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第220話 なぜにソルさんのところに行列が?

「お、ここだ」


 コルカの中央広場の端っこで硬貨交換所の開設の準備が整ったころ、行商人さんたちが馬に乗ってやってきた。


「いらっしゃい。硬貨と交換したいものをここに置いて」


 リュザールがむしろの前面を指さすと、最初に並んだ行商人さんが10個ほどの麻袋を馬から降ろして袋を開けていく。


「何があるの?」


「麦と塩と銅だな」


 リュザールも一緒に中を覗いて確認。


「銅があるんだ。それなら少しおまけできるよ」


「おう、他の村のやつにそうと聞いてよ。持って来たんだ」


 さすが行商人さん、情報を仕入れるのが早い。


「それじゃ、計算していくね」


 リュザールが袋ごとに交換する硬貨を積み上げていく。


「……隊商の人たち、あまり集まってこないね」


 私と一緒に筵の後ろで控えているアラルクが呟いた。確かに、今、並んでいるのは二人。これまでの村では最初から行列ができていたもんね。


「昨日のおかしらさんが、混み合わないように順番を決めてくれているんだと思うよ」


 お頭さん、あの後も痛みがぶり返すことがないようで硬貨への交換を手伝うといっていた。無理しないでって言ったんだけど、休むのは性分じゃないらしい。


「おっと、ここまでだ」


 リュザールが硬貨を積み上げる手を止めた。


「一人当たり300枚までにしているから、残りは返すよ」


 リュザールは行商人さんが持って来た麻袋を二つ戻した。


「300枚か……確か、麦一袋が20枚だったよな」


「だね」


「あまりねえな……」


「ごめんね。いま硬貨の追加を作っているから、また補充に来るよ」


 硬貨をたくさん作って一気に普及させられたらそれが一番なんだろうけど、今の工房にはそこまでの余力はない。だから、ある程度作ってはその都度麦とかと交換して、流通量を増やしていくしかないと思う。


「みんな欲しがっているから仕方がねえ。ぼちぼち使うことにするぜ」


「ぼちぼちと言わずに、よかったら、どんどん使ってもらえないかな。他の村でもそうお願いしているから」


「確かに、俺んとこの仲間でもよそのやつらから硬貨を受け取ってきたやつがいたな……わかった。リュザールを信じることにするわ」


 行商人さんは硬貨を麻袋に入れ、残った商品と一緒に馬に括り付けていく。

 ふう、コルカで一人目が無事終了。リュザールもホッとした様子だ。


「次の人」


 リュザールの前に新たな麻袋が置かれる。この調子でコルカでも硬貨を普及して……ん? たった今交換を終えたばかりの行商人さんが、馬を引いてこちらに……


「ソルちゃんだったな。ちょっといいか」


「どうかされましたか?」


「いやな、今日はかしらの病気を治してくれただろう。ありがとな」


「いえ、当たり前のことをしただけです」


「頭、跡継ぎは息子がいるからあとはお迎えを待つばかりだと言ってるが、まだまだ頑張ってもらいてえからよ。ほんと助かったぜ」


 うん、治ってよかった……いや、まだ治ってはいないんだ。お親さんに会う機会があったら、もう一度注意するようにって……あれ?


「あのー、何かまだ?」


 行商人さんがまだ目の前に……


「いやな、最近俺も年なのか体のあちこちにガタがきてて、薬師の先生のご指導を仰ぎたくてよ」


 薬師の先生って……もしかして私!?


「い、いえ、私はまだ見習いなので、皆さんに何かをお話しできるほどでは……」


「まあ、そんなに畏まった感じじゃなくてもいいんだ」


 動きそうにない。これは話を聞かないと帰ってくれなさそう。


「わかりました。それでは、どういったことをお悩みでしょうか?」







〇8月16日(土)地球



 朝の散歩の時間、カァルを先頭にいつもの川沿いのコースを歩いていく。


「去年も思いましたが、一晩でここまできれいになるものなんですね」


 凪ちゃんが、塵ひとつというのは言い過ぎかもしれないけどいつもと変わらない様子の道路に驚いている。無理もない、きの……


「はい、昨日は夜遅くまでバンバンと爆竹が鳴ってました。あの時間からだとするとほんとすごいです」


 そうそう。海渡の言う通り昨日は精霊流しょうろうながしがあってて、このあたりも何艘もの精霊船しょうろうぶねが連なるように通っていった。こちらでは魔除けの意味もあって爆竹を鳴らしながら流し場まで行くので、通った後はその残骸が雪のように積もるんだ。それが翌朝にはきれいさっぱり無くなっているんだから、


