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幕間1 どうしてこんなことに……

 今日は何をしようか……

 とある週末の午後、暇を持て余していた。

 風花も朝から家族と出かけると言っていたし、竹下もお店が忙しいみたい。

 部屋を見渡してみる……代わり映えのしないいつもの部屋。

 ん? あそこにあるのは……あ、海渡の本だ! 借りていたんだった。返すのはいつでもいいって言ってたけど……上着を羽織り、本を手に取り部屋を出る。連絡は……いらないかな。もし留守だったとしても、おばちゃんに渡したらいいからね。




 海渡の家までの道のり、ほんの5分ほどの距離なんだけどいつもと違う景色が広がっている。この前までクリスマス一色だったのに、もうお正月の飾り付けだ。年の瀬か……なんだか(せわ)しないな。

 さてと、海渡の家に到着。一階のお店を覗くと、おばちゃんがお客さんと話し込んでいて……目が合った。指を上に……海渡は家の方みたい。会釈をしてそのまま建物の横にある外階段を二階に上がり、玄関の前へ。


 ピンポーン!


『はーい』


 海渡の声。


「樹だよ。本を返しに来たんだ」


 インターフォンに向かって声を掛ける。


『樹先輩です……』


 あれ? いつもはハイ! と言ってすぐに開けてくれるんだけど……都合が悪いのかな。


『え? あ、いま、開けます。少しお待ちください』


 なんだか様子が……でも、追い返されずにすみそう。


 ガチャ。


「樹先輩、どうぞ」


 ドアが開いて出てきたのは凪ちゃんだった。







 案内されるまま、海渡の部屋へと向かう。


「えーと、いいの?」


 凪ちゃんに確認。二人でいい雰囲気だったとしたら、ちょっと……


「はい、もちろんです。海渡さん、入りますよ」


 凪ちゃんと一緒に海渡の部屋へと入る。海渡は?


「隠れちゃってる」


 凪ちゃんは一直線にクローゼットへ。


「ほら、出てきてください」


「え、でも……」


 凪ちゃんに手を引かれて、クローゼットの中から出てきたのは……


「マジ……」


 黒のワンピースの上にフリルの付いた白いエプロンが重ねてある、いわゆるメイド服を着た海渡だった。


「あうぅー、凪ちゃんに押し切られて仕方なくなんですぅ」


 スカートも短めで、なんだか……


「ところで、中身は?」


 下を指さす。


「そこだけは死守してます」


 海渡がスカートの裾を少し上げる。いつものトランクス。


「どうしてこんなことに……」


 なんだか、お楽しみ中って感じでもないんだよね。


「あちらで、コペルから女性用の可愛らしい衣装のデザインを頼まれました。いつまでたってもソルさんとルーミンが教えてくれないからって」


 コペルが痺れを切らして、ジャバトにまで……


「でも、どうして海渡が着ているの?」


 ジャバトが頼まれたのなら、凪ちゃんが着た感想をあちらでコペルに伝えたらいい。


「作業の間、僕が常に織物部屋にいることができたらいいんですけど……」


 なるほど。何もかもが不足しているテラ。男手は貴重で、常に何らかの体を動かす仕事に駆り出されている。新しい服を作っている途中で、ここはどんな感じなのかをその都度わざわざ尋ねに行っていたら効率が悪くなってしまう。


