第53話 嫁の兄さん その1
俺の嫁ライネの実家にやってきた。
毎月少なくとも一度は来ているのだが、自分の家じゃないのでどこか緊張するな。
そんな俺は、ライネの部屋で大人しく俺の対応をしてくれるライネの兄さんを待っていた。
ライネの部屋で待っていると義理の兄であるエルモがやってきた。
「お待たせカズヤ。
あれ? ライネは?」
「お裾分けに持ってきた野菜を厨房の方に持って行ってもらってる。
それと、今月分だけど、ラージャ」
「うむ、家賃と町の店の税金なのじゃ!」
ラージャが空間収納から取り出した革袋を机に置いた。
それと別に紙の手提げ紙袋を俺は受け取る。
町の店ってのは、フジノ町の事じゃない。 このオールストレームの町にある俺の店の事だ。
野菜とか工芸品や日用雑貨を取り扱う小型のスーパーみたいな店で、そこそこ流行っている。
店の広さで毎月の税金が決まるらしいが、広い店でも売り上げが少ないとか狭い店でも売り上げが多いとかになると不公平が出ないのかしら?
俺が心配する事でもないが、兎に角、この町にある店の税金は月に3ゴールドと言われた。
「毎月毎月、律儀だな。
町の店の分の税金は頂くが、家賃は必要ないんだからな。
お前達は、使っていない山の中に住んでるんだから、毎月こんなに支払う事ないぞ」
革袋を見るエルモが呆れて言ってくれた。
革袋には、ざっと100ゴールド分の金貨が入っている。
「山の土地を好き勝手に使わせてもらってるんだ、気にしないで受け取ってくれ」
俺は、金貨の詰まった革袋を持ち上げエルモに渡す。
「ありがたく受け取るが、俺とお前は家族なんだから、金とかそんな気を使わなくても良いんだからな。
工場の建設も始まってるし、かなり稼いでるのだとは思うが、今後の事も考えてちゃんと貯金しているか?
兎に角、ライネを幸せにしてやってくれ」
エルモが心配して言ってくれた。
とても良い奴だ。
「なんとか貯金も出来ているし、ライネ達に金で不自由はかけていない。
だから、毎月このくらいの事は大したことないよ」
エルモに言ったが、本当に大したことが無い。
フジノ町での税収や売り上げで儲けてる俺からしたら毎月100ゴールドくらい凄く微々たるもの。
ライネの実家は俺のフジノ町の存在を知らないから、ちょっとした成金程度に思っているのだろう。
「カズヤのいう通りなのじゃ、山の土地を使わせてもらっておるから気にしないでいいのじゃ!
でも、これ以上は支払えないのじゃ」
「そうですよ、お借りしている山奥でつつましく生活させていただいておりますわ、オホホホホ
お支払いしている金額が限界ですの」
「……」
ラージャもペトリもよく言うよ。
まあ、金を沢山稼いでいると言っても節約すべきところはちゃんと節約しないといけないって事だよな。
「しかし、毎月毎月、どこで金儲けをしているんだ?
町にある店だけでそんなに儲かるものなのか?」
「まあ、他のとこでも商売してるから」
エルモが聞いてくるが、いつものようにゴニョゴニョ言って誤魔化す俺。
そうこうしている内に、ドアが開いてライネが戻ってきた。
「エルモ兄さん、ただいま」
「うん、おかえり。
カズヤにも言ってたんだが、無理しないで毎月こんなに沢山お金はいらないんだからな」
「ううん、僕達が出来る精一杯の事をしようってカズヤさんが言ってくれるからね」
ライネも中々だな。
俺達は支払いが少なく済むし、エルモ達に感謝されている。
人には知らない方が良いって事があるって事だ。
「そうだ、エルモに頼まれてたエロ本ちゃんと… うおっ!」
手にした紙袋からエロ本を出そうとしたら、エルモが俺の口を抑えてきた。
「カズヤ! 向こうで話をしようか!」
そのまま手提げ紙袋を持つ俺は、部屋の外へと連れだされ廊下に出た。
バタンッ!
ライネの部屋のドアを閉め、エルモが俺に詰め寄る。
「カズヤ! みんなの前で言う事ないだろう!」
小声で怒ってきた。
顔が近い。
プライドが傷ついたのか?
どうせ買う時、ラージャにバレるのに。
まあ、ネット通販の事は教えていない。
「エルモ、確かに俺の配慮が足りなかった。
ほら、コレが頼まれていた」
手提げ紙袋を差し出すと、エルモがそいつをひったくって俺に背を向け中を確認しだした。
「……エルモ、気に入った?」
「……」
「エルモ?」
「……」
「あの、熟読するなら自分の部屋に行ってからにした方が良いんじゃないか?」
廊下でエロ本を熟読しない方が良いと思う。
好きだね、この人も……
「相変わらず素晴らしいよ! どこで手に入れてるんだ? あんな金額でホントに良いのか?」
エルモが満面の笑みで俺に言ってきた。
「ああ、家族特別定価だよ、エルモお兄様!」
俺も笑顔を返す。
お買い上げありがとうございます。
エロ本を1冊、1ゴールドで売りつけているが、エルモは喜んで買ってくれるお得意様だ。
今回は、10ゴールド10冊まとめてお買い上げ。
「エルモ、毎回買ってくれるし、2冊おまけで12冊入れといたからな」
「カズヤ! なんと兄想いの弟よ!」
エルモが俺に抱き着いてきた。
うん、そんなのいいって!
