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第46話 ダメ! 風花は僕の!

〇6月18日(日)地球



 外が明るくなってきた。でも、鳥のさえずりがいつもと違うような……ここは?


「……風花」


 すぐ横にこちらを見ている風花がいた。

 そうだ、昨日は温泉に泊まって、一夜を共に過ごしたんだ……


「おはよう、樹」


「おはよう、いつから起きてたの?」


「ついさっきね。あーあ、樹にいたずらしようと思っていたのに残念だよ」


 いたずらって……

 というか口調が……


「えっと、リュザール?」


 布団の上に座り、風花に尋ねる。


「うん、そうだよ。ありがとう、樹。ボクね、リュザールのことがわかって、ほんと嬉しいんだ」


 風花も同じように起き上がり、リュザールと同じ仕草で笑った。

 ほんとに繋がったんだ。僕も嬉しいよ。


「ねえ、風花。昨日のあちらのことを聞いてもいい?」


 昨日の朝早く、セムトおじさんが率いる討伐隊はコルカの東に向かって出発して行った。今朝の風花の様子では、そんなに大変な感じはしないけど……


「小さな盗賊団を二つかな。思ったほどいなかったから、西での噂が流れて逃げ出しているのかもね」


「逃げ出してるんだ……大丈夫なの?」


 もし隠れられていたら厄介。ほとぼりが冷めた頃に出てくるかもしれない。


「それでね。馬で二日ほど東に進んで様子を見ることになったんだ」


 馬で二日ならバーシの近くまで行きそう。そこから奥にはカインやルーミンが住んでいたような小さな村しかないから、盗賊もあまりいかないってことか。仮にもし何かあっても、ユーリルたちが教えてくれるだろう。


「早ければ四日で戻って来るということ?」


「たぶんね、また明日様子を知らせるよ」


 つまり、たとえ離れていたとしても、毎日リュザールのことを聞けるようになったということだ。よかった。不安で押しつぶされそうになることがなくなるかも。


「あ、そうだ。風花はリュザールの記憶を全部思い出したんだよね」


「うん……そうみたい」


 風花は上を向いて記憶を呼び起こしている感じ。


「なら、武術も?」


「うーん、どうかな……」


 風花は手を上げたり、腕を回したりしている。


「やってみないとわからないか……樹、手伝って」


 風花が布団の上に立ったので、僕も同じように立ち上がった。


「こっちへ」


 風花の方に一歩近づく。


「うわ! あれ?」


 次の瞬間なぜか仰向けのなってて、そしてお腹の上には風花が乗っている。


「これで樹は一度死んだよ」


 僕の首に風花の親指がトンとあてられた。

 もし、これがナイフだったら……


「風花、これを地球で僕たちに教えてもらえないかな」


「もちろん! 引っ越してから、バシバシ扱いてあげる」


「あはは、お手柔らかに」


 これで、みんなが自分の身を守れるようになるかも。


「ところで風花さん、いつまで?」


 風花はさっきから僕の上に乗ったまま、これじゃ起き上がることができない。


「ねえ、樹。朝ごはんまで時間があるよ」


 風花は僕を見下ろしながら、首にあてていた手で僕の胸を撫でてきた。


「う、うん」


「昨日盗賊をやっつけたボクにご褒美をくれないかな」


 風花の浴衣がするりと下に落ちた。




◇◇◇◇◇




「一階のまま! 早く!」


 部屋を飛び出した僕たちは、二階の食事会場に行くためにエレベーターホールに来ている。下のボタンを押しているのにいっこうにやってこない。


「ごめんね樹くん、私が伝え忘れていたから」


 あ、口調が戻ってる。ずっとリュザールだったらどうしようかと思ったけど、切り替えられるんだ。


「大丈夫だって、たぶん……大丈夫だよ」


 一息ついてお腹減ったねぇと話していたら、朝食券はお母さんたちが持ってて、8時に来るように言われていたと風花が言ったのが7時55分。それから慌てて身支度を整えて、今の時間は8時5分。たぶん、待っていてくれていると思う……にしても、


 エレベーター早く来い!


