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第214話 水着は持って来たか?

〇7月25日(金)地球



「よかった、空いてます。ちょっと一休みです」


 先頭を歩く海渡が、川沿いの東屋あずまやの椅子に腰を掛けた。


「ふぅー、今日も暑くなりそうだぜ」


 竹下は、東屋の柱に体を預けて水筒を傾ける。


「最高気温は35度を超えるみたいだよ」


 僕は海渡の正面に座り。


「東京からこっち、ずっとこんなだね」


 風花は僕の隣。


「あ、でも朝の風は涼しいですよ」


 凪ちゃんはいつも通り海渡の隣へ。


 朝の散歩、例年なら夏の暑い時期を避けているんだけど、今年は熱中症対策を万全にして実施している。というのも、夏休みにも授業がある高校生の僕たちと中学生の凪ちゃんとでは集まる時間を調整するのも大変で、結局朝が一番都合がよかったんだよね。というわけで、いつものように情報交換を開始。


「おー、それでは一度戻って来るのですね」


「うん、そろそろ荷台が窮屈になりそうなんだ」


 バーシに続いてビントでも硬貨の普及はうまくいったと思う。っと、これを聞いとかなきゃ。


「それでね、海渡、麦がたくさん集まってきてるんだけど、どうする?」


「そうですね。麦は長期保存が可能といっても、いつのものかわからないものをいつまでも取っておくのはいささか心配になりますね……」


 あちらは乾燥しているので、麦類は実の状態ならかなり長い期間保存することができる。だから硬貨と交換するときも、腐敗してないかカビが生えてないかといった麦の状態だけを確認して、いつ収穫したものかは聞いてない。


「そうだ! 風花先輩、受け取った品物の中に塩がありますか?」


「うん、それなりに集まってるよ」


「それなら、まとめて乾麺にしちゃいましょう。風花先輩、売りさばいてくれますか?」


 おー、乾麺ならさらに長期保存が可能だ。


「乾麺というと、パスタとかそうめんかな。もちろん、隊商のみんなも喜ぶよ」


「海渡さん、僕はうどんが欲しいです。プロフに入れて食べたい!」


 最後の締めのうどん。うん、あれは美味しかった。おっと、朝ごはんまだだから、よだれが……


「海渡くん、いきなりパスタとか出しても、みんな料理の仕方がわからないと思う。レシピ込みでできる?」


 乾麺は初めての人が多いから、作り方がわからないと売れない可能性が……


「ということですが、凪ちゃんどうですか?」


「たくさんじゃなかったらいいですよ」


「それぞれ一枚ずつでいいよ。見せるだけにするから」


 うんうん、後は風花が話の中で作り方を補足して……あれ?


「竹下、紙は足りる?」


「数枚でいいならいけるが、在庫はあまりないぞ。ネリはあるから、ソルたちが帰るのを待って漉くか?」


「あー、明後日にはカインに着くけど夕方だし、翌日は朝から出発だから時間的に厳しいよ。そっちのタイミングでやっていいよ」


 紙を漉くのは面白いから参加したいけど、今は硬貨の方を急がなきゃ。


「わかった。村のチビ助どもと一緒にやっとくわ」


「あ、できたらタリュフ父さんにもやらせてあげて」


「OK。秋にはトロロアオイも収穫できるようになっから、ネリもあるだけ使えるからな」


 これで、前回子供たちに遠慮して物足りなそうにしていた父さんも満足してくれるはず。


「さて、そろそろ行こうか」


 みんなで立ち上がり、散歩を再開する。


「凪ちゃん、今日は海に行かれるんですよね」


「はい、海渡さん。由紀先生はそう言ってました」


「海か……風花、二泊三日だったよな。その間の打ち合わせはどうするんだ?」


 風花と凪ちゃんは、今日から武研の夏期合宿に参加することになっている。凪ちゃんは部員として、風花は師範代としてね。


「ボクたちは朝からスマホを見る時間はなさそうだし、それぞれでいいんじゃない」


 うん、僕と風花が分かれているから、必要なことは伝えられると思う。


「あ、ちょっと待って……」


 風花がポケットからスマホを取り出す。


「由紀先生からだ……はい、風花です」


 立ち止まり、みんなで風花に注目する。こんな朝からの電話だ。何か緊急事態があったに違いない。


「え? います……あ、はい……はい、わかりました。聞いて返事します」


 風花はスマホを切り、こちらを向いた。


「樹、竹下、海渡くん、これから時間ある?」







「いた! あれだ。時間は?」


 市民会館横のちょっと広くなった道路にマイクロバスが停まっている。


「9時の5分前です」


 海渡が時計を見てくれた。間に合っているけど……


「ドア、閉まっているぞ」


 竹下の言う通り、バスのエンジンはかかっているけど、ドアは閉まったまま。でも、バスに書かれた文字はあのホテルのもの……あ、開いた。そして、助手席の窓が開く。


「お前たち、早く乗れ。冷気が逃げるだろう」


 由紀ちゃんに促されて、急いでバスに乗り込む。

 えーと……中を見渡す。風花と凪ちゃんは……後ろで女子部員に囲まれてる。男子部員も……みんないるな。空いているのは前の方か。


「坂本さん。時間前ですが揃いました。よろしくお願いします」


 僕たちが座るのを待って、バスが動き出す。


「お前たち、すまんな。急なキャンセルが出たんだ」


 由紀ちゃんから風花への電話はこの件で、4人部屋が空いたから来るなら連れて行くぞって。


「いえ、僕たちも参加できて嬉しいです」


「それでお前たち、水着は持って来たか?」


「はい! 海に連れて行ってくれるんでしょう?」


「ああ、とっておきの場所があるんだ。大智お勧めのな」

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