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第百四話「贅沢言いたかないんだけど解析作業が本当にめんどくさい」

特定変異体なんて大体こんな奴ばっかりだから……

 読者のみんな、御機嫌よう。

 今回も前回から引き続きこのあたし、便利屋魔女パルティータ・ピローペインが陽元西部の大都市螢都からお送りするよ~。



「ヴオエアアアアアアアッ! ガアアアアアアアッ! カネカネカネカネエエエエエッ!

 ヤスムナ! ヤアアスムナアアアアアアア! ハタラケエエエッ! ハタラケエエエエッ!」

「ぎゃあああああ! 社長がなんか頭ドリルんなった豚の化け物にいいいいっ!」

「こっ、殺されるぅぅぅぅぅ! 今度こそマジで殺されるぅぅぅぅぅ!」

「もう限界やっ! こんな会社辞めたらァァ!」

「ろ、労基っ! てか警察、寧ろ冒険者ギルドぉぉぉぉ! 誰か何とかしてくれぇぇええええ!」

「ドッラアアアアアアッ! ゲエアアアアアアッ! ロウドウキジュンホウガナンボノモンジャアアッ!

 ヨノナカカネヤアッ! カセイダヤツガセイギナンヤアッ! コンジョウタリンゾオドレラアアアッ!」

「あンのクソ社長っ……! もう許せへんっ! オラァ、退職届代わりに喰らっときやァ!」

「ちょっ、先輩!? 何しとんすか! あのゴミ憎いんはわかりますけどここは逃げなアカンでしょーがっ!」


 場面は螢都にあるオフィス街の一角。

 近頃落ち目の老舗企業"宝音たからねプロテクト"の敷地内は、怒り狂った社長(老害)の豹変に伴って惨劇の舞台と化した。

 当然、社員たちからすれば仕事なんてやってる場合じゃないワケで……命の危機を察した彼らは次々とその場から逃げ出していく。


「ナンヤゴラボケクソガアアアアアアッ! ドイツモコイツモニゲヨッテガゴラァァァァァ!

 ヤトウテキュウリョウハロタッタオンワスレタンカユトリノクソドモガアアアアアッ!」


 特定変異者になって暴れ回る老害(害悪)の所為で社屋は崩壊、敷地内だって見るも無残な瓦礫の山と化していくけど、元々同社は陽元西部でも有数の悪徳ブラック企業として悪名高く、

 当代の経営者(装飾品)は社員どころか取引先や客さえ金儲けの為の踏み台ぐらいにしか思ってないらしいので特に何も思わない。


「うーん。最早説明不要なくらい変異前がどんな奴か丸わかりだねぇ~」

「憐れむ気すら失せる有り様とはまさに奴の為にある言葉に御座いますなァ……」


 一足遅く惨劇の現場に駆け付けたあたし達は、化け物になって暴れ回る宝音プロテクト現社長、穂村野ホムラノ 道雄ミチオと対峙する。


「ウオエアアアアアアアアアッ! ナンヤッオドレラァァッ!

 ワシンカイシャンナカデナニサラシトンジャボケエエエアアアアアッ!

 イテコマッゾゴラアアアアッ! ボケガアアアアッ!」


 その姿は差し詰め"首を撥ねて円錐形の巨大ドリルをくっつけた大型重機サイズの巨大猪"……穂村野の元の種族が何かは知らないけど、

 何から何まで"ブラック企業の悪徳経営者(無能老害)の成れの果てに相応しい姿"なのは間違いないんじゃないかな。

 ……っていうか、顔らしきものもないのにどうやって喋ったり呼吸したりしてるんだろう?


「カァァァァァァアアアアアネエエエエエッェェェェェッ!」


「……突発的に発生した点から察するに"初期段階"といった所ですかなァ」

「うーん、どうだろ……潜伏期間とか浸蝕度合いによっては変異したてでも"中期"とか"後期"になることもあるみたいだし、一概には言い切れないんじゃないかなー。

 とりあえず()()()()()()()()とかもハッキリさせときたいし、一旦調べてみるからその間足止めお願いしていいかな?」

「お任せを……」

[SIN'S DRIVER!!]

「ナァァァメンナユトリガアアアアアア! ブッツブシタラアアアアアアアッ!」


 ダイちゃんに穂村野の対処を任せたあたしは、奴の詳細と対処法を探るべくパソコン内のアプリを起動する。

 その名も"怪異存在解析機"こと略して"PEA"……"不可思議怪異追跡社"技術部謹製のアプリケーション・ソフトウェアで、

 怪奇現象やそれを起こす存在の正体を探り適切な対処法を導き出す為に開発された代物で、この度最新バージョンへのアップデートでもって特定変異体にも対応可能になった優れものだ。


「ナァニヲゴチャゴチャヤットンネンコノヌケサクガアアア!」

「いざ、顕現!」

[KEN-GEN!! INCARNATE IRASCIBLE DRAGON!!]

