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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第3章
76/144

打ち上げ

12月までに上げたかったのですが、遅れました。


サウジアラビア宇宙港(仮称)の遅れていたロケット組立スケジュールは、周りのスタッフの心配をよそに、いつの間にか遅れを取り戻し、このまま行けばスケジュール通りの打ち上げ日に間に合いそうだった。

 それと言うのも、あれほど不仲だったジョブズとアランが、ある日を境に10年頼の友のようにお互いを支え会い、共に問題解決を行い不眠不休で今までの遅れを取り戻すように働いたお蔭だった。

付き合わせられているそれぞれの部下が少し大変そうだが、鬼気迫る2人の表情から、部下達は何も言えなかった、のだろう


施設の頭脳部とも言える管制施設、心臓部とも言える動力炉が完成し、メイン電力を施設の周りに設置してあった太陽光発電パネルから、核融合動力炉からの電力へ切り替え作業も終了。

 太陽光発電パネルから供給される電力は、一旦地下にある蓄電設備に充電されてから、インバーターを経由して、高圧交流に変換され周辺諸国に送電されていった。

内装工事が終了し、各部署に担当スタッフがやって来た。

日本人のスタッフは少数だが、主要な地位についており、部下として周辺諸国から選抜されてきたアラブ人がついて、仕事の流れを学んでいく。

将来的に日本人スタッフは全て、この施設から撤退することが決まっていたからである。

 各部署のシステムのテスト運用が始まり、各部署との連携、各課員の習熟作業が盛んになって、シミュレーションを繰り返すことによりシステムの不具合、改善点が提出されすぐさまフィールドバックされシステムの更新がされていく。

ソフト面だけでなく、職員の宿舎や、格納庫等のハード面及び住環境の改善も進んでいく


 開港スケジュール通りサウジアラビア宇宙港(仮称)がサウジアラビア国際宇宙空港として正式命名され開港した。

サウジアラビアが運営面の主となり、中東諸国全て国々がスタッフを出し合い通常の国際空港の運営を行っていく決まりとなっていた。

 宇宙管制については当面の間は、日本人スタッフの指導の元、訓練していくことになっている

 そして中東諸国の国王、首脳が一堂に集う盛大な開港式を、世界中のテレビ局、新聞社、ラジオ局を招いて、大々的にオープンセレモニーを行った。

 通常の航空機も離発着できる空港とは言え、空港スタッフの修練不足もあり、ロケット打ち上げの安全を考えて招待客のほとんどは、開港セレモニーの前日までに、最寄りの空港より豪華な専用列車に乗車し、サウジアラビア国際宇宙空港まで快適な列車の旅を楽しみ、サウジアラビア国際宇宙空港ターミナルビル内にあるホテルにて宿泊することになっていた。

 空港ターミナル内のホテルと言えど、国家が威信を掛けて建てたホテルであるからして、

全てにおいて贅を凝らしたホテルで、一流教育された従業員がもてなすサービスもあって、すでに星5つ以上と言われる最高級ホテルであった

 そのホテル内の大広間で開港の前夜祭として、レセプションが行われた。

 その会場で、全施設の電力を賄う広大な太陽光発電システム、地下1200mの地下水脈より汲み上げる地下水によって賄われている、生活用水に庭園の維持、専用高架道路と専用鉄道線を収納するターミナルビルに展望台と言った施設紹介が映像にて行われた。

 近い将来に、アラブ宇宙開発機構がサウジアラビア国際宇宙空港を管理して、ここより一般人の宇宙旅行が行われることも発表された。

 そこでの質疑応答も行われ、各国のジャーナリスト達から質問に対し、明確に返答していった。

各国の首脳陣に対しての質疑応答は別会場で行われ、この施設がいかに平和利用の為の施設かが力説された。

 華やかな地上とは違い地下の格納庫は、アラン、ジョブス達数十名が死んだように倒れ眠っていた、その横には組立が完了した20基のロケットが並べ立てていた。

後は、打ち上げ前に液体燃料を注入する段階まできたのである。


 翌朝、初めて公開される展望台にて招待された各国の大統領に首相達、世界中のジャーナリストは、昨夜の映像にて概要は知ってはいたが、実際に公開されたサウジアラビア国際宇宙空港の全貌を見て、驚愕した。


