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第百一話「どうしようもないアホが昔はまともだった、なんてのはよくある話」

いよいよ大神教授と接触成功!

 読者のみんな、御機嫌よう。

 いつも本作『つい☆ブイ!』を応援してくれてありがとね~。

 さて、今回も前回に引き続きこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが陽元西部の大都市"螢都"からお送りするよ~。


「この度はうちの初を助けて頂き有難うございます。ほんま、何てお礼を申し上げたらええんか……」

「いえ、当然の事をした迄ですので……」

「そうですよ。ほんと全然、私らにしたら大したことじゃないですから」


 場面は螢都の都心部に建つ豪邸――国内有数の名家として知られる"呉空家"が暮らす邸宅――の一室。

 ヒスって怪物化したアホ女子大生の呉空初くれそらウイを図らずも救ったあたし達は、紆余曲折を経て大神正臣先生と対面させて頂いていた。


「ただ、あそこで動かずにいられなかったってだけで」

「言うなれば本能クセのようなもの、大層な動機では元より御座いませぬ故……」

「……けれどそれでも、お二方は僕にとってあの子を救って下さった恩人ですんでねぇ……」


 呉空家の分家筋出身で呉空初の親戚にあたる大神先生は、そのまま訥々《とつとつ》と語り始める。


「あの子は……ウイは元来純粋で気が強うて、曲がったことや悪いもんが許せんタチやったんです。

 自分の倍ぐらいある上級生が野良猫虐めとんのが許せん言うて素手で向かって行ったりとか……元々は単に正義感の強い、心根の優しいええ子やったんです。

 せやけどそれが何時の間にやら変な方向に歪んでもうて、気付いた時には何でもかんでも手当たり次第悪者扱いして喧嘩吹っ掛けるようになってもうてからね……」


 なるほど、奴は所謂色々と拗らせたタイプだったワケね。まあ、見るからにそんな感じはしてたけどさ。


「ただそれでも身内のことは大切に思うてくれとりましたし、何なら本家筋やのにから、しがない分家筋の僕を日頃から先生、先生言うて慕ってくれとって……

 大学決めた時も、『大神先生の授業受けんねや。大神先生のいる大学行くねん』言うてくれてね……ほんで実際授業態度も真面目やったんですよ、最初の内は」

「と、言いますのは……」

「あれは忘れもしません、僕が担当してる陽元史学の第五回……そん時のテーマは『陽元史の闇』でした。

 要するに、嘗て陽元に根付いとった邪悪な制度や文化、戦時下に敵国へ行った蛮行やら、そんな歴史の裏側、知られざる暗部をざっと学んでこう、みたいな講義ですわ。

 歴史っちゅうモンには裏と表がある……過去を学ぶ為にはその両方を学ばなあきまへんのや」

「成る程、それは確かに。教育者として至極真っ当なお考えかと」

「あたしも社会化とか歴史は好きな科目ですけど、やっぱりそういうダークサイドも避けては通れないっていうか、

 そういう所まで学ぶからこそ歴史は面白いし意味があるんだろうなって思いますね」

「お二人とも、有難う御座います……。僕もそういうスタンスで講義やっとりまして、講義は学生からも好評やったんです。

 せやからあの子も……初もきっと気に入ってくれると思うてましたんや……」

「けど実際蓋を開けたら、彼女は授業内容に腹を立て、貴方を悪党扱いし始めた、と」

「はい……突発的に、講義室全体に響き渡るぐらいの大声で『こんな話大学の授業でするもんやない』とか『苦手な奴に配慮しろや』とか怒り出して……

 ほんで僕も、なんていうか真剣に考えんでから、授業進めなアカン思うて軽い気持ちで『そんな嫌やったら出てったらええ。講義受けるも受けんも君の自由や』て言うてもうてね……。

