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第217話 今、男子禁制になっているので

〇(地球の暦では7月28日)テラ 月の日



 お昼過ぎ、なだらかな坂道を馬と並んで登っていく。隣にいるのは、近くの時も遠くのときもいつもついて来てもらっている栗毛の男の子。トールくんって言うんだ。去年のタルブク行きの時の険しい山越えも経験しているから、多少の悪路でも平気で進んでくれる頼もしい存在。ちなみに、なぜ馬に乗らずに歩いているかというと、荷馬車の積荷が多くなったから。カインへの登り坂を二頭だけで曳かせるのはかわいそうだからね。

 お、そうだ。


「ねえ、アラルク」


 歩く速度を調整し御者台の二人と並ぶ。


「どうした? 変わる?」


 歩く順番は交代制。


「まだ平気。それでアラルクは明日の出発は大丈夫? 誰かに代わってもらうこともできるよ」


 アラルクは今年の春に結婚したばかり。カインを出てから一週間が経過して奥さんと一緒にいたい気持ちが沸き上がっているかもと思い、バーシを出るときにそれとなく聞いていたのだ。


「いや、大丈夫。今日一晩マルカちゃん成分を補給したら、しばらく頑張れるはず」


 はは、マルカも大変だ。でも、驚くだろうな。私たちが今日帰ることを誰も伝えてないはずだからね。お、見慣れた山が東に現れた。カインももうすぐだ。





「わっ、わっ! ソルさんたちだ! 僕、みんなに知らせてきます!」


 村の広場を過ぎたあたりで若い工房の職人に見つかる。


「あーあ、あとちょっとだったのに……」


「やっぱりね」


「でも、結構先まで進んだよ」


 リュザールたちと、誰にも見つからずに工房につけるかどうかを話していたのだ。まあ、三人とも誰かが通るよと言ったので、賭けとか勝負事にはできなかったんだよね。というわけで、工房まで荷馬車を進めると外に男の子たちが数人待ち構えていた。


「お帰りなさい皆さん。早かったですね。あ、手伝います」


「ありがとう。予定よりうまくいったんだ」


 出迎えてくれたジャバトと共に、トールたちに付けた馬車用のハーネスを外す。


「それで、ルーミンは?」


 いつもはこの芝居じみたやり取りをルーミンとやるんだけど、今日はこの場にいない。地球では何も言ってなかったから、急に具合が悪くなったとか……


「声を掛けたんですが、工房がコペルさんの管理下にあるようで……」


 コペルの……なるほど、それでマルカちゃんも来てないんだ。

 よし、OK。身軽になったトールがブルルと首を振る。


「この子たちを馬小屋に連れて行ってくる」


 積荷を降ろしているリュザールとアラルクに声を掛け、ジャバトと馬小屋へと向かう。


「コペルたちは何を作っているんだろう」


「たぶんあれですよ」


 ジャバトの口が水着って形に……


「今、男子禁制になっているので」


 たぶん試着しながら形を整えているんだな。


「わかった。あとから顔を出してみる」





 トールたちを休ませ積荷を倉庫に運び入れた後、リュザールたちと別れ工房の織物部屋へと向かう。

 なるほど、扉が閉まっている。この時期は開けっ放しなのに……暖簾のれんがかかっているから作業中なのは間違いないから……さらに近づき声を掛ける。


「入っていい?」


「その声はソルさん。お帰りなさい。男の人がいなかったらいいですよ」


 ほんとに男子禁制だ。

 あたりを見渡し誰もいないことを確認して、さっと中に入る。

 おっ!

 目前にプルンと揺れる艶めかしい肉体。オリエンタルな美女がきわどい衣装を着て、様々なポーズを取っていた。


「パルフィ、似合ってるね」


「だろ。ソル、お疲れさん早かったな」


「うん、ただいま」


 改めてあたりを見渡す。水着を着ているのはパルフィとマルカの二人で他のみんなはその様子を見ているだけのようだ。出来栄えを確かめているのかな。ちなみにパルフィは布の面積が少ないタイプのビキニで、マルカはワンピースタイプ。うん、それぞれのパートナーの好みにドンピシャだと思う。


「ソルしゃんだ」


 声のする方を見ると、小っちゃい子たちがいつもの場所で遊んでいた。厳密な男子禁制ってわけでもないのか。声を掛けてくれた男の子に手を振って答える。それならと、ラザルとラソルを探す……ふふ、ベビーベッドの上でお休み中みたい。後で抱かせてもらおう。


「ソルさん、結婚が近い順に作ってみたんです」


 ルーミンが近づいて来て解説してくれた。なるほど、ユーリルとパルフィの結婚は去年の秋で、アラルクとマルカは今年の春。

 ルーミンに向かって指を二本立てる。


「ですです」


 完成したのは二つ。今日に合わせたのはルーミンが調整してくれたのかな。

 さて……さっきからマルカが、こっちの方をチラチラと見ているんだ。気になるよね。


「マルカ、アラルクも無事に帰ってきているから安心して」


「は、はい!」


 嬉しそうな顔をして、アラルクも果報者だよ。


「それで二人はどうする? 着たままか?」


 コペルの言葉にちょっと考える二人……動き出した。着替えるようだ。


「ところで、ソルさんたちのご出発はいつですか?」


 他のみんなに伝えるための、いつものやり取りの時間。


「明日」


「明日! そりゃまた急ですね」


 最近ではルーミンの芝居も、なかなか様になってきているような気がする。


「硬貨の普及を急ぎたいからね。それで、硬貨ができていたら持っていきたいんだけど、大丈夫かな」


 早くも一糸まとわぬ姿になっているパルフィに尋ねる。


「おう、どんどん作っているから。あるだけ持ってってくれ」






〇7月28日(月)地球



「おい、海渡。お前、工房の倉庫を見たか?」


「はい、夜、部屋でもその話題が出ました」


 朝の散歩の時間、竹下と海渡が楽しそうに話している。


「あんなものをよくリュザールが仕入れたよな」


 あんなものというのは、行商人や村の人たちから硬貨と引き換えてきた品物。麦や米に塩、鉄や銅といった鉱物、それに特産の織物とかがほとんどだったんだけど、中にはこれどうするんだろうというものまであったんだ。


「あんなものって何? ボクは無駄なものを仕入れたつもりはないよ。今回は持っていく余裕がないから置いていくけど、ちゃんとあてがあるんだ」


「ウソ! あれを欲しがるやつがいるんだ……すげえな」


 数年前バザールで見かけた盗賊が来ないという変な人形も、最初見た時はこんなの誰が買うんだろうと思っていたら次のバザールの時にコペルが買ってきて、今では女の子部屋に飾られている。そんな感じで今回の一品たちも、どこかに待っている人たちがいるってことなんだと思う。

 海渡をチラッと見る。ふふ、目がですよねと言ってる。どうやら、ユーリルは昨日パルフィの水着姿を見てないようだ。見てたら竹下がポヤっとしているはずだもん。ラザルとラソルがいるから、まだそんな余裕はないのかも。さて、アラルクたちの方はどうだったかな、明日が楽しみ。

今週が佐世保に行ったり東京に旅行したり(銀座のクラブを体験してきます!)と執筆の時間が取れそうにないので、来週の投稿はお休みとさせていただきます。

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