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第226話 封印されていた記憶が呼び起こされて

10月25日(土)地球



「ありがとうございました」


 電車を降りて時計を見る。お昼ちょっと前、約束の時間に間に合いそう。信号を渡り、今日の会合場所である凪ちゃんの住むマンションへ。


 ピンポーン!


『はーい、樹先輩。どうぞ、鍵開いてますよ』


 あれ、海渡の声だ。

 10階まで昇り玄関ドアを開けると、いくつもの見慣れた靴がキレイに並べられていた。どうやら最後っぽい。


「お邪魔しまーす」


 廊下をまっすぐ進みリビングに入る。


「樹、遅せえから、もう食うところだったぞ」


 テーブルの上にはいろんな種類の袋が乗せられていた。


「ごめん、ごめん。気になるものがあってちょっと遠くまで行ってた」


 今日のお昼はそれぞれが好きな物を買って来て、一緒に食べることになっているんだ。ということで、風花の横に座りテーブルの上に紙袋を置く。


「もしかして、そのロゴは期間限定の?」


 風花の問いにうんと頷く。


「マジか。確か売ってんの、スタジアムだけだろう。並んでいたんじゃねえのか?」


「それが、ちょうどいい感じに列が流れて、あまり待たなかったんだ」


 電車もスイスイ進んでよかったよ。そうじゃ無かったら遅れていたかも。


「皆さん揃いましたので、早速いただきましょう」






 テーブルの上の大皿には、いろんな料理が切り分けられて乗せられている。それぞれが持って来たものではなくて、いつものようにみんなで分け合って食べようとなったのだ。ちなみにあちらでは大皿で直箸じかばしが一般的だから、仲間だけの時はいつもこんな感じ。


「ん、凪ちゃんの押し寿司も美味しい」


「はい、このお店のが好きでいつも買っているんです」


「樹のドーナツもふわふわ。SNSで話題になるだけあるね」


 ほんと、この食感どうやって出すんだろう。えーと、海渡……は、中をじっと見ている。よしよし、この調子ならテラでも再現してくれそう。


「あむ、海渡んのおいなりも美味えな。小さい時から食ってるけど、飽きることがねえぜ」


「ありがとうございます。そう言っていただくとお父さんも喜ぶと思います……ですが、実は少しずつ味付けは変わっているらしいですよ」


「ま、マジか! 全然気づかなかった……」


 そうなんだ。ずっと同じ味だと思ってた。


「味にも流行り廃りがありますからね。最近は健康志向もあって、薄味が好まれているようです」


「あー、そう言われてみたら、家で食うメシも昔よりも薄い気がするな」


 うちでもそう。普段食べる食事に合わせて、好みも変わってくるのかも。


「今度、いなりをテラで作るんだろう。味付けはどうするんだ?」


 この前カインで、初めての大豆の収穫を終わらせた。乾燥がすんだら豆腐を作るつもりなんだけど、その時に一部を油揚げにしておいなりさんもどうかなって話しているんだ。


「今考え中ですが、テラでは体を動かしますので少し濃い目の方が喜ばれるかもしれませんね」


 塩もあるし、テンサイも予定通りに収穫できて砂糖も少しは余裕があるから、量を気にせずに使う事ができる。もちろん健康に気を付けないといけないけど、海渡が言うとおりテラでは地球以上に体を動かしている人がほとんどだから、多少濃いめの味付けでも問題ないと思う。


 さてと、そろそろお腹も膨れてきたことだし……


「それで、バーシの方はどんな感じ?」


 みんなの視線が凪ちゃんに。凪ちゃんには、バーシで行われている収穫祭に参加者の付き添いの一人として行ってもらっているんだ。


「えーと、昨日は去年のカインと同じようにみんなで準備をしたのですが、ヘルガさんが中心になって指示されてましたよ」


「ヘルガが!」


「はい、お風呂の建設の時も頑張っていたらしくて、今ではバーシで一目置かれる存在らしいです」


 おぉー!


「ヘルガってあのヘルガでしょう。ボクがバーシにいた時は、そんなに前に出る方じゃなかったと思うんだけど……」


「そうなんだ。お風呂場ではグイグイとなんでも聞いてきてたよ。ねえ、海渡」


「はい、初めてお会いした時はご病気でしたのでおとなしかったですが、積極的なのが素じゃないんですか?」


「うーん、そうだったのかな。ボクはみんなとそんなに絡んだ記憶がないから……」


 リュザールは、拾ってくれたおじいさんのために武術を覚えようと一生懸命だったって言ってた。遊ぶ暇はなかったんだろう。


「俺、ヘルガさんに会ったことねえんだけど、こっちと繋がっていたりしねえの?」


 海渡と顔を見合わせる。


「いえ、匂いは普通でした」


 お風呂で話をしているときに地球の知識に対する理解度が高かったから、もしかしてと思ってルーミンとパルフィに目配せしてそれぞれのタイミングで匂いを嗅いでみたんだけど、コペルとかアラルクとかと同じだった。たぶん、地球とは繋がっていない。


「もしかしてですが……」


 みんなで凪ちゃんに注目する。


「ヘルガさんは、バーシの先にある橋を作った人の末裔なんじゃないでしょうか?」


「橋を?」


「はい、以前皆さんと橋について話し合った時に、誰か地球と繋がっていた人間がいたのではということになりましたよね。その人に子供がいたら……」


「なるほど、途絶えてなければ現代まで続いているかもしれませんね」


「でもよ、記憶は遺伝しねえだろう」


「それが最新の研究では、後天的に得た記憶や経験も遺伝する可能性があるみたいですよ」


「マジか!? ちゅうことは……ソルたちと話したことで、ヘルガさんに封印されていた記憶が呼び起こされて積極的になったというわけか」


「恐らく……」


 そんなことがあるんだ。


「それなら、ヘルガに地球のことを教えた方がいいのかな」


「いやー、必要に応じてじゃねえか。引き継がれた記憶と言ってもかなり前のやつだろうし」


 最初の橋ができたはっきりとした時期は分からないけど、江戸時代はリュザールがおじいちゃんから『この武術は江戸時代から続く』という言葉を聞いているので×。昭和なら、もっとバーシの人が知っているはずなのに記憶が曖昧なので×。僕たちの予想としては明治か大正のどちらか。いずれにしても100年以上前だから、技術水準は今よりも低かったと思う。


「凪ちゃん、ヘルガとはこれまでと同じように接して。そして、明日の収穫祭本番をよろしくね」

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