第230話 赤……鮮やかな方
〇(地球の暦では12月31日)テラ 水の日
「ルーミンの色は?」
「これですかね」
ルーミンが棚の上から、人まとまりになった糸の束を手に取った。
「黒?」
「はい。あちらよりも少し明るいですが、こちらは夜の部屋が暗いのでちょうどいいと思います」
この前地球で着た衣装をコペルに伝えたら、早速作ろうということになって工房の倉庫で秋に染めていた糸を見繕っているところ。
「わかった。とりあえずこれを一反織る」
一反でだいたい服一着分。この衣装は黒の他に同じくらいの白の生地も使うから、通常サイズなら二着分できることになる。
「ソルのは?」
「えーと、これかな」
赤色の糸を手に取る。
「赤……鮮やかな方」
こちらでは昔から赤は色々な衣装に使われていて、このあたりで採れる紅花や赤紫蘇などで染められている。ちなみに、鮮やかなのはインド茜が原料だね。
「でも、在庫が僅か……」
確かにこの量では一反……いや半反分もなさそうに見える。でも、
「赤はズボンの部分だから、ちょっと短めでもいいと思う」
使うのは夜の予定だから、それでも大丈夫だろう。
「よし。それじゃ、早速始める」
シュ、トントン、カシャーン
シュ、トントン、カシャーン
シュ、トントン、カシャーン
「金槌の音もいいが、この音もなかなかだな」
両方の胸で器用にラザルとラソルにお乳を与えながらパルフィが呟く。
「はい、ここで預かっている子供たちは、この音を子守歌代わりに寝ちゃいますね」
機織り機の音って結構大きくて初めて来た子は泣くこともあるんだけど、すぐに慣れて家にいる時のようになるみたい。
「で……」
パルフィがこちらを見た。もうすぐ夕方だから……うんと頷く。
「よし、お前たち、今はそれくらいにしとけ」
パルフィがお乳からラザルとラソルを離す。
二人ともちょっと足りなさそうだけど、お腹いっぱいなったら眠くなるからね。
っと、外が騒がしく……
ドンドン!
すぐに、織物部屋のドアを叩く音。そして、
『お、おい。ユーリルたちが帰ってきたみたいだぞ!』
ドアを開けるわけではなく、鍛冶職人さんの声。パルフィがここにいるから教えてくれたんだと思う。
「よし! んじゃ、行ってみっか」
「ちょっと待って!」
指をくわえたラザルとラソルを、厚手のおくるみで包もうとしているパルフィを止める。
「おくるみを着せるのはいいけど、会わせるのは父さんの許可が出てからね」
「お、そうだったな。よろしく頼むぜ」
まずは私だけが外に出て、西の方を眺めてみる。
確かに馬に乗った二人がこちらに向かってきている。馬の毛色と乗っている人間の背格好からして、リュザールとユーリルに間違いない。
そのまま診療所に向かいドアを叩く。
「父さん、いい?」
「ソルか。入りなさい」
「リュザールとユーリルが帰ってきたみたい」
「さっき職人からも教えてもらったが、この時期に……とにかく、誰にも会わないうちに真っ直ぐにこちらに来るように伝えなさい」
外に出て少し離れた場所でリュザールたちの到着を待つ。
来た!
近づきたいのを我慢して、その場で両手を広げる。
「先に診療所に行って!」
「診療所? いつも挨拶は荷物を置いてから……」
「だよね……あ、そうかボクたちバイ菌だらけかも」
「なるほど」
二人も理解してくれたようで、荷物はそのままにして馬を降り診療所の中へ。
見た感じ具合が悪そうには見えない……一緒に中に入って……いや、ダメダメ、私が病気になったら、ラザルとラソルの診察ができなくなってしまう…………まだかな。ほら、みんなも気になるようで、工房と鍛冶工房からも何人か出て来ちゃっているよ。
「ソル」
振り向くと、父さんが診療所のドアの外からこちらに手招きをしていた。
「どうしたの?」
急いで駆け寄る。
「二人とも体調に問題はない。ただ、立ち寄った村で風邪が流行っていたらしくてな」
うん、一昨日地球でそう言ってた。
「マスクは付けていたらしいが、大事を取った方がいいと思うんだ」
うんと頷く。
「それで、工房の寮に空きはないかね」
うーん……
「今は満室」
「だったよな。さて……」
今、人が住んでない建物は……カイコを飼っている小屋にも水車小屋にも人が眠れるようなスペースは無いし、薬草畑の倉庫はさらに狭くて論外。どこか他に……
「おいおい、えらく時間がかかっているが、何かあったのか?」
パルフィが来ちゃった。手ぶらだから、ラザルとラソルはルーミンに預けて来たんだろう。
「二人とも大丈夫みたいなんだけど、念のため二、三日……?」
父さんを見る。うんと頷いた。
「隔離した方がいいんじゃないかって。それでうちには余っている部屋は無いし、他も今はいっぱいでしょう」
「なんだ、そういうことか。それならあたいん家でどうだ。今は誰もいねえぜ」
確かに、パルフィたちは女の子部屋に来ていて、ユーリルたちが開放されるまでの間は帰る必要はないから空家だ。