展望台から見える物は

施設周囲に敷き詰められた、キラキラと太陽光を反射させる太陽光発電パネル、

空港の管制と宇宙の管制を行う司令棟建屋、その奥に4000m級滑走路、横風用3500m級滑走路の航空機用滑走路とは別に、宇宙からの帰還機用6000m級滑走路を保有する世界的に類を見ない飛行場。

設置された巨大なパラボラアンテナ群。

 その周りを覆う砂漠の中とは思えない草花が咲く緑の草原に、澄んだ水を湛えた池。

 さらに奥に宇宙空港と名乗るに相応しい、聳え立つ6基の打ち上げ塔が砂漠の強い日差しに揺らいで見えていた。

ロケット用燃料工場、ロケット組立工場は地下に作られているので、展望台からは見ることは出来ない


 サウジアラビア国際宇宙空港の広報官は、施設の説明や質問の応答に大忙しだった。


そこに、打ち上げ塔近くから、何かがせり上がってきた。

多くの報道カメラマンが、望遠レンズでその物にシャッターを押し続けた。

地下からせり上がって来たものは、今回打ち上げ予定の2段式の大型ロケットだった。

全貌が現れると発射台まで6kmの距離を、時速3km/hでゆっくりと発射台に向かって動き出す。

 広報官は、今移動しているロケットが今回打ち上げるロケットと発表し、アラブ諸国の宇宙開発技術の高さを証明すると宣言した。

集まってもらっているジャーナリスト達には、この歴史的瞬間を報道してくれるように笑顔で訴えた。

 しかし各国のジャーナリスト達は、今回打ち上げするロケットは、日本製のロケットで、施設の問題から直前まで打ち上げ実験はおろか、エンジンテストもしてないことを知っており、

今回は作製したロケットはお披露目のデモフライトで、失敗しないといいね、ぐらいしか考えてはなかった。

 だが、打ち上げが成功したら、今後の宇宙開発に米ソだけでなく、新たな競争相手が出来ることになり、

しかも、大型宇宙ロケットは大陸間弾道ミサイルに転用できることから、現在の3極化している冷戦状態が深刻化する物となり、各国の軍事防衛の観点からも中東への目が厳しくなることが懸念された。


 打ち上げまでは13時間ほどかかるので、その間に施設内見学ツアーが開催され、多くのジャーナリスト達がツアーに参加し、ターミナルビス内だけでなく、空港用の管制室、ロケット打ち上げに関する管制センターの見学も行われた。

