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第百二話「近頃だと子供を堕落させない為に『電車に近寄らせない』親なんてのがいるらしいけど……」

場面はとある駅から始まる……


 読者のみんな、御機嫌よう。

 いつも本作『つい☆ブイ!』を応援してくれてありがとね~。

 さて、今回も前回に引き続きこのあたし、

 便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが陽元西部の大都市"螢都"からお送りするよ~。


「ぅぅぅ……! ぁぁっ……! な、んでえっ……なんでダメなんだあっ……!

 ボクは、ボクはあっ……! 電車を撮りたい、だけなのにィっ……!」

「いやねお客はん、別に電車の写真撮るんはかまへんのですよ。

 ただ他のお客はんに迷惑かけたり、電車の運行邪魔したらあきまへんやろっちゅう話でんがな」


 場面は螢都都心部に建つ"百季ひゃっき駅"西区画二番ホームの駅員詰所……。

 住民から旅行者まで大勢の人々を運ぶ交通インフラの要であるのみならず、駅そのものが観光名所としても名高いこの場所で、

 電車の写真撮影に心血を注ぐ所謂"撮り鉄"の男がアザラシ型海獣人(セルキー)の駅員に取り押さえられていた。

 原因は"撮り鉄"にありがちなトラブル……要は撮影の為に電車の運行を妨げたり、駅の利用客に迷惑をかけたとかそんな所だった。


「なんでだよ……勘弁してくれよぉ……! あのアングルじゃなきゃ、上手く収まらないんだっ……!

 あそこに三脚を立てなかったら、いい写真が撮れないんだぞぉ!?」

「いやそんなん言われましてもね? 他のお客はんが迷惑しとりますし、運転士もお客はんがあそこ居られたら正直迷惑やっちゅうて言うとりまんのや。

 ……とりあえずお客はん、あんま抵抗せんといたって下さいよ? お互い鉄道警察やらのお世話にはなりとうないでっしゃろ?」

「ふざけるな……ふざけるなぁ……! ボクは客だぞ、カメラマンだぞっ……!

 ボクが写真を撮るお陰でみんな素晴らしい電車の写真を見れてるんだと何故気付かないんだ……!?

 本来ならボクの鉄道写真には何十何百万の高値がついてもおかしくないんだぞっ……!?

 それを特別に無料で見せてやってるってのにどうしてどうしてどうしてっ……!」


 そいつの種族としては夾竹桃キョウチクトウ型の樹木人(トレント)だけど、

 感情より理論でものを考えがちで概ね温厚かつ合理主義な傾向の強い樹木人としては有り得ないぐらいの荒れ狂いようで……。


「ぁぅぁあ……へぅぁぁぁ……みんなそうだ……!

 そうやってボクの邪魔をするんだ……! みんなボクを傷付けて楽しんでるんだ!

 ボクのことなんて誰も理解してくれないんだぁぁぁぁぁぁぁ!

 グウウアガアアアアアアアッ! アッガアアアアアアアアアッ!」

「うわっ!? ちょっとお客はん!? 暴れんといて下さい!

 っていうか何もそこまで言うてませんやんか! ちょっ、落ち着っ! 落ち着いてっ!」


 突然、狂ったように……っていうか、実際紛れもなく発狂して暴れ出す撮り鉄。手足や頭髪みたく生えた枝を鞭よろしく振り回せば、それはもう立派な凶器になる。


「ボクはカメラマンなんだァァァァァッ! 最高の瞬間を写真に残すボクを敬え愚物どもがぁぁぁぁっ!」

「ぐっ! づわっ! だーっ!? 痛い痛い痛いっ! お客はん! いい加減にしなはレベーッ!?」


 如何に体格のいい海獣人セルキーでも、その打撃には一溜りもない。

 ……しかも、それだけでも大概ヤバい状況なのは間違いないけど、今回は輪をかけて危険な事態に陥っていくんだ。


「グァゲガギャアアアアアアッ! デンチャアアアアアアッ!

 デンチャッ! デンチャアアッ! シュポッ! シュポポッ! シュッポポシュッポポォォォォオオオオッ!」


 発狂し喚き散らかす樹木人の男に、如何にも不吉かつ有害そうなオーラが纏わりつき……瞬く間に原型を留めないレベルの恐ろしい化け物に姿を変えていく。

 まさに、嘗て螢都総合科学大学の敷地内で黒い大鬼に成り果てた呉空初みたいにね……。


「デンチャアアアアッ! サツエエエエエエッ! シュッポシュッポポガタゴットァッ!

 ガタガタガタゴトゴトゴトガタゴトシュッポォォォォォォッ!」


 変異したその姿には、樹木人どころか植物っぽい要素もそれほど見受けられない。

 バラバラにしたカメラや電車の部品を無理矢理繋げて作ったような、いびつなウミシダみたいな化け物……


「ガタゴトガタゴトゴトゴトガタッ! シュポシュポッポシュポッポポポポシュポォォォォ!」

「どわっ!? な、何や!? 何が起こっとんのや!? ちょっ、ヤバイっ! 誰かっ! 誰かぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!」


 数本の、丸太ほどもある触手を振り回しながら暴れ回る化け物……詰所が瓦礫の山と化すのにそう時間はかからなかった。

 当然駅員も命惜しさに逃走……人々で賑わっていた都心部の駅が怪物騒ぎの開始点、阿鼻叫喚の地獄絵図になったのは言う迄もない。


「デンチャッ! デンチャアアアアアアッ! シュッポポシュッポポシュポシュポプヒイイイイイイイッ!」


「ぎゃああああああ! 助けてくれぇぇぇぇ!」

「殺されるぅぅぅぅ!」

「なんでこんな目に遭うのぉぉぉぉぉ!」


 化け物によって破壊されていく駅舎、逃げ惑う人々……判り易いぐらいの危機的状況。


「シュッポヒッ! ポヒィイイッ! シュシュポッピィィィィ! デンチャ! デンチャアアアアアッ!」


 如何にも特撮とかでありがちな、防衛部隊とかヒーローなんかが現れて事態を解決しそうな雰囲気。

 その場の誰もが、圧倒的な力で事態を解決に導く"奇跡のような正義"の降臨を望んでいただろう。

 けど残念乍ら、現実ってのは非情なもんで……


「あーっれまぁ~、派手にやらかしてくれてんねぇ~。

 一体何がどうなってんだか今一把握できてないけど、とりあえず全力で止めちゃいますかァ」

「……被害者数・被害総額共に未知数……最早情状酌量の余地なし。力の限り撃滅する……!」


 その場に誰より早く駆け付けたのは、誰もが待ち望む"奇跡のような正義"なんかじゃなく、寧ろその真逆……"俗物じみた邪悪"に過ぎないあたし達だったんだ。


「ザァァァッツェエエエエエッ! ドラッゼロォォォ! ヂャッヂィィィィィン! ドゥェエエエエンチャァァアアアアアアッ!」

「何言ってんだかサッパリだね……ダイちゃんどう? 行けそう?」

「お言葉ですがパル殿、それは愚問に御座いましょう。何せ自分はこの通り、準備万端ですのでねェ~!」


 不規則にうねる鉄屑触手の化け物を前に、あたし達は臨戦態勢で身構える。

 見るからに厄介そうな相手……これ以上の被害拡大は避けたいし、いっそ殺す気でるべきかもね。


次回、撮り鉄が変異した化け物との激闘!

そして何故二人は化け物の出現場所に急行できたのか!?

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