 いっそのこと階段で行こうかと思っていたらエレベーターが動き出して、五階で止まった。


「あら、二人ともおはよう。ほら、早く来なさい。真由美が待っているわよ」


 ようやく開いたエレベーターの扉の先には、水樹さんが立っていた。


「おはようございます。ごめんなさい、遅くなりました」


 風花と二人でエレベーターに乗り込む。


「私が樹くんに伝えるの忘れてて……」


「大丈夫ならいいの。電話をしても出ないから、何かあったのかと思って来てみたの」


 電話……慌ててポケットを探る。無い……そういえばずっとスマホをみる余裕がなかったから忘れてた。風花の方も同じみたい、顔を見合わせ二人でクスっと笑う。


「風花、うまくいったみたいね」


「うん、お母さん!」







 食事会場の入り口で時間に厳しいお母さんに叱られたり、車の中で風花との仲を冷やかされたりしたけど、久しぶりの温泉旅行は忘れられない思い出になった。


「それじゃ、風花、待っているよ」


「うん、みんなにもよろしく言ってね」


 空港ターミナルの屋上で、二人が乗った飛行機が飛び立つまで見送る。


「行っちゃったね」


「樹、私はあなたを見直したわ」


 お母さんが小さくなっていく飛行機を見上げながら呟いている。


「な、何、いきなりどうしたの?」


「あれだけお膳立てしても、結局は手を出さないんじゃないかって思っていたのよ」


「あー……」


 たぶん、風花とリュザールが同じ人格で無かったらそうだったかもしれない。


「ただ、こういうのは今回だけよと言っても無理か……。学生なんだから節度を持ってね」


「う、うん」


「まあ、できちゃったときは私たちが責任もって育てるわ」


 あはは。


「さあ、それじゃ帰りましょうか。お父さんが待っている」


 ルンルンのお母さんが運転する軽自動車で家へと向かった。今度はもちろん助手席に乗らされて……






「ありがとうございますぅ。このせんぺい、口どけが良くて好きなんですよ」


 海渡は湯せんぺいの紐の先端を持って、くるっと回してみたり下からのぞいたりしている。


「樹、サンキューな。でも、わざわざこれを渡すために俺たちを呼んだわけじゃないだろう」


 家に着いた僕は竹下と海渡に時間があったら来てと連絡したんだけど、二人ともすぐに駆けつけてくれた。


「うん、聞いて、二人とも覚えてる。ふーくん」


「ふーくんですか? 覚えてますよ。確か引っ越したか何かで途中でいなくなったような気がします」


「いたな、ふーくん、そういえば確かにいた。樹のあとをよくちょろちょろとついていた可愛らしい男の子だったよな」


 やっぱり男の子だと思うよね。


「何言ってるんですか竹下先輩。ふーくんくんは女の子ですよ」


 へぇー、海渡は知っていたんだ。


「うそ! 格好は……男だったよな、って、海渡もくん付けしてるじゃん」


「あ、そうですね。でも、ふーくんは女の子ですよ。お母さんとのお買い物の時は女の子の格好してました」


 そうだったんだ。


「ふーん。で、そのふーくんがどうしたの」


「えとね。今回の温泉にふーくんも来てたんだけど、実はリュザールだったんだ」


「マジ!」

「マジですか!」


 ふふ、驚いてる。


「それで、今度はこちらに引っ越してくるというわけですね」


「よくわかったね。お父さんが7月1日付でこっちに転勤らしくてそれに合わせて来るんだって、学校は3日の月曜日からになるって言っていたから仲良くしてやってね」


 海渡はうんうん頷いて、シナリオ通りですとか言ってる。何だよシナリオって……


「りょ! それで、リュザールだったって確定的に言っているということは、もう繋げたということだよな」


「う、うん」


「どっちで?」


「……こっち」


「そっか、ということは一緒に寝たということか。旅行、おばさんたちも一緒だったんだろう。よく手を繋いで眠れたな」


「……」


「ま、まさか、二人っきりですか?」


「二人っきり、女の子と……い、樹、やったの?」


「…………」


「先を越された!」


「樹先輩、一足先に大人になっちゃいましたね。それにしても、テラではなくてこちらというのが驚きです」


 うぅー。


「ふーくん、あの頃から可愛かったんだから、今ならなおさらだよな。いいなぁ、俺も頼んだらやらせてもらえないかな」


「ダメ! 風花は僕の!」


 うっ、竹下と海渡がニヤニヤと……


「よかったな。これでリュザールとも一緒になれるじゃん」


「う、うん」


「カインで結婚できる年齢はいくつだっけ?」


「16歳」


「ということはあと一年か……それまで二人っきりはダメだったよな?」


「うん、うちの村は結構厳しいんだ」


「こっちではやってて、あちらでは見てるだけか。それもまた大変だな……リュザールがカインに来たら爆発しないように見張っとくわ」


「ですね、せっかく思い合っているのに離されるのはかわいそうです」


 二人ともよろしくお願いします。


「さてと、俺たちそろそろ帰るとするか」


「うん、また明日、学校でね」


「学校ですか? 朝のお散歩は? 明日は晴れの予報ですよ」


 梅雨の中休みというやつかな。予報では数日晴れが続くみたい。


「ごめんね、朝から風花にリュザールのことを聞かないといけないんだ。あと四日くらいでコルカに戻って来るから、それまでは中止にしてもらえないかな」


「あー、それは朝から知りたいですよ。了解しました」


「俺もりょ! じゃあな」


 竹下は、僕が渡したお土産をぶら下げて部屋を出た。


「あれ、そういえばふーくんには、少し年上のお姉さんがいませんでしたか? よく一緒に惣菜を買いに来てたような気がします」


「うん、いるみたい」


 ……竹下が戻ってきた。


「こちらに一緒に引っ越して来られるんでしょうか?」


「全寮制の高校に通っているらしくてこっちには住まないみたいだけど、夏か冬の休みにはこっちに来るんじゃないかな」


「なあ、樹、お姉さんの写真とか無いの?」


 食いついてきた……


「持ってないけど、風花に聞いておくよ」


「頼むな。俺にも春がやってきそうだ」


 その自信はいったいどこから来るんだろう……

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