「なので、僕が着てコペルさんに教える羽目になりました」


 元々、いつかは着て感触を確かめないといけなかったら、海渡も観念したのかもしれない。


「それでは、せっかくですので樹先輩も……」


 も? 凪ちゃんが足元の大きな紙袋をゴソゴソと……


「き、急に用事を思い出した。海渡、借りていた本を返すね」


 海渡の勉強机の上に本を置いて振り向いたら、海渡が手を広げて目の前に。


「逃げようとしてもそうは問屋が卸しませんよ」








「スースーする……」


 赤色の袴を押さえる。凪ちゃんが紙袋から出したのは神社でよく見かけるあの衣装。いわゆる巫女さんが着ているあれだ。

 それにしても……裾の丈が少し短めだからか、なんだか心もとない。パシャ。


「そちらはストンとしているからいいじゃないですか。こっちなんて、完全無防備状態ですよ」


 海渡のメイド服はそういう加工がしてあるのか、裾が広がっていて下から覗けばたぶん丸見えになっているんじゃないかと思う。シルエットはキレイなんだけどね。パシャ。


「お二人とも慣れないのは仕方がないことだと思います。カインでは女の子も基本的にズボンですから」


 普段から馬に乗ることが多いテラでは、裾を気にしなくていい服装が主流。だから、こういう服もいわゆる夜用の予定なので……


「ちゃっちゃとやっちゃおうか」


 海渡と二人でそれぞれの服を細部まで観察していく。パシャ。


「ここは一体化させた方がいいんじゃないですかね。どうせすぐに脱がしちゃうでしょうし」


「そうかな、そのまま始めるかもよ」


 男と女の両方の気持ちを考えながら、コペルに伝えるデザインを考える。パシャ。パシャ。


「そこは、ビーっと破けるようにできませんか。その方が燃え上りそうです」


 ビーっと、って。そういえば、ここにも男の気持ちがわかる御仁が……


「まあ、わからなくはないですが、そんなことをしたらコペルさんにどやされてしまいますよ」


 そうそう、テラでは糸を紡ぐところから織るところまで、すべてが手作業。それを一時の快楽のために粗末に扱うのはバチが当たる気がする。


「いえ、それはコペルさんも言われてたんですよ」


 海渡と顔を見合わせる。コペルにそんな性癖が……


「あ、その方がすぐに次も買ってくれるかもしれないからと言ってました」


 なるほど、そういうこともあり得るのかな。パシャ。


「でも、破いた布がもったいないですね」


 布か……破くのは手だよね。いくら鼻息荒くても厚手のものは手こずるはずだから、それ用のは薄いはず……うん。


「残った布は縫って手ぬぐいとかにしたらいいんじゃない」


「おぉー、パッチワークみたいで楽しそうですぅ」


 色も地球に合わせる必要はないから、カラフルになるかも。パシャ。パシャ。


「ところで凪ちゃん、それ、ネットにあげないでよ」


 凪ちゃんのスマホからパシャパシャという音が……きっと、スマホの中には僕たちのあられもない姿が何枚も保存されたに違いない。こんなものが世に広まるのは勘弁してほしい。


「そんなことはしませんよ。ただ、風花さんと共有するだけです」


 うっ、風花に……実物を見たいって言い出さないかな。


「えーと、こんなものですかね」


「だ、だね、あとはコペルに伝えてアレンジしてもらおう」


 早く着替えよう。なんだか気持ちが落ち着かない……


「お待ちください!」


「な、なに?」


 袴のひもに手をかけたところで、凪ちゃんから待ったがかかる。


「お二人とも、ちゃんと女の子の気持ちで考えられましたか?」


「もちろんですよ。今ここにいるのは16歳の少女、ルーミンです!」


 海渡がくるりと回って見せた。


「本当でしょうか。そのような中途半端な格好で言われても納得できません。恐らく、カインのご婦人方も期待したわりに思った効果が出ないと嘆くことになると思います」


 中途半端……海渡とお互いを改めて見てみる。

 確かに化粧はしていないけど、テラでは結婚式の時の花嫁さんくらいしかやらないし……これ以上何を求めているんだろう。


「僕はコペルさんから、ちゃんとしたものをと頼まれています。ですから、これよりお二人には身も心も女の子になって頂きます」


 そう言って、凪ちゃんは足元の紙袋から小さなポーチを取り出す。


「これ、カインでも評判がいいみたいじゃないですか」


 ポーチから出てきたのは、二枚の女性用ショーツだった。

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