03 俺の知ってるお祭りと違う
「こらー、逃げるな壁ー! ちっ、逃げ足の速いやつめ!」
「あらあら、クレアちゃんったらすっかりあの男の人がお気に入りなのねえ」
「違うわよ! 何バカなこと言ってんのよ!」
逃げる俺。
追いかけてくるクレアとミルフィ。
咄嗟に、細い路地へと逃げ込んだ。
俺は、物陰に隠れながら二人が去るのをじっと待つ。
ったく、ついてねーな。
何が壁だ、俺は人間だっつーの。
「ねえ、クレアちゃん、そろそろアレの時間だから準備しないと」
「え、もうそんな時間か! 急ぎましょう!」
二人は、慌てて町のほうへと消えて行った。
さて、どうしたものか。
とりあえず、腹減ったなぁ。
この世界来てから、何も食べてない。
かといって、この世界のお金なんて持ってないけども。
俺が、適当に歩き回っていると、何やら人だかりができている。
「何やってるんですか?」
「おや、あんた旅の人かい? もうすぐ祭りなのさ。ささ、あんたもこれで大量にゲットするといい」
そう言って、おじさんがバケツのようなものを差し出してきた。
周りを見渡しても、みんな桶やタライのようなものを持って空を見上げている。
なんだこりゃどじょうすくいみたいなものなのか?
まあ、物は試しだ。
異世界のお祭りとやらを堪能してみよう。
俺も、他の人と同じようにバケツを天に掲げ空を見上げる。
しかし、何も起こらない。
「あの、お祭りって、一体何を……」
「くるぞ、ほらしっかり構えてッ!」
俺は耐えかねて、バケツをおろしもう一度おじさんに話しかけた。
しかし、おじさんは空を見上げたまま真剣な顔をしている。
「くるって、何がです……かぁああああああツ!? アチイイイイイッ! うわ、なんだこりゃ! から揚げ? から揚げが降ってきたァアアアアア!」
「ほら、ちゃんと構えてないと火傷すっぞ! できるだけ多くのから揚げをゲットするんだッ!」
大量のから揚げが空から雨のように降り注ぐ。
何、何なの? ネコの次はから揚げ?
なんかおかしくね? てか、このから揚げなんで揚げたてなんだよッ!
「ぐああああッ!」
「きゃああああッ!」
町の人々が次々にから揚げにやられていく。
そこまでしてこのから揚げをゲットする意味はあるのだろうかと思ってしまう。
「そりゃ、ほい、それいッ! ほっ!」
そんな中、俺にバケツをくれたおっさんが物凄い上手にから揚げを籠に入れていく。
こいつ、さてはプロだなっ!?
よーし、俺も負けてられねえ!
このバケツをから揚げで埋めつくしてやるッ!
「やるじゃねえか、小僧」
「いえいえ、おじさんこそナイスなフットワークでした」
「へへ、この道三十年のベテランだからな」
おじさんは本当にから揚げ祭りのプロだった。
「ところで、このから揚げは何なんですか? 地面に落ちたヤツはすぐに消えちゃってましたけど」
「月に一度、同じ時間に必ずこのあたりにから揚げが降るんだよ。原因は不明だけどな。これを人はから揚げ祭りと呼ぶのさ」
ネコが降ったり、から揚げが降ったり、この世界は俺の知っている異世界と何かが違う。
「まあ、今日は宴だ。から揚げが冷めないうちに食べなさい」
そう言って、箸とレモンを渡してきた。
一礼して、箸だけ受け取った。
おじさん、ごめん。
俺はマヨネーズ派なんだ。
「おー、めっちゃ美味いな!」
俺はから揚げを頬張る。
やわらかくてそれでいてジューシーな揚げたてのから揚げ。
今まで食べたから揚げの中で一番といっても過言ではない。
すると、十歳くらいの女の子が指をくわえて物欲しそうに俺を見てきた。
「ん? お嬢ちゃんも欲しいのか?」
俺は、笑顔でから揚げを差し出す。
「いいの? 本当にいいの?」
目をキラキラさせながらから揚げの入ったバケツを手に持つと、そのままバケツをひっくり返し勢いよく残りのから揚げを全て平らげてしまった。
「ちょ、おい! 全部あげるとは言ってな……」
「ありがとうございました。とっても美味しかったです!」
なんということでしょう。
見た目は可愛いのに、大した食いっぷりだ。
「あ、私はちょっと用があるので失礼します。このご恩は一生忘れません!」
少女は、一礼してその場を去ってしまう。
一体なんだったんだ今のは。
妖怪から揚げ食いとかですかね。
しかし、今さら悔やんでも後の祭りだ。
俺に残されたのは空になったバケツだけだった。
「あああ、俺のから揚げがッ! 命がけで獲得したから揚げがああああッ!」
「ハハハ! シャルノにから揚げをあげるなんて言うからさ。町はずれに住んでるらしいんだが、あの子は大食いで有名でね。その割にはちっともでかくなりゃせんのよ」
俺が涙目になりながら、空になったバケツを眺めているとおじさんが笑いながらそう言った。
バケツ一杯のから揚げ全部一口だぞ。
大食いなんてレベルじゃねえ!
テレビチャンピオンで優勝できちゃうよ。
「ハハハ。まあ、オレの分を少し分けてやろう。一人じゃどうせ食いきれんしな」
「ありがとうございます」
そういって、おじさんがから揚げを分けてくれた。
しかし、そのから揚げにはしっかりとレモンがかけられていたのだった。