「お、おう。 また、買ってね」
俺は、暑苦しいエルモを押しのける。
「貴様! エルモ兄さんまで誑かす気か!」
突然怒鳴られた。
俺を怒鳴ったのは、ライネのもう一人の兄であるミカエル。
「そんな訳があるか、バカバカしい」
ズンズン歩いてくるミカエルに言ったが聞いてないな。
コイツは俺の事が気に食わないようで、顔を合わすと突っかかってくるから、顔を合わさないようにしているのだが……
「エルモ兄さんもだよ!
こんな奴を勝手に家に入れて! 父さんは知らないんだろう?」
「ミカエル、カズヤは税金と家賃を支払いに来たんだからな。
それに家族になったんだから、もうちょっと仲良く出来ないのか?」
エルモの言葉にミカエルが不満そうな顔をしている。
ああ、ほらっ、こっちを睨んできた。
俺としては、ライネのお兄ちゃんだし仲良くしたいのだけど……
ニコッ!
笑ってあげた。
「何が、おかしい貴様!」
胸倉掴まれた!
いや、ここは冷静に……
「喧嘩したらライネが悲しむからやめようよ」
「貴様と一緒にいる方がライネが悲しむ!」
なんだと、コイツ?!
「ミカエル、もう止めとけ」
エルモがキリッとして止めてくれる。
エロ本を手にしたままなのは、どうかと思うが。
「エルモ、本を紙袋に入れた方が……」
俺の言葉にエルモが慌ててエロ本を紙袋に入れた。
「……エルモ兄さん、それは?」
俺から手を離したミカエルがエルモの紙袋を指差して聞いた。
ヤバい、ミカエルが興味を持ってしまった!
「いいから! ミカエル、気にするな、ねっ!」
俺は、必死に笑顔でミカエルに言った。
エロ本を買ってるとバレたらエルモが可哀想だ。
「どうせ、お前がエルモ兄さんに取り入る為に渡しているのだろう?
どこまでも汚い奴だよ、お前は!」
そんな、怒鳴らなくても……
エルモが凄く気まずそうだ。
ミカエルが大声でキャンキャン言うから、メイドさんや使用人が集まってきた。
「部屋の外で何やってるの?」
部屋からライネ達も出てきた。
「ライネ、この男に酷い事をされていないか?」
「ミカエル兄さん、カズヤさんには良くしてもらってるよ」
ミカエルがライネに話しかけている隙に、行くんだ! エルモ!
俺は、本を仕舞って来るんだとジェスチャーした。
「ライネ、コイツはエルモ兄さんに取り入る為に袖の下を渡しているような男だぞ!」
「もう、何を言ってるんだよ、ミカエル兄さん」
「嘘じゃない、見てろ!」
ミカエルが走ってきた!?
俺を通りすぎて、エルモのそばへ!
あ、紙袋を奪おうと…… エルモも必死だ。
「二人とも、やめろよ」
オロオロしながら止めに入るが、
「寄こせ! エルモ兄さん! どうせ、汚い金でも受け取ったんだろ!」
「放せミカエル! そんなもの貰っていない!」
「じゃぁ、コレはなんだよ!」
ミカエル、お前が今必死にエルモから奪おうとしているのはエロ本です。
「いいから! お前には関係のない事だ!」
エルモ、必死だ。
「エルモ様! ミカエル様! 喧嘩はおやめください!」
ああ、使用人さん達も心配している。
「ホントに、ミカエルやめて!」
エルモが泣きそうになってるじゃないか。
「ミカエル! エルモが可哀想だから!」
「貴様のいう事など聞けるか! さぁ、エルモ兄さん、そいつを寄こすんだ!」
ダメだ、俺が言ったところで取り付く島もない。
「おい、ラージャ達からも言ってやってくれよ!」
「面白いのじゃ! もっとやるのじゃ!」
ラージャが面白がって煽りやがる!
この役立たずめ!
「煽るなよ、ラージャ!
だーー! 二人とも、いい加減にしろーー!」
ビリリィィィーー!
「あ」
終わったな。
ミカエルが紙袋を強引に引っ張って引き千切った。
当然、中に入っていたエロ本は、辺りに散乱する事になる。
「……」
「……」
「……」
「……」
散乱するエロ本。
裸の女がエロい事をしている写真。
うん、みんな固まっている。
「……ラージャ、新しい紙袋を」
「ぎゃはは、裸なのじゃ、ぎゃはは! エルモ、またカズヤからエロ本買ったのか? ぎゃはは、裸、裸なのじゃ~」
何がそんなに楽しいんだ、お前は。
「いいから、早くしろ」
ラージャの頭を叩いた。
「痛いのじゃ! ほれ」
ラージャから新しい手提げ紙袋を受け取った俺は、散乱するエロ本を拾い集め紙袋に仕舞うと固まっているエルモの手に渡した。
使用人達が何事も無かったかの如く散っていく。
気を使ったのだろう。
「お、お、お、お前! エルモ兄さんに、そんな、淫らなものを!」
ミカエルが俺に向かって怒ってきた。
「違う! いや、エルモが欲しいっていうから! ……あ」
しまった! 俺は、エルモを見た。
顔を真っ赤にしたエルモがプルプル震えている。
余計な事を言ってしまった。 で、でも、
「だ、大丈夫だって、エロ本見られたくらい、なんでもな あっ!」
「きゃぁぁぁぁああああああああ」
両手で顔を覆ってエルモが奇声を発し走って行っていった。
うん。
……可哀想に。
エルモが恥をかいた。
可哀想に。
俺は頼まれてエロ本を売っただけなので何も悪くは無いのだが、俺がエロ本を持ち込まなけりゃエルモが恥をかく事もなかったな。
一番悪いのは、ミカエルなので俺が罪悪感を持つ必要など全然ない。 うん、無い無い。
って事で、次回も、乞うご期待!




