪リ堕落ノ道ヲ歩ムト――」

「やかましいっ! "枝豆散弾ズンダ・バックショット"!」

「ボビャッヘェェェ!?」


 差し詰め"鈍器の手足を生やした歪な胡桃割り人形"めいた姿の特定変異体

 ――確か素体の名前は"賜離たまわり"だったかな――

 とにかく奴の顔面へ、至近距離で攻撃魔術を叩き込み吹き飛ばす。

 その名も"枝豆散弾ズンダ・バックショット"。

 枝豆サイズの魔力弾を散弾よろしく炸裂させて広範囲を攻撃する魔術だけど、最大の特徴は……


「グギイアガガギャギギャギガガゲギィィィッ!?

 何ヤッ、此レェ!? 蔓ガッ! 蔓ガ頭ニイイイッ!

 ギッ!? グウウアッガアアアアッ!

 ギャアアアッ! ア゛ッ!

 ガア゛ア゛ッ! ア゛タ゛マ゛ガッ!

 割゛ア゛ア゛ア゛レ゛ル゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ!」


 炸裂した魔力弾の着弾位置を起点に召喚系魔術の術式を展開、

 伸縮自在かつ頑丈な蔓植物に敵を追尾させて締め上げる効果に他ならない。

 吹き飛ばされて尚こちらに向かって来ようとしていた賜離だったけど、

 急所の頭を無数の蔓で縛り上げられちゃ身動きも取れないらしい。


「おおーぅ、青霞せいか黒靄こくあいの複合だもんで

 やっぱり緑煙りょくえん象徴元素シンボリック・エレメントが有効みたいだねぇ~。

 いい苦しみっぷりだ……

 お前らの被害に遭った皆さんの味わった地獄を追体験するといい……!」

「アッギャアアアアアッ!

 グギャガアアアアアッ!

 ウグオエアガアアアアアッ!」


 このまま放置しておけばじきに変異原も死滅、賜離も衰弱状態で元に戻るだろう。

 となると……


(となったら、あとは手下の信徒連中だけか……)


 そう。この賜離だけど、実はここ丘頃市を拠点に活動するカルト教団の教祖だったりする。

 教団の詳細については割愛するけど、所謂男嫌い(ミサンドリ)拗らせた知能指数ミズカビ以下のバカ共、ぐらいに思っておけば多分大丈夫。

 さてそんなアホ教団だけど、どうやら予てより"バカ過ぎる計画"を実行に移そうとしていたそうで、

 けどまあこの手の無能の典型なのか、事ある毎に教祖の賜離はその計画を先送りにしていた。


 そんな折、賜離に変異原が寄生……

 特定変異体になりつつも自我を保ち続けた奴はそれを

 『神から与えられた、正義を行う為の特別な力』と誤認。

 手下の信徒連中を言葉巧みに扇動し、件の"バカ過ぎる計画"を実行に移そうと裏で暗躍していた。



 (州▽∀▽)<でまあ、その後の展開はみんな知っての通りさ……



「ひいやあああっ!? 教祖様がやられたぁぁぁぁ!」

「かッッ、かくなる上はッッ! 逃げるしかっ――」

「まあ待て……」

「ぐぎゃああああっ!?」

「あがっ……あ、あしがあああっ!?」


 さて、教祖トップの惨敗に信徒どもは逃げ出そうとするけど、

 そうは問屋が卸さないとばかりにダイちゃんが妨害……

 手足や翼を撃ち抜かれた奴らは、身動きが取れないまま立ち往生してしまう。


「どうした貴様ら……

 『股座を蹴り上げるだけで倒せる男は下等生物』ではなかったのかぁ?

 『社会の支配者は女であるべき。

  男は精巣(睾丸)を持つ限り女より根本的に劣った存在であり、

  断じて女の上に立つことはない』のだろう?

 だというのに何故貴様らは逃げる?

 自分は間違いなく男だぞ?

 貴様らならば余裕で圧勝できように、

 何故倒すどころか戦おうとすらせんのだ?

 以前似たようなことを吐かすバカ共とやり合った経験ことがあるが……

 連中はまだ骨のある態度を崩さんかったぞ?

