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屋敷は薄い青を基調とした建物だった。
結構大きい。
貴族の屋敷など見たことはないので知識は漫画かアニメだけれど、迫力が違う。
そして馬車を下りたら、何故か再び抱っこされた。
何故。
そのまま屋敷へと入って、さらに進んでいくあいだも抱っこである。
「あの……自分で……」
「今は我慢してください」
無表情のまま、きっぱり言われてしまった。
後ろを歩く金髪の青年は苦笑している。
もう一度ティクルスの顔を見るけれど、やはり表情は乏しい。
というか、この事態をどうしたら。
(放り出されると思ったのに、なんか違うんですけど)
ひとつの扉の前まで来ると、ティクルスはとまどわずにさっさと部屋へ入ってしまった。
「わあ」
なりゆきに身をあずけたままだったルクレッツィは、その光景に目を丸くさせた。
薬草の匂いがして、戸棚には沢山の小さな引き出しのついた棚や、瓶が大量に並べられた棚。
分厚い本や紙の束に、机の上にはよくわからない機器や試験官などがやはり大量にある。
天井からも逆さに花が吊り下げられていた。
これらはドライフラワーにでもするのかもしれない。
そして前世でお世話になったものに似ている体重を計るらしき魔導具と、何故か身長計らしき魔導具。
何故そんなものが。
「カルテを作っておいた方がいいな。フォック」
「はい」
カルテ。
病院で医者がよく見ていた。
(なんでここでカルテ?)
婚約者に会いにきて、屋敷に行くのは普通だ。
けれど着いた途端になぜカルテ。
(お医者さんなのかしら)
ぽかんと部屋を見まわしていると、丸椅子に下ろされた。
そしてティクルスも向かいの椅子に座る。
「どうぞ」
さきほどの金髪青年がティクルスへバインダーを差し出すと、とまどっているルクレッツィに笑いかけた。
安心するような人好きのする笑顔だ。
ルクレッツィもおもわず笑いかけた。
「僕はフォックと申します。ティクルス様の従者になります」
「ルクレッツィ・ファーレンです」
「ルクレッツィ様は敬語は不要ですよ」
やんわりと止められてしまった。
ルクレッツィの周りで敬語をつかわなくていい人間はいなかったので、ちょっととまどう。
侍女は近くにいないし、王太后以下数名は全員ルクレッツィが対等に話すのを嫌がった。
王太后と王妃はともかく、王子と王女は別に使わなくてもいいじゃんと今のルクレッツィは思うけれど、以前のルクレッツィはそうじゃなかった。
以前のルクレッツィの記憶もあるので、あの性格じゃ無理よねとも思うけれど。
「先に身長と体重だな」
カルテに何やら書きこむと、ティクルスは立ち上がった。
ルクレッツィもうながされたので立ち上がるけれど、あれと思う。
(口調が)
何やら丁寧なものだったのに、ちょっと変わった。
たまたまかなと思いつつ、ティクルスの指示どおりに身長をはかる。
するとティクルスは若干口角を下げて、カルテに何か書きこんだ。
そして体重。
これは乙女として抵抗ある。
たとえ前世でさんざんはかっていても、今はただのチビ助でも心はそれなりに年頃の乙女だ。
婚約者の男性相手に堂々とさらしたくはない。
「あの、体重は……」
「服のぶんは引いておくから安心しろ」
違う、そうじゃない。
あとやっぱり口調違う。
じっと見られたので観念して体重をはかった。
あきらかに眉間に皺が寄っている。
「身長が平均より低すぎる。体重は危機的状況だ」
そんなに酷いのか。
というかチビ助だとは思っていたけれど、平均より低すぎるってどういうことだとツッコミたくなる。
しかも体重は危機的状況。
(ご飯、とても栄養あるように見えなかったもんね)
納得の結果だ。
というか何故こんな羞恥プレイをされているのか。
体重を知られてほんのり恥ずかしく思っていると、また椅子へとうながされた。
今度は再び座ったティクルスに前髪を上げられて、さらに簡易な髪留めでとめられてしまった。
顔面全開である。
「あの、顔は」
隠した方がいいのではと口を開きかけたときだ。
眉間に皺を寄せたティクルスの方が早かった。
「治療が杜撰すぎる」
「へ?」
「何でこんなに雑な治療なんだ。火傷はスピードが命だぞ、あきらかに冷やし方が足りてない」
どうやら火傷痕が気持ち悪いとかではないらしい。
ルクレッツィはぽかんと口を開けた。
治療が雑なのは当然だ。
王妃が医者にそう命じたのだから。
ガリガリと勢いよくティクルスはカルテにペンを走らせると、再びルクレッツィの火傷を覗き込んだ。
「緊急用のポーションは? すぐに飲んだのか?」
「さ、さあ?」
ぎこちなく首をかしげる。
そんなことかけらも覚えていない。
ポーションは数種類あるらしい。
外傷用や魔力用があるけれど、緊急用は名前そのままだ。
といっても全開などはしないけれど、病気も怪我も飲んでいれば初期治療の効果が段違いだと朦朧とした意識のなかで医者が王妃に訴えていた。
命令に従って雑な治療をしてしまったけれど、頑張って治療をしようとしてくれたのだろう。
緊急用ポーションは時間がたつごとに症状への効きが悪くなるそうだ。
もしかしたらルクレッツィも飲んでいたかもしれないけれど、だいぶ時間が経っていた可能性はある。
適切に飲んで治療していれば痕は残らなかったかもしれない。
ルクレッツィの反応に、ティクルスは舌打ちのようなものをしかけてそれをこらえた。
初対面の印象が凄い勢いで書き変わっていく。




