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第208話 週末は晴れるといいね

〇(地球の暦では7月15日)テラ 火の日



「間に合ったか?」


 パルフィが織物部屋に飛び込んできた。


「はい、よく眠られております……あ、」


 ベビーベッドの上のお兄ちゃんが突然ぐずりだした。おっ、隣の弟くんも。


「こっちか?」


 パルフィがお兄ちゃんを抱えて、おくるみを脱がそうとしている。


「ちょっと待ちな、これはおっぱいのようだね」


「そうそう、兄弟揃って同じような感じで泣きだすのよ」


 こういう時は織物部屋のベテランのお母さんの出番。双子の子育てを経験した人もいるから、ものすごく参考になる。


「オッパイだな。ちゅうことは……」


 パルフィは一旦お兄ちゃんをルーミンに預けて胸をバンとはだけさせ、改めて二人を同時に抱きかかえる。


「お乳の時間だぜ」


 右の胸はラザル、左はラミル、それぞれが必死になってパルフィのお乳を飲み始めた。


「おぉー、ラザルくんもラミルくんも、ぐびぐびと音が聞こえてきそうですぅ」


「うん、ほんとにお腹が空いていたんだね」


 パルフィも最初は一人ずつお乳を与えていたんだけど、待たせるのは可哀そうだなということで二人一緒に飲ませるようになったんだ。ちなみにラザルというのはお兄ちゃんで弟くんはラミル。ユーリルとパルフィが話し合って決めたんだって。


「いつ見ても、いい飲みっぷりだねえ。パルフィはお乳は足りているのかい?」


「うーん……今のところは大丈夫みてえだな」


「二人ともたくさん飲んでいるみたいだから、もし必要になったら言うんだよ。私のは少し余っているからさ」


 織物部屋にはパルフィと同じように授乳中のお母さんたちが何人かいて、お乳に余裕がある人は足りない人に分けてあげることがあるんだ。子供は大事な財産、みんなで協力して育てることになっているからね。


「助かるぜ。いつも一緒に腹空かせるからよ。いつか足りなくなりそうな気がしてんだ」


 双子は、当たり前だけど単純に考えて一人の時の二倍のお乳が必要。いくらパルフィの胸が大きいと言っても、限度が来るかもしれない。

 お、飲む勢いが弱くなってきたかな。


「よし、それじゃ後は頼むぜ」


 パルフィは満足した表情の二人をベビーベッドに寝かせ、鍛冶工房の方へ戻っていった。


「パルフィさん、張り切っておられますね」


「うん」


 パルフィは出産直後の7日間だけを織物部屋の託児所でラザルとラミルと共に過ごし、それからは鍛冶工房で仕事をしながらだいたいこれくらいの時間かという頃にこちらに来て世話をするということを続けている。おしめくらいならこっちでやっとくよって言っているんだけど、できるだけ自分でやりてえんだと言って2回に1回は変えている感じ。ただ、夜泣きであまり眠れないはずだから、無理してそうだと判断した時は鍛冶工房の方を休ませるということで話は付けてある。


「おーい、入っていいか?」


 今度は外からユーリルの声。授乳中の時があるから、男性は緊急時以外は声を掛けてから入るように決めているんだ。


「今は大丈夫ですよ」


 ルーミンの返事を聞いてユーリルが顔を出した。


「沐浴の準備ができたんだけど……」


「ほら」


 ユーリルに中に入るように促す。


「寝ちゃってんのか……」


 ユーリルは、ベビーベッドで並んで眠る我が子を愛おしそうに見ている。


「うん、さっきパルフィがお乳をあげたんだ」


「こんな時は……」


 ユーリルはベテランのお母さんたちの方を見る。


「眠ってても構わないから入れちゃいな」


「そうそう、こういうのは赤ちゃんに合わせなくてもいいんだよ」


 そういうことらしい。ということで、ユーリルがラザル、私がラミルを抱えてユーリル家の勝手口に向かうと、いつものようにお湯が入った桶が4つ置いてあった。

 念のために……


「お湯は湯冷まし?」


「ああ、しばらく沸騰させてたぜ」


 カインの井戸水はそのままでも飲めるんだけど、赤ちゃんを沐浴させるときには万一を考えて沸かすように指導しているんだ。


「まずはこっちの桶を使って、いや、その前に服か……」


 ユーリルは、おっかなびっくりという感じでラザルのおくるみを脱がしている。まあ、そのうち慣れるだろう。さてと、こちらはこちらで……ラミル用の桶に手を入れてみる。よし、ぬるめでいい感じ。


「はーい、お風呂に入りますよー」


 おくるみを脱がせている間に目を覚ましたラミルに、ゆっくりとお湯をかけて汚れを落としていく。


「ソルはルーミンほどじゃねえけど、子供の扱い上手いよな」


「うん、テムスがいたからね」


「俺は地球でもこっちでも下の子の世話をしたことないから、なんか壊してしまいそうでよ」


 わかる。手や足だけでなく体全体が小っちゃくて、ちょっと力を入れすぎただけでも骨が折れてしまいそうだもん。でも、


「ちゃんとラザルを見ていたら大丈夫だよ」


「そ、そうか」


 大切なものを扱うときは、自然と力加減がわかってくるもの。ユーリルが二人を世話する姿を見ていたけど、たどたどしい感じはしても危ないといって手を出す必要はなかった。


「よし、おしりも洗えた。次はこっちか……」


 ユーリルは、ラザルをもう一つのキレイなお湯が張った桶に入れ始める。さて、私も……


「ふふ、気持ちよさそう」


 ラザルもラミルも、口をくぅーっと尖らして体もうーんと伸ばしている感じ。


「顔にかからないように……お、寝そう」


「眠たいんだよ。織物部屋でも、泣いたりおばちゃんたちと遊んだりして忙しかったもんね。ラミルくん」


 ラザルと同じように、私の手の上のラミルも暖かい桶の中でうつらうつらしている。


「やっぱ、寝た。急に動いて落ちるなよ……っと、それにしても、もう半月か。早いな」


「ほんと、慣れないことばかりだったから、あっという間だったね」


「それに週末にはこっちでソルたちは出発。あっちでも東京行きだろう。まだまだ忙しいな」


「うん。って、東京行きは竹下の付き添いじゃん」


 というか、竹下の東京行きに樹たちも行くことになるとは思わなかった。


「まあまあ、俺だけで大学生に立ち向かうのは無理だって」


 立ち向かうって、そんな話だったっけ……


「えーと、仮に東京にいたとしても、穂乃花さんのクラスの集まりに樹たちは参加できないと思うよ」


 関係性をいちいち説明するのが大変だと思う。


「それでもいいからさ、頼むよ。心細いんだって。飛行機代も半分になるし、な」


 それは竹下の親父さんが持っている航空会社の株主優待のおかげで……まあいいか、風花も凪ちゃんも楽しみにしているし。


「週末は晴れるといいね。ほら、そろそろ上げよう。ラミルたちがふやけちゃう」

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