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第218話 糸で結んだらダメなの?

〇(地球の暦では7月29日)テラ 火の日



 荷物を積み終えた後、荷馬車に馬たちを繋ぐ。

 ハーネスは……これで良し。


「今日もよろしくね!」


 栗毛の相棒に声を掛けると、トールはブルルといって答えてくれた。

 こちらの準備はOK。えーと……アラルクは荷台の後ろでマルカと一緒か……ふふ、二人とも今日は朝からニコニコ。きっと水着がいい仕事をしてくれたんだと思う。近いうちにおめでたが聞けるかも。

 さてと、リュザールの方は……工房の入り口でユーリルとルーミンと話している。行ってみよ。


「……んで、どんな感じのを作ったらいいんだ?」


 何の話だろう。


「こっちって道が悪いじゃない。移動中に折れたりすると買い叩かれちゃうから、そうならないやつを頼むよ。あ、ソル。終わったんだ」


「うん。出発できるけど……」


 アラルクたちの方をチラッと見る。


「あー……もう少し、待ってあげようか」


 うんと頷く。


「んじゃ、話を続けるぞ。ルーミン、束ごとにまとめるんだよな」


「ええ、そのつもりです。もちろん紙を使わせてもらえたらですが」


 なるほど、今度ルーミンに作ってもらうパスタとかの乾麺についてだ。作るだけじゃなくて、運び方まで考えないとこちらではうまくいかないんだよね。


「紙なら、ボクたちの留守中にいたものがあるんじゃない?」


 地球でそう聞いてる。タリュフ父さんも今度は漉くことができて、満足していたみたい。


「漉くには漉いたんだが、数があんま無いしそれに今は暑いだろう。紙の質がイマイチでよ」


「質が?」


「ああ、絵を描くくらいはいけるが、粘りが足りないからちょっとの力で簡単に切れるぞ」


 そしたらばらけてしまう。


「ということは、寒くなる秋過ぎにならないと難しいってこと?」


「まあ、そういうことだな」


 なるほど、紙がだめとなると……


「ねえ、ルーミン。糸で結んだらダメなの?」


 糸なら羊毛でも綿でも紡いだら確保できるからね。


「ええ、薄くするには細い糸にする必要があるのですが、それだと幾重にも縛らないと形が安定しないのですよ」


 ルーミンが周りに誰もいないことを確認して話を続ける。


「それに地球のパスタやそうめんのように広めの紙を使ったら、糊付けで固定できるので縛るよりも作業は簡単なはずです」


 なるほど。


「あーあ、硬貨が終わったらすぐに新しい商材を試せると思っていたのに残念」


「リュザールさん、こちらも人手を工面しないといけませんし、来年の春頃を目安にお願いします」


「了解! えーと、アラルクは?」


「もういいみたい」


 さっきからこっちの方をチラチラ見てる。


「それじゃ、出発しようか」





〇(地球の暦では8月15日)テラ 金の日



 太陽が西の空を赤く染める頃、久方ぶりにコルカに到着。アラルクが操る荷馬車は、クトゥさんの隊商宿を目指してそのままコルカの通りを西に進む。

 そろそろ帰り支度の時間かな。荷物を持って足早に歩いている人たちが幾人も……それにしても、町の人たちの顔が前回よりも明るくなっている気がする。


「もう、普通の町って感じになってるね」


 初めてここに来た時の、避難民を怖がってる様子はないみたい。


「うん、最近ではバザールでも嗜好品を手に取る人が増えたよ」


 隣を進む黒鹿毛の背から、リュザールが答えてくれた。

 町の人たちの生活に余裕が出てきているのかも。前回はシュルトに行った帰りで、ユーリルがファームさんと決闘した時だったからもう一年以上前か。あれから、結婚式があったりラザルとラソルが生まれたりといろいろ……ん?


「そういえば、ファームさん知ってるの? ラザルとラソルのこと」


「どうだろう。パルフィが妊娠したのは話しているけど、生まれたのはまだじゃないかな。カイン隊もしばらくコルカには来てないはずだから」


 そういえば、セムトおじさんたちはタルブク方面だ。


「ファームさんに伝えなきゃね」


「うん」


 ファームさんきっと喜ぶよ。


「おっ! リュザールじゃねえか!」


 声をした方を見ると、馬に乗った行商人風のおじさんが手を振ってこちらに向かってきている。


かしら、今日はもうあがり?」


「いや、急な注文が入ってな。バザールには息子を置いて、家に商品を取りに行っているところだ」


 おじさんは馬を並べてリュザールと話し始めた。

 ふむふむ、話の内容からすると親子で行商人をしているコルカの人みたい。


「でよ。リュザールが来たということは、ようやく例のものが手に入るということだよな」


 例のものというのは硬貨だよね。


「そうだね」


「いつからやるんだ?」


「明日かな」


「明日か……混み合いそうだな。俺だけでも、今のうちに分けてもらってた方がいいんじゃねえか?」


「ふふ、気持ちはわかるけど、それができないのは知っているでしょ」


「違いねえ。でも、それを聞いて安心したぜ。で、明日はどこでやるんだ?」


「中央広場の隅を借りようかと思っているんだけど」


「中央だな……リュザールのことだから、早い者順じゃなくて平等にするんだろう」


「そのつもりだよ」


「わかった。明日の仕切りは任せてくれ」


 仕切りを?


「助かるよ」


 任せちゃうんだ。


「んじゃ、また明日な」


 おじさんは馬を操り、東の方へ向かって行った。


「……よかったの?」


 手を振っているリュザールに尋ねる。これまではどこの村でも、不正が起こらないように行商人さんそれぞれと直接やり取りをしていたはず。


「あの人はコルカで一番大きな隊商の頭なんだ。きっと、上手いこと人の流れを作ってくれるはずだよ」


 へぇ……


「でも、先に硬貨をもらえないかって言ってた」


「ああそれはね、ボクを試したんだと思う。あの人は曲がったことが嫌いなんだ」


 そうなんだ。隣でアラルクもうんうんと頷いている。なるほど。この町はアラルクの生まれ故郷だから、隊長さんのことをよく知っているみたい。


「だから、仕切ったからといって便宜を図れとかも言わないはずだよ」


 こちらの世界、色々と足りないからみんな自分のことで精一杯なんだけど、中には人のために働くことを厭わない人もいる。隊長さんはそういう人なのかも。

以下は本文とは関係ありませんので、興味のない方は読み飛ばしてください。

先週は更新を休ませていただいて、東京に行ってまいりました。昼に用事を済ませた後、夜は同行者の方の行きつけの銀座のクラブへ……といっても高級なところにはいけませんので、ほどほどのところだったのですがそれでも地元ではなかなか見ないお値段でした(おひとり様うん万円)。ただ、お姉さま方のトークの質は高く(品がいいという意味ではないです)、相手に合わせて楽しませることができていましたので、それを含めての価格なのかな。いい経験になりました。それにしても……さらなる上の高級クラブ、どのようなところなのか気になります。

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