 どうせすぐ正気に戻るやろ、もう大人なんやしすぐ落ち着くハズやって、高括っとりましたのや……。

 けど実際、初は講義室を出て行ってしもうて、そのまま戻らんで……」


 先生はその後程なく、呉空初が一切授業に出ず方々で大学や自分を貶めて回っていると知り、あの時引き止めなかった自分の判断をひどく後悔したという。


「初はもう大人です、自分のしたことの責任は自分で取らなあきまへん。けど大人でも悩み迷うことはある。

 そういう時には周りが導いて、支えたらんとダメなんです。そこは年齢とか立場とか関係なく、誰にでもそんなようなもんが必要なんです。

 僕は親族として、教師として、あの子を導いて、支えたらなアカンかった。けど僕はそれを怠った……それは紛れもない事実ですのや。

 あの子があんなんなっちもうたんはあの子自身の自業自得ですけど、さりとて僕が何も悪くないか言うたら、そんなことはないんですよ……!」


 大神先生の言葉や態度から、あたし達は彼が学生思いで責任感の強い教師なんだと理解した。


「挙句、あの子はなんやようわからん化け物になって暴れ出してもうたとかで……お二方に止めて頂けんかったら、今頃どうなっとったか分かったもんやありまへん。

 ピローペイン様、ツァイ様、此度はほんま、うちの初を助けて下さり有り難うございましたっっ……!

 僕にできる事でしたら何でもさせて頂きます! 何なりとお申し付け下さい!」


 力一杯、額を打撲しそうな勢いで頭を下げる大神先生。

 正直そこまで大したことをした覚えはないし、彼の方が圧倒的に格上なんだから頭を下げられるのは気が引ける。

 というわけでどうにか宥めてから、本題を切り出した。


「……ジョウセツ様について、ですか?」

「はい。そもそも我々がここ螢都へ降り立ちました目的も、かの御方との面会に御座いますれば」

「けどジョウセツ様、ここ最近は表舞台から姿を消してしまわれてるって話じゃないですか。

 主懇山すこんざんにあるお住まいに立ち寄ろうとしても山岳警備の方に門前払い食らうし、そもそも引き籠もってしまわれた原因だって明かされてないし……。

 で、色々考えた結果、彼女について調べれば何かヒントが得られるんじゃないかと思い立ちまして、なら螢都イチの歴史学者って評判の大神先生にお話を伺おうってコトになったんですよね」

「なるほど、そういうことでしたか……。何や、螢都イチの歴史学者っちゅうのは流石に買い被りが過ぎる気しかしまへんけども……わかりました。

 初を助けて下さった御恩に報いたいですし、僕でよろしければ可能な限りお力添えはさせて頂きます」

「おお、それは心強う御座いますなァ」

「有難うございます。助かります」


 といった感じで大神先生に協力して貰えることになったあたし達は、宿に戻るべく呉空邸を後にしたんだ。



(州;−_−)<ま、大神先生も多忙だろうし、身内があんなことになっちゃった以上そこまで身動き取れないかもしれないけどさ……



「いやー、なんとか上手く行ってくれて良かったよね……」

「ええ。専門家の協力を得られたのは間違いなくプラスでしょうなァ。とは言え、専門家に頼り切りというわけにもいきませんが」


 夕暮れの螢都市街。

 繁華街にあるうどん屋に来たあたし達は、麺を啜りながら今後の計画について話し合っていた。


「それは勿論そう。あと呉空初が化け物になった件についても念の為調査しといた方がいいだろうね」

「間違いありませんなァ。素人考えですがあれは明らかに異変の類……時期からしてジョウセツが表舞台から姿を消した件とも何かしら関係しているやも知れませぬ」

「仮に無関係だとしても、民衆を襲う化け物を退治して事件を解決に導いたってなれば向こうからの株も上がるかもだし」

「そのような言い方もどうかと思いますが……仮にそうなれば魂絆証も授かりやすくなりましょうなァ」

「よし、じゃあ先生から連絡があるまではそういう感じで行こうか。ま、あのタイプの化け物探すのがまず大変そうってのが悩みどころではあるけども……」


 てな感じで作戦は決まり、翌日からあたし達は改めて独自に動いていくことになるんだけども……


「やれやれ、やっと見つけたぜ……わりと時間かかっちまったけどよ」

「あれが財王龍ツァイ・ワンロンとパルティータ・ピローペインか……。見るからにヤバそうだな。単なるイケメンと美女のカップルってワケじゃなさそうだ」

「ああ。だが、だからこそやる価値があるんだ。俺たちの作戦はな……」


 実はこの時、影で動き出した奴らが居た事実に、あたし達はまだ気付いていなかったんだ。


次回、螢都に現れた謎の化け物を追え!

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