第227話 蛇、いますかね……
うん、バーシの方は順調そうだ。あとは……
「ところでよ……あいつらはどうしてる?」
おっと、竹下が言うあいつらとはラザルとラミルのこと。ユーリルがカインを出発してからそろそろ三か月。会いたくて仕方がないんだと思う。
「はい、お二方とも元気です……よ…………ん?」
「な、なんだ? 何かあったのか?」
「いえ……何かをお伝えしないといけなかったような……」
海渡がこっちを見た。必要なことは朝の散歩のときに話しているはずで……あ、今日は雨で中止にしたんだった。
「な、なあ、いったい何があったんだ? 朝から電話で穂乃花さんも見れなくて残念って言ってたけど、何がかを聞く時間がなくてよ……」
パルフィが見れなかった……あっ!
「思い出しました! 昨日はとうとうラザルくんとラミルくんが織物部屋で寝返りをうって、みんなを驚かせたんですよ!」
そうそう、そうだった。パルフィが二人を預けに来て間もなくのこと。朝の診察の時にはまだだって言ってたから、びっくりしちゃった。
「うそ! どっちが?」
「お二人共ですよ。最初はラザルくんが腕をばたつかせた拍子にゴロンとなって、それを見たラミルくんも同じことをしようと頑張ってですね」
みんなも思わず作業の手を止めて、応援しちゃったんだよね。
「マジか。かぁー、見たかったぜ」
こんな感じで、逐一、二人の様子を教えてあげているんだ。写真や動画を送ってあげられたらいいんだけど、あちらではそれができないから。
「くそぅ。俺の息子たちが知らない間に大人になっていく……」
黄昏ているところ悪いけど、大人になるのはまだまだ先だと思う。今はまだ生後4ヶ月ほど……
「それで、そちらはどんな感じですか? 予定通りに帰れそうですか? 間もなく、冬になっちゃいますよ」
「それがね、厳しいみたいなんだ」
風花の問いに竹下もうんと頷いている。
「何か問題があったの?」
「リュザールが来てくれて、温浴施設の建設はうまくいってるんだけどさ。硫黄の鉱山の方が、ちとな……」
「あれ? 鉱山と言っても、露天掘りで行けたんじゃなかったっけ?」
硫黄は温泉と一緒に湧きだしていて、これまでの間に地表付近に溜まっているものだけでもかなりあるから、地中深く掘り進める必要はなかったはず。
「確かにそれでいけるんだけど、掘った硫黄の管理をうまいことやらねえと周りの人間が困ることになりそうなんだわ」
「もしかして、それは鉱害ってことですか?」
「ああ、それがもとで住めなくなったら元も子のねえだろう」
そりゃそうだ。温泉もだけど、そこはコルカとシュルト間の交易の中継地点として期待されている場所。村が無くなってしまったら、頻繁に行けない遠くの方は隊商を使って発展させようという僕たちの計画が台無しになってしまう。
「それに、採掘した後の処理の仕方も教えとかねえといけねえしな」
「それでは、お戻りは春までお預けですね」
「いや、リュザールと一緒だから終わり次第帰るつもりだ。隊商を待つ必要はねえからな」
なるほど、ユーリルとリュザールならカインの山道が雪で凍っていても馬に乗って移動できる。ただ、
「盗賊はどうする? 何十人も出てきたらお手上げだよ」
たぶん二人なら、四、五人までなら難なく対処できると思う。でも、それ以上になったら苦戦するかも。今はそこまで大きな盗賊団はいないと思うけど、命のかかわることだからね。
「一応アレを持って行っているんだ」
リュザールが弓をつがえる仕草をした。
「ボウガン? でも、毒は?」
タリュフ父さんの元で厳重に管理されているはず。
「持って行っていないよ。全滅させる必要はないもの」
そうか、村に来た時と違って逃げることができたら勝ちだ。
「それなら年内に帰ってこれるかもしれませんね」
「ああ、そうしねえと、ラザルとラミルがマジで俺のことを父親だってわかんなくなるかもしれねえだろう」
そうかな。パルフィがお母さんというのはわかっているかもしれないけど、お父さんのことはまだ興味がないような気が……
〇(地球の暦では11月1日)テラ 土の日
「……次に、トゲがあるものもありそうですので、注意してください」
お昼過ぎ、薬草畑に集まったみんなが正面に立つジュードの注意事項を真剣に聞いている。
「そして、暑くはないとはいえ水分補給はマメにお願いします。最後に、まだ蛇がいるかもしれませんから気を付けてください。それでは、今日はよろしくお願いします!」
それぞれが軍手と鎌や刈り込みバサミを手に取り、川の方へ向かっていく。これから、工房のみんなで水車小屋近くの土手の草刈りを行う予定なんだ。
「蛇、いますかね……」
ラザルを抱っこして歩くルーミンは不安げな表情。
「うーん、どうだろう」
寒くなってきているから冬眠に入っている頃だと思うけど、中には目が硬くて寝つきが悪いものもいるかも。
「心配するな。あいつらは最初にバシバシ叩いたら、勝手に逃げていくって」
こう言うのはラミルを背負うパルフィ。この水車小屋は鍛冶工房のというのもあるんだけど、チビがいたら邪魔だろうから工房で待っているというのを、織物部屋のみんなでいつものように世話したらいいじゃんとなって参加することになった。ちなみに、工房の託児所の他の子供たちも連れてきている。目が離せなくなるけど、親たちがこういう仕事をしているということを知るのにいい機会だからね。
「それではケガに注意して、持ち場についた人から始めてください」