特に抽選で選ばれた30人は、地下にあるロケットの組立工場、燃料工場の見学も許されていた。


 各国の首脳達は、この宇宙空港に関する中東の諸国の首脳達との首脳会議が始まった。


 そんな華やかなレセプション会場や、真新しい管制ルームに組立工場、報道陣のフラッシュの嵐の記者会見場所とも、関係のない部外者入室禁止の総合警備室の中では、

本日のスケジュールが滞りなく進めるためのスタッフ達が、各箇所の監視カメラの映像や送られてくる数値を見ながら

「内覧ツアーの警備員!カメラを持った奴が1人、列を離れた。即刻お戻り願え!」


「ターミナル外周警備スタッフ!東側駐車場の隅に立ち入り禁止エリアに行こうとしている奴がいる。さっさと排除しろ!」

「調理部スタッフ!今から撮影許可したカメラマンとレポーターがそちらに行く。皿に触ったり、つまみ食い等の撮影以外のことをしたら、かまわんから叩き出せ!」

「展望台にいる警備スタッフ!西の端にいる3人は某国の破壊工作員だ。穏便にお引き取り願え。」

「管制室スタッフ。見学ルートの消火施設に何かを仕込んだやつがいる。即刻排除しろ!」

戦場さながらの激しさの中、各部署へ問題が起こる前に、的確な指示や対応策を次々に飛ばしていた。


明美と拓哉はイヤホンを通して情報を随時聞きながら、顔は笑顔でパーティー会場を歩き、各国の王族に挨拶をしていた。

「明美さん。今夜打ち上げは、大丈夫なんだろうね」

王族の1人に、シャンパンが入ったグラスを手渡されながら明美は、

「ご心配ですか?」

と、首を少し傾げ微笑むと

「初めての事だからな。君たちが万全の配慮をしてくれているのは、わかっておるのだが。万が一失敗する事が起きたらと思うと」

その言葉に、周りの王族達が頷く

明美は、周りを見てため息を一つ付くと

「私が、それほど、信用出来ませんか?」

と言って半眼で発言した王族を睨み付けた。

「そ、そうではない。そうではないが、今夜打ち上げる1機のロケットが無事地球外に飛び出してくれるか、気になって仕方がない。」

明美は、パーティー会場に設置された、打ち上げ台を写している大型ビジョンを見て、

「間もなく、歴史的なターニングポイントがこの地にて見られるのですよ。失敗など起こるわけが有りません。

それに訂正させていただきますが、私は、打ち上げるのは1機だけとは、申し上げてはいないのですが?」

と言って自信たっぷりに言って、妖艶な微笑みを浮かべた。

「1機じゃない?」

しばらくして、もう1機のロケットが運び出され、さらに次々に出てくるロケット。

「何機打ち上げるんだ?」

「今夜はテストとして、6機連続で打ち上げする予定です。」

その言葉を聞いて、唖然とする王族達だった。


 その頃展望台でも、騒ぎになっていた。

次々と地下から出てくるロケットが、発射台へ固定され各種ケーブルやホースが接続される。

この時点でプレス関係者達は、何かとんでもない事が起きるのでは?と各放送局は報道用カメラを全て望遠レンズに切り替えた。もちろん狙いはロケット。

全てのプレス関係者達が見守るなか、6機のロケットが発射台に取り付けられ、燃料の注入が順次行われはじめた。

屋外に設置された、大型オーロラビジョンが6機の現状を写し出した。

夜の帳が広がり、辺り一面闇に溶け込んでいく。光を放っているものは、発射台に固定されたロケットを照すサーチライトに作業灯

丸く囲むように設定された発射台は、どことなく幻想的な輝きを放っていた。


 やがて、1号機の発射へのカウントダウンが始まった。


「3、2、1、0!リフトアップ!

轟音と共にゆっくりと、だが速度を徐々に上げロケットが、天空を目指して飛び出して行く。

8分がたち、ロケットが大気圏を飛び出して宇宙空間に到着した。

さらに上昇を続け15分後、第1飛翔部を切り離し、第2ロケットエンジン始動成功 

ブースターは加速を増して地球引力圏離脱速度に達し、地球を離れるコースに乗ると、当初の目的地に向かって進んでいく。


打ち上げ成功


管制センターは、つめかけた招待客全員が立ち上がり、スタンディングオペレーションで、

割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 各国のプレスが管制センターのスタッフにインタビューを試みるが、管制センターのスタッフは、同僚達と笑顔で一通り拍手とハグ、握手を済ませると、再び仕事に戻って行く。

なんだか他国のロケット打ち上げに比べて、感動が薄い気がしたプレスの1人が、

「初めてロケットの打ち上げに成功したのに、皆さん感動が無いのは、なぜでしょう?」

と書類を持って歩くスタッフを呼び止めてインタビューすると

「あと、10分程で2号機の打ち上げがあるので、忙しいのです。」

と言われ一瞬理解出来なかった

「まだ、打ち上げるのですか?」

「ええ、全部で6機打ち上げます。それで今回の打ち上げシステムのテストが終了します。」

モニターに映し出されている、発射台を指さし

「あそこに並んでいる物をすべて打ち上げるというのですか!」

「そうですよ。将来的には1日最大18機を連続打ち上げしないといけないので。今回の打ち上げデーターを元に、改善点を洗い出していく予定です。」

「なぜ、そこまで連続打ち上げにこだわっているのですか?巷で言われている、軍事的目的からですか?」

質問を受けたスタッフは、呆れた顔になり

「何言ってるのですか?そのぐらいのスケジュールで打ち上げないと、スペースコロニーを建設するためには、時間がかかって仕方がないじゃないですか。そんな当たり前の話が分かりませんか?本当に打ち上げの取材に来た記者ですか?では、仕事が残っていますので。」

