打ち上げ基地にて
アラビア半島横断鉄道の完成式典を終えパーティー会場から、早々に退出した明美は、式典主催者が用意してくれていた高級ホテルの部屋に戻り、華やかなパーティードレスからビジネススーツに着替えると、
待機していた拓哉が運転する、赤いイタリア製の車に乗り込み、宇宙ロケット発射基地建設現場に向かって、一路真新しいアラビア半島横断道路を全速で走り出した。
「たっく!打ち上げ工程が30%遅れてるって!野村!今から行くから報告書の提出と対応策の説明しろ!」
と助手席の明美は、無線機に向かって怒鳴りつけると、乱暴に無線機のスイッチを切った。
「明美。野村さんが悪い訳じゃないだろう?そう、怒鳴りつけなくてもいいんじゃないか?」
拓哉は、深夜の道を時速200km/h以上で走らしていた。
「わかっているわよ!どうせジョブズとアランの二人が原因だって事ぐらい。」
「なんであの二人は、張り合うんだ?」
「張り合う?足の引っ張りあいじゃない。素直に頭を下げればいいものを。意地の張り合いをするなって言いたい!」
砂しか見えない砂漠に、突如現れる膨大な広さの太陽光発電所の奥に建ち並ぶ超近代的構造物群、それが現在建築中のサウジアラビア宇宙港(仮称)
サウジアラビア宇宙港(仮称)は現在、内装工事も仕上げ工程となり、設備の90%は完成しており、最後に残っている重要施設は、動力炉としての核融合炉の完成だけだった。
この核融合発電所こそ、アメリカやソビエト連邦、欧州各国に現時点では、隠し通したい施設の1つだった。
発表こそしてはいないが、日本国内ですでに商用型常温核融合炉1基による発電が成功しており、
今回の宇宙ロケット発射基地には、日本国内の物より出力を上げた動力炉の建設をしていたのである。
その出力は1基で6890MWという物だった。それを予備基を含め3基建造中だった。
これは、将来的にアラビア諸国に電力供給の要となる予定の施設だった。
現在必要な電力は、砂漠上に敷き詰めた太陽光発電パネルにて賄っているが、核融合炉が完成すれば切り替えする手筈になっていた。
この核融合炉は、日本人スタッフのみが関わっているため、スケジュールの遅れはなく順調そのものだった。
ここにきて遅れが出てきたのは、ロケット打ち上げスケジュールだった。
6基のロケット打ち上げ塔は完成しており、組み立て工場で組み立てたロケットを、打ち上げ塔まで移動させるトランスポーターもいつでも動かせる状態だった。
ただ、組み上げたロケットが、ほぼ毎回最終確認工程で、何からのトラブルが出て原因究明するために、又ばらして1から組み上げる作業を繰り返していた。
これは、ジョブズがリーダーのアメリカ出身者で固められたロケットブースター組み立てチームと、アランがリーダーのヨーロッパ出身者で固められたロケット制御系調整チームが、お互いがロケットのプロフェッショナルだと、プライドが高く譲らない為に、事有る毎に揉め事を起こして、原因の追求を必要以上に行い、相手のミスを晒して検討を申し出る為に、組立スケジュールが徐々に遅れてきて、このままでは打ち上げスケジュールの見直しが必要になるほどだった。
その2チームに挟まれたのが、日本から単身赴任でサウジアラビアに派遣され、プロジェクト総指揮を任されている、野村隆(46歳 妻二人の娘の父)だった。
野村は、早朝から明美に電話で状況説明を求められ、さらに明美が祝賀パーティーが終わり次第現場に向かうと言う無線連絡を受け、急遽深夜に、ジョブズとアランの二人を自分の執務室に呼び出した。
「お前達二人を、ここに呼び出した理由はわかっているな。」
疲れた表情で野村が二人に問うと、ジョブズが
「朝話されていた、今後の打ち上げスケジュールの事ですね。」
「そうだ。」
「スケジュールが遅れているのは、ジョブズのチームがブースターを本体に組み込みするのに手間取っているからです。」
「いいえ、アランのチームが本体のシステム調整ミスのせいです。」
お互いにらみ合いをするが
「そんな事、もうどうでもいい。それより今から当初のスケジュールに戻すにはどうすれば良いか聞きたい。」
野村は、静かに問うた。
いつもと違う雰囲気にジョブズとアランの二人は、戸惑いを隠せずジョブズが
「野村さん、何かあったのですか?」
と聞いてしまった。野村は、ジョブズに一瞥すると