「ほんと、魔法のようです」


 うん、魔法のように思っても仕方がないと思う。実際は、


「実はですね、僕のお兄ちゃんが清掃のアルバイトで掃除をしているのですよ」


 こんな感じで、市の清掃局や清掃業者の人たちが人海戦術でやっているみたい。


「ただ、カァルはまだ気になるみてえだな」


「にゃー……」


 時々嫌そうな顔をしながら歩いている。たぶん火薬のにおいが残っているんだと思う。


「カァル、来る?」


「にゃ!」


 胸元に向かってきたカァルをキャッチし、そのまま抱きかかえる。ちょっと暑いけど、みんなと交代しながらなら何とかなるだろう。







「さて、いつものように始めますか」


 休憩場所にしている東屋についたところで、打ち合わせを開始する。カァルも風花の腕からテーブルの上にぴょんと飛び移り、毛づくろいを始めた。


「こっちは変わりはねえな。そっちは? コルカだったんだろう」


「うん、うまくいったよ。コルカの隊商のお頭さんが協力してくれたんだ。それよりもさ」


「「「それよりも?」」」


 来た……


「ソルのところに行列ができて、それを捌くのでアラルクが苦労してたよね。樹」


 うんと頷く。


「なぜにソルさんのところに行列が?」


「うん、それはね……」


 風花が昨日の出来事をみんなに報告していく……


「うげ、尿路結石か……かなり痛いらしいな。つい最近、知り合いが目の前でそれになって救急車で運ばれたって、親父が震えあがっていたぜ」


 昨日のお頭さんの様子を見て、僕も気を付けようと思った。


「つまり、皆さんの目の前で親方さんをお助けしたソルさんの人気が高まったということですね」


「い、いや、人気とかじゃなくて、ちょうどコルカの薬師さんがいなかったから、話を聞いてあげてただけ」


 それで治療が必要そうな人には、コルカの薬師さんが戻ってきたら行くように伝えている。

 う、みんながニヤニヤと……


「み、風花、あのことを竹下に伝えないと」


「あ、うん。竹下、コルカの町長から頼まれたんだけど、今、コルカの北東で村を作っているじゃん。そこで、『この熱い湯どうするの?』って話になっているらしいんだ。行ってくれない?」


 夕方頃、町長が広場にやってきたので情報交換をしてみたら、そんな感じになっているみたい。


「あー、やっぱ、行かねえと無理か」


 風花がうんと頷く。硫黄を取るだけお湯はそのまま地中に流して問題ないんだけど、せっかくなら温泉として整備した方がいいと思う。観光施設になるかもしれないし。


「仕方ねえ。あちらの人間は温浴施設がどんなものか知らねえもんな」

久々に会話形式のあとがきです。


「ところで樹先輩。行商人の皆さんはどのようなことをご相談されたのですか?」

「あー、夜眠れないとか、肩や腰が痛いとか、痩せれないとかかな」

「なんか、こちらと変わらないですね……他には?」

「守秘義務があって……」

「何か怪しい……テラにはまだそんなものは存在しません。さあ、話してください!」

「あは、あははは……わ、脇はダメだって……あ、あのね、夜に元気が出ないから困っているとか」

「夜って、あっちの話ですか?」

「うん」

「相手はおじさんでしょう。ソルさんは少女なのにそういう話はセクハラですよ」

「それこそテラには存在しないし、みんな真剣だったよ」

「みんなって、何人も……お可哀そうに」

「一応薬を渡したから」

「薬があるんですか!」

「うん、材料が多くて作るの大変だけどあるんだ」

「おー、いざという時は安心ですねって、テラの僕たちには関係ありませんでした」

「女性用もあるよ」

「ま、マジですか。薬師侮れません」

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