と言い残しそのスタッフは足早に去って行った。

「スペースコロニーを造るだと?」

インタビューした記者は、呆然としていた。横にいたカメラマンも

「今言ったことって、本当なのか?」

「解らんが、スクープだ!すぐに社に送らないと!」

2号機が打ち上がった、歓声に負けない口調で意気込んだ。


3号機の打ち上げシーケンスが始まるアナウンスと同時に、連続打ち上げのことにも増して驚愕のアナウンスが流れた。

それは、1号機の帰還アナウンスだった。


『こちら、アブーサアド1号機機長 ムハンマド・アディル。管制センター、聞こえるか?』

「こちら、管制センター。感度良好。聞こえている。アラブ人最初の宇宙旅行の気分はどうだい?」

『最高だね。現在高度550Km前後で地球を周回中。副機長、機関士共に体調等不良なし。

コックピットの窓から見える地球はとても綺麗だ。このまま見続けたいし、ここに居たいよ。

でも当機は、今から地球帰還プロセスに入る。現在翼を展開中、あと5分ほどで完了予定。』

「こちら管制センター。地球を見下ろせるお前たちが羨ましいよ。写真を1枚お願いできるかな?」

『大丈夫だ。プレゼントするよ。』

「ありがとう。機体と君たちの体調に関して、こちらのモニターでも確認できている。現在異常は無いようだな。」

『現在異常なし。主翼も間もなく展開完了する』

「了解。地球帰還コースのデーターを送る。確認次第、スケジュール通り大気圏に再突入してくれ。その間、管制センターとは一時的に通信が出来なくなるが、焦らず対処してくれ。」

『了解。これより帰還テストを行う。帰ったらパーティーを頼むぞ!。』

「ませておけ!上から盛大なパーティをする許可を取ってある。その準備も出来ている。パーティー会場に来るまでが、今回のミッションてことを忘れるなよ!」

『ありがたい。では、パーティー会場に向け降下を開始します。』

「待ってるぞ!」

通信を切ると、管制官長は周りにいるスタッフに向かって

「これからが本番だ!。全機無事に降ろすぞ!」

と叫ぶと、各スタッフが真剣な眼差しで

「「「「「「了解!」」」」」」

と応えた。


 そして1時間後には、帰還機用6000m滑走路に着陸する、無尾翼でデルタ翼の宇宙往還機の姿があった。

その後も、次々と打ち上げられた6機の宇宙往還機が帰還し、記者会見場には18名全員の宇宙飛行士が勢ぞろいして、会見を行った

 宇宙往還機に付けられた『アブーサアド(幸せの父)』とは中東で見かけられる渡り鳥のコウノトリの一種である朱嘴鸛シュバシコウで、幸せを運ぶ鳥として大事にされている鳥からのネーミングだった。

中東の6ヵ国からのチーム編成で打ち上げられた、今回のミッションは、中東諸国に大いなる自信と感銘を与えることになった。


 各国の報道は大騒ぎを始めた。各国の新聞の一面見出しに、テレビ報道は、

サハラ砂漠で行われた、ロケット打ち上げ一色に染まったといっても過言ではなかった

ロケット同時6機打ち上げ成功!

打ち上げたのは、ただのロケットではなく、宇宙空間と地表とを結ぶ宇宙往還機だった!

白人以外に初の宇宙飛行士誕生!

スペースコロニー建築に弾み!


これらの報道の裏で、各国の宇宙開発の関係者や防衛関係者達が、大いに議論が交わすこととなった。

特にアメリカとソビエト連邦は、

早く宇宙開発を進めないと、中東のオイルダラーにて宇宙を買い占められてしまう

と言った心配や

宇宙の神秘を探るなら、中東に赴きこの事業に参加させてもらおう

と考える学者や科学者を国外へ流出させないために、国を挙げて阻止する体制になって行く。

国防の観点からも、30分毎に打ち上げられたロケットの精度を考えると、その技術を流用すれば大型の大陸横断ミサイルは簡単に作れてしまう。

宇宙往還機の存在も脅威だった。対空攻撃の届かない高高度からの攻撃も視野に入れないといけない事態になっていた。

各軍事関係者たちは、宇宙からの攻撃に対してどう防衛するかが、これからの課題として研究がはじめられた。


 今回のロケットは、全て日本独自の技術力で作られたロケットだった。中東諸国は何ら技術提供をしていない。

この事で、開発した日本の技術力も脅威とみなされた。

 しかも世界初の宇宙往還機にもなる1段目ロケットは、打ち上げ時は円筒の形状だったが、帰還して来た時の形状は、全翼型の機体だった。

 この形状変化については、記者会見にて日本の技術者から、機体に巻きつけるように加工した形状記憶合金による機体変形、と言う説明がされた。

 打ち上げ時には翼は空気抵抗となるので、翼を機体に丸めて貼り付けることで、打ち上げ時の空気抵抗を減らし、宇宙空間にて電圧をかけることにより、形状復帰をさせ翼を展開し、大気の層をサーフィンするかのごとく滑空し、ロケットエンジンをパルス駆動させることにより機体速度の調整し減速降下することにより、空力加熱による機体ダメージを減らし、高度2万メートルよりグライダー滑降にて通常の航空機と同じ操縦で目的地に向かう。