「大したことじゃない。ただ、お前達はちょっと調子に乗ってやり過ぎただけだ。2段目のブースターがここではなく、機密漏洩防止の為に日本で組み立てられてくるからなぁ。その中身の情報が欲しくて、暗躍しているのは解っているんだ。」
野村は、日本では妻が厳しく辞めていたのに、ここに来て吸う本数が増え出した、紙巻きタバコに火を付け紫煙を吐き出すと、二人に視線を向けた。
「何を言っている?」
「暗躍って意味がわからん。」
野村は、窓の外に視線を向け
「それに、太陽光発電パネルの発電性能も気にしてたよなぁ。ロケットを組み立てる作業を止めてまで、発電所スタッフに質問してたよなぁ。この施設内の、日本人スタッフ以外立ち入り禁止区域のエリアも知りたがってたみたいだし。」
「野村さん?どうしたんだい?我々がそんなことをするわけないだろう」
「そりゃ、技術者のはしくれだから、最新技術には、興味と言うか好奇心を持つもんだ。それを咎められるのは、お門違いってもんだ。」
「まっ、惚けるのもいいが、後2時間以内に原因及び対策を報告書をまとめて、俺に提出してくれ。今は、それ以上の事は求めん。」
「今、何時だと思っている?深夜12時たぞ?」
「夜が明けてからじゃダメか?」
椅子に座ったまま、2人を見つめ、野村は
「別にいいけど、その代わり良くて5時間後には、強制的にお前らは本国に帰ることになるけどな。」
と言った。
「どういう事だ?」
野村は、ため息と共に肺に残っていた紫煙を吐き出しタバコを消すと、肩を揉むしぐさをして
「ちゃんと仕事さえしてくれれば、多少の情報漏洩の目こぼしや情報提供をしたものを。
欲しい情報が集まらないからって、時間稼ぎか知らんが、スケジュールに影響が出るぐらいサボタージュすることはないだろう?ここまで好きにさせたのは、俺の責任でもあるからなぁ。一緒に怒られてやるけどさぁ。
ジョブズ、お前さん達は、アメリカ国防省のもんだろ?アラン、お前さん達はイギリスのMI6関係かな?フランスとの共同だったか。」
「何を言っている?まるで俺達はスパイだと言いたいのか?」
「ナンセンスだ!そもそも証拠があるのか!!」
いきり立つ二人に野村は、もう一度ため息をついて、数枚の写真を机の上に広げ新たなタバコに火を付けた。
そこに写っていたのは、二人別々に写っていたが、深夜に金庫を開けようとする姿や、ロッカー内の資料を漁る二人の姿だった。
「あのさぁ。通路のカメラが2台じゃないって知ってた?資料室の監視カメラは4台だけだって誰が言った?
それに監視用通信回路は、2系統以上あるのが常識だろう?1回路誤魔化してもすぐにバレるって気づかんかなぁ?」
野村は、子供がしたいたずらを諭すように、二人に話しかけた。
「うちには、この手の仕込みが得意としてるお方が居てね。その方直伝の技を持った部署が設置したんだ。2台のカメラを微妙にずらすことによって、わざと微妙な死角を作っておいて、そこに誘き寄せる達人が居るのよ。それにだ、ジョブス。通信に使う暗号は、最新の符号を使えよ。あれじゃ情報がダダ漏れだぞ。せっかくの素数を使った暗号なのに、解読のヒントを相手に教えてどうするんだよ?アランもそうだ。本部に送る無線機の周波数ぐらいランダムにしとかないと、簡単に逆探できたぞ」
写真を見ていた二人は、まずはジョブズが両手を上げ
「参った。これほどしっかり証拠を押さえられては、言い訳できない。だがなアメリカ国防省とは関係無いぜ。しがないフリーの産業スパイでな、いいネタがありゃどこの企業にも売るつもりだったからな。」
アランも肩をすくめ
「で、野村。我々をどうする気なんだい?あんまり荒事は、あまり好きじゃないんだが」
と、二人の身体から力みが消え、殺気を滲ませ聞いてきた二人に野村は、頭を抱えて盛大なため息を吐き出した。
「やめとけ、お前ら2人じゃ俺をどうすることも出来んぞ。」
「試して見るかい?」
ジョブズはそう言うと、どこから出したかわからない速さで、3本のナイフを野村に向け投げた。
アランは、大型のナイフを手にして野村に襲いかかった。
野村は、座っていたとは思えない俊敏さで机を飛び越えると、投げられたナイフを左手で、
全て空中でキャッチ。そのまま、アランの腕に、踵落としのように蹴りを入れると、アランはたまらず、ナイフを落とす。
着地と同時に左手を払うと、ナイフでジョブズを、衣類ごと壁に固定し一瞬ジョブズの動きを止め
