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第211話 流れをおさらいしとこうか

 夏さんの家で夕食を食べ終わった僕たちは、再び暁の家に向かう。


「それにしても、竹下はよく間に合ったな。穂乃花さんに会ったの久しぶりだったんだろう」


 夕方、暁たちと一緒に夏さんの家に行くと、先に竹下と穂乃花さんは帰ってきていたんだ。ということで、帰りは竹下も一緒だね。


「まあな。でも、夏さんは門限が厳しいって聞いてたから、余裕をもって帰ろうって決めてたんだ」


「若いのにすげえな。燃え上ってたら、時間なんて気にしてられねえよ」


 暁も同い年……


「ま、俺も親父になったということだ」


「親父と言えば、ユーリルのところは双子だから大変だろう」


「そりゃあもう……パルフィと手分けして何とかやってる」


「だよな。協力しないと無理だよな。あれは……」


「ああ、お乳におしめだけじゃなくて、機嫌が悪くても泣くし……」


 パパさん二人の会話。実感がこもっている。


「エキムさんのところのお子さんは、生まれてからそろそろ一年ですよね。二人目のご予定は?」


「カインのおかげでこれからも食べるのに困ることもないようだし、チャムとそろそろどうだって話しているんだ」


 おぉ、近いうちにまたチャムが妊娠するかもしれない。


「くぅー、赤ちゃん、羨ましすぎます。僕たちも結婚したらすぐにこさえて、数でも追い抜いてみせます。ねえ、樹先輩」


 うんと頷く。授かるかどうかは神様次第だけど、頑張ってみるつもり。


「ソルとルーミンの結婚は来年だよな」


「うん、その予定。ルーミンはジャバトが16歳になるのを待って。ソルは硬貨の普及をすませてからだね」


「硬貨か……俺のところはまだだけど、そっちはもう出発だろう」


「うん、明日」


「そっか、気を付けて行けよ。何があるかわからないからな。それと、村の人の反応が知りたいから、状況を知らせてくれ」


「わかった」





〇(地球の暦では7月20日)テラ 日の日



「タオルは?」


「麻袋が二つ」


「糸車は?」


「二台」


 朝ごはんをすませた後、荷馬車の荷台の上でリュザールとアラルクが荷物の最終確認を行っている。


「あ、いたいた。よかった、間に合いました」


 工房の方からルーミンとパルフィがやってきた。


「もう出発か?」


「うん、リュザールが荷物の確認がすんだら行くって」


「そっか、それで、ソルたちの戻りはいつくらいになるんだ?」


「早ければ数日、遅ければ数週間かな」


 今回は、硬貨の普及のためにコルカまでの間にある村々を回ることになっている。そこで硬貨の価値を認めてもらえたら麦や米といったものと交換することになって、すぐに荷馬車の荷台がいっぱいになると思う。そうなった時は荷物の整理のためにカインに帰らないといけないんだけど、硬貨を受け入れてもらえなかったら戻る必要がないので、各村に寄ってコルカまで行って帰ってくるだけの時間がかかるという寸法だ。


「……それにしても、よく寝ているね」


 パルフィの腕の中ではラザル、ルーミンの腕の中ではラミルがすやすやと寝ている。


「さっき、腹いっぱい乳を飲んだばかりだからな」


 今のところ双子もパルフィも順調そのもの。


「ルーミン、戻って来るまでの間、パルフィたちをよろしくね」


「はい、お任せください! あちらで何があったかお知らせいたします」


「ソル」


 リュザールが御者台に乗った。準備ができたようだ。


「それじゃ、みんなによろしく!」








「畑が見えるけど、ここはもうバーシ?」


 先頭を馬に乗って進むアラルクが、振り向きながら尋ねてきた。


「そうだよ」


 私の隣で荷馬車を操るリュザールが答えた。今回の旅のメンバーは、私も含めてこの三人。少ないけど、リュザールとアラルクがいたら大抵の盗賊は蹴散らすことができるから、戦力的には申し分ない。それに、私だって戦えるしね。


「そうなんだ。結構広いね。橋までまだかなりあるでしょう」


 バーシはカインと同じ丘陵地帯にある村で、橋を南端にそこから北に10キロほどが範囲みたい。ただ、こちらには城壁のようなものは無いから境界はかなり曖昧で、人は村の中心部に集まって住んでいるけど、端っこの方は畑や放牧地の位置によって毎年変わったりしている。今のところは大丈夫だけど、人が増えてきたら村の境界で揉めることがあるんじゃないかってヒヤヒヤしているんだ。いい方法を考えないと……ん?


「ねえ、あれは用水路?」


 街道の西を流れる川から畑に向かう小さな水路が見えた。今度は私がリュザールに尋ねる。


「うん、今年の春に完成したみたい。ユーリルの技術指導の賜物だよ。これでバーシでも米の生産ができるようになったんだ」


 米は水田ではなくて畑で作るけど、それ用の畑を新しく作るためには水が必要だということで用水路の作り方をユーリルが教えていたんだよね。


「秋には仕入れられそう?」


 もしそうなら、プロフを食べたいときに食べられるようになるかも。


「まだ作付面積が少ないから今年は無理じゃないかな。種もみを増やすのが先だと思う」


 カインの砂糖と一緒だ。


 ちなみに西を流れる川、この先でバーシの南を流れる川と合流し、さらにジュードの故郷であるナムル村の東でエキムの住むタルブクの北を流れる川と一緒になり、最終的には1000キロ以上先の地球でいうところのアラル海に注いでいるらしい。


「さて、そろそろバーシだけど、流れをおさらいしとこうか」


 うんと頷く。いよいよだ。


「今日は村長のバズランさんに挨拶をして、明日以降、村人を集めてもらうお願いをする」


 そこで、できるだけ多くの人に集まってもらった方が効率はいい。


「そして集まってもらったら、まずは硬貨の説明を行ってから疑似的なバザールを開いて、使い方のレクチャー。これがうまくいったら、みんな硬貨を欲しがるはず」


 もし、うまくいかなかったら……


「ふふ、ソル、そんなに硬くならなくても平気だよ。行商人が手伝ってくれるからね」

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