と言った、ロケット工学や航空工学の専門家からは何ムチャしてる!と言った声が聞こえる方法で、地表に帰還して来るのであった。


しかも、1段目のロケットのエンジンは液体水素と液体酸素の2種類の液化燃料を使用するクーラントブリードサイクルを利用したエンジンが使われていたが、

2段目ロケットに積まれたエンジンは、初期加速用の補助の固形燃料エンジンと、液体水素を使用するメインエンジンとして、MPDアークエンジンと言うイオンエンジンを搭載していた。

切り離された2段目のロケットは、外装が展開することにより、機体にから広げた高効率の太陽光発電パネルで発電し、搭載している大容量蓄電用コンデンサーに充電し、必要に応じて高出力用放電コンデンサーに充電して放電することにより、高出力の推進力を可能としていた。

今回の宇宙プロジェクトは、新技術の実証実験に加え、ここで打ち上げられたロケットの目的が明らかになると、世界中の宇宙科学者たちが挙ってプロジェクトの参加表明をしたぐらいだった。

 それは今回の2段目ロケットは、往復7年以上かけて木星軌道近くにある、アステロイドベルトに赴き、そこで小惑星及びメインベルト彗星を確保して、地球に曳航して帰る為の帰還機だった事を公表した。

持ち帰った小惑星や彗星を、スペースコロニー作製の原料にするといった途方もない計画の始まりだった。

このプロジェクトが成功すれば、天文学に宇宙工学の躍進が見込まれ、回収された小惑星の成分分析で、宇宙の成り立ちの研究に弾みが付くことは間違いなしだった。

しばらくは、中東と日本が宇宙開発の話題の中心に成ることになった。


 サウジアラビア国際宇宙空港で、ロケット打ち上げの成功から一ヶ月が経っても、世界中宇宙開発の話で持ちっきりだった。

アメリカは、アポロ計画を中止させた議員が激しく非難され、新たな宇宙開発計画として、人類を火星に送り込むマルス計画が、議会決議された。

ソビエト連邦では、月移住計画が発案され、それに向けての技術開発を国家挙げて取り組むことが決まった。

なぜ大国が一度は止めた宇宙開発に再び力を入れ出したのか?それは、経済が冷えてきており、新たな景気対策の為だった。

アメリカが行った、公共事業投資を中心としたニューデリー政策は効を称して一時的に景気が上向いたが、

すでに陰りを見せており新たな景気対策をしなければ、不景気が長引くと予想されていた。

 ソビエト連邦もすでに国内だけでは、経済が成り立たなくなっており、国外市場に打って出る必要に迫られていたからである。

その商機として宇宙開発が真っ先に挙げられたのであった。

 理由として、サウジアラビア宇宙港での打ち上げる資材のほとんどは、日本から海運にて運ばれジェバイル商業港やジェッタ港に陸上げされ、鉄道にて宇宙空港へと運ばれて行く。

食料品に衣料品、日本国内だけでは数が揃わないものや、日本からわざわざ運ぶにはコストが掛かりすぎる機械部品に電気部品は、ヨーロッパ諸国から大量輸入しているからで

その為、アラブでの宇宙開発は日本国内はもとより、ヨーロッパ諸国に宇宙景気とも呼ばれる、絶大な恩恵をもたらしていた。

そのため日本国内は、コロニー建造に関わる軽金属工業に加工業等、宇宙開発に必要な電子分野を中心に発展をして、大量な物流を支える為、鉄道と船舶が昼夜問わず動き、トラックは集積所と工場の物資搬送に追われていた。