アランの腕を捕り左手だけで、関節技を極め動けなくすると、右手にアランの持っていたナイフを握り、ジョブズの首もとに突きつけた。
ジョブズの首から少し血が滲む。
この間数秒。現場監督とは思えない動きに、二人は戦慄した。
「あ、あんた、何者だ?」
「あぁん。しがない現場監督だよ。お前らのせいで、残業が増えてなかなか日本の娘達に会えない、さみしいおっさんだ。」
部屋の騒ぎに警備員が二人、執務室に飛び込んできて室内を確認すると
「野村のダンナ、そいつ等ですかい?ネズミは。」
2メーター近い身長の警備員が声をかけた。
「そうだ。ちょいと手伝ってくれ。ケガをさせず、おとなしくさせるだけでいいからな。」
「甘いですな、野村のダンナ。」
「しかながないだろう?こんな奴等でもいなきゃスケジュールが遅れ、俺が明美姫に怒られるんだよ。」
「明美姫の叱咤ですかい?そりゃ怖いですな。」
「他人事じゃないぞ、スケジュールの遅れがさより嬢に知れてみろ、お前らだって。」
「確かに、これでいいですかい?」
しゃべりながらもてきぱきとジョブズとアランの二人を拘束して椅子に座らせると、
新たに二人警備員が執務室に入って来た。
「中島主任、持って来ましたよ。」
「こいつ等、隠し場所にセンスが無かったですよ。」
と長身の警備員に言って執務机の上に置かれたのは、ジョブズとアランの部屋から押収してきた証拠の数々。
「ご苦労様、もう寝ていいぞ。」
「おやすみなさい。」
と言って出て行った。それらを見て、ジョブズとアランは
「俺達をどうするつもりだ。」
「話すことは何もない。」
二人から、殺気と戦闘意欲がなくなったが反抗心を感じると、野村は
「お前ら人の話を聞いているか?さっきから言っているだろうが、お前らのスパイ行為なんかどうでもいいんだって!何だったらさらに情報を公開してもかまわない。そうだな、ここに設置している太陽光発電パネルの、現在の発電効率とその製造方法なら、今すぐにでも公開しても構わない。」
アランは、その提案に
「なぜ、情報を公開する?なにが目的だ?」
ジョブスも
「拘束した我々から、さらなる情報を引き出そうとしても無駄だぞ。」
野村はジョブスの胸ぐらをつかんで
「そんなことはどうでもいいんだよ!今重要なのは、遅れているスケジュールを、当初のスケジュールに戻すためにどうすれば良いか、報告書を出せと、言っているだろうが!もうすぐ姫がここに乗り込んで来るから、時間が無いって。」
叫ぶように訴えた。それに対してジョブズとアランの二人は
「姫?」
「誰ですか?その方は?」
意味が理解できない言葉に戸惑いを感じていた。その顔を見て、中嶋が
「このプロジェクトの最高執行責任者だよ。」
と、教えるが
「えっ、最高責任者は、柄山社長ではないのですか?」
「はぁ?何言ってんの?全ては、明美姫を宇宙にお連れするためのプロジェクトでしょうが。」
((明美姫?誰だ?それ))
二人は首を傾げるだけだった。二人の顔を見て野村は、
「そっか、外部採用だったなぁ二人共。そりゃその顔になるか。とりあえず社長より怖い人が来るって思ってくれ。しかし、それでA級エージェントか?我が社も舐められたもんだな。」
と、ため息混じりに呟いた。その態度に
「野村のダンナ。使えるんですかい?この二人」
「中嶋さん、スパイとしては使えんが、技術者としてはそこそこなんでな。スケジュールを何とかするためには、動いてもらわなあかん」
「うちの資料にも、エージェントとしては、技術上がりで優秀って書いてありましたがね。」
ジョブズとアランの顔を見て野村が
「なんて表情してんだ?お前らの素性は、面接した時から判ってだぞ。あれで経歴を偽装出来たって思ってた?だいたいこの二人、中嶋と宮阪の所属会社は、勝山警備保障会社だぞ?」
と言って二人を指差すが
「野村さん、それを言うならKSPって言わんとわからんかも。」
と宮阪が答えた。
それを聞いてジョブズが
「あの傭兵会社だと!なぜここの警備を?」
「ナカジマって、まさか、アラブ解放戦線軍を指揮していた?」
「なんだ、知っているのか?俺も有名になったもんだ。」
と、中嶋が豪快に笑い出す。
「ここの警備は、グループ会社から頼まれたから行っているんだが?」
アランは、本部が行ったこの日本企業に対する調査不足が、今になって自らの首を締め出した事に焦りながら
「明日の午前中の提出じゃダメなのか?」
