間野瀬
「ドルエトを制する事は、国際的にみても大きな意義がある。」
日本の数名の人間たちだけがアクセスコードを持つ、会話空間。
そこには、日本企業のトップや海外で活躍する日本人、そして官僚の中の官僚たちもいた。
「そして占拠することでもっとも収益をあげることができるのも日本である事、それが、幾つかの国も気づいているということ。」
と誰ともなく、言葉を投下していく。
「やはり、ハワードを吸収できたことは、ここで生きてくるとはね。」
と元総理である市川徹は発言した。
ハワード・ブロック。彼は、チャールズの父である。
意識体の接触領域と言う存在を発見し、以後アクセス能力の分野の権威となる。
そして市川は、ハワードに対して極秘にある提案をしていた。
「意識通路の歪みを生じさせる事は、可能か。」
そのシンプルな提案に対してハワードは、興味を示した。
日本がアメリカに対して極秘裏に進めた、この計画により、トビオとチャールズは、巻き込まれたのだった。
「まさか、息子が最初の成果になるとは。」
そう言って、ハワードは、自殺する。
しかし、市川にとっては、大変都合のよい出来事であった。
「ここは?」
チャールズは、トビオとともにある建物の屋上にいた。
「僕はここを知っている。」
とトビオは、そう呟くのであった。
チャールズは、驚いたのだった。
悲しそうな顔をするトビオがとても新鮮だった。
トビオは、ただ屋上をから見える風景を見つめていた。
様々な住宅や、商業ビルが広がる風景。
街全体に脈の様に広がる道には、血液の様に乗用車や、歩行者が通過していく。
「僕たちは、この街を成り立たせているために、正義や悪などと口走って、
様々な役割を担っているだろう。
それでいて時折、自分の在り方に大きな疑問を抱く時があるけど
それって同時にこの街の在り方に対しても疑問を抱いているのじゃないか?」
とトビオは、チャールズに顔を向けずにそう言うのであった。
すると屋上に2人の男女が階段を上がって現れた。
すると男性のほうが、
「いい加減にしろよ、察してほしいなあ。いきがるなっていってんの。」
と女性に言うのであった。
「人殺しの正当化をしていてあなたの世界はまわっているの?」
と女性は、言い返すのであった。
2人は、トビオとチャールズには、全く気付いていないようであった。
「わからないのか。何度言ったと思う?この世に関して言えば、すべて相互作用的存在なんだよ。
一方がなきゃ、もう一方は、存在できないんだよ。」
「あなたを殺せば、私も同じ存在ね。」
「そうだよ。でもな、そうやって自分の役割を理解したうえで、新たな使命を果たしていけばいいんだよ。」
2人は、にらみ合ったまま時間が過ぎていく。
女性は、男性に向かって銃口を向けていた。
「決断ができた、あんたもいたかもな。」
男性は、ただそう言った。
「ああ、そうか。あれは僕か。」
とトビオは、言った。
「なるほど、彼女は僕なのか。」
とチャールズは、言った。
意識は、めまぐるしく展開していく。
この物理世界に関与していないものを含めれば、その数は、無数に際限なく膨らんでいく。
広がってゆく。
伸びてゆく。
チャールズとトビオは、意識の深淵から少しずつ自己へと戻ろうとしていた。
これに関しては、市川を含めた会員たちも予測できなかった事であった。
なぜなら、彼らが踏み込んだ事のない領域だったからである。
チャールズとトビオは、口をそろえて、
「止めに行こう。」
と意識した。




