第224話 本当にみんなで裸になるのね
〇(地球の暦では9月20日)テラ 土の日
「着いたばかりでお疲れのところ恐縮ですが、お時間も限られてますので早速案内したいと思います。僕について来てください」
数人の男女がジャバトのあとをついていく。彼らはバーシから来た視察団。カインのお風呂や農地を見て、バーシに導入しようと考えているみたい。というのも、先日、今年の収穫祭の打ち合わせのためにタリュフ父さんと一緒にバーシに行った時に、バズランさんから頼まれてたんだよね。ちなみに今年の収穫祭は、去年と同じ時期にバーシが当番で開催することがその時に行われた近隣の村の長たちとの話し合いで決まった。カイン、バーシ、ビントでの持ち回りで、しばらくの間、続けてみるんだって。
「ほら、ソルたちも一緒に」
小さな男の子を抱えた女性から手を引かれる。この女性の名前はヘルガ、冬にバーシで私が診察したあの若いお母さんだ。なんでも、お風呂を導入するにあたって、若い女性の意見を取り入れようということで白羽の矢が当たったらしい。バズランさんにそれとなく伝えていたのがうまくいったみたい。まあ、ヘルガが来るとは思ってなかったんだけど。
「それにしても、ハミルくんは大きくなりましたね」
ルーミンが歩きながら、ヘルガの腕の中でお休み中のハミルの頬をツンツンつついている。あの時が3か月くらいだったから、もう少しで1歳ってとこかな。
「おかげさまで、あれからも病気することなく元気いっぱいなの」
それはよかった。テラでは衛生状態があまりよくない上に薬師のいない村がほとんどなので、1歳までに亡くなってしまう赤ちゃんが非常に多い。ある程度大きくなって、抵抗力が付いてくるまでは気が抜けないのだ。って、ルーミンがニヤニヤと……
「ところで、これから向かうお風呂ってやつは簡単にできるものなの?」
「簡単ではないかな。結構条件が厳しいんだ。水とかお湯を沸かすための燃料をどうするかとか」
特に水は大切。日本のように水が豊富なら気にする必要はないんだけど、この近辺は乾燥地帯。飲み水や農業用水を使ってまでお風呂を沸かしてしまうと、先々苦労することになる。
「水? 水ならすぐ近くに大きな川が流れてるよ。それに、燃料も羊の糞を貯めてるし」
「うん、だから、バーシではお風呂を作れると思う」
バーシには村の中にカインのようにちょうどいい大きさの小さな川はなかったけど、大きな川から村まで水路を引いたら水の問題はクリアできるし、途中は農業用水として使ってもいい。燃料も木を切ってというのは将来的に環境面で問題が出てくるけど、羊の糞ならそれも心配しなくていい。
「はい皆さん、こちらが最初に見ていただくお風呂になります。左手が女湯で右手が男湯です」
ジャバトは、二つ並んだ建物の前で止まった。お風呂は、今年に入ってからこれまで男女兼用だった浴場の隣に女湯を増築したんだ。カインの人口が増えてきて、二日に一度の頻度が伸びそうになってきたからね。
「男女で別れるのは分かりましたが、中央の入り口は何ですか?」
「こちらはお湯を沸かすための場所です。どうぞ中に入ってご覧ください」
ジャバトが真ん中のドアを開けると、視察の責任者らしき人を先頭にバーシの人たちが入っていく。
って、
「あれ? ヘルガさんは行かれないのですか?」
「私? 私が見てもよくわからないし、それよりも女湯ってところを見せて。気になる」
ヘルガと一緒に男子禁制と書かれた建物の中に入っていく。おっと、男の子でも小さい子はOK。
「手前にあるのが脱衣所。ここで服を脱いでから中に入るんだ」
「木枠がいくつかあるけど……」
「はい、この中に着替えを入れておきます。浴場は大きいので、一度に5~6人までは入れるようになっているんですよ」
「5~6人も……もしかして、みんな裸?」
「そうだけど……いや?」
「いやというか……恥ずかしくないの?」
「うーん、最初だけかな」
地球の経験がある私やルーミンは、修学旅行で他の人と一緒にお風呂に入ったことがあるから気にならなかったけど、こちらの女の子たちは戸惑っていた。自分が人と違うんじゃないかって、不安になっていたみたい。だから、私やルーミンが率先して脱いで……
「あのー、今日は私もここを使わしてもらえるんだよね」
「うん、これが終わってからね」
「その時はソルたちも一緒にいいかな」
夕方近く、パルフィ、ルーミン、ヘルガと共に女風呂へと向かう。もちろんおチビちゃんたちも一緒だ。
「あうあ」
ヘルガに抱えられたハミルが、パルフィと私の腕の中のラザルとラソルに向かって手を伸ばしてきた。
「ハミルくんは、二人のことが気になるようですね」
「そうね。顔が同じなのもあるかもしれないけど、そもそも村に小さい子がいないから珍しいのかも」
「バーシに子供は少ねえのか?」
「これから増えるよ。今、妊娠している子が多いの」
カインよりも一年ほど遅れている感じかな。糸車の普及の差かも。
さてと、脱衣場に到着。まずはいつものように備え付けのベンチの上にタオルを敷いて、ラザルとラソルをその上に寝かせる。そして、身軽になったところで自分たちの服を脱ぐ。
「ハミルくんもこちらに」
あっという間に裸になったルーミンが、戸惑っているヘルガからハミルを受け取りハミルのおくるみを脱がせた。私とパルフィは、裸になったところで再びラザルとラソルを抱きかかえておくるみを脱がせる。
「本当にみんなで裸になるのね」
「はい、恥ずかしいかもしれませんが、一度湯船に浸かったらそんなことどうでもよくなりますよ」
「だぜ。それに、ここにはチビ助以外は女しかいねえから、パッといっちまいな」
パルフィがこっちを見てニヤリと……
ははは……
っと、ヘルガは……よし、服に手をかけた。




