国民的俳優
「本来はホテルとして営業しておりません。三船剛造様は自邸の賓客としてお泊りいただくだけで…」このフランス・ブルゴーニュ近くのヴァル城城主フランソワーズ長谷川は、親族を引き連れて無理矢理泊まりに来た国民的俳優の扱いに苦慮する。
「面倒な話は良いよ。私の米寿の祝いと相続をここで決めようと思ってな。しばらく借りるよ。
食事は村のレストランから届くから気にせんで良い。」とカッカッと笑う。
「お母様、ここはホテルとして許可申請してませんよね。お母様がたまにイベント準備で泊まるくらいで。」大学の先輩長谷川に一目惚れして、なぜか結婚までしてしまった伽椰子は義理の母フランソワーズに小声で聞く。
「仕方ないわ。ココの補修修理にテレビプロデューサーの夫が三船さんに寄付を頼んだから。今も毎年多額の寄付をしていただいてるし。」と小声で言う。
日本の漫画の翻訳の仕事をしているが、義母のフランソワーズが忙しそうなので伽椰子は手伝っている。
各部屋には年代物のレンタルの家具やベッドを置いている。観光客にその当時の城の様子を見せるためで使うためではない。
そのためリネン類も家族分しか用意していない。
しかし、三船剛造が突然泊まると。
何度も結婚離婚を繰り返した名うてのプレイボーイだった三船は、各々異母の子供3人孫2人と愛人と愛人の子の大所帯だ。
介護が要るようになってから相続問題で日本でいがみ合っていたが、ここで日本のマスコミを遮断して親交を深めれば解決すると思ったようだ。
「お母様、リネンや掃除はどうしますか?ウチで雇ってる清掃は週1ですよ!それでも城なんで月50万掛かってますが…」伽椰子がハラハラしながら聞く。
「それは村のレストランのステファンがケータリング運ぶ時に清掃とリネン交換のスタッフも入れてくれるみたい。三船さんが来る度ステファンの宿に泊まってたからそこら辺は頼んだみたい。
でも、ホテルのポーターやフロントみたいな用事を頼まれるかもね?
ああ〜ウチのスタッフは学芸員なのに!」フランソワーズ義母は頭を抱える。
「伽椰子、翻訳の仕事は出来たから送っておいたよ。」と長谷川先輩改めて夫のジョンが扉から顔を出す。
さすが恋の天才フランス人だけあっておぼこい伽椰子などひとたまりも無かった。
刑務所の面会室が悲劇の恋を盛り上げて、長谷川先輩の涙の演技で伽椰子は出所後すぐに結婚する事を誓ってしまった。
出所した足でこの湖の古城で身内だけの式を挙げた。
後は無給で城のスタッフ扱いだ。何とかネット就活で日本漫画の翻訳の仕事を始めたが、とにかく城の雑用係として走り回っている。
「ゴメンね。本来は僕の仕事なのに。」義母フランソワーズの前なのにお構いなく長谷川先輩は伽椰子を抱きしめて熱烈キスする。
お母さんも平気だが、伽椰子はまだ慣れない。
「分かりましたから!離して下さい!」と長谷川先輩改ジョンを引きはがす。
甘いマスクで極上のキスだが、義母の前だ!
日本人には無理!
「そうよ、本当に!本来はジョンの仕事だわ!
でもね〜さっそく呪いが発動して殺人犯になってしまったし、恐いのよ。」フランソワーズがデカくその溜息付いてレンタルの年代物のソファに座り込む。
日本人と結婚して貴族と言っても分家の分家ですっかり忘れてたら、大叔父が城だけフランソワーズに遺したのだ。
固定資産税や補修で持ってるだけで大赤字の城を。
そこから1人でこちらに戻り、夏休みは息子のジョンが手伝いに来てくれたが…この城の曰くが現実となった。
この城をアンリ3世から貰ったご先祖様ガブリエルは、本当はただのワイン畑の農夫だった。
ところが持って生まれた戦闘能力で戦果を挙げて騎士貴族として爵位を貰うことに。
だが恋人はただの農婦。結婚はアンリ3世が決めた貴族の娘としなくてはいけない。
ずっと彼の帰りを待っていた恋人は絶望し湖に身を投げた。ガブリエルはその亡骸をこの城のどこかに隠してしまった。彼なりに離れたくなかったのだろう。
だが、それから悲劇が続く。
嫁いだ貴族の娘は子供を産んだ後産じゅく熱で亡くなり、ガブリエル自身もアンリ3世主宰の槍試合で刺されて相討ちで亡くなった。
そして、その赤子も子が生まれて直後に決闘により相討ちで亡くなる。
そう、この城の跡継ぎは人を殺すか人に殺される運命を500年以上背負っているのだ。
近世はこの城に住むこともなくなり、伝説は消えていたが、まさかの長谷川先輩ジョンが大学で人を殺してしまった。
「もう、今は住んでないから大丈夫だと思うのよ!
前は仕事が忙しくて夏休み来る度、ここで寝起きしてたから、それがいけなかったのよ。」フランソワーズは言い訳するが、つい恐くて城の雑用をジョンにさせれない。
伽椰子が代わりに働く事に。
「仕方ないです。出来れば、もうこの城に関わりたくないですが、お母様1人は本当に大変ですし。」伽椰子は出来れば日本にジョンと帰りたい。
サキやユウとも長らく会えていない、寂しい。
「そうよね〜私もずっと売ろうとセールに出してるんだけど、私のマネージメント込みじゃないと投資家にも見向きもされなくて。」フランソワーズはサメザメと泣く。
ロワール川付近は古城が密集してるが、現在数千の城が廃墟化してる。
「でも、現在うまく観光化してるから本家のマルニ男爵が返して欲しいと言ってるんだろ?返せば?」とジョンが言う。
「相続してるんだから、ちゃんと買って貰いたいわ!
私がここにどれだけ投資してきたと思うのよ!
タダはイヤよ!」フランソワーズがキッとジョンをにらむ。