 見た所貴様らはその連中より金も規模もある……

 にも拘らず、たかが一人の下等生物風情に少々攻撃された程度で逃げ出すつもりか?」


 嘗て相手取った愚連隊アクメージョスを引き合いに、ダイちゃんは呆れた様子で信徒たちを煽る。

 この手の反社会的な連中は得てしてやたら気が荒くて無駄にプライドだけは高いんだ。

 普通ならこんな風に煽られて黙ってるなんて有り得ないけど……


「ひっ! ひいいいいっ! かっ、勘弁して下さいぃぃぃぃ!」

「私達が間違ってましたっ! 調子乗ってすみませんでしたぁぁぁぁ!」

「就活で見下してた同級生の男がすんなり大企業入れたのに

 自分はパートなのが腹立ってやらかしちゃっただけなんですぅぅぅぅぅ!」

「私は大学受験で失敗して滑り止めの私立に通ってた所を誘われてぇぇぇ!」

「若気の至りだったんですぅぅぅぅぅぅ!」

「魔が差しちゃっただけなんですぅぅぅぅぅぅぅ!」

「どうかお許しをぉぉぉぉぉぉ!」

「命だけはお助け下さいませぇぇぇぇぇええええ!」


 奴らと来たら反社会的勢力の癖に根性もプライドもまるでないようで、

 眼前のダイちゃんに情けなく土下座で命乞いをする始末。

 当然そんな命乞い如きでうちのダイちゃんが納得するワケもないんだけど、

 さりとて彼は信徒たちの命を奪うつもりもないようで……。


「……安心せよ。

 誰も貴様ら如き殺そうとは思うておらん。

 元より自分は生来紳士的な人道主義者で通っておるのでなァ、

 そもそも貴様らに殺す必要性や値打ちを見出せぬのよ」

[SIN’S DRIVER!!]


 殺さない旨の発言に安堵する信徒たちを尻目に、

 ダイちゃんはしれっとシンズドライバーを起動する。

 多分殺さない程度に苦しめて再起不能にするつもりなんだろうけど、さて何を選ぶやら。


("怠惰スロウス"の冷気で動きを封じるか、

 "強欲グリード"で拘束具を作るか、

 さもなきゃ"貪食ラヴェノス"の重力操作かな?)

「――グウウウギエエエエエエエ……!」

「やかましいっつってんの」

「グゥゲェッ!?」


 未だ胡桃割人形の姿で悶える賜離の顔面を蹴飛ばしつつ、

 あたしはダイちゃんの動向を見守っていた。

 はてさて、それで結局彼が選んだ形態はというと……


「……いざ、顕現」

[KEN-GEN!! INCARNATE VULGAR DRAGON!!]

『我が罪悪。我が劣情。我が劇毒。

 即ち罪竜……有毒なる色欲(ヴェネメス・ラスト)ッ』

(ほほーぅ、若干意外めなチョイスだねぇ~)


 七大罪の色欲を司る、サソリと山羊の特徴を持つ雄淫魔インキュバス風の"有毒なる色欲(ヴェネメス・ラスト)"だった。

 毒々しい紫色をした、サソリの特徴を持つバフォメット

  ――地球では悪魔として伝わり、エニカヴァーでは知覚種族として実在する――

 とでも言うべきこの形態は、固有能力でもってありとあらゆる毒劇物を合成して攻撃に転用できる。

 ただ有名な格言にもあるように結局の所『毒とは量』だからなのか、

 成分同士の配合や分量を調整すれば毒物以外も結構色々作ってしまえる。

 つまるところ実質的には"化学物質操作"とか"薬品合成"の能力なのかもしれない。


『ンン~っ♪ 「性とは生にして正」っ☆

 「己を愛し他者をも愛せばこそ肉の悦びには価値がある」っ♥

 ……なんともはや実に名言っ♥

 正に格言ではないかなっ、これらの言葉はっ♪』


 さて、そんな色欲ラストに変身したダイちゃん。

 見るからにヤバそうだけどその実わりと冷静沈着な彼は、おもむろに信徒たちへ歩み寄り……


『貴様らは罪を犯したぁ☆

 よって生きてその罪を償い、更生せねばならぬ♪

 その為にはァ~、一度身を以て"経験してみる"のが好かろうてぇ……♥』


 体内で合成した何かしらの毒劇物をガス状にして尾の先端から噴射……

 身動きの取れない信徒たちや、丁度変異原が死滅して元の姿に戻っていた賜離なんかに浴びせていく。


「うっぐ!?」

「なんなの、これ!? なんかミョ~にネバつくんだけどっ!?」

「ぅぅぅ……なんか甘ったるくて気持ち悪い……!」

「ぁー……眩暈がしてきたっ……」


 毒々しい程に鮮やかなピンク色の毒ガス……

 差し詰め気化した水飴みたいなそれは、

 呼吸器や皮膚を通じて奴らの体内に取り込まれ、その心身に異変を引き起こす。


「っ!」

「なっ、ああっ!?」

「ひいっ! いやああっ!」

「なっ、何なのよっコレぇぇぇ!」

「嫌ぁぁぁぁぁ! そんなっ、バカなぁぁぁぁ!」


(あーらら、取り乱しちゃってまぁ~)


 毒ガスを浴びて"異変"に見舞われた奴らの姿ときたら実に滑稽そのものだった。

 あるエルフは衣類越しに存在を主張する"下半身の不自然な隆起"を見るや驚いて尻餅をき、

 またあるウェアウルフは何かの間違いだと"そこ"に触れるも未知の感触に思わず絶叫している。

 癇癪を起こしたオーガは止せばいいのに"それら"を自分で殴り付け自滅同然に苦しみ悶えた挙句失神したし、

 恐る恐る"下着の中"を覗き込んだドラゴニュートは絶句の後精神が崩壊し幼児退行する始末。

 より悲惨な状況に陥っていたのはリザードマン、ラミア、シャーカンとかその辺かもしれなかった。

 何せ奴らの"それ"ときたら、種族特性上仕方ないんだけどビジュアルが中々強烈だからね。


「うわあああああああ!」

「おわあああああああ!」

「ぎゃあああああああ!」

「なんじゃっこりゃぁぁぁああああ!?」

「有り得ないぃぃぃぃぃぃ!」


(……しっかしそんなにショッキングなもんかねぇ?

