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「本当に優しいんですね」
「どこが、当然のことだろ。むしろお前が貧乏くじだ」
「え、そうですか?」
首を傾げてしまう。
本人はいたって真面目にそう思っているようだけれど、ティクルスを見てもう一度首を傾げる。
優しいし、面倒見いいし、お医者さんみたいだし、綺麗な人だ。
しかも格好いい羽もある。
超優良物件では。
「お前にとっちゃジジィだからな」
「……ジジィですかね」
「ジジィだ」
ハッキリ言われてしまった。
ティクルスは考え方がハッキリしているなとルクレッツィは思った。
なんというか自分のなかに明確な価値観があるのだろう。
「それに公爵家どころか侯爵家。それも次男だからな、家は継がない。王女が嫁ぐ地位じゃないんだよ」
「お兄さんがいるんですか?」
ティクルスが継がないのならそうなのだろう。
もしかしたらヒルクライフでは女性でも爵位を継げるかもしれないので、姉の可能性もあるが。
ちなみにファーレンでは女性は爵位を継げない。
問いかけた言葉に、ティクルスはなんとも苦いものを食べたような顔になった。
「兄がいて……留学中だ」
なんかすごく言いにくそう。
仲が悪いのかと心配になってしまう。
「おまけにこの羽だ。先祖返りは裏じゃ化物扱いだからな」
「尊い存在だと、陛下からは聞きました」
「特別扱いすれば距離がとりやすいだろ」
こともなげに言うティクルスへ、ルクレッツィはぽかんと目を丸くした。
婚約者が化物なんて扱いなのかと、衝撃である。
「羽……かっこいいのに」
「……はあ?」
「だって! ハヤブサと同じ色ですよ! 最速の鳥と同じ羽! 最速って言葉はときめく……!」
「最速?」
まくしたてたルクレッツィに、今度はティクルスがぽかんとした顔になる。
不思議そうな顔で最速とオウム返しされて、この世界ではわからないかもしれないと思い当たった。
今の言葉はスルーさせてもらうことにする。
「その羽は飛べますか?」
キラキラと目を輝かせながらうっとりと羽に視線を滑らせる。
白い羽なんかもいいけれど、力強い感じがしてルクレッツィとしてはティクルスの羽が気に入った。
前のめりでもう一度「飛べますか」と訊けば、ティクルスが若干体を引いた。
「まあ……何でそんなに前のめりなんだよ」
「飛んでみたいです!」
「……駄目だ」
数舜の沈黙のあとに断られてしまった。
何か気になることがあったのかもしれない。
それがなかったら飛んでくれただろうか。
シュンとしながらティクルスの羽を見て、ルクレッツィはそっと口を開いた。
「羽を触るのは?」
「………駄目だ」
なんか長い葛藤が見えた気がする。
押したらいけないだろうか。
ちょっと未練がましく見てしまうのは許してほしい。
(やっぱりデリケートなのかなあ。飛びたかったな、ちっこいからいけるかと思ったのに)
唇がとんがりそうになるのを自制していたらフォックがくすくすと小さく笑った。
それに対してティクルスがギロリと睨む。
初対面は表情が動かなかったのに、実は結構豊かだったんだなとルクレッツィはこっそりとティクルスを見た。
するとティクルスの目線がルクレッツィに向く。
「敬語は必要ない」
「え、でも」
「婚約者だ、一緒に住むんだし気をつかわせる気はない」
断言されてしまった。
やっぱりルクレッツィのことを考えてくれるなと嬉しくなる。
「ティクルス様も敬語を使わないでくださいね」
今の方がいい。
ボロボロすぎる体にブチ切れてうっかり敬語を忘れてしまっていたことに気づいたのだろうティクルスが、しまったというように額を押さえたのをルクレッツィはくすくすと笑った。
この人といたらきっと楽しくすごせる。
期待と確信のないまぜな気持ちでルクレッツィが微笑むと今の言葉に「敬語」と言われてしまい、とうとう小さく声を上げて笑ってしまった。
けれどそのあとに体重は毎朝計ると宣言されてしまい、おもわず「やだ!」と反射で声を上げたけれど「駄目だ」と切り捨てられた。
ひどい。