打ち上げ基地のある中東諸国は、産油国ならではの化学工業が発達し、宇宙服を始めとする衣料品用の高機能化学繊維が生産されていた。

ヨーロッパ諸国では、衣料、食料品を中心に中小企業が空前の好景気になり、失業率の低下に一役買っていた。

ただ、この画期的な宇宙開発事業に参加出来なかった、日本を含め各国の大企業に商社は手をこまねいているだけで、何一つ出来なかった。

アメリカ、ソビエト連邦、中華人民共和国、中華民国、の大統領に主席、首相達は、日本政府に対して、

ロケット開発産業に参加出来るように働き掛けるものの、この宇宙開発は各国が信じられない事に、

完全民間主導の開発事業で、日本も中東諸国も国家予算をまったく使っていない為、口出しすることが出来ない。

しかも日本政府にしてみれば、日本の企業が中心とは言え、中東で行っている事業なだけに、国内企業に口出しすることが出来ない。

ロケット基地のあるサウジアラビアも、一切の口出しをしないと最初の契約段階で、取り決められているため口出しが出来ない。

さらにここの開発資金は、公募に賛同した企業や個人からだけで運営している為、資金協力を申し入れをしても、間に合っていると拒否されている。

かろうじて、仕事を請け負っても、大工場ならではの量産ラインを利用した単価の安い大量生産商品しか受注出来なかった。


そこで、大国のアメリカとソビエト連邦は、自前の技術と企業を動員して、宇宙開発に乗り出したのである。

幸いなことに、両国共に宇宙開発出来る下地が有り、技術者もいた。特にアメリカは軍産業界から強烈なアピールがあって、官民共同で開発を進めることが決定し、アポロ計画以上の予算が組まれ邁進して行くことになった。


後の時代で言われる、第2次宇宙開発戦争の始まりであった。


ガトリング発射台として注目度が増したサウジアラビア国際宇宙空港では、連日世界中から連続して打ち上げられるロケットの迫力が、観光客が足を運ぶ一大観光地に発展していた。

 当初は、毎日のように打ち上げていたロケットも、アステロイド捕獲の帰還機を打ち上げ終え、現在は週一回、スペースコロニーの建設資材を6機のロケットで打ち上げるペースに落ち着いてきてはいるが

毎週土曜日に打ち上げられるロケットを見に来る観光客の足は途絶えず、ターミナルビル内のホテルはほぼ毎日満室状態が続き、お土産を販売する売店も大にぎわい。

様々な有償ツアーが組まれており、

月曜日と火曜日は、帰還機のメンテナンス作業見学。

水曜日は打ち上げる資材をカーゴに組み込む作業見学、

木曜日と金曜日はカーゴパーツを打ち上げ機に取り付けられ打ち上げ体制が整うまでの作業見学が、一般者にも公開されており人気を博していた。

それらとは別に、宇宙飛行士訓練体験ツアー、発射台見学ツアー、管制センター見学ツアー等

盛り沢山のツアーが有り、本物の機材を使った宇宙の一大テーマパークと言える内容だった。

施設の外側は、砂漠の中に作ったとは思えない草原が広がり、綺麗な水を湛えた人工の池の畔には色とりどりの鳥達が羽を休めていた。

その為、サウジアラビヤ国内の保養地としても、人気の高い施設となっていて、ターミナルホテルに隣接して、高層マンションが建設中であった


日本にある宇宙開発事業団『プロミス』の事務所には連日電話、Fax、テレックスが鳴り続けていてた。

内容は、共同開発の申し入れや、融資や出資に関する事が多く、個人的に売り込みしてくる事も。

ある企業は、スーツケース一杯に詰め込んだ現金を見せ、手付金と申し出てきたが、対応した若い女性事務員に

「そんなはした金を、どうしろと?」

と言われて門前払いされたケースも。

なぜなら資金に関しては、毎年200億アメリカドル以上の予算を超える入金が、出資金より振り込まれる『プロミス』にとって数億円程度では、新人事務員でもはした金に見えてしまう。


しかもどんな内容に関わらず、出資に共同参画の公募が締め切られた以上、追加の公募をしていない為、協力の申し出は嬉しいですが、と言って全ての誘いは断っていた。

そのためか、時には脅迫してくる手紙に電話が来るようになったが、そう言う物は、それ専用に対応している部署に廻す事になっていた。


砂漠から、毎週打ち上げられるロケットによって、徐々に大きくなっていく構造物

『プロミス』名称宇宙の飯場、公称初期開発用スペースコロニーを見て幸一達は、各国への挨拶周りを始めとする最後の引き継ぎを始めた。


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