 あたしにはちょっとその辺わかんないなぁ~)


 正直、学生時代に興味本位で"挑戦"してからというものの

 『魔術で"生やして遊ぶ"』のがデフォルトなあたしからすると奴らの心境はどうにも理解できない。

 まあけど、ともあれしっかり苦しんでるんなら制裁としては正解だったんだろう。


「いやぁ~ダイちゃん、考えたねぇ♪

 毒劇物調合の応用で体組織変異薬を合成しちゃうなんて、

 ぶっちゃけ神懸かり級に天才的で爆裂的にセンスしかない最高の発想じゃんっ★」

『ヴェェレッヒヒヒヒヒィ……♥

 お褒めに与り光栄に御座いますぞパル殿ぉ~♪

 此奴らめの犯した罪と思想・価値観・認識の歪みを考慮するに、

 こういった形での制裁が最も効果覿面かと愚考致しましてなァ~♪』

[GOOD JOB.THAT'S A FEAT]

「んンっ……♥

 ――無論、単に変異を引き起こしただけでは御座いませぬ……

 それでは抜け道なぞ幾らでもありますからなァ~……

 ――ッふはァ♥」


 変身を解除したダイちゃん――精神汚染のせいか顔はほんのり赤らみ、息遣いも僅かに荒い――が言うには、

 件の毒ガスは単なる"肉体を部分的に変異させる薬"ってワケでもなく、

 脳や神経系なんかにも作用して色々な角度から奴らを苛むように設計してあるらしい。


「……あらゆる"抜け道"を封じつつしっかり"学習まなばせる"よう、

 れやれやと仕掛けを施しましたァ♪

 善き行いや考え、思いには"快楽(褒美)"を。

 対する悪しきそれらには"苦痛(罰則)"を、といった具合にねェ~♥」

「ホホーゥ、詳細を聞く迄もなく君のその言葉だけで凡そどんなもんか察しがついたわぁ~。

 でも罰則(苦痛)は兎も角として褒美(快楽)ってのは余計じゃない?」


 実際、それは皮肉でも冗談でもなく純粋な疑問だった。

 生かす価値も殺す価値もないような連中に態々褒美をやるなんてのは、

 一見無駄なようにしか思えないからだ。

 けれどダイちゃんが言うには……


「お言葉ですがパル殿……それは安直な発想、聊か見通しが甘いと言わざるを得ませぬなァ♪

 此度下した制裁は、此奴らめを単に苦しめるのではなく、

 "学び"により更生させ無害化する為のものに御座いますぞぉ~★

 ともすれば、罰し苦痛を齎すだけでは内なる悪意を増幅させ

 却って要らぬ被害が出てしまうやもしれませぬ……♪」

「なるほど。けれどそこに快楽って形で褒美を与えれば、

 ワンチャン褒美(快楽)目当てで善に励むようになるかもしれないってワケだ」

「如何にもその通りで御座いますっ♥

 元より特定変異体とはあくまで変異原に寄生され心を狂わされた被害者っ☆

 素体となった者も無罪とは言いませんがァ? 元凶は空く迄変異原に御座います♪

 此度のこの連中に関して言えば、

 実際特定変異体と化した賜離は元より奴に付き従っていた信徒共も、

 聊か乱雑な定義ではありますが変異原に狂わされし被害者と言えましょう☆」

「ま、そりゃそうだねぇ~。"約束"もあるし、結局の所こいつらは雑に扱えない、か……」


 そう、今回の特定変異体騒動について協力を得るにあたって"追跡社"サイドからは

 『特定変異体の素体になった者はじめ、変異原の被害者は可能な限り生かすこと』って条件を提示されてるんだ。

 一応『明らかに無理な強制はしない』『やむを得ない事情がある場合は例外とする』とも言われてるけど

 向こうとしては変異原の脅威から市井の人々を守りたい一心であたし達に協力してくれてるワケだし、

 無駄な殺人なんてしないに越したことはないから約束を破るつもりなんてない。

 つまりは……


「まあ、なんだね……あとは警察と司法に任せよっか」

「ええ、それがいでしょうなァ」


 てなワケで賜離と信徒どもを魔術で拘束したあたし達は、

 通報を受けて駆け付けた警察に奴らの身柄を引き渡しその場を後にしたんだ。



次回、特定変異体と戦い続ける二人の元へ、待ちに待った"あの報せ"が!

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