時間稼ぎの打診をしてみたが
「ダメだな。あと2時間後に車でここに乗り込んで来るから。」
「車?どこから?」
「出席していたレセプションかあったドバイから。スピードの出る車で行くって言っていたから。」
「ここまで800km以上あるぞ。長距離バスか大型トラックでないと燃料が足らないはず。」
「レセプションに出席してたと言ってたな。まだ終了してから三時間たってないぞ。それであと二時間ぐらいでくるだと!」
「姫は来るよ。どんな手段を使うか知らないけど。早く資料をまとめた方がいいと思うぞ。このプロジェクト関係者で、俺が知る限り絶対に怒らしてはいけない2人の内の1人だからな。
言っておくが、この俺より強い明美姫に手を出して、タダで済むわけがないからな。お前らがどんなA級エージェントだとしても、最低、腕と足の骨は砕かれるからな。」
といって、煙草に火をつけて紫煙を吐き出した。アランが
「野村さん、ひとつ聞きたいんだけど、その人を怒らすとどうなるんだい?」
そんなことも知らんのか?と言いたげな顔で
「今こちら向かって来ている明美姫は、簡単に言うと、どんな屈強な者でも殺さないでくれ、と懇願するレベルだ。」
野村は、二人を見て言い切った。まさか、といった顔をする二人だが、
「俺も相手にしたくはないね。まだ、人生を楽しめたいからな。」
と中嶋が肩をすくめた。
「まっ、信じられないのは当たり前だな。昨年、クリスマスの夜にボストンで、チャイニーズマフィアのひとつが壊滅したのは知っているか?」
二人がうなずいたのを見て、野村は遠い目をして窓の外を見て
「あれ、明美姫が1人でやった事だからな。」
それは、何者かがクリスマスの夜に、ボストンにあるマフィアの本拠地に単身乗り込み、200名以上の構成員を再起不能にし、マフィアのボスを天井から逆さ釣りして放置、騒ぎに駆けつけた警官隊に、マフィアのボスが、今までしてきた罪は全て白状するから、刑務所でかくまってくれ!と命乞いをした事で関係者には有名な事件だった。
アジトにあった監視カメラは尽く破壊されて、録画機器も破壊されていて侵入者が判らず
犯人は捕まっていない
巷では、武闘派のサンタクロースが市民に安らかな聖夜をもたらしたと、噂されていた。
「あれな、世間で言われているような正義感で、壊滅させた訳じゃないんだ。はっきり言って八つ当たりだな。」
二人の顔色が変わる。
「どうゆうことですか?八つ当たりでマフィアを潰すって。」
遠い目をして野村が
「お気に入りのドレスが、通りすがりの車が跳ねた泥で汚れたからだ。」
と言った。意味が解らず
「その車の運転手がマフィアの構成員だったのか?」
中嶋が
「いいや、そんなことは解らない。だって調べてないからなぁ。」
「じゃ、なんでマフィアのアジトを襲撃するようなことを?」
「そこにあったから。」
「「え?」」
野村がさらに遠い目をして
「旦那とのデートの前に汚されてしまったドレスの怒りを、たまたま目の前にあったマフィアのアジトに、ぶつけただけだから。いい迷惑だよなぁマフィアも。自分たちの落ち度は全くないんだから。八つ当たりで壊滅させられたなんて、可哀想だよ。」
「全く、その後始末、ボストンにあるうちの会社のスタッフが走りまわったらしいよ。」
中嶋がしみじみつぶやいた。
「その話本当か?」
「嘘を言って誰が得する?」
「野村、さっき怒らしてはいけない2人の内1人と言ってましたね?一緒に来るもう1人の方もそんな人なのですか?」
ジョブズが聞くと野村は
「いや、安心しろ。付き添ってくるのは、姫の旦那だ。こちらも、腕の立つ人だがムチャはしない。むしろ、姫のストッパーになってくれる唯一のお方だ。怖いもう1人の姫は、視察に来ますか?と言った質問に、『砂漠の狐が居なくなった砂漠は面白くない』と意味が解らない事を言ってここには来ない。」
中嶋が
「しかし、プロジェクトの遅れをまだ気付いていないと嬉しいなぁと思うが、さよりお嬢の事だから、すでに知っていると思っていいだろう。」
野村が
「だろうなぁ。あのお方の情報収集力は、訳がわからないレベルだしな。ちなみにその姫は、
見た目は可愛らしい御姿で、いつも笑顔でニコニコしているお方で、愛くるしい方ではあるけど、怒らすと大変なんだ。」
そう言うとタバコを消し
「怒らしても、明美姫のような力を振るうことはない。だがな、一掃の事、一思いに殺してくれ!
と嘆願するレベルだ。あの姫を怒らした奴は、死ぬことも叶わぬ、毎日を何かに怯えてほぼ廃人になってしまう。俺は何人もそうゆう奴等を見てきた。どっちに怒られたい?」
と、野村が言うと、中嶋が二人の肩を叩き
「俺からの忠告だ。早くやった方がいいぞ。」
と言って、二人の拘束を外した。
ジョブズとアランは顔を合わし頷いて部屋を出て行った。
2時間後
爆音を上げ1台の真っ赤なスポーツカーが、管理棟下の駐車場にドリフト気味に滑り込んだ。
ガルウィングのドアを開け、颯爽と降り立ち管理棟に向かう二人の姿があった。
「で、どうするんだい?」
野村、ジョブズ、アランの3人が明美の前に立って項垂れていた。
明美の前には、先ほど3人から提出された書類と資料が乱雑に置かれていた。
「予定通りに打ち上げる為に、あなた方はどうすれば良いか、聞いているんです。こんな言い訳書類に資料は、要りません。」
明美は、殺気を押さえる努力を放棄して3人を睨み付けた。
((これが野村が言っていた死を覚悟する怒りと言うのは))
ジョブズにアランは、明美からの殺気をもろに受け、生きた心地ちがしなかった。
「野村!改善プランは、」
「はっ!3プランございます。」
「言ってみろ!」
「ジョブズ、アランの両名が率いるチームが協力しあい、休み返上で仕事に精を出してしてもらうプラン
これは、他から人材を連れてこなくて良いので、コストパフォーマンスが一番良いのですが、
問題点は、この二人が揉め事を起こさず仕事に集中してくれるのかどうかです。
次に両名のチームをプロジェクトから外して、外部から代わりの人材を雇い入れます。
揉め事は起こらなくなりますが、コストはかかりますし、スケジュールの遅れは、取り戻せません。
最後のプランですが、両名のチームをプロジェクトから外して、動力炉所属の日本スタッフメンバーから手隙の者をブースター組み立てに当てます。
残業費等のコストがかかりますが、スケジュールは、元に戻ること間違いなしです。」
それを聞いて明美は、考えを決められないている。
重苦しい空気の中、電話のベルが鳴り野村が取ると、相手の声を聞くなり絶望に顔色が染まった。
「明美姫、さより嬢からです。」
と言って受話器を明美に渡すと
「なに?今立て込んでるから、後で連絡するから。………… そうなんだけど………わかった、電話変わるわ。 ジョブズ、ちょっとこの電話に出てくれるか?」
と言って受話器をジョブズに渡す。
「はぁ?どなたなんですか?…………………はぁ?ちょっと待て!!そんな事出来る訳ないじゃないか!……………嘘だろう?……………やめてくれ!!……………」
電話をしているジョブズの顔色がどんどん悪くなって行き、今や蒼白を越えた顔色になっていた。
「お願いだ、言うことは聞くから、俺をどうしてもいい。それだけは……………やめてくれ!!お願いだ。やめてくれ。それなら一思いに俺を殺して………やめてくれ、お願いします、やめてください。……」
遂に号泣するほど泣き出した。しばらくして、受話器を明美に渡して、
「明美様、精魂込めて働きますから、さより様から守ってください。私の命で良ければ、あなた様に捧げますから、」
と言って床に蹲り号泣しだした。明美は、ジョブズの肩をやさしく叩き
「わかった。ちゃんと働いてくれれば、悪いようにはしないから。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
明美に感謝の言葉を述べ涙を流している。その姿を見て電話の向こうにいるさよりに、
「さより、何を言って…………わかった。アラン、ちょっとこの電話に出てくれるかな?」
さよりに急かされて、今度はアランに受話器を渡す。
アランは恐々電話に出ると、すぐにジョブズと同じように顔を蒼白にして明美に助けを求め、明美が安全を保証すると、号泣しながら感謝の言葉を述べ、一生明美の僕になると宣言する始末。
「さより、あんた何を言ったの?……大したことじゃないって、二人共人格崩壊してるじゃない。…………もういいわ。とりあえず、プロジェクトが進めれるので、ありがとうって言っておくわ。じゃまた」
電話を切ると、ジョブズとアランの二人は、今から仕事してきます、と言って走って部屋から出て行った。
「姫、さより嬢は、何を言ったんですかねぇ。相変わらず怖いですね。」
と野村がぼそっつぶやいた。
「だね。でも、軽く囁いただけらしいよ。いたぶりかいがないってさ。」