「ヅワッヂャアアアアアアアア!? アツッ! アヅッ! アヅウウウッ!?」


 一方、ダイちゃんは穂村野を迎撃すべくシンズドライバーを起動する。

 彼を包み込むのは、リチウムかストロンチウムでも混ぜたように鮮やかな赤い炎……物凄い勢いで燃え盛るそれは、穂村野に突進どころか接近さえ許さない、まさに炎の防護壁。


「えーっと、カメラとマイクへのアクセスを許可して……っと。これ機動の度に一々設定し直さなきゃいけないのが面倒なんだよなぁ~。

 ま、技術部の皆さんも頑張って下さってるんだし贅沢言っちゃいけないんだけど……」


『我が罪悪! 我が嚇怒! 我が獄炎! 即ち罪竜……バァァァァニングッ・ラァァァァスッ!』

「ヌワアアアッ!? ナンジャアッソリャアアアアア!? ワケワカランゾボケガアアアアッ!?」


 ともすれば彼が変身した形態が"燃え盛る憤怒(バーニング・ラース)"だってのは、文字通り火を見るよりも明らかだろう。

 バーニング・ラース。その名の通り憤怒の悪徳を司るこの形態は、オオカミ、サル、一角獣の特徴を持つ上、炎と熱を操る能力も相俟ってとにかく真正面からの殴り合いに強い。

 しかもその反面不器用かというとそうでもなく、概ね十本前後ほど生えてるオマキザルの尻尾は伸縮自在かつ結構器用……つまるところ、見た目や雰囲気の割に案外汎用性が高い形態でもあるんだ。


『ガルグゥルグガロロロロロロロロ……! 騒がしいぞ老害の畜生風情がァ~!

 細切れにして鶏そぼろならぬ豚そぼろにでもしてやろうかァ!?』

「ァンヤトンノッボケカスガァ!? ユトリゴトキガナメタクチキイトットイテコマスゾゴラ――」

『喧しいッ!』

「ボベェアアアアアッ!?」


 背中から翼代わりに生えた――といって実際ここだけの話、実は翼としての機能も有していたりする――類人猿の豪腕が穂村野の横っ腹へ強烈な右フックを叩き込めば、推定十トンは下らなさそうな奴の巨体は軽々吹っ飛ばされる。

 他のパワー特化の形態には当然劣りこそすれ、それでも普通に考えたらとんでもない怪力だ。


(……とりあえず足止めは問題なさそうだし、今のうちに解析を進めないと)


 何せ特定変異体は並みの怪物と比べても中々に厄介な連中なんだ。具体的に説明するなら『"追跡社"が専用の対処ガイドラインを設けるぐらい』と言えば、その厄介さが伝わるかな?


(対処ミスると倒せないどころか更に被害が拡大しちゃうからね。そうなったら振り出しに戻るどころの騒ぎじゃないよ……)


 距離や位置取りなんかに気を付けながら、あたしは穂村野の"解析"を試みる。


(えーっと……まずは録画した映像の解像度を上げて、録音した敵の声からノイズを除去――

 これをAI解析システムに通して情報を確認……っと、この辺りで魔力粒子分析ツールのセットアップが終わるハズだから――)


「エエカゲンニセェコラァァァァ! ワシノジャマスンナボゲゴラァァァァッ!

 ヒトサマニメイワクカケタラアカンユーテイエヤガッコデオソワランカッタンカゴラア!?」

『私利私欲を拗らせ金に目が眩み、大勢の罪無き者を不当に苦しめた貴様が常識を騙るなど片腹痛いわァ! 一先ず貴様が片腹を痛めておけェ!』

「グエッヘエエエエエエッ!?」


 穂村野の突進を躱したダイちゃんは、カウンターとばかりに奴の横っ腹へ渾身の貫手を叩き込む。

 鋭さに重きを置いた一撃は重厚な巨体を吹き飛ばしこそしなかったけど、その分奴の内側へ確実にダメージを与えていく。


(……頼むから解析終わるまで殺さないでよ? 頼むよダイちゃん!?)


 内心不安になりながらも、あたしは解析作業を進めていく。


(はてさて、あの無能老害の腹の内はどうなってんだかねぇ……)

次回、特定変異体の厄介な特